fc2ブログ

2024年01月 | ARCHIVE-SELECT | 2024年03月

| PAGE-SELECT |

≫ EDIT

倉知淳   「過ぎ行く風はみどり色」(東京創元社)

 長編ミステリー。単行本1ページ2段組み、細かい字で327ページもある。

冒頭、ややこしいが、登場人物を紹介する。これがないと物語がわからなくなるので。
不動産業と投資で大きなお金を稼いだ方城兵馬。事業を廃業して、世田谷の邸宅に離れを造り生活している。長男の直嗣は40歳を超えて独身。画商をしている。長女の多喜枝は勝行を養子でもらう。夫の勝行は会社員。この子供に長男の成一がいて、兵馬は成一に事業を継がしたかったが、成一は拒否して光学機械メーカーに勤める。さらに多喜枝夫妻には、成一の下に娘美亜が高校生でいる。

 兵馬にはもう一人次女の娘がいたが、交通事故にあい、夫とともに亡くなる。この夫妻に娘左枝子がいる。

 離れに住む、兵馬に霊媒師穴山慈雲斎が取り入り、家に悪霊がとりついているのでこの悪霊を追い払わねばいけない、ついては、自分が取り払ってあげる、更に兵馬の亡くなった妻を降霊させることもしてあげると言う。

 一方、霊媒師はインチキということで、勝行は大学の心理学助手の神代と大内山を招き、兵馬に反対する。

 こんな中で兵馬が何者かに殺される。更に、穴山が、兵馬の依頼により執り行われた降霊会の最中にナイフで刺され殺される。
 この2つの殺人事件の真相解明に、成一の大学先輩、当時何で生計を立てているか不明な猫丸が挑む。

 物語の鍵になるのが、両親を交通事故で亡くし、自らも体が不自由になった左枝子。このため外出はせず、家に閉じこもって暮らしている。

 この左枝子の行動や振る舞いを作者倉知がふんだんに叙述トリックを使い描写する。手足は不自由だが、手すりを使って階段を上り下りをするし、庭にでてベンチに腰掛け過ごすことを楽しむ場面もよく登場する。

 この左枝子が実は全盲であることを、猫丸が指摘。そのことが事件の解明につながる。
左枝子の普段の生活の描写からはとても全盲とは思えないように倉知は描くが、懸命に全盲であることを避けた表現を使って、読者を惑わす。

 叙述トリックに関心のある人にはお勧めの作品である。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

二階堂黎人   「名探偵水乃サトルの大冒険」(講談社文庫)

 すこしおどろおどろしいミステリー5編が収録されている。

第2次世界大戦直前、東京は防衛機能が弱いとして、長野県の松代町に大規模な地下壕を創りその地下壕に首都機能を移転する計画ができあがり、国会の承認を得て工事が開始された。天皇が暮らしている皇居の移転も計画され住居はもちろんビリヤード場建設も予定されていた。しかし、地盤が弱く地下壕の建設は途中で断念。本土決戦のために武器貯蔵庫にすることになった。それが高さ700M弱の皆神山。

 皆神山は日本のピラミッドと言われている。しかし、完成することなく途中で建設が止まる。だから、エジプトなど世界に多くあるピラミッドは頂上が尖り三角錐になっているが、皆神山は台形のようになっている。

 これは確認していないが、この本によると台形の頂上は湖になっているとのこと。軍はこの湖に武器を投げ込み貯蔵したそうだ。

 物語では、夜中この山中で宇宙人を見たという目撃情報が多数でる。武器収集のために、ある宗教団体がダイバーを使い収集していることが明かされる、確かにダイバーの姿は、人間が想像している宇宙人の姿によく似ている。

 物語では、コテージで3人が密室状況で殺害される。もちろん犯人は殺害後逃げ消えている。しかし、殺害部屋は完全密室状態。唯一天窓が数メートルの高さにあり、そこから逃げたのではということ推理されるが、そんな所からヒモをひっかけたらし、それをたぐって天窓までゆきさらにそんな高いところから飛び降りるなど不可能という意見が捜査陣から多数でる。

