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奥野健男    「北杜夫の文学世界」(中公文庫)

 小説のなかの小説といえば大河小説である。ある家族や、集団、さてはその民族、国家の壮大な運命を辿った小説、あるいは幼年期からの自己形成小説、さらにはそれらを縦糸にして、その時代の社会の人々を、状況を、風俗を横糸にした、交響楽的本格ロマン小説である。そんな大河小説への憧れは私達は強い。

 小説のなかには一部にそういう小説が無きにしも非ずだが、思想や特定の歴史観が全面にでて、リアルさが欠如していることが多い。女性作家ではたびたびそんな小説があるが、特定な職業、価値観に対象がせばめられていて、小説の幹の太さが欠ける。

 世の中は細分化され、個人主義が蔓延し、もう大河小説は生まれないかもしれない。

 その大河小説の大傑作のひとつが北杜夫の「楡家の人々」である。

 山形の百姓の出の楡基一郎が、楡病院経営で成功し、成り上がり最後は代議士にまでなる。しかし、息子の徹吉は詩作や短歌に没頭する、気弱な知識人階級。それのため、財産を費消し没落してゆく。そこに大戦と敗戦。あわれな徹吉。桃子と藍子の悲しい運命。明治、大正、昭和の敗戦までの壮大な人間ドラマが展開する。

 「楡家の人々」を執筆中、北は奥野と、三島由紀夫としばしば飲む。三島が懸命に「楡家の人々」創作にアドバイスをしたり、支援をした。実は三島は、北の「楡家の人々」に触発されていて、傑作「豊穣の海」の構想を同時に作り上げていた。

 私は北杜夫が大好きである。初期の傑作「幽霊」でもそうだが、幼年期、少年期の純粋な気持ちを常に北は大事にしてその視野から作品を創る。大人であるべき世界と純真な視野とのギャップから独特のユーモアが生まれ「ドクトルマンボウ」シリーズができあがる。

 書店でまだたくさんの北の作品が書棚にあることがうれしい。

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| 古本読書日記 | 16:43 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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