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伊集院静    「なぎさホテル」(小学館文庫)

 伊集院が、最初の結婚が破綻して、養育費や慰謝料をたくさん取られ、無一文状態になり、もうこのままでは生きていけない、故郷へ帰ろうとして、東京駅から電車に乗る。故郷につく前に、海の見えるところを歩きたいと思い、葉山で電車をおりバスに乗ってたどり着いたのが、クラシックホテルとして有名だった小さなホテル「逗子なぎさホテル」。

 伊集院は、このホテルの支配人の暖かい人のおかげで、宿代も催促されず、何と7年間をこのホテルで過ごす。

 このホテルに逗留を始めて、支配人をはじめ、個性的な従業員に支えられ、鎌倉などの飲み屋、漁師、古書店店主など、徐々に交際範囲を拡げ、伊集院の人柄もあるだろうが、彼らに愛され、小説家になっていき、美人薄明なる女優夏目雅子と結婚し、「なぎさホテル」を去るまでを物語にして描く。

 たぶん、伊集院はここでのモラトリウム期間の僥倖が無ければ、もっと厳しい暮らしと社会にもまれて作家にはなれなかったと思う。非常に幸運に恵まれた作家だ。

 伊集院はこの作品で、小説家としての彼のありようを書いている。

 「今でもそうなのだが、私は自分の小説を一から新生していくことはできない。作品の基軸に、どこかに真実から生じているものがなくては書きすすめることはできないし、そのことは己の創作能力の欠如を証明していることかもしれないが、私には作家の頭の中で考えることより、世間で日々おこっていることの方が遥かに人間的だと思えるからだろう。」

 さりとて伊集院が、決まりきった場所にとどまり、会社生活をしているような状態では、いい作品はできない。伊集院の魅力は、常に競輪場を徘徊し、麻雀にあけくれ、とても一般人にはできない、放浪の旅を続け、そこから受ける旅の哀歓を軸に、小説を紡ぐところにある。そこで出会う真実を深堀し、更に拡大して、これからも小説を創作していってほしい。

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| 古本読書日記 | 13:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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