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奥田英朗   「沈黙の町で」(朝日文庫)

 この作品だけでは無いけど、学生時代で中学生時代は本当に難しい時代だと感じる。

 まず、小学校までは、だいたい先生の力は強く、影響力が絶大である。そして、子供たちも先生を信じる気持ちが強い。ところが、中学生になると、だんだん生徒にそれぞれの個性が発露してきて、一部には信頼の厚い先生もいるが、多くが子供と対立するか、無視されるようになる。つまり、子供たちだけの世界が創られるようになる。
 しかし、その世界は小学校の延長で、いかにも小さく狭い世界である。そして、出来上がった世界のもとでのクラスの環境、人間関係、仲間間の力関係で、すべてが動き、何か特殊な強い力が作用しない限り、ずっと維持され、変わることなくすべての生徒がその条件下で生活せねばならないことになる。

 更に現在はこの環境にネットが入り込む。
以前は、文句を言うときは、面と向かっていうか、電話か手紙か、とにかく相手と対峙することが必須だったが、今は誹謗中傷をネットで流すことができる。ネットは相手を斟酌することなしに、思う存分書ける。しかも、それが瞬時に相手どころか、多くの人たちに拡散する。起きている事象は小さな世界のことなのに、影響の拡散は大きい。何ともバランスの悪い世界の中に今の中学生はいる。

 この物語、途中でトーンが変わる。後半のキャンプの出来事のところからである。このできごとの描写から、生徒たちが検察や警察に真実を語る場面が織り込まれ、生徒たちの物語に比重が傾く。前半では、生徒は表面に殆どあらわれず、事件に対応する警察、事件被害者両親、加害者と思われる家族、教師の思惑、感情だけが描かれる。その内容はくるくる変わり、こんな状態を奥田さんはどう落とし前をつけるのかと思ったが、トーンを変えてクライマックスに一気に持って行った。ちょっとこの飛躍には無理を感じた。

 それにしても、奥田さんの微細による心理を含めた描写には感服した。苛めはとりあげるには容易いが、物語にするには重い課題だ。しかし一定の成果を奥田さんはこの小説で導きだしている。

 特に、後半の被害者名倉の行動、発言にはぐっときた。宇宙人としか見えない名倉の描写。人は十人十色。他人の想いや行動を理解することは難しいしある時間が必要だと心底感じた。そして、名倉のような子もありだなと思った。苛めが起きるとでてくる有識者のしたり顔のコメントの空しさをこの作品で強烈に感じた。

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| 古本読書日記 | 06:34 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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