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辻原登    「ジャスミン」(文春文庫)

 世界文学が最も頂点に達した19世紀。フロベール、スタンダール、トルストイなどが描いた長編人間文学。その香りを受け継ぎ、大きく重厚な小説に挑戦しているのが辻原登である。

 この作品も大きく重厚な作品である。

 天安門事件直後、主人公の脇彬彦は神戸から「新鑑真号」で上海に渡る。中国から謎の手紙によって、中国に渡り、消息不明になった父親脇種彦の消息を追及するために。

 そこで脇彬彦は、中国の新進女優杏杏と恋に落ちる。ところがこの杏杏には天安門事件の首謀者として指名手配されている恋人がいた。

 この恋人の逃亡を手助けしたことが当局に発見され、彬彦は国外追放、杏杏は当局に捕まり、青海省の田舎に労改に送られる。労改というのは、刑務所には入らないが、中国の田舎の村に思想改革として送られ、辛い労働を強いられることをいう。

 一方、恋人は、蛇頭や反政府組織のネットワークに助けられパリへと亡命する。

 彬彦が日本の神戸に帰って5年後、何と女優杏杏が、在大阪の中国副領事の婦人となって彬彦の前に現れる。そして、副領事が東京へ出張しているとき、2人は示し合わせて淡路島に人形浄瑠璃をみにゆく。その夜、ホテルで深い愛を確かめ合った直後に阪神淡路大震災に遭遇する。

 天安門、追放、労改、大震災、うごめくスパイの恐怖の影、大きな人生の搖動に常に見舞われながら、彬彦と杏杏の一貫して2人の愛を貫こうとする姿が全編にあふれる。

 物語の最後、再度中国に渡った彬彦が、中国北西部の田舎黄土高原の穴居に暮らす、父種彦にであう。
 父種彦は中国語で言う。
「日本など知らない。私はここで生まれ、ずっとどこへも行かず、ここで今まで暮らしてきた。」と。

 それでも、しつこく彬彦が「おとうさん」と迫ると種彦が
 「とっとと失せろ」と日本語で叫ぶ。
このところは感動的である。

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| 古本読書日記 | 15:51 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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