 ここで名探偵主人公の水乃サトルが登場。
昨夜は地滑りが起こり、コテージは回転してひっくり返った状態になり、天窓が足元に存在し、そこから逃げたと説明する。

 捜査陣がしかしコテージは、天井はてっぺんにある状態で止まっている。

すると、水乃がいう。
「昨夜は2回地滑りがあった。最初の地滑りで、コテージはひっくり返り。2回目の地滑りでさらにもう一回回転して、元にもどったんだ。」と。

 これには私もまいった。しばらく笑いがとまらなかった。
収録されている「空より来たる怪物」より。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 05:46 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

貫井徳郎    「悪の芽」(角川文庫)

 他の人に確かめたことがないから、正しいかどうかわからないが、長い間生きてきて、ふいと思い浮かぶことは、幸せの思い出だろうか、それとも失敗した後悔の思い出だろうか。結構私は、その度ごとに人生でうずき突き上げてくるのは、あれはまずかったなあという後悔の記憶ばかり。

 この作品、斉木という男が、日本最大のコンベンションセンターで開催されたアニメコンベンションの会場で、入場者に無差別に火炎瓶を投げつけ、8人を殺害。そしてその後、自分で火をかぶり自殺する。

 この大量殺害事件の犯人斉木均の名前に接した、主人公の安達。大手銀行の出世街道まっしぐらのエリートサラリーマン。彼は、その名前をみて、犯人が自分の小学校の同級生だったことを思い出す。それと同時に、いつも心にしまってある人生最悪の記憶が蘇ってくる。

 斉木、名前は均でひとしというが、ちょっといやなことを言われたので、均はきんとも読むから、斉木均は「細菌」だね、と言ってしまう。これを、同級生の真壁が斉木均は「バイ菌」だとみんなにいいふらす。

 結果、斉木の配る給食は誰も食べなくなるし、ドッチボールで斉木にあたったボールは誰も拾わなくなり、斉木自身が拾いにゆくようになる。斉木は登校拒否児になり、それは中学卒業まで続く。

 安達は、斉木が小学校をでてからどんな人生を歩んだのかは知らない。しかし、斉木の無差別殺人の原因は自分が作ったのではと悩みだす。そして、それが抑圧になり、パニック障害になる。で、これを克服するには、斉木の今までの人生を調べ、自分の軽率な一言が斉木の殺害者となった要因ではないかと考えるようになる。

 この物語は、安達の懊悩と、その克服の物語かと思った。確かにそれは物語を貫いているが、それは平凡すぎると思っていたところ、後半からはいろんな人たちが登場。そしてその人たちの行動が描かれ、そんな単純な話ではなくなった。

 斉木は就職できず、契約社員でファミレスで働く。そこでの同僚。さらに当時キャバクラに通い。そこのキャバクラ嬢、殺害された人たちの家族、そして斉木の家族など。斉木の人生がめまぐるしく描かれる。

 斉木がキャバ嬢に言ったことが印象に残る。
「人間はまだ進化が十分じゃないんだ。社会的弱者に救いの手をって話になると、自己努力が足りないから、それは自己責任と言い出す人がいる。強い者だけが生き残り、弱い者が死ぬのは仕方ないって考えるのは動物の理屈だ。人間は動物であることをやめて、社会生活を始めたのに。そう、人間はまだ進化の途中。そしてその進化を遂げるには、あと数十万年が必要なんだ。」

 ここを読み、私は深いため息をつく。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 05:58 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

富樫倫太郎   「スカーフェイス1」(講談社文庫)

 富樫が得意とする警察小説。
 それにしても、富樫の物語の設定は実に独創的で面白い

 この物語、VEGAと言われる連続殺人犯の捜査から始まる。このVEGAを捜査一課の元岡巡査長と物語の主人公淵神律子巡査長が追い詰める。屋上に逃れたVEGAを、律子が拳銃で撃とうとするが、その瞬間手が震えて、照準が定まらない、結果銃弾は大きくそれ、VEGAは逃げ去ってしまう。

