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乃南アサ    「水曜日の凱歌」(新潮文庫)

  戦争というのは、通常起これば悲劇となることが、悲劇にはならない。出征した男たちは戦死して帰ってこない。原爆や空襲で、亡くなった人もでる。亡くならなくても、大けがを負い、生涯体が不自由となってしまう。住む家は一瞬にして焼け落ちる。そんな災厄に遭遇した家族が当たり前のように存在する。こうなると、悲劇にはならない。

 事実、この物語の主人公鈴子の家も、父が亡くなり、長兄の肇も戦死、次兄の匡は出征して消息不明、姉の光子は空襲で死亡。妹の千鶴子も空襲で逃げているときに失踪して見つからない。結局家族は母と鈴子だけになる。幼馴染の勝子は、空襲で右腕が吹っ飛ばされる。
 戦争の犠牲者がいない家族がめずらしい状況である。

 こんな中敗戦を迎える。
そうなると、思想、評論、批評は全く役に立たない。誰から、何と言われようが生きていかねばならない。時勢に合わせて変わらねばならない。

 戦争が終了後、数か月後にRAAという組織が立ち上がる。特殊慰安婦施設協会である。アメリカが日本に占領軍としてやってくる。そのアメリカ人に売春婦をあてがう組織である。

 多くの女性が生きてゆくために応募する。中には、男を知らない女性もたくさんいる。そして、性交渉の恐怖の中、自殺する女性もでる。

 鈴子の母は、英語ができるということで、RAAで通訳、事務の仕事を得る。この仕事を紹介してくれたおじさんの愛人となることで、得た仕事だ。その後、アメリカ将校と恋愛に走る。

 鈴子は汚い、ずるいと思い込むのだが、母のおかげで、食うや食わずの生活や、ひもじい思いはしたことは無い。

 この鈴子の悩みをドカーンと吹き飛ばしてしまう乃南さんのミドリという女性の啖呵がすさまじい。こういう言葉を書ける作家はいない。特に男性作家には。

 「覚えておきな、日本の男ども!誰も彼も、女の股の間から生まれたくせに、その恩も忘れやがって、利用するときだけしやがって!戦争中は『産めや殖やせや』で、戦争に負けた途端に、今度は同じ股を外国人どもに差し出せとは、何と節操のなさなんだ!それで平気なのか!見ていやがれ、この国を駄目にした男ども!女一人も守れないで、何が日本男児だ!大和男子だ、バカ野郎!いいか、あなたたちは、いつか必ず復讐される。いつか、必ず報いを受ける。アメリカなんかじゃなく、日本のおんなたちからだ!」

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| 古本読書日記 | 05:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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