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安岡章太郎    「安岡章太郎 戦争小説 集成」(中公文庫)

戦争小説というと、悲惨な空襲場面や、実際の戦闘場面を描くのが一般的だが、兵隊に入隊しても、実際の戦争にゆくのはそうしばしばあるのではなく、兵営に集められ、そこで生活や訓練をしながら、出撃の命令を待つのが普通。

 この戦争小説集には5編が収録されているが、空襲も戦闘場面も一切登場しない。長編の「遁走」が帝国陸軍の満州での兵営生活を描写している。安岡の初年兵時の経験がベースになっていて、かなり実話が多いと思われる。

 初年兵は、とにかく殴られ、殴り倒されるために毎日存在する。
歯をみせたといって殴られ、笑ったと言って殴られ、こわばっていると殴られ、ぐにゃりとしていると殴られる。

 殴られることから逃れることができるのは、食べているときとトイレで排泄するときだけ。戦うなどという本来の兵隊が思うべきことなど到底思いつかない。
食べて、殴られ、寝るよりほかにない生活のなかでは、頭は食欲しか思いつかない。食器と便器だけにとりつかれてしまう。

 ある日、小銃の部品が盗まれはじめる。薬莢や銃口蓋くらいであれば、代えがあり、問題ないのだが、弾倉バネや撃芯となると、補充というわけにいかず、盗難を隠蔽していることもできない。しかも、小銃は天皇からの賜りもの。部品が無くなるなどいうことは天皇、神への冒涜。

 だから懸命に捜索するのだが、見つからない。そのうちに石川二等兵が、部品を盗んでは、絶対見つからない隠し場所、肥溜めに投げ捨てているのが目撃される。

 何しろ天皇からの賜りものだから奪還せねばならない。昼食後、兵隊が集められ、バケツに糞尿を掬い、肥壺にいれる作業をする。しかし、これが思うようにはかどらない。3時間やっても、糞尿が半分も減らない。

 突然、浜田伍長が「作業止め!」と命令する。
伍長は、上着を脱ぎ、袴もとり、褌一丁になり、マンホールの蓋をあけ、しずしずと糞尿のなかに入ってゆく。糞尿をかきわけながら、「冷たい!」と言ったかとおもうと、首までつかる。そして、伸ばした手で、肥溜めの底を探り始める。

 そして、伍長がにこやかに笑って両手を高く上げる。その手には弾倉バネがひとつ握られていた。

 それを見ていた兵士たちが「やったー!」と歓声をあげ、大拍手をした。
安岡のブラックユーモア全開。それにしてもやはり超異常な世界である。

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| 古本読書日記 | 05:55 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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