 この手が震えたのは、律子がアルコール依存症で、銃を撃つ瞬間アルコールが切れたために起きたことが明らかにされる。

 またVEGAが、殺人をして、自転車で逃走するのを、律子と鳥谷巡査長が車で追いかける。運転は律子。興奮して、大幅スピード違反。VEGAは自転車だから、一方通行、小路を逃げる。そんな道を法規無視で追跡。同乗していた鳥谷が車の外へ放り出され、VEGAが鳥谷に覆いかぶさり、鳥谷を刃物で刺し逃走。鳥谷は重傷をおい、病院に入院する。

 その結果律子は、捜査一課第3係に異動させられる。第3係というのは、捜査記録の文書保管係。全員が60歳定年間際。係長は日がな一日詰将棋に没頭。その部下は、株投資を一日中している。平均年齢56.2歳の窓際集団。

 異動させられたのは、律子の他にもう一人、捜査一課で律子とコンビを組んでいた藤平警部。富樫が好きでしばしば登場させる、東大卒のキャリア。多分、律子と一緒に仕事をしたいと藤平が訴えたため、実現した異動だろう。

 この部署にあだ名が「広辞苑」という円(まどか)という巡査長がいる。
この円が、面白い人間。捜査資料のほとんどを読み込み、その中身が頭の中に入っているという恐ろしい記憶力を持つ天才。

 書類保管庫には、事件が解決した捜査資料も保管されているが、未解決で迷宮入りした資料も保管されている。

 VEGAに関する捜査資料膨大なのだが、これを読み込み、そこから事件の真相、犯人像をつめてゆく。この円の記憶力をバックにして、仕事に無関心な課長を無視して、藤平と律子がVEGAを追う。

 殺害されたのは、赤石富美子、下平幸司、北芝良恵、作間慎太郎。まったくこれらの人たちの繋がりがない。唯一共通点があるとすれば、全員が月の17日に殺害されていること。

 膨大な資料から円が、あるひき逃げ事件を見つける、被害者は天野正彦。この天野は4月17日生まれ。そして天野は病院に運ばれ左腕を切断するという手術を受ける。実は天野は有名なピアニストで、左腕の切断はピアニストの死を意味する。天野はその後病院の屋上から身を投げ自殺する。

 この天野を手術で執刀したのは、研修医を終え、医者になったばかりの西園真琴。ここから急に物語が動きだし、異様な緊迫感に包まれる。しかも、この手術に参加したのが、律子と同居している、大切な友人看護師の景子。景子も律子同様暗い過去と心の病気を抱えている。

 無関係だと思っていた、4人の被害者が、天野を中心に、景子、真琴を核としてつながってくる。

 ストーリーの緊迫感の盛り上げ方が、卓越している。
富樫倫太郎、恥ずかしながら全然知らなかった。遅ればせながら、彼の作品を読まねばならないと痛切に感じた。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

佐川芳枝    「寿司屋のかみさんおいしい話」(講談社文庫)

著者は東中野にある名登利寿司の女将さん。自らも今は手巻き寿司を作っている。

寿司といえば、大学時代、2年間回転ずしでアルバイトをしたことを思い出す。回転ずしは大阪が発祥の地で今もあるのか知らないが「元禄寿司」というのが店の名前だった。「元禄寿司」は大阪関西で回転すしチェーンをしていたが、私の学生時代に大阪以外で私の大学の街に進出した。このアルバイトの役得は、閉店時に残った寿司を持ち帰って、アパートで食べられることだった。
寿司は大好物で最初はうれしかったが、1週間もすると、寿司を見るのもいやになった。

今と違い、寿司を回転レーンの中で握っていたのは、本物の寿司職人だった。

今は寿司を握っている人は客の前には姿をみせない。多分ロボットか専用機械が握っているのだろうと思う。

それから、都会ではどうか知らないが、寿司屋を含め出前をする店が無くなった。私の家の3軒隣りに寿司屋があって、よく出前をしてもらっていて重宝したのだが、女将さんが詐欺にひっかかり、大きなお金を失い、それに合わせて店を畳んだ。家で寿司を食いたいときには、店まで行き、折詰をしてもらい、持ち帰りしかできなくなった。

