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池永陽    「北の麦酒ザムライ」(集英社文庫)

幕末の1865年、薩摩藩はまだ外国渡航が認められていないとき、五代友厚ら引率者4名に19人の藩士をイギリスに送り出す。

 そしてその19人のその後の人生については「薩摩藩英国留学生」という書物にまとめられている。すべての留学生が、明治維新のなか活躍し、りっぱな業績をあげたことが書かれているが、この物語の主人公で最初に日本でビールを作った村橋久成だけは「悲惨な末路」と書かれている。

 この作品は、悲惨な末路となった村橋久成の一代記を扱っている。最初のビールの醸造は札幌で行われ、現在のサッポロビールとなるわけだが、このブランドで描かれる北極星は北海道開拓団の団旗のシンボルマークとなっていた北辰旗からきている。

 この物語は本のタイトルと中味があっていない。当然タイトルからは、薩摩藩士が遥に遠い北海道の地で悪戦苦闘しながらビール創りを行い、色んな危機をのりこえ最後に成功する物語だと想像する。

物語にはイギリスのパブで出会ったビールに感激した村橋と、ドイツに何度も密入国してビール製造技術を学んだ中川清兵衛が登場するが、ビール開発製造の場面があまりない。

 唯一、ドイツでは酵母は生き物であり、この酵母の働きを促進するため、シンバルやトライアングルを打ち鳴らすということが清兵衛から語られ、最初のビール製造時、発酵がうまくいかなくなったとき、木槌で桶を叩きならすということで窮地を脱すると、あまり科学的でないストーリーの部分ででてくるだけ。

 後は、村橋が会津藩士の娘で高級娼婦に堕ちた由紀との恋物語が主体のテーマとなっている。
 ビール開発の悪戦苦闘記を期待していただけに肩透かしを完全に喰らった。

 最初に創られ販売されたビールは高級酒として今の貨幣価値で一瓶3700円だったそうである。今は第3のビールなら缶コーヒーの値段で飲める。

 古き時代をしのんで一気飲みなどと称して、ビールを粗雑に扱ってはならない。

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| 古本読書日記 | 05:41 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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