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中田永一  「くちびるに歌を」(小学館文庫)

 毎度思うことなのだけど、恐怖ホラー作家第一人者の乙一が、どうして中田永一というペンネームを使って書くと、180度違うみずみずしい作品を創作できるのか全く不思議だ。とても同一人物とは思えない。

 トオルは家族とともに長崎の五島列島にある小さな島で暮らしている中学3年生。

 トオルの両親は、子供は一人でいいと思っていた。ところが生まれた子供は先天的障害自閉症を患って生まれた。両親は自分たちが亡くなると、この子を世話をしてくれる人がいなくなるということで、もう一人子供を造ることにした。それで生まれてきたのが主人公のトオル。

 トオルもそのことを強く自覚している。中学生のトオルは、学校が終わると、兄が働いている工場に行き、兄を家まで連れて帰る。

 そんな生活のせいかもしれないが、トオルは兄を含めた家族以外誰とも会話ができない。クラスでは自分をできるだけ消すようにしている。いないのも同然の存在。何か月もたっても、トオルの名前を知らない生徒がいる。

 でもトオルは兄がいるからめげない。兄といるときが一番幸せ。

そんなトオルが頼まれ物を音楽室に届けに行くと、合唱クラブの顧問柏木先生にクラブ入部志願者と間違えられ、もたもたしている間に入部届けを書かされる。

 お母さんが、友達が一人もできず、いつも孤立しているトオルの変化に喜び、兄の工場への引き取りは自分がやるからと、合唱部で頑張れ、そして友達を作れと励ましてくれる。

 トオルはひとりぼっちで皆からは孤立している。しかし合唱は、みんなと溶け合って、チームで行う。このコントラストを中田は見事に表現する。

 合唱部はNHKコンクールに向けて活動するが、内部対立が起きたり、それぞれの生徒が問題や悩みを抱えていた。そんな時、トオルは引き回し役を演じさせられ、摩擦やトラブルを解決してゆく。だんだんトオルが会話ができるようになり、そして合唱部に溶けてゆく。

 そしてたくさんの仲間ができた。

 柏木先生の指示で15年後の自分に対し手紙を書く。
中学を卒業すると、本土にわたる生徒ばかりになる。そして、殆どが島に帰って来ない。
仲間はみんないなくなる。

 トオルは15年後の自分に手紙を書く。兄と同じ工場で働いている。いつも兄と一緒。兄に感謝し、兄といるのが一番幸せ。

 手紙では、今と変わらない生活が15年後も続いている。しかし、合唱部での経験は、トオルにとってかけがえのない財産になり、明るく豊かな15年後のトオルを保証している。

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