この作品にも書かれているが、昔出前詐欺が流行ったときがあった。
出前が寿司を届けて帰った後、白衣姿の男が登場して、寿司代金を回収するのである。

それから、寿司屋がやめてほしいと思っているお客のマナー。中年以上に多いのだが、食事のあと、水をもらい薬を飲むこと。何か寿司に毒でもはいっているような気になるから。

寿司屋は、寿司の値段を掲示している店もあるが、中高級店以上になると時価であり価格は表示していない。
支払いを気にしながら食べるのが不安で、表示してほしいという声もあるが、表示はやめてくれという客も結構多い。
寿司屋は接待で使うことが多い。価格が表示されていると、接待金額が相手にばれるからという理由だそうだ。

まな板というから、寿司屋のまな板は木製だったのだが、包丁で傷がつき、そこにばい菌が入るということで、気が付かなかったが、今はまな板はベークライト製に変わった。

それから、以前は寿司と寿司の仕切りは、熊笹、これを職人が動物の形や花の形に切り使ったものだが、今は客が熊笹は不衛生ということでビニール製のバランに変わった。

寿司屋も高級店と回転ずしの2極化になり、それとともに寿司屋の風景も大きく変わったように感じる。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 05:51 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

富樫倫太郎  「警視庁 SM班1」(角川文庫)

 この作品も、ブックオフによる私に対する推薦本。この推薦の中に、「女教師」という官能小説が入っていたため、タイトルのSMという文字をみて、やってしまったイヤな予感。

 しかし、タイトルに加えて小さな文字でSMはシークレット・ミッションと書かれていて安心。

 この作品の前に、富樫倫太郎作品「生活安全課0係」を読んでいた。その作品と、この作品物語の構成が似ている。警察庁、警視庁で使えない人間を集めて新たな0係という係を作られる。そのメンバーの中に小早川冬彦という東大卒のキャリアがいて、彼の天才的分析力で事件が解決してゆくが、この作品も使えない人間が集められて、捜査1課にSM班が新設される。そして、この中に佐藤というやはり東大卒のキャリア捜査官がいて、彼の分析により物語が進行する同じ構造になっている。

 公園で職務質問を受けた男のリュックから切り落とした女性の耳と薬指、それにその女性の写真がでてくる。

 現行犯で公園の男高橋を逮捕するが、どう尋問しても、犯行の内容が把握できない。どうも高橋は中身を知らずに、ただリュックを運んだだけではないかということがわかってくる。では、実際の実行犯はだれか、そしてだれに切断した耳、薬指を届けるのか、事件の全体はどうなっているかを捜査せねばならない。

 前に読んだ「0係」では、小早川の分析推理により刑事たちが動き事件が未然に防げたり、解決してゆくが、この作品も佐藤の分析により、事件の全容、主犯が明らかにされてゆく仕立てになっている。
 この物語の特徴は、佐藤が徹底的に多くに設置されている監視カメラを分析、それにより捜査が動く。

 さらにこの物語は変わっていて、犯人と事件の構造は比較的早い段階で読者に提示される。そして、犯人の行動とそれを追い詰めていくSM班の行動が平行して描かれ、逃げる犯人と追い詰めるSM班の緊張が高まってゆく。こういうたてつけはたまにみられるが、この作品はその描写が見事でレベルの高い作品になっている。

 ただ、この物語を動かす天才佐藤と、「0班」の天才小早川とでは、圧倒的に小早川が魅力的。それは佐藤にはその個性を引き出す相棒がいないから。

 そして、ひたすら監視カメラの分析をして、佐藤が決して現場捜査をしない。そこが臨場感が今一歩に感じてしまう。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

畠山健二   「本所おけら長屋 二十」(PHP文芸文庫)

 本シリーズ、一巻、二巻を読んでいる。それでいきなりの二十巻め。こんなに飛ばして、理解できるだろうか。しかも、この二十巻目は完結編と書いてある。これで、おしまい、ますます不安。

 畠山さんのこのシリーズは、落語を読んでいるような気にさせる。落語には2種類ある。
ひたすら笑いを追求する滑稽噺と泣かせを誘う人情噺だ。人情噺と言っても客の涙や感動を誘うだけではなく、そこは何といっても落語。だから肝心なところでは、笑いを誘うユーモアがさしはさまれる。畠山さんの作品はまさに上品な人情噺。本当に噺がうまい。

