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黒柳徹子    「トットひとり」(新潮文庫)

NHK第一号の専属テレビ女優の一人だった黒柳徹子。多くの親しかった友達や関わりのあった女優、男優が亡くなり、唯一いまだに現役で活躍している黒柳が、亡くなったひとたちとのエピソードを交え、長いテレビ、舞台生活を描く。文章も、暖かく、面白く、素晴らしい珠玉のエッセイである。

 森繁久彌と黒柳が最初に出会ったのがNHK。黒柳が20歳そこそこ。森繁は40歳を少し過ぎたころ。1960年にNHKで「パノラマ劇場」が始まり、森繁と黒柳が共演する。二人でセットに並んででてゆくとき森繁がボソっという。「ねえ、一回どう?」。

 それから40年以上が過ぎ、森繁90歳のときにも、あるパーティの席で、森繁がやってきて「ねえ、一回どう?」と声をかけてくる。40年以上もの間、ずっと「ねえ、一回どう?」黒柳に誘いをかけてくる。

 森繁は本当にすけべだったようだ。
舞台の地方公演のとき、俳優はみんな同じ宿に泊まる。座長の森繁を寝かしつけるために、有名な女優以下総出で、布団をとりかこんで、洋服を脱がせてあげて、寝間着を着せ、「さあさあ、先生」なんて言って、ご機嫌をとって、甘やかし寝かしつけていた。黒柳だけ、何もしないでつったっていると、森繁が「君、可愛くないね」と言う。

 森繁は女性と夜を過ごすことが当然だと思っていたようだと黒柳は言う。

向田邦子が亡くなってから毎年開いていた偲ぶ会の20回目。そのパーティ会場で隣に座った森繁が、たくさんの有名な女優を指さし、「あの人も」「あれも」「そっちの人も」と言う。

 黒柳も驚く。

「徹子の部屋」の一回目のゲストが森繁だったので、25周年記念のときも森繁をゲストで呼ぶ。その時森繁は八十八歳。

 耳も遠くなり、気力もでない。殆ど生で放映するのに、森繁は「どんなお墓にする?」と繰り返す。黒柳が違う話題にふっても、すぐに「お墓ありますか?」とだらけてなってしまう。あきらかに、時間を流して適当にすまそうとしている。これでは番組にならないと、黒柳が叱責を受けること覚悟で、本番中に森繁を思いっきり叱る。

 「森繁さんしっかりやってもらわないと困ります。森繁さんがいかに素敵で魅力ある俳優であるか伝える番組なんです。これじゃ放送できません。ちゃんとしてください。」
 当然森繁から怒りが飛んでくることを黒柳は覚悟する。

すると森繁がすっと立ち上がり、「萩原朔太郎さんの詩をやってもいいですか。」と言い、朔太郎の「利根川のほとり」を、浪々と、滔々と、よどみなく、感情を込めて暗誦してみせた。

 圧巻だった。黒柳は涙がでてとまらない。森繁も涙をおとす。森繁の顔は輝き、若々しくなった。スタジオも感動が溢れ静まり返った。

 最高の「徹子の部屋」ができあがった。

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| 古本読書日記 | 05:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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