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角田光代    「笹の舟で海を渡る」(新潮文庫)

どうももやもや感が残り食い足りない小説である。

戦争中、金沢近辺に空襲から逃れるために学童疎開していた主人公の左織。戦争が終わり、朝鮮特需で国が湧き上がっているとき金沢で一緒に疎開していたという矢島風美子に突然街中で声をかけられる。疎開先で苛烈な虐めにあっていて、もうだめだと思っていたとき、いつも左織が助けてくれて自分を救ってくれたと風美子は言う。

 風美子は戦争で、家族はもちろん親戚縁者も亡くなり、天涯孤独になったという。
しかし、左織には風美子は全く思い出せない。引っ込み思案の自分がいじめられている子を励ましていたなどということはありえないと思う。

 左織はおばさんの勧めで見合いをして大学教授と結婚する。すると風美子は、風来坊で仕事にもつかないその教授の弟と同棲をする。そして、左織に子供ができ、その子が誕生したときに風美子は弟と入籍すると宣言する。

 左織は教授夫人として、一見平凡で安定的な家庭を作ろうとする。風美子は、料理研究家としてのしあがりテレビにも登場し人気者となる。旦那である教授の弟は、何をしても長続きせず、風美子によって養われている。

 こんな風美子。左織とは真逆の生き方をしているのだが、しょっちゅう左織の家にいりびたり、疎開時代の話、左織には記憶の無い話をする。そして、左織の長女百々子が風美子になつき、左織を嫌悪し、百々子は風美子の家で寝起きするようになる。

 左織の家庭が揺れ動く。その度に、風美子がどうして自分に近付いてきたのか、不信と恐怖が湧き上がってくる。

 左織の子供たちは、全く家によりつかなくなり、母親も夫も亡くなり、左織は風美子とであった40年後、まったく独りぼっちになる。

 左織は思う。大学教授夫人として地位を得て、戦争中は多少の苦労もあったが、幸せな人生をおくれるはずだった。風美子は戦争ですべてを失い、混乱の時代を耐え忍んで生きてきた。疎開時、虐めを自分にして幸せになろうとしている子に復讐するために左織に偶然を装って近付いたのではないかと。そして長い時間をかけて、左織の幸せを吸い尽くす復讐をしたのではないかと。

 角田さんは、こんな風に思わせるように書いた部分もあるが、はっきりと断定はしない。それに、テレビで売れっ子になった風美子が、復讐に執念を燃やすというところがピンとこない。

 人生なんていうのは、正悪はなく、川に揺れている笹舟のようにはかなく、だれも行き着く先などはわからないものということを角田さんは表現したかったのかもしれない。 

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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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