 と思っていたら、畠山さんは本来は落語を創ったりする演芸作家だと知り、なるほどなと思った。

 この作品は、3つの中編が収められている。さらに、それぞれの作品は最後にまとまって一つの作品として完成した小説になっている。

 第2話の主人公はおけら長屋の住人、万造。米屋の奉公人。飲む打つ買う3拍子そろった遊び人。いつも懐が寂しい状態。

 この万造。2歳のとき、おけら長屋の前に捨てられていた。だから、万造は父母を知らない。

 物語はお連という女性がおけら長屋を訪ねてくるところから始まる。実は万造は、おけら長屋に捨てられる前は柊長屋で千尋という女性に育てられていた。

 その千尋が重い病に倒れ、死に際に万造について柊長屋に住んでいると語る。
実は、万造はある旗本が側室に産ませた子。

千尋は、旗本家で下働きの女中として働いていた。主人の本妻には子供ができなかった。このままでは万造が世継ぎの子になる。本妻はこれが気にいらず、本妻が側室と万造を徹底的にいじめたおす。 

 これでは万造が危ないと思った側室が、下働きの千尋に命じて、万造を連れ出し育てるようお願いする。それで千尋は柊長屋に住み着き万造を育てる。

 しかし、2年後、本妻が柊長屋に万造がいることを突き止め、追手を放って、万造を殺そうとする。それで千尋は万造を抱き、柊長屋をでて、おけら長屋に「この子を育ててあげて」と一筆書いて置いてくる。

 旗本家は、その後、世子がいないため改易され、旗本をはく奪される。そして、万造の母親の行方もわからなくなる。
 ここまでの話も緊迫感があり面白いのだが、さらに母親の行方がわかる過程も見事な物語になっていて読者を感動させる。 

 しかもうまいのが、親子として面会した場面で、物語では本当に親子なのかはっきり書いていない。でも2人の表情と会話のはしばしで、すでに2人は親子であることがわかるようになっている。読者をひたひたと感動させる。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:38 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

富樫倫太郎  「生活安全課0係 ファイヤーボール」(祥伝社文庫)

杉並中央署生活安全課に突如誕生した「何でも相談室」。署内の役立たず、いつでもやめってもらってもいい人が集まった課である。

 ここに東大卒のキャリア官僚小早川冬彦が島流しされてきた。そして、寺田高虎というたたき上げの刑事と組んで、仕事を行う。

 この小早川が面白く、素晴らしい。

古賀という家から、いつも家の前で立ちションを夜中にする男がいる、最近は家の中をのぞく。その男を追っ払って欲しいとの苦情がある。

 こんなのは事件でもないし、放っておく案件なのだが、小早川は寺田を連れて現場検証と古賀家への聞き込みを行う。そして、結果小早川が言う。

「排出される尿の98%は水分で、残りの2%は、タンパク質の代謝によって生じる尿素です。尿素が細菌に分解されるとアンモニアが発生して、これが悪臭の原因になるわけです。先週末から雨も降ってませんし、雨水に流されたということもありませんから、多少なりともアンモニアが残っているはずです。それに染みも見当たりませんね。尿に含まれているウロピリンとリボフラビンが黄色ですから、普通の尿は黄色なんです。習慣的に同じ場所で立小便していたとすれば。臭いだけでなく、染みも残ってるはずなんですが、それが全く見当たらないとは不自然だなあ・・・・・。」

 聞いてる吉田刑事はくらくらしてくる。ただの立小便だけなのに。

 この小早川の常人にはありえない、観察、調査、分析がすべての出来事で発揮される。
連続ボヤ、認知症徘徊、立小便、5歳少女の失踪など。それが、大事件になることを未然に防ぐ。

 こういう小早川のような人間が名探偵になる物語は多いが、それにしてもその変わりっぷりが想像をはるかに超えている。この小早川シリーズは何冊か出版されているらしい。全部読んでみるぞ。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