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白石一文    「彼が通る不思議なコースを私も」(集英社文庫)

 人間が生きてゆくためには、何が最も大切なのか。それは、夢や希望を持つことなのか。そうではない。人間はこうありたいとか、こんな夢や希望をかなえたいと思う。しかし、なかなかそれは、かなえられないことばかりだ。そうなると、人間はすぐ絶望感におそわれる。そして簡単に自分で自分の命を絶つ。

 大切なことは、今がどうあっても、何よりも自分が好きだと思うことである。自分が大切で好きだと思えば、そんな最も大切なものを消してしまおうなどとは思わないからだ。自分を愛し大切にしようとして、毎日、毎日を生き抜くことが、最も人間にとって重要なこと。

 この作品で白石は人生の価値をこんなふうに言う。
 結婚した時、夫椿林太郎は、学校教師を退職したことを隠していた。そして、知的障碍児のために、新たな彼の信念で「体操教室」を始めようとしていた。

 結婚2か月後、突然霧子はAVネットワークカンパニーのある、大阪本社に転勤辞令がでる。一応期限は2年間ということだが。それは、新たに霧子の会社が開発した4Kテレビをメインに据えたホームシアターシステムの広告宣伝を担うプロジェクトチームに参加させられたからだ。しかも、それはカンパニートップの辻常務が指令していた。

 新婚生活が全くない。離れ離れの夫との生活が余儀なくされる。霧子は深刻に悩む。夫のそばにいたい。子供を作って、暖かい家庭を実現して暮らしたいと。

 しかし、一方で会社員としてこれから大きく飛躍できる絶好のチャンスをつかんでいる。それを今死に物狂いで働き、チャンスをものにできそうなところまできている。

 揺れる霧子が描かれる。こんな揺れは今まで多くの小説で読んできたが、この小説が一番実感として心にしみてきた。

 自分が大切と言う白石。霧子はどう生きたらよいのか、白石のこの作品では答えはでてこない。白石も今、人生の途上にある。

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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