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井上荒野  「キャベツ炒めに捧ぐ」(ハルキ文庫)

江子は今年60歳を過ぎる。50歳のときにビルの一角を借りて惣菜屋を始める。麻津子も同じくらいの年で、開店当初から一緒に働いている。郁子は募集で最近入ってきた。やっぱし60歳くらい。
 60歳になると、将来に対する希望や欲求はなくなる。毎日を同じように繰り返す。しかし腹だけは必ず減る。だから、ささやかな欲求は、食べ物の中味やうまさの追求にある。
 欲求も何もかもが消え、60歳に残るのは記憶、思い出だけ。それも、楽しい思い出ではなく、辛く悲しいことばかり。たまに楽しかった思い出も浮かぶが、必ずほろ苦さに直結してしまう。
 江子は総菜屋を始めた時に一緒に働いていた店員に旦那を寝取られ離婚する。麻津子も離婚を経験して独り身。郁子は2歳だった息子を肺炎でなくし、更に旦那も一昨年病死してしまう。それぞれが、60歳の人生の重みを背負っている。
 総菜屋が11年間も続いている。それはめずらしいこと。単なる家庭惣菜と同じ、あるいは奇をてらって、洋風の洒落たものばかりなら、客はつかない。それが11年続いているということは、惣菜に彼女たちそれぞれのほろ苦い人生や思い出が隠し味で詰め込まれているに違いないからだ。

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| 古本読書日記 | 16:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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