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乃南アサ    「それは秘密の」(新潮文庫)

 恋心が生まれる瞬間、そしてそれがどんな風に生まれて当人を、ときめかせたリ、悩ませたり、そんな心理のあり様を、年齢や状況、千差万別において、描き出した短編集。

 やはり本のタイトルにもなっている「それは秘密の」が一番面白い。

 猛烈な台風がやってきている。吹き荒れる雨風のなか、主人公の国会議員が車を運転していた。彼は、病気療養中で死期がせまっている友人の見舞いにきた帰りに台風に遭遇した。

 道路が寸断され、トンネル内に取り残された。車は故障し全く動かなくなった。トンネル内では土砂で横転したバスがいた。そこから助けを求める女性の声がする。その女性を助け出す。暗闇でよくわからないが、身体中泥だらけで、顔も泥が覆っている。主人公もずぶぬれのよれよれになったスーツ姿で、顔は泥だらけ。

 2人は、トンネルの出口まで歩こうとする。真っ暗で全く前が見えない。それで、危険を避けるため、手を握り合いながら、ゆっくり歩く。

 やわらかい手が強く握りしめられたり、ふわっと握られたりを繰り返す。それが主人公の心をときめかす。

 夜は長い。車のなかで一緒に過ごす。普段は話題にもならないような、子供のころのことや、絵本の話など、澄み切った心の会話が弾む。闇のなかでトイレに行きたくなる。戻り場所がわかるように、車に残っている人が大声で歌を歌う。彼は「遠くで汽笛を聞きながら」。彼女は「秘密のアッコちゃん」を歌う。

 朝がくれば、救助隊がやってくる。彼は心を燃やしながら、救助隊が来なければいいなと一瞬思う。救助隊がきて助けられたとき彼女が耳元でささやく。「誰も助けにこなければよかったのにね」と。彼は舞い上がる。

 2人は、もう永遠に会うことはないだろうが、生涯を通じて最も純真な恋をしたことをいつも思い出すだろう。

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| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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