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津原泰水    「蘆屋家の崩壊」(集英社文庫)

 7編からなる怪奇小説集。

 豆腐好きが一致して友達になった主人公猿渡と猿渡が伯爵と呼ぶ男。

 常に猿渡が、怪奇世界に踏み込み、もうこれで自分も終わりだと観念するとき、伯爵がそっと横にたたずんでいてくれたり、猿渡がだめになりそうな直前で、日常世界に戻してくれたり。話の中身は怪奇なのだが、2人がコンビのあり様が絶妙で面白く、どの作品も暗さは殆ど感じられない。

 私たちは例えばうつ病のような精神的病を、患っている人がどう感じているかの実際は知らないのに、ああだろう、こうだろうとかってに推察する。みんな同じわけではないと思うが、多分、津原は自分の経験だと思うが、なるほどとわかりやすく言葉で表現している。

 「おれの脳内は青黒く染まる。意識が暗転し、心臓は高鳴り、手足は震え、顔にはびっしりと汗の粒が泛ぶ。頭が、釈迦に輪っかでもはめられたように痛む。息苦しいので、犬のようにハアハアと口で呼吸せねばならない。
 原因が精神的なものであるとはいえ、つまり症状は立派な肉体的苦痛であって、娯楽で気をまぎらわせばどうなるとか他人に悩みをうちあけてどうのという次元の話ではない。涙がでてとまらぬときもあるが、なんらべつだん悲しいわけではない。悔しさの念は残っているが、とても悔し涙の量ではない。たんに怖いのだ。恐ろしいのだ。恐怖の涙だ。」

 津原のこの怪奇小説集が秀でているのは、津原が、経験を通過しながら、その視点で湧き出てくる想念を、的確な言葉で作品に仕上げているからだと思う。

 それにしても、何とも恐ろしい体験である。

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| 古本読書日記 | 16:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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