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中村航    「小森谷くんが決めたこと」(小学館文庫)

この作品、編集者が中村航に普通の男の人ことを小説に書いてみないか。普通の恋や、普通の友情や、普通の成長を小説にしないかという提案から始まっている。それだけでは、作家中村はイメージが浮かんでこないし、とても書けそうもないと思っていたら、その3か月後にこの人を主人公にしたらと、編集者がアラサーの男性を連れてきた。

 それが小森谷君。仮名なのだろうけど、実在する人だとのこと。この小森谷君が最初にサラっと言う。
 「ちょっと病気をして、医者に行ったら余命2か月と言われちゃって」と。
びっくりする中村に
 「でも生き残っちゃいましたけど。」

中村はここで、これは書けるかもしれないと思っただろう。しかし、中村は編集者に普通の男の人を書いてほしいと言われている。確かに目の前にいる小森谷君は、大病をしたかもしれないが、それが無ければ実に普通人に見える。
 この作品の感心するところは、小森谷君をまったく普通の人として描き切っているところ。
 並みの作家だったら、余命2か月を宣言されそれから生還するまでをドラマチックに描いて作品にする。

 中村は丹念に小森谷君を取材する。
そして幼稚園時代の保母さんに恋したり、小学校で自転車を乗り回したり、中学校の修学旅行でパンツを風呂場に落とし忘れてしまう失敗、高校での食い逃げ、2浪してはいった大学。

アルバイトと映画に明け暮れた大学生活。就職氷河期で就職できず映画館でのバイト生活。その繋がりから映画チェーン会社への就職。京都ではじめた会社生活。
  と大病になる前の普通の生きざまを物語の多くを割いて丹念に描く。

そして、大病。それは大変なことなのだけど、大病前の普通の生きざまとトーンを変えることなく、全く大病前の行動の延長で起きてしまったことのように描く。

 この作品は、普通の生き方なんてものは無く、誰でも山あり谷ありの生活を経ているものということを教えてくれる。

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