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白石一文     「神秘」(上)(講談社文庫)

 大手出版社取締役の主人公菊池。体の変調に気付き、病院で精密検査をすると末期の膵臓ガンで余命一年の宣告を受ける。

 彼は社長に事実を告げ、取締役のまま、一年間の休職をとること認めてもらう。そして、関係のあった人々との関係をすべて断つ。すでに、妻とは5年前に離婚。2人の娘も、留学、あるいは嫁いでいて2人とも海外暮らしをしている。愛人との関係もたつ。

 そして、神戸のタワーマンションに移り住む。昔、足首をねん挫したとき、ある神戸在住の女性の祈念により、そのねん挫がすーっと治ってしまった経験があり、奇跡の治療をしてもらえればと思って神戸に移住したのである。

 菊池は今までの生活と様変わりになる。人や時間や電話に追いまくられることがすべて無くなる。街を歩いても、すべてが見知らぬ人ばかり。孤独だけど、実に自由で解放的である。

 そこで、死ぬこと、生きることを深く考えるようになる。人間は社会的動物だから、人間関係を断つということは、悲しく切ないことように思われるが、現実の菊池は今までで、一番幸せで大切な時を過ごしているように感じる。
 この小説上巻は、その菊池に以前愛人だった女性が訪ねてきて、あれこれ菊池を支えようとするところで終わる。

 それにしても変わらず白石の作品は、深く、質高く、主人公が考え込む場面が多い。だから物語の展開が遅い。ジョブスや志賀直哉を引き合いにだして、その生きざまを赤裸々にしながら、主人公なのか白石の想いか判然としないが、余命1年宣告された後、どういう生き方が最も人間的なのかを作品で吐露する。

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| 古本読書日記 | 19:17 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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