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池澤夏樹    「砂浜に座り込んだ船」(新潮文庫)

東日本大震災をモチーフにした作品を中心に収録した9編の短編集。

被災地が原発の放射能汚染で住むことができず、故郷を捨てて、日本各地に避難を強いられている人たちがまだたくさんいる。

 多くの人たちが故郷へ帰りたいだろうが、とりわけ帰りたい人のなかに、郷土の遺産や、歴史を一生懸命生徒に教えてきた社会科の先生がいる。この短編集「苦麻の村」の主人公、元教師の老人菊多憲一もその一人。

 今は、故郷の福島 大熊町を離れ東京東雲の高層マンション34階で避難生活をしている。最近、一人暮らしの老人の避難民が孤老死するということが相次ぎ社会問題となり、役所や社協のスタッフが訪問して様子を伺う活動に力をいれている。

 スタッフが菊多の部屋を訪ねたとき、菊多は地元の新聞が読めないのが辛いと嘆く。そこでスタッフは、図書館にお願いして新聞を取り寄せてもらう。菊多は、図書館で地元紙を読むのだが、更に持ってきた鋏で地元の記事を切り抜こうとする。
 それは、彼が現役教師のとき、子供たちが記事を書き、それを割り付けして一緒に新聞にしたことが懐かしく思ったから。

 子供たちは、彼が郷土のことを話すと、一生懸命耳を傾け、メモをとってくれた。大熊町というのは味も素っ気もない。大川町と熊野町が合併してできた町名。その昔、菊多が先生をしていた町は熊川町といった。この熊はその昔は苦麻と言って、石城国の北の境にあった。

 石城は磐城と今は言う。城は蝦夷からの攻撃を防ぎ攻め入るために築かれた。律令時代の話だ。そんな話を生徒の前で話すのだ。

 社協のスタッフがある日、菊多を訪ねるが、ドアをノックしても反応しない。それが数日続く。そのままにしていたら、新聞屋から報告があり一か月以上新聞がポストやダンボール箱にたまっていると。
 合鍵を大家から借り、部屋にはいるともぬけの殻。しかし、壁一面に地元紙の鋏で切られた記事が貼ってある。

 菊多は、故郷立ち入り禁止地域にはいり、自分の家で暮らしているのが発見される。
 お米はまだたくさんある。精米が大変だが一升瓶にいれ棒でつつく。水は井戸がある。
調理は、プロパンがあるが、無くなれば近くから薪を拾ってきて、竈で燃やせばいい。
 それで一か月以上、自分の家で暮らした。

発見されたとき、「もう年寄りだし、この先、何十年も生きるわけではない。数年で亡くなってもいいから、自分の故郷で死にたい」と。

 みんなに迷惑をかけるとんでもない年寄りと非難されるかと思っていると、あちこちから支援物資が届けられるようになる。

 死ぬことに意味があるかどうかよくわからないが、考えさせられる物語だった。

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| 古本読書日記 | 05:47 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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