山田太一 「冬の蜃気楼」(新潮文庫)
社会からリタイアする年齢になってから、小学校や中学校の同級会の案内が来るようになった。遙か遠い過去のことだから、殆ど当時なにをしていたか記憶が無い。しかし、瞬間映像のように浮かび上がる光景が幾つか残っていて、ふっと浮かんでくることがある。
甘酸っぱいとよく言うが、これまでの人生がそれほど大した人生でなかったせいか、甘い部分は全く無く、こみあげるのは酸っぱいところだけ。何でこんなことだけがこみあげてくるのかと時々いやになる。
この物語では、主人公の若き助監督が、まだ助監督を始めたころ、大根役者に好きだった女優を寝取られたと思いゴルフクラブで顔を殴りつけた。大根役者を殺してしまったと思ったら、それはマネキンだったというところがでてくる。この助監督はそれから30数年間、何かあると自分は人を殺そうとしたと、その時のことがいつもこみあげてくる。
30数年たって、その時の女優だった女性に会う。そして、疼いて来る場面のことを話す。女優はそこに同席していたはずなのに、そんなことは無かったという。当時のことを瞬間でなく、時間と面を広げて語り合う。確実に重なりあうところもあるが、かなりずれもある。本当にクラブで大根役者を殴り倒そうとしたのだろうか。記憶は曖昧になる。しかし、それが曖昧であっても、こみあげてくる疼きは決してなくならない。
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甘酸っぱいとよく言うが、これまでの人生がそれほど大した人生でなかったせいか、甘い部分は全く無く、こみあげるのは酸っぱいところだけ。何でこんなことだけがこみあげてくるのかと時々いやになる。
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| 古本読書日記 | 18:39 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