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村上春樹  「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(文春文庫)

主人公多崎つくる(名前)には高校時代、無二の親友グループだった4人の友だちがいた。多崎を含めた5人は、バランスもよくとれていて、語り、学び、そして遊んだ。4人は出身の名古屋に高校をでてとどまったが、多崎は駅建築に携わりたくて、東京の一流大学の建築科に進む。

 それでも、仲間の基盤は名古屋にあり、名古屋に帰って、5人グループと集まることがすべてのように生きていた。ところが2年になって帰省したとき、突然もう君とは会わないと宣言され、残り4人に交流を完全拒否される。
 思い当たることも全くないし、その拒否の衝撃は多崎を襲い、多崎は死さえも考える日々を送る。

 それから16年、多崎は初期の目的を達して、建築会社に就職して駅を修理したり、建設する仕事についている。そんな時、恋人の沙羅にいわれ、多崎の根っこで巣食っている、高校時代グループから拒否されたわけを知る旅にでる。

 ここが、私みたいな大衆凡人と住んでいる世界の違う村上との大きな差である。

訪ねたグループの一人で、トヨタのレクサス販売になっている社員がいう。
 「封をきった商品の交換はできない。これでやっていくしかない。・・・・・今更後戻りはできないということだ。」
 何故、そんな昔のことに主人公つくるは拘っているのだと、彼はいいたいのだ。

 会社生活にはもちろん悩み苦しみはある。しかし、それは刹那的なことだ。叱責をうける、失敗をする、落ち込む。しかし嘆いていても、もう後戻りはできない。切り替えて明日がんばるしかない。そんな瞬間、瞬間の積み重ねである。
 大衆人は、高校での仲間の拒否など引きずっている暇はない。辛くても、悲しくても、今の在り様を認め、昔のことなど切り捨て、日々を送らねばならない。

 村上のこの小説のテーマは「後戻り」だ。村上の小説に登場する人間たちは容姿は崩れていないし、頭もそこそこ良いし、知識もあり、音楽も私たちがなじんだことない曲を楽しむ。
 社会へ一たびでれば、そんな優雅で、後戻りをする生活はできない。
登場人物の深い苦しみがこれでもかと描かれるが、そんなことを描ける後戻りの世界にいる村上が羨ましい。

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| 古本読書日記 | 07:43 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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