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津村記久子    「婚礼、葬礼、その他」(文春文庫)

 主人公のヨシノ、両親は土日が働く職場に勤めていたので、誕生会で友達を呼ぶということが無かった。いつも呼ばれるだけだ。それが、人生にとっついたように、28歳の今まで、呼ぶと言うことが皆無で、呼ばれることばかりが続いている。

 2月の連休に屋久島旅行を申し込んだその日に、旅行日程とかぶさって、友達から結婚式の招待の電話がくる。しかも2次会の幹事とお祝いのスピーチまで依頼される。

 そして結婚式当日、準備をしていると、携帯が何回も鳴る。忙しいのにと思いながら、やりすごしてやっと電話にでる。会社の常務からだ。

 部長の祖父が亡くなった。今夜通夜だから、今すぐ斎場にきて通夜の準備と手伝いをするようにとの命令。ヨシノの事情など一切構わず。

 それで、新婦の友美に事情を話して了解をもらい、大学で同じクラブだった小谷に後をたくして、斎場にむかう。

 この物語、タイトルに婚礼、葬礼、その他となっている「その他」が物語の全体を覆う。常にでてくるのは、披露宴で食事にありつけなかったヨシノの空腹。何かを口にいれないと倒れるという切迫感が物語に流れる。

 更に、結婚式、葬式の格式と定められたスケジュールにのって行われている状況が殆ど描写されない。部長の祖父の最後を看取った愛人と部長の妻とのトイレでの壮絶なとっくみあい、母親と孫娘なつみとの冷え切った関係、そんな中で、腹を空かしたヨシノが右往左往する姿が描かれる。葬式場という雰囲気があまりない。

 最高だったのは、ヨシノに代わってお祝いのスピーチをすることになったホンダ。ホンダが酔って何を言っているのかわからないため、籠ったトイレからヨシノが携帯で電話、お祝い原稿をヨシノが読み上げ、それをホンダが受話器を通して、マイクで喋る場面。これは、なかなか面白く傑作だ。

 「その他」を強調するために、ヨシノ以外の登場人物が、故意に個性を薄め、ヨシノとの関係もサラっと書かれていている。成程と思わず感心する。

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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