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桜木柴乃      「凍原」(小学館文庫)

 第二次世界戦争で、ソ連が参戦後の昭和20年8月12日、樺太で生まれ育った長部キクの家にやってきた耕太郎に促され、女性、子供、老人を日本へ帰す脱出船に乗るため、キクは大泊港まで逃走することになる。すでに母、妹は、ソ連の爆撃により死んでいた。耕太郎は24歳。たとえ港に無事到着しても、船には搭乗できない。それなのに何故?不信に思っていると、耕太郎に急に抱き寄せられ、体を奪われる。

 耕太郎と鉄道駅まで、獣道を行く。途中で若いソ連兵にであい。いさかいが起き、耕太郎が射殺される。どうしようもなくなったキクは、ソ連兵イクノフに何度も体を奪われる。
そして、最後に体を奪われた時、イクノフから銃を奪い、イクノフを射殺する。

 大泊港で船に乗ろうとすると、木田と名乗る男が連れている女性鈴木克子を、留萌の鈴木つや子さんの家まで無事に届けてほしいと、木田から懇願される。

 死ぬ思いでキクと克子はやっと鈴木つや子の家にたどり着くが、全く歓迎されず離れの掘っ立て小屋に住むことになる。しかし、克子は裁縫に技術を持っていて、キクも染色の心得がある。2人は共同して、注文をとり、金にはならなかったが、食料が持ち込まれ、食うに困ることはなくなる。

 どうにか暮らせたが、そのうちキクにつわりが始まり、妊娠していることがわかる。キクはとても子供など、養育できない。何とか中絶したいと思うのだが、克子がクリスチャンで絶対許さない。そして克子の助けもあり、女の子が生まれる。キクはとても子連れで生きていけないと、ある日、赤ちゃんを置いて小屋から逃亡する。

 2009年9月、札幌の自動車販売店でトップの成績を誇っていた鈴木洋介が、釧路湿原で絞殺死体となって発見される。洋介は深い悩みがあった。瞳が緑なのである。コンタクトを入れごまかしているが何故自分の瞳が緑なのか、自分のルーツを追及しだす。そこで、死体となる。

 当然、キクに至る。洋介は、ソ連人イクノフの孫として生まれてきたため、眼の色が日本人と異なるのである。

 体を蹂躙されても、生き延びてきたキク。しかし、そのことで生まれ落ちた鈴木ユリとその子供で緑の瞳を持った洋介。ソ連兵から受けた悲劇が、今の2009年になっても綿々と引き継がれ、悲劇が起こる。切なくやりきれない物語である。

 桜木さんの筆は、ソ連からの脱出も、その後のキクの変遷も、実にリアルに丹念に描く。
 その筆力は驚愕に値する。

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| 古本読書日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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