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桂望実    「手の中の天秤」(PHP文芸文庫)

 読み始めてそんな制度があったのかなあと思った。「執行猶予被害者遺族預かり制度」である。最近の裁判では、被害者の人権が軽くみられ、加害者の人権ばかりが優遇されているという世論が喧しい。それで、できた制度である。

 執行猶予がついた刑が裁判で確定するが、被害者がこの制度の適用申請を裁判所にすると、係官により、加害者が罪をどのように悔い反省し、どんな生活をしているかを調査し、それを半年に一回被害者の関係者に報告する。これを4回行い、2年後に被害者が実刑にすべきと判断すると、加害者は即、刑務所に収監され実刑を受ける。つまり被害者の立場に寄り添い、被害者の意志を尊重する制度である。

 この制度、桂が創造した制度で、現実には無い。

 現在、この制度ができて38年間が過ぎているという設定。主人公は制度ができて8年後に大学を卒業して、この係官になる。主に係官になってチャランというあだ名の先輩について研修をしたときに遭遇した事件を扱った経験を物語にしている。

 執行猶予がついた事件だから、過失事故か、介護に疲れ果て、被介護者を殺すといった事情がある案件が殆ど。過失とは言っても被害者関係者からみれば、家族の一人の命が奪われてしまったわけで、加害者への恨みは強く、仇討ちをしたいくらいの想いがあり、それは時を経ても消えることはない。

 主人公の係官は、加害者と面談すると、加害者の悔恨と反省、被害者への謝罪と祈り日々を聞き涙を流す。そして、被害者の関係者への報告も加害者の真摯な謝罪の日々を伝えたいと思う。それが、被害者関係者にも必ずや伝わると考えるから。しかし、先輩のチャランの報告はいつも2,3行で素気がない。しかし、被害者の関係者は加害者に対してどう思うかはそれぞれに異なるし、加害者の反省状態により被害者関係者の恨みが変わることは殆ど無い。だから、係官がこうあるべきだと考えて被害者関係者に報告をしてはいけないとチャランは言う。

 面白いのは、被害者関係者が執念を持って加害者を恨み二年間たち、実刑の判断を下すと、その瞬間から加害者についての報告は無くなり、死んだ被害者が復活するわけでもなく空虚だけが襲ってきて、生きてゆく力を失ってしまうところ。生きがいが消滅するからである。

 オンリーワンで社会で成功して生きていければ素晴らしいのだが、そんな人はごくごく少数。ほとんどの人たちがオンリーワンの夢が破れ、変化の乏しい同じ日々を死ぬまで繰り返す。そんな長い人生、鼻息荒く、前のめりで生きるより、後ろ向きで肩の力を抜いてゆっくり生きようよと桂はこの物語で言っているように思う。

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