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高野和明 阪上仁志    「夢のカルテ」(角川文庫)

40代も半ばを過ぎていた知り合いが担当していた課に20歳の新入女子社員がはいってきた。その女子社員は、彼を憧れるようにまとわりつき仕事だけではなく、私事すべてに頼った。それほど風采もあがらず、魅力的とは思えない彼に恋心のような感情を彼女が表すか不思議でしょうがなかった。当然戸惑いながらも彼は久しぶりに表れた恋愛に喜びわきたった。しかし、わずかな期間でその蜜月のような関係は理由もなく消えた。

 この作品を読んで、この関係がどうして起きたのか氷解した。その新入社員の父親が彼女が幼いときに、事故で死亡していた。彼女は父無しで母親の手によって育てられた。彼女はずっと父親がいないことに強い寂しさを感じていた。父親が欲しかった。自分の心の欠落を埋めるために上司を求めたのだ。

 本当は恋愛ではないのに、欠落が恋愛のような行動になってしまうことを「転移」と言う。

 この物語は、カウンセリングを仕事にしている夢衣のところに、射撃事件で自分を狙っていた銃弾が自分を貫いて、全く関係ない母娘の母親に当たり母親が死んでしまう。それからその場面が眠る度に必ず現れ、苦悩している刑事が相談にやってきたところから始まる。

 実は夢衣は、他人の夢の中に入るという不思議なことができた。そして、悩む刑事の夢に入り込み、事件の真実を摑み解決し、刑事の悩みを解放した。更に、夢衣と刑事は出会ったときから、互いに惹かれあい、恋愛関係に迷いながらもはいってゆく。

 その後2人は、夢衣のカウンセリングを使いながら3つの困難な事件を解決する。その部分も卓越していて面白いのだが、何といってもその事件解決の過程で変化してゆく2人の恋の物語が素晴らしい。

 夢衣は、自分の恋愛感情は心の欠落、転移から起きているもので、本当の恋愛ではないのではと思う。そしてそれは、相手の刑事にも伝わる。

 最初の出会いから、欠落に対するこだわりが絶えずあり、一旦2人は別れる。しかし最後は苦悩を克服して恋は成就する。それが、それぞれの事件の解決過程で克服され、共鳴しあってなされる。

 実によく練れていて、味わい深い小説になっている。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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