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桜木柴乃    「それを愛とは呼ばず」(幻冬舎文庫)

  愚直さゆえ、生きることに不器用、こんな人物が、暗く廃墟で荒れたはてた地方に飲み込まれていくような人生を描いたら右に出る作家はいない桜木の味わいがたっぷりでた作品。

 主人公の亮介は妻が経営している新潟の地元企業で副社長をしていたが、妻が交通事故にあい寝たきりになると、義弟に会社から追放され、不動産会社に就職したが、バブル時代にたてた北海道の廃墟のようなリゾートマンションの営業をやらされる。

 10年間、 29歳まで女優を夢見た沙希は、目がでず、大物プロデューサーの肉体を投げ出せば、次の映画に出演させてあげるという申し出を蹴って、芸能事務所をくびになる。

 そしてもう一人小木田が心にずしんと入りこんでくる。

 小木田は、バブル絶頂期に、亮介が販売している、崩れかけた廃墟のようなマンションの最上階を購入している。その小木田が、零落し、放浪のすえ20年前に購入したこのマンションに住み付く。そこに、故郷の釧路に帰り、もう一度やりなおそうと沙希が東京へむかう途中、このマンションに立ち寄る。そこでの小木田の人生の告白が切ない。

 小木田は、ひとつ呼吸をしたあと、穏やかな表情で隣にいる春奈を抱き寄せた。
「僕は外車販売の会社をやっててね、当時は面白いほど高級車が売れたんです。毎日銀座で飲んでいたんです。部屋に戻って着替える暇がないときは、行きつけのブティックで上から下まで買えかえて、そのままクライアントのところへ行くんです。高級車が次から次へと売れてゆくし、それがおかしな現象だとは思わなかった。」
 そして膨張を続けていた経済は一夜にして崩壊し、文無しとなる。

 小木田はそれから何をやっても失敗を繰り返す。体重も半分以下になり浮浪者となり、車を盗難してこの北海道のリゾートマンションまでやってくる。何度も転ぶことはできてもとうとう一度も立ち上がることはできなかった。
そして「あとは首をつるしかないなあって、すごく静かな気持ちになって。さあどうしようかなあとぼんやり考えていたら、春奈がぼくを呼んでる気がしたんです。」

 春奈はバブルがはじけてから、20年の長い間、このマンションで小木田を待ち続けていた。そう、春奈は人間の女性ではなく、ラブドールだった。

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| 古本読書日記 | 06:21 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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