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池内紀    「文学フシギ帖」(岩波新書)

川端康成の「伊豆の踊子」に、もし一高の主人公の私と、踊子だけがでてくる小説だとしたら、単なるオセンチな青春映画の台本と変わらなかっただろう。この小説で重要な役割を果たすのが、踊子の姉さんと結婚し、旅芸人一行のマネージャー役をしている栄吉である。風体からして中年の男のように見えるが、まだ24歳。主人公の私より四つ年長なだけ。

 小説は主人公の青年と踊子のあいだに愛が芽生え右肩上がりに段々高まっていく。
 私が踊子の寝ている部屋にはいっていく。夜の濃い化粧を残したままで、唇と目元に紅が滲んでいる。
 「この情緒的な寝姿が私の胸を染めた。」
思わせぶりな書き方だが、性愛の想いが段々高まっていく。

ここがポイントなのだが、だから、この前後で2人が映画をみにゆく約束をしたのだが、性愛を察知して母親は映画へゆくのを禁止している。踊子と一高生では、隔たりが大きすぎ、踊子も特に一高生が不幸になってしまうからである。

 栄吉がどんな素性で、何故今旅芸人のマネージャーをしているか物語では書かれていない。
 しかし、踊子と別れる場面以上に栄吉と私が別れる場面のほうが、強い印象を残す。

別れの朝、栄吉は普段と違い、黑紋付と袴でやってくる。
私が被っていた鳥打帽を栄吉に被せてやる。私はおもむろに鞄から一高の制服をとりだし皺を伸ばす。そして2人は声を合わせ笑った。何故笑ったのか川端は書いていない。

 主人公の私は鳥打帽から制帽に戻る。ここから先は、帝大、官界、或いは実業界と私は右肩上がりである。栄吉ははやばやと主人公の栄達を黑紋付で祝福したのである。

 上がるのか、下がるのか、何だか栄吉の下がってしまった人生を彷彿とせせる。

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| 古本読書日記 | 06:18 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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