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加藤千恵    「卒業するわたしたち」(小学館文庫)

歌人加藤千恵さんの、瑞々しい表現がいっぱいの小説に出会い、気になってしまった。しばらく加藤さんを集中して読もうと思っている。

 卒業というのは学校だけに係る情景ではない。卒業という言葉が象徴的に交わされた場面を描いた短編集。

 二十八歳になる主人公の美弥が漫画を読んでごろんとしていると、母が急に大事な話があると突然言う。
 何か怒られるようなことをしたのかなと思い出そうとするが浮かばない。怪訝と不安を少し抱えて母親と向き合う。
 「お母さん、再婚しようと思うの。」
えっと驚く。急に平和な日々が遠ざかってゆくような気がする。

 美弥の両親は美弥が二歳のときに離婚している。お祖母さんの話では父親はだらしなく最低な人間だったとしょっちゅう言っていたが、美弥にはもちろん記憶はない。

 お母さんは、住民センターの事務職員として働き、実家の援助も受けずに美弥を大学までだしてくれ、その間全く不自由を感じたことは無かった。このまま母との暮らしが続くものと美弥は考えていた。まさか、自分が結婚する前に、暮らした部屋をでてゆくことになるとは。

 母に言われて、婚約者梅田さんとレストランで会うことになった。母がトイレで中座したとき、梅田さんが話す。
 「もう、ニ、三年からずっと結婚してくださいとプロポーズしてきたんだけど、その度に娘が心配だからと答えてくれなかった。」
 「美弥さんはもう二十八歳の社会人。何でそんなに心配なのかわからない。もう大人で事情だって理解してくれる年齢じゃないかと。」

 それで最近思い切って言った。
「もう美弥さんから卒業してもいいのでは。それでやっと納得してくれた。」

卒業は子供だけにあるものではなくて、母親にもあるのだ。今、美弥と母親は新たな人生に向かって卒業するときを迎えている。

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| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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