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桜庭一樹   「このたびはとんだことで」(文春文庫)

 牡丹は、父親の期待に沿って懸命に勉強し、一流大学をでて、父親の紹介の会社に就職し懸命に働いた。働きすぎて27歳でプッツン。会社をやめ、その後は派遣会社に登録してあちらこちらの会社で仕事をしている。半年前には実家からでて、小さなアパートで独り暮らしを始めた。

 その牡丹の隣に、60歳くらいのおじさんが住んでいる。おじさんは、実はアパートの大家。働かないでも、家賃収入で暮らしていける気楽な身分。ちゃんと持ち家をかまえているのに、そこからでてアパートで気楽な一人暮らし。部屋には文庫本だけがたくさんある。それを日がな一日読んで暮らしている。気楽で自由で孤独な暮らしをしたかったからだ。
 その大家のアパートにはしょっちゅう息子が訪ねてくる。「困っていることはないか。体は大丈夫か。一人で寂しくないか。家族は皆心配している」と。
 一人になり、気まま暮らしをしているようでちゃんと心配して気にかけてくれている家族が大家にはいる。

 牡丹は30歳も半ばすぎて。家にいるのはわずらわしくて、大家と同じように実家を離れた。たまに家から電話がくる。それはすべて見合いの話。気が付くと、自分には心配してくれ、気にかけてくれる人が周囲にいないのじゃないか。酔っぱらって帰ってきた部屋で膝をかかえながら想いに沈む。

 そんな牡丹。見合いをした相手で、結婚をしたいとは思わなかったが、話がはずんだので、その後飲み友達になった林太郎という男性がいる。

 その林太郎が、安居酒屋で言う。
 「セネガルに赴任が決まった。一緒に行かないか」と。しかし、その前につく言葉がどうやっても林太郎からでてこない。
 「好きだよ。だから」が。それどころか「恋愛感情は全く無いが、君とは気楽に話ができるし」なんてことを言う。

 こんな孤独で寂しい生活がこれからもずっと繰り返される。でも、30歳も半ば。好きでもないのに、「いいよ。セネガルへ一緒に行こう」なんていうエネルギーはわいてこない。

 燃える恋は青春時代の特権?牡丹と林太郎が居酒屋をでて、「さよなら」と言い、別の道を歩いてゆくところが、なんとなく切ない。

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