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柚木麻子    「伊藤くんAtoE」(幻冬舎文庫)

この物語の主人公伊藤くんは30歳手前のイケメンでおしゃれ、千葉の大金持ちの一人息子で実家ぐらし。学習塾の講師をしながら、シナリオライターになる夢を追っている。

 物語は、この伊藤くんをめぐって5人の女性が登場。それぞれの女性の視点から伊藤くんを描く連作短編集。ということは伊藤くんはAからEまで登場するが5人とも同一人物。

 伊藤くんは、わがままで自意識過剰で無神経。言い寄る女性はあまた、彼の周囲は恋の話題が尽きない、しかし近付く美女たちは、粗末にされる。まったくこんな男のどこがいいのか。

 伊藤くん、シナリオライター気取りをするが、いつまでたってもシナリオを描かないどころか企画書も作らない。ここで踏ん張らねばというところで常に逃げ腰となる。

 大金持ちの一人息子だから許されるのだろうが、肝心なところで飛び出さないのはどうしてなのだろう。
 昔ドラマでヒットをとばしたが、今は完全に落ちぶれたシナリオライターの矢崎莉桜に責められて伊藤くんが言う。

 「『傷付くことを恐れるな』と言うけど、それは強者主導のルールですよ。傷ついても平気で生きていけるのは、恥をかいても起き上がれるのは、ごく限られた特殊な人種だけなんですよ。そのことを誰も気付かないから、不幸が起きるんです。大抵の人間が夢をかなえないまま死ぬのは、夢と引き換えにしてでも、自分を守りたいからですよ。楽しいより、充実感を得るより、金を稼ぐより、傷つけられないほうが重要なんですよ。僕もそうです。・・・
誰からも下に見られたり、バカにされたり、笑われたりしたくないんです。傷つける側にたつことがあっても、その逆は絶対いやなんです。」

 自分が一番大切。30歳にもなって、傷ついてしまえば一生立ち上がれない。とべないまま、とばないまま、シナリオライターの卵と自称して、彷徨する。

 彷徨できる環境にいることが、普通の人と違い異常なのだが。

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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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