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アンソロジー    「五輪小説傑作選 作家たちのオリンピック」(PHP文芸文庫)

オリンピックを題材にして書かれた短編を収録。収録作品を書いた作家も、城山三郎、浅田次郎、奥田英明、小川洋子、海堂尊など現在の代表作家ばかりで、内容のレベルも高く、素晴らしい短編集になっている。

 その中で、作家の特徴がよくでていると思ったのが奥田英朗の「名古屋オリンピック」。

思い出す。時は1981年9月30日。ドイツのバーデン バーデンで開催されたIOCの総会。ここで1988年のPリンピック開催都市が決まる。特に関心があったわけではないが、開催都市決定の瞬間を深夜テレビで見た。

 開催都市に立候補していたのが名古屋とソウル。下馬評では大差で名古屋ということになっていた。だから、名古屋決定の瞬間から番組は祝賀プログラムが周到に準備されていた。

ところが結果は52票対27票、圧倒的差でソウルに決まる。「ソウル」と発表された瞬間、聞き間違いではないかという空気が流れ、画面が一瞬凍てついた。番組もすべてがひっくり返り、その後流すプログラムが無くなってしまった。

 そんな時、名古屋出身の主人公の久雄は大学を中退して、小さな広告代理店に入り、3年目をむかえていた。社長は久雄の能力を買っていて、社長がとってきたPR誌の仕事を、部下も3人久雄が採用して、すべてを久雄に任せた。

 久雄は、同い年を一人、一つ下を二人採用する。同い年は久雄と同じ大学中退の鈴木。年下は短大出たての厚子、それに専門学校出の原田。

 厚子はそれなりに使えるが、原田と鈴木はどうしょうもなくできが悪い。仕事を久雄は、手順を踏んで教えるのだが、その通りやれたためしはなく、クライアントとトラブル。ただでさえ忙しいのに、その対応はすべて久雄が行う。久雄はかりかりしてどなりつけるのだが、全く治らない。完全に一人で仕事や会社を回していると思うような状況。

 原田は何とか指導するが、もう鈴木は完全に馘だ。

名古屋にオリンピックがやってくることが決まる日、久雄は社長に呼び出される。
厚子が会社を辞めると言っているという。深夜まで残業はさせられるは、土日も殆ど休めない。仕事は面白いが、体がもたないと厚子は言っている。

社長は「久雄は素晴らしい。おかげで取引先も増えているし、売上も増えている。これからもこの調子で頑張ってほしい。」と言った後、付け加える。

 「みんな仕事一筋というわけではないんだ。こんな小さな会社だから、定時に帰れるということは無い。若い時は仕事に夢中になって当然。趣味や他の生きがいは年寄りに必要なこと。若いうちは仕事で頑張るのは当然。しかしそれでもやはり限度というものがある。
 鈴木と原田を随分叱っているんだって。あれもできないこれもできないというふうに見るんではなく、発想を変えろ。あれはまかせられる。これはできると良い面をみてやるんだ。」

 久雄は3人の採用するときを思い出す。自分より優秀で、能力のありそうな人は不採用にした。絶対自分より出世するような人間は拒否した。お腹の底から苦い汁が込み上げてきた。

 自分だけが会社をまわしている、その慢心さが切ない。絶対間違いないと誰もが思っていた名古屋もその夜ソウルに負けた。確かに苦い。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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