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白石一文   「快挙」(新潮文庫)

凄い小説だった。これは白石がたどってきた道を描いているのだろうか。それとも全くの創作なのだろうか。一人の主人公である作家が誕生するまでの、助走、苦悩の時代を丹念に描く。

 主人公の俊彦は大学時代に撮った写真が賞をとり、その後写真家を目指すが、まったく鳴かず飛ばず。そんなとき小料理屋のみすみと知り合い同棲。妊娠したため周囲に大反対されながら結婚をする。みすみは高校時代ヤンキーで、卒業と同時に上京。水商売を転々として小料理屋を持つまでに至る。
 俊彦は写真家では見込みが無かったが、写真誌に載せた文章が文芸誌の編集長の目に留まり、小説に挑戦。書き直しを繰り返した挙げ句、最初の小説は編集長に却下されてしまう。しかしその編集長に励まされ、2作目に挑戦。もうすこしで目がでるかもしれないというところで、編集長が異動してしまいボツ。

ショックを受け落ち込むと、今度は、結核を患い7か月間の療養所生活を余儀なくされる。そこから阪神大震災がおこり、みすみの神戸の実家である酒屋が半倒壊。その実家を支援するためにみすみの実家にころがりこむ。

 ここからみすみと俊彦の関係が壊れてゆく。偶然俊彦はみすみの浮気を知る。絶望の淵に追い込まれたそのとき、みすみと2人で行った、須磨寺の三好兵六という俳人の句碑にであう。
この場面が、作品での最高の場面。
 「夫婦とは 何とよいもの 向かい風」
俊彦とみすみが俳句の意味を語り合う。その意味が、苦難の時代に常に底辺に横たわる。そして次々襲ってくる苦難の都度句の解釈が変わり重みを増す。この解釈の変遷してゆく過程の描写が素晴らしい。

 そして最後の苦難、みすみが乳がんにかかり手術をするが、それが転移した。そこでみすみが死んでしまうのではあまりにも切ないと読んでゆくと、最後に誤診とわかる。
 苦難、苦難。しかし、その苦難を乗り越えたとき、三好兵六の句はずしりと俊彦、みすみ夫婦だけでなく、読者に響く。もう一度句をかみしめる。
 「夫婦とは 何とよいもの 向かい風」

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| 古本読書日記 | 06:40 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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