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筑摩書房編集部編  「女が読む太宰治」(ちくプリマー新書)

太宰治はすごい作家である。芥川賞などの文学賞には縁が無く、夏目や芥川のような文豪に列せられるのでもない。そして、大嫌いと太宰を徹底的に嫌った三島や川端がいる。

この本の出版は約10年前の2009年。その時でさえ太宰は綿々と読み継がれ、「人間失格」615万冊、「斜陽」は356万冊が売れている。

 読者層の多くが好悪は別として女性。そこで、女性作家を中心として、太宰とのかかわりについて綴ったエッセイを収録したのが本書。

 雨宮処凛のエッセイが印象に残った。

雨宮は全く太宰には興味が無かった。しかし、発売された宮沢りえのヌード写真集に引火されたように興奮状態に陥った男子生徒が、エロやオナニーの話題から一切離れ、急に太宰がブームになった。

 それで、雨宮も気になって太宰作品を手にとる。それが「トカトントン」。

 主人公は郵便局員。彼はずっと「トカトントン」という音に悩まされている。その「トカトントン」が始まったのは、戦争で負けた昭和20年8月15日。玉音放送が終わると、中尉が壇上に登り、戦争に負けても軍人は徹底抗戦をし、大君とともに自決すると宣言。主人公もその通りと思い、徹底的の戦い自決するぞと決意する。そのときに胸の中で金槌が釘をうつ音が響く。「トカトントン」。その音に急にへなへなとなり、気持ちが反転する。

 それから「トカトントン」が始まる。

郵便局の仕事が超多忙になり、懸命に働く。その繁忙が今日で終わるというとき「トカトントン」。片思いの相手とやっと2人きりであえる、気持ちが高揚するその直後「トカトントン」。労働者のデモ行進をみて感動し、真の自由を見たと涙を流したところで「トカトントン」。

 主人公が熱中したり感動したりすると、その金槌の音はどこからともなくやってきて、何もかも色褪せて思えるようにひんやりさせる。

 雨宮はこういうことは自分にも起きるという。
死ぬほど悩んでいた時、ふと目にした看板「スナック そてつ」そして「焼肉 ちょんまげ」。これで急に力ががくんとぬけた。それから、韓国の焼き肉屋でカルビの説明がメニューに日本語で書いてある。「いじくりまわした牛肉」。

 こういうことって確かによくあると思う。追い詰められどうしようもなかったときに出会う超脱力系の看板や、言葉に救われ、今まで悩んでいたことがばからしくなること。

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| 古本読書日記 | 05:55 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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