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森絵都  「異国のおじさんを伴う」(文春文庫)

森絵都  「異国のおじさんを伴う」(文春文庫)
人生が行き詰まり、最悪な状態に思えるようなときは、何が起きても不吉なことにしか思えない。その間だって、いいことだと思えるようなことが起きているにもかかわらず、決して眼は止まらず、ひたすら悪いほうへ悪いほうへと気持ちが沈んでゆく。
 訪ねたオーストリー リンツで主人公はアントニオ猪木より大きいひげ人形をプレゼントされ、それを日本に送る手立てもなく、一緒に飛行機に乗せてゆくことになる。飛行機会社に預けようとすると断られ、仕方なく機内に持ち込み隣の席に座らせる。飛行機は2時間半遅れミュンヘンに飛び立つ。そのころからいやな予感が主人公にまとわりつく。そして案の定ミュンヘンでは預けたスーツケースがでてこない。肝心なスーツケースは無く、粗大ごみのようなひげ人形だけが手の中に残される。待こと3時間。その間、自分の作家としての中途半端さや行き詰まりだけが胸にわきあがってくる。
 結局、係員も探してくれたけどスーツケースはでてこない。もうこれ以上の災難は無いとおもったとき主人公はふっきれた。そして、ミュンヘンの飛行場の外へでた。そこにブルーグレイの空が広がっていた。これに続く最後の4行が実に鮮やか。
 「人口塗料とは違う粒子の粗い青。
  今ここでしか見られない雲。
  今ここでしか吹かない風。
  私は大きく息を吸い、ミュンヘン、と唄うようにつぶやいた。」

| 古本読書日記 | 06:27 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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