FC2ブログ

PREV | PAGE-SELECT | NEXT

≫ EDIT

長山靖生編    「文豪と酒」(中公文庫)

16人の作家と9人の詩人が遺した酒が登場する作品のアンソロジー。もちろん主役の殆どは酒ではない。しかし脇役であるお酒が、作品の輝きを支えている作品集である。

 明治23年鴎外が「しらがみ草紙」に発表したドイツ留学時の体験を書いた「うたかたの記」のミュンヘンのビアホールの描写。まだ文体は文語体。しかし当たり前にして読んでいる現在の口語体より、ビアホールの情景がリアルに伝わってくる。

 「かく語るところへ、胸当てにつづけたる白前掛けかけたる下女(はしため)、ビイルの泡だてるを、ゆり超すばかり盛りたる例の大杯を、四つ五つずつ、とり手をよせて握りもつ」

 目の前に、腕っぷしの太いウェイトレスの姿がまざまざと浮かんでくる。

 私の若いころは、携帯はないし、電話も寮でひとつ、呼び出してもらう。だからデートの約束は手紙でする。不安なのは約束場所に彼女が来てくれるかどうか。この不安が大きくのしかかる。

 お金もないから、待ち合わせは喫茶店でも、デート場所は人のいない公園のベンチというのが多かった。

 そしてやっとこさ初めてのデートが実現しても、普段女性との交流が無いため、不器用な会話が続く。

作品集に収録されている堀辰雄の「不器用な天使」が、不器用なデートを描写。思わず、自分もこれと同じだったと懐かしさを覚えると同時に苦い味わいがこみあげてくる。

 主人公は学生。入ったバーのカウンターにいる女性に一目ぼれ。何回か通って、勇気をだして、デートの約束をとりつける。その場所が公園。

 約束の日、朝早く起きて、興奮し、家でだれかれ構わず大声で話しかける。母親は気が違ったのではないかと思う。

 公園のベンチで長い間坐っている。ようやく彼女がやってくる。

「彼女は殆ど身動きしない。・・・僕は絶えず何かをしゃべっている。僕は沈黙を欲しながら、それを恐れている。僕の欲しているのは、彼女の手を握りながら僕の身体に彼女の身体をくっつけているのみ。このことのみが僕らが許すであろう沈黙のみだからだ。
 僕は僕自身のことを話す。それから友達のことを話す。そしてときどき彼女のことを尋ねる。しかし、僕は彼女の返事を待ってはいない。僕はそれを恐れるかのように、僕自身のことを話しはじめる。」

 もう、本当に若いころの初めてのデートはこのまんま。

ランキングに参加しています。
ぽちっと応援していただければ幸いです。
にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ


| 古本読書日記 | 06:00 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT














PREV | PAGE-SELECT | NEXT