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辻村深月    「朝が来る」(文春文庫)

  可愛く、すくすく育つ朝斗とともにタワーマンションの高階層に住み、幸一杯の栗原の家に突然電話が鳴る。妻である栗原伊都子が受話器をとると、電話の相手は小声で「片倉ひかり」と名乗り、「私の朝斗を返してほしい。それが無理なら、お金を払ってほしい」と言う。
 実は、伊都子の夫が無精子病で夫婦は子供ができない事情があった。テレビで知った、特別養子縁組の世話をしている民間組織「ベビーバトン」に申し込み、そこで生まれたばかりの朝斗を紹介され、「ベビーバトン」のある広島から養子として引き取ってきたのだ。

 その際、通常は、子供を産んだ母親と引き取り先の両親とは、その後トラブルを引き起こさないため面談をしたり、情報を交換することは一切しない。しかし、朝斗の場合、互いの了解を得て、広島の栗原夫妻のホテルロビーで両者は数分間面会をしていた。

 朝斗を産んだ母親はまだ15歳の中学生だった。片倉ひかりと名乗った。その片倉ひかりが朝斗を引き取った6年後に突然「朝斗をかえしてくれ」と電話をよこしたのだ。

 ここから、片倉ひかりの不気味な要求に揺れ動かされる、栗原家族の物語が始まると思っていたら、栗原家の無精子病の発見過程や、実家との葛藤、「ベビーバトン」を知るまでの過程が淡々と描かれる。

 また片倉ひかりの中学生での妊娠から始まり、ひかりが栗原家に電話するまでの切なく、苦しい過程がたっぷりと描かれる。
 苦悩、困窮生活について相談できる人がだれもおらず、ひとりぼっちで希望のない日々を過ごす。

 ひかりは朝斗を産んだ広島に行く。そして新聞販売店に勤める。そこで知り合った同僚に借金の保証書を偽造され、そこからヤクザに絡まれるようになる。せっぱつまって、店のお金に手をだし、一部を返済して、横浜に逃げ、ホテルの清掃員となる。しかし、そこにもヤクザが現れる。

 思わず、何とか明日には返せるとヤクザに言い、追い詰められ朝斗の家に電話をする。

 栗原夫妻とひかりが会う。やつれたひかりを見て、夫が「君は片倉ひかりさんでは無い。
自分たちが広島で会ったひかりさんとは違う。」そこでひかりが失敗をする。朝斗は6歳だから小学校に通っているのではと聞く。しかし、まだ朝斗は幼稚園児だった。

 それで妻も「あなたは一体誰?なんでひかりだと名乗るの。」と。
 ひかりは追い詰められる。そして、言う。
「申し訳ありませんでした。私は片倉ひかりではありません。」と。
ひかりは夫妻と別れ、もう死のうと思う。

 ひかりに朝は来るの?
 そこから辻村さんは鮮やかなフィナーレを用意していた。感動の余韻がいつまでも消えない。

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