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金井美恵子  「道化師の恋」(河出文庫)

 金井さんは、きっと映像がまず頭に浮かんで、それを文章にしたいのじゃないかと思う。

 「麻の買い物袋からサイフを取り出してコーヒーの代金を払おうとすると、それを善彦が手で制したものだから、桜子の手の甲に指が触れ、桜子がピクっとして手を引っ込めたので
サイフが床に落ち、それを拾おうとしてスツールに腰かけたまま上体をかがめて腕を伸ばした善彦の頭が、隣のスツールに腰かけている桜子の膝にぶつかり、それはピクっとする感覚というより反射的に脚が上にもちあがる反応を示したので、善彦のあごのあたりにぶつかり、ごめん、と言いかけて不安定な状態の姿勢がグラっと揺れ、善彦の唇がスカートの裾と膝をこすり、唇は木綿の布地の堅い感触を膝の皿より少し上の肌の感触を感じ、膝は柔らかく湿った唇の感触を感じ取り、桜子は善彦の傾いだ身体を支えるために腕を差し伸べてシャツの布地越しに脇腹に触れた。」

 恋が生まれそうな場面緊張を表現している。映像でやれば10秒もかからないことを、金井流表現を使うとこんなに長くなる。緊張感は伝わり、映像も追っかけては来るが、とにかく長い。しかも映像の連続でカットがくるまで一つの文で表現し、句点が無い。

 これを素晴らしい、芸術的と評する人もいるだろうが、私は凝りすぎと思ってしまう。

 この作品で金井さんが誰かの以下の内容を引き合いにだしている。
 「小説は石炭と似ている。19世紀から20世紀前半、人々の最大の趣味、娯楽として小説は読まれた。石炭も大切なエネルギーとして利用された。しかし、どちらも今や廃れてしまった。」

 金井さんの作品を読むと、この言葉がリアルに迫ってくる。

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| 古本読書日記 | 06:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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