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笹倉明     「推定有罪」(岩波現代文庫)

横浜日雇い人夫のドヤ街、祝町で焚火をしていた日雇い人夫たちの傍らで午後10時40分に殺傷で殺された遺体を近くの民生委員大内衛が発見し警察に届ける。

 このミステリーは小説かと思ったら実際に起きた事件を扱うノンフィクションだった。しかも解説を書いている法曹界では有名な弁護士野村吉太郎が、この作品の主人公である奥村紀一郎が野村のモデルになっている。

 作品を読むと、ドヤ街に暮らす人など、社会が人間どころか虫ケラにもおよばない扱いをするものだと痛切に感じる。また住人たちも、社会にまともに扱ってもらえないことを認識していて、まともな社会というのは信用できないし、くず扱いしかされないと信じている。

 だから、こんなところで起きた虫けらの殺しなど、警察も検察、裁判官も、あるいはこの裁判で一審の弁護を行った国選弁護士もくだらない事件で、自分たちの仕事に値しないと思っている。

 警察はまともな取り調べをせず、犯人はこいつにしようという乗りで決める。同じ調子で検察も裁判も、弁護士も仕事そのものが時間の無駄ということで警察の逮捕者を犯人として処理しようとする。

 容疑者にかつぎあげられた謙太幸雄も法制度のことなど無知。過酷な取り調べに、音を上げ、裁判をすれば裁判官が無罪にしてくれるだろうと勘違いし、自白をしてしまう。身に覚えのないことだから、刑事が書いたストーリーをその通りと追認して、検察に送致される。

 ものすごいのは、目撃者として調べを受けた島尾が、犯人は謙太かわからないと繰り返し主張。それで、警察は「わからない」という調書を読み上げ、これでokかと島尾の確認をとる。その調書は、横書きにされている。

 刑事が縦書きに書き直された調書をそのあとだし、正式文書はこちらで全く同じことが書いてあると言い、島尾に拇印を押させる。しかし、その調書には謙太が犯人であると書かれていた。

 この作品、謙太無罪に偏らず、客観的に長いページをかけ事実を描いている。しかし、どうみても冤罪である。そして、虫けらの起こした事件など誰が犯人だっていいじゃないかという司法関係者の思いが強烈に透けてみえる。

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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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