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村上龍    「5分後の世界」(幻冬舎文庫)

ジョギングをしていた主人公の小田桐、意識を失って気が付いたら、5分間ズレた世界の中にはいり、ぬかるんだ道を行進していた。

 1945年3月沖縄激戦で、大量の被害者がでた。その後、8月になりソ連が参戦、千島列島に侵攻、アメリカにより新型爆弾が広島、長崎に落とされ、日本は全面降伏し、戦争は終了。そこから今我々が住んでいる日本が出来上がった。

 しかし5分ずれた世界では、大日本帝国は、連合軍と戦うことを決意。長崎に続き、新潟、舞鶴にも新型爆弾が落とされる。旧日本軍は本土決戦を決意し「義勇兵役法」を制定。日本国民の殆どが兵となり、連合軍に体当たりを敢行、たくさんの国民が亡くなっていった。

 日本本土はアメリカ、中国、ソ連、イギリスに分割。日本国民は富士山の近くに膨大な地下世界を作り、連合軍にゲリラ戦を挑み今でも戦闘を繰り返している。

 今や日本国民は26万人にまで激減している。
しかし、日本は地下で化学兵器や最新武器を開発。世界で最も戦闘的なゲリラ大国となり、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアでは信頼され賞賛されている。

 実は、沖縄戦で打撃を受けたとき、軍部ではこれからの日本のためにどうするか検討されていた。それは、8つのシミュレーションによりなされた。その8番目のシミュレーションがポツダム宣言を受諾して全面降伏することだった。そうなった場合日本はどうなるのか。

それはアメリカの価値観の奴隷になること。日本固有の文化、精神を、アメリカが望まないような形で発信はできなくなる。そして、政治はいつもアメリカの顔を伺い、アメリカが望むような政策しかできなくなる。

 具体的にはアメリカ人が着ている服を着るようになる。生活スタイル、価値観、音楽、映画、スポーツもすべてアメリカに追随するようになる。

 人々は自分で考えたり、自立することが無くなり、流行や大勢に従い生きる。世界は混迷がずっと続き、次の時代の価値観を生み出しえないでいる。この時代に最も重要なことは、生き延びてゆくということ。日本は戦争を通じてそのことを学んだ。

 生き延びてゆくために必要なものは、空気、水、食料、武器だけではない。それ以上に必要なことは、勇気とプライド。

 そして、日本は胸を張る。この50年間に一人の自殺者もだしていないと。またアインシュタインが日本を訪問して「日本はすべての平等を実現している」と称賛する。
 この物語が書かれたときは年間自殺者が3万人を超えていた。

物語は5分後のズレ世界に入ってしまった小田桐がまた時計を5分進めて今の世界に戻るまでを描いているが、この間の連合軍との戦闘がすさまじく、それをこれでもかというくらいにグロテスクに村上が描く。そのしつこさに、本を放り投げる人がたくさんいるだろうと想像する。

 そして、アンダーグラウンドの日本がどことなく、北朝鮮に似ていて、魅力ない世界に見える。

 しかし、村上の小説は、人を刺激し動かそうとする強い思いが込められている。

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| 古本読書日記 | 06:01 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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