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江國香織     「左岸」(下)(集英社文庫)

最後まで、私が普段感じている生活感、人生観と交わることが無かった。江國さんの生きている世界は、私の世界とは完全に分離している。どうしても小説に入り込むことができない。

 兄惣一郎と主人公茉莉が心を寄せ合い、強いきずなで結ばれていたことは実感できる。ただ、惣一郎が中学生で突然首を吊り自殺をしたことの背景がきちんと描いていないので、茉莉や同級生の九がその死をどう解釈し、人生の中にどれほどの衝撃と影を与えたのかが、まったくわからない。惣一郎がときどき茉莉の心の中に現れたり、九が茉莉の人生の中で、登場したり、消えたりしたことが、自然さが全くなく、茉莉にとってそれがどんな意味があるのかわからない。

 惣一郎が自殺したことは、学校生活での悩みもあったろうが、主に母親喜代と父親新との家族での苦悩が大きな原因のように思う。母と父の冷たくぎくしゃくとした関係、それと惣一郎、茉莉兄妹と両親との冷ややかな関係が自殺を誘因している。

だから、茉莉と両親の間には、冷たい壁が横たわっているように感じたのだが、母喜代が亡くなったときの茉莉の慟哭、新が倒れた時の茉莉の手厚い介護の、そして父新が亡くなったときの慟哭は、茉莉が高校のころから家庭から独立して、両親にあまりよりかからず生きてきた生きざまに比べ違和感があり、ここも素直に受け入れられなかった。

 東京にアパートを借り、シングルマザーとして小学生のさきを育ててゆく。バーで働きながら茉莉は、踊りや水泳教室に通い、更にソムリエの資格取得にまで手を広げる。バーのアルバイトだけで、家賃を払い、さきを養育して、その他に習い事の出費をする。そんなことが現実可能なのだろうか。しかも、茉莉は画家志津夫の要請を受けて時々パリまででかける。
このときさきの面倒は誰がみているのだろうか。

 つまり、茉莉の生きてゆくためのインフラに対し実感が持てなかった。そこに共感が無いと、どんな恋愛をしようが、感情を吐露しようが、どれもこれもが、あり得ない、空虚な舞台劇をみている感じだった。

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| 古本読書日記 | 08:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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