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坂東眞砂子    「桜雨」(集英社文庫)

  戦争中に描かれただろう一枚の絵がある。闇の中を渦巻いて、立ち上る朱色の炎、火の粉とともに乱舞する桜の花びら。そこに描かれている二人の女性。

 二人の女性は、戦前、池袋モンパルナスと言われたところで、少し有名になった画家榊原西遊を愛した、五木田早夜と小野美紗江。
 その絵には、よく観ると、火の粉の中を昇ってゆく女性が描かれている。顔に眼鼻が無くだれなのかはわからない。

 年老いた美紗江に、小出版社に勤める額田彩子が、戦前幻想絵画集の出版準備をする
ためにインタービューしたときの美紗江の言葉が印象に残る。

 「ええ。穏やかな表情をした女の人が煙に乗っていくんです。アトリエの窓辺にいる思いつめた表情をした女の人や、泣いてる人を置き去りにして、消えようとしてるんですよ。顔はぼかされていて誰ともわからないんですが、炎の中から昇華していくみたいな幻想的な雰囲気で描かれているんです。・・・燃える火は、女の燃やす情念の炎。そこから逃れてどこかに行きたい・・・女なら誰しもそんな気持ちを抱く時があるでしょう。」

 西遊を巡って、愛憎の限りをつくし、嫉妬と憎悪の中で生きてきた、早夜と美紗江。西遊が空襲から脱出するなかで、美紗江の鉄の棒に殴られ西遊は亡くなった。それで、ふっきれると思った西遊を、数十年たっても、今でも時は止まって美紗江は引きずって生きている。

 愛憎の炎から昇華することなど願ってもとてもできない。この数十年は何のための人生だったのだろうか。

 インタビューをしている彩子も、秀人と別れて数年がたつ。あれほど憎しみ合って別れたはずだった秀人。携帯電話が反応すると、秀人ではないかと、秀人であってほしいとドキっといつもする。

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| 古本読書日記 | 06:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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