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吉村昭  「月夜の記憶」(講談社文庫)

吉村昭  「月夜の記憶」(講談社文庫)
誰だか作家名を忘れたが、それまで私小説的なものや現在起きている事象を丹念に拾って佳品を創っていた吉村が突然「戦艦武蔵」で売れ始めると、以前の作風を忘れたかのように歴史物、戦記物を書き出したのをみて、残念だと一言言った。時々私もその通りと頷く。
 このエッセイ集には吉村の人生観と、物を見る揺るがぬ価値観があますところなく描かれている。本当に良いエッセイ集である。
 終戦後、吉村は驚く。「俺は帝国主義、軍国主義に反対だった。それを言ったがために厳しい弾圧を受けた」「庶民は罪深い戦争を呪い続けたけれど、戦争に巻き込まれ多くの被害を被った。」「特攻隊は全くの犬死だった。彼らはただ軍部の指導者に操られただけであった。」
 これほど多くの人が戦争に反対したり呪っていたり、特攻隊を侮蔑していたとは知らなかったと。戦争中やそんな声はちっとも聞いたことはなかった。
 人間とは何と都合よく右でも左でも恥ずかしくもなく豹変するものだろう。
どうしても胸にはいらない論がある。憲法9条があるから戦争は防ぐことができた。アメリカの抑止力があったから、中国やソ連からの戦争を防いだ。平和国家としての日本の歩みが戦争を防いだ。本当にそうかなと疑う。
 あの豹変を見よ。それはまた事態が変われば、昨日を忘れて人々は豹変するのである。
だから、戦争は悲惨であり、絶対戦争はしてはいけない、理屈でなく、ここだけは人間は豹変してはならない。そのために吉村は戦争ものをこつこつと創る。

| 古本読書日記 | 06:20 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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