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北村薫    「中野のお父さん」(文春文庫)

主人公の文芸編集者、美希が遭遇する謎の出来事や事件を、定年直前の博識高校教師である美希の父が解決する短編集。

 私の小さいころは、本が一番輝いていた時代だったのだが、肝心な本屋が無かった。本屋は、注文をとった本や、定期購読の雑誌を5キロの道のりを自転車に積んで、毎週月曜日に村に届けてくれた。

 私の家では父が週刊朝日を買い、姉が「なかよし」私が「少年画報」を買ってもらっていた。発売日がわからなかったので、月曜日が近付くと胸がどきどきした。だから、配達の無かった日は本当にがっかりした。

 関東大震災の後、日本は不況になり、本は急激に売れなくなった。そこで改造社が文学全集を1円で発売。この円本が爆発的に売れた。これに追随して、他の出版社も円本を出版した。各巻の注文が出版社に殺到。どの全集も一冊あたり50万部以上の売れ行きがあった。

 注文本は郵便によって配達された。

このころの田舎では、郵便は歩きか自転車での配達。雪が降り積もると配達が困難となる。しかし電報は配達せねばならない。それで、この作品に登場する配達人は、雪の日は裸足で配達した。江戸時代から裸足の配達は当たり前のこと。足が靴そのものだった。

 蔵書家にとって、本は傷物であってはならない。広辞苑などの辞書が発売されると、出版社に直接購入にやってくる人がいる。そして、在庫している辞典を出版社が例えば15冊くらいテーブルにだす。その15冊を半日以上かけ、一ページ、一ページまくりキズが無いことを確かめ、一冊を選んで購入する。

 改造社発行の円本を隣同士の村の住人が購入していた。ある日、一方の住人が、もう一方の住人が訪ねる。縁側に座っていると、住人が円本を持ってくる。そしてお茶を差し出す。そのお茶の受け渡しに失敗して、本にこぼれる。すると住人が、本を開いて、お茶のシミを指し示す。

 あんたの失敗だから、あんたの持っている本と交換してくれと要求する。そこで2人は大喧嘩になる。

 その話を美希がお父さんにする。
お父さんはその話はおかしいと指摘する。本が閉じてあったのに、お茶がかかったとたん、開いてシミを指摘するなんてありえない。それにお茶がかかったら、まずは布巾で拭くだろう。
 その本は縁側に持ってくる前から、茶のシミはついていたのさと。

北村らしいまとめかただ。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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