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角田光代    「拳の先」(文春文庫)

ボクシング小説。「空の拳」の続編。大長編600ページを超える。

この小説は、一般的なスポーツ小説とは異なる。一般的スポーツ小説というのは、主体は選手である。試合を進行させながら、とった戦闘行為や戦術の背景と結果を作家の持てる言葉を尽くして描写させ、試合の緊迫感を際立たせる。

 この作品は、空也という出版社編集者の視点から、試合が描かれ、何であそこであんなことをということは後付けで描かれる。鋭利で緊迫感をもった描写もあるが、それは物語のごく一部。戦いではなくボクシングを背景に人生全体を扱い、結果物語に裾野の広さと深さが与えられている。

 物語のテーマは「逃げる」だ。

 鉄槌ジムの看板選手立花は、デビュー以来、勝ったり、負けたりはあったが、華麗な美しいスタイルで、頭角を現し、全日本選手権を争える手前まできていた。

 しかし、ここで、岸本という若くて、かみそりのような鋭いパンチを持つ強力な選手が現れ、連続KOで勝ち進み、ボクシング界期待の星となる。そして立花と岸本の試合が計画され実施される。

 立花は、岸本と最初は華麗なスタイルで戦い踏ん張る。ところが八ラウンドに突然、両腕をダラリと下げたままになり、結果岸本にメッタ打ちにあう。血がふきだし、九回にマットに沈み、そのまま病院に搬送される。いくつもの箇所が骨折。全治一か月となる。

 ケガが全快して、また試合が行われる。立花の戦闘スタイルが180度変わる。試合最初から、打って打って打ちまくり、猪突猛進する。

 岸本と闘ったとき、初回に強烈なパンチを浴びた。突然正体はわからないが、猛烈な恐怖が襲った。もう闘えないから、八回からは恐怖から逃れたくて、なされるがまま打たれた。

 それからの試合、恐怖がいつものしかかる。猪突猛進は恐怖から逃げたいから。

必死の思いでタイにもでかけ、すさまじいトレーニングをする。しかし恐怖から逃れられない。
 強くなれば、楽になれると信じていたが、強くなればそれ以上の苦難が待ち受け、苦難は大きくなるばかりで、決して楽にはなれない。

 タイのバタヤで、タイの世界チャンピオンとタイトルマッチをする。勝てるかもしれない流れのなかで、十一回人々の会話や、鳥の声が聞こえるようになる。穏やかな気持ちとなる。

 そして立花は思った。「俺は逃げ切った」と。

 ボクシングから逃げて違う場所に行くことができる。その場所でもまた恐怖に襲われるかもしれないが、そしたらまた逃げるのだ。

 鉄槌ジムに小太りのノンちゃんという小学生が練習にきている。彼は強烈ないじめにあっている。そのまま中学に行くと、また殆ど同じ生徒が中学にあがり、いじめは続く。だから、他の中学に行きたいと両親に訴えるのだが、父がそれでは何の解決にもならない。いじめに立ち向かえと。それで近くの中学校にゆき、変わらずきついいじめにあっている。

 主人公の編集者空也を通して、立花が言う。
「逃げなさい。懸命に逃げて、違う場所を見つけ行きなさい。」と。

 物語はここで終了。逃げきれた立花がその後どうなったのか。ノンちゃんは逃げ切れたのかはわからない。2人の幸せを心から願う。

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| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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