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村上龍     「共生虫」(講談社文庫)

 この作品はインターネットと今や社会で大問題となっている「ひきこもり」との強い結びつきについて、否定的な見方を拒絶し、新しい見方として逆に、積極的肯定的に評価する物語である。

 「ひきこもり」とは、外部との不要な接触を一切断つ状態のことを言う。「ひきこもり」をしない殆どの人たちは、不必要な人間関係に溺れて、必要な人間関係とは何かをわからなくなっている。こういう状態にならないためには「ひきこもり」になるしか方法が無い。

  そして、その「ひきこもり」を支えるのがインターネットである。インターネットは、真に関係を持つべき人間を探すことができるし、膨大な不要な情報の塊ではあるが、根を詰めて探せば必ず必要な情報にたどり着くことができる。

 この物語の主人公ウエハラは「ひきこもり」であったが、ネットでインターバイオというサイトに引きずられて、久しぶりに外出して、コンビニに行く。おにぎりを買い、据え付けられているベンチに座って食べる。そこで、風体が醜くい、みすぼらしい女性と遭遇。その女性を尾行し、女性の住むアパートの部屋のドアをたたく。女性から部屋に招き入れられ、古い映写フィルムを見せられる。

 ウエハラは戦後大分たって生まれたのに、女性は防空壕のフィルムをみせて、「あなたもよくこの防空壕に逃げてきたよね」と言う。また、集団の体操フィルムや、防毒マスクをした女性たちの行進をみている見学者のフィルムを指さし、ここにあなたがいると言う。

 ウエハラは防空壕がなんのことかわからなかったので、ネットで検索する。膨大な情報の中から、戦前岡山で作られた毒ガスが、戦争末期密かに関東の防空壕に移送されたこと、自分の住んでいる近くの膨大な空き地が、公園の中に造成されているが、その中の小山に立ち入り禁止の防空壕跡がたくさんあることを知る。そしてある夜中に、防空壕跡に苦戦しながら入り、そこに毒ガスが保管されていることを知る。

 そして、ネット仲間3人をおびきだし、毒ガスで殺害し、緑の工場という誰も近寄れない廃工場の木材のチップの中に埋める。

 こんなところに死体があることなど、普通の社会に住む人たちには想像もできない。だから死体は永遠に発見されない。「ひきこもり」とネットにより行われた殺人である。

 世の中の変化や新たな創造は,「ひきこもり」視点とネットの融合により、それが善であれ悪であれ実現されてゆく。
夢だ希望だと建前の中からは生まれるものは虚構。そんな虚構は人間を食いつぶそうと、とりついている「共生虫」により、完全に破壊されてしまう。

 村上の一見絶望的な真理について理解できるが、何か「ひきこもり」の解釈もその絶対的肯定も私は賛成できない。

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| 古本読書日記 | 06:24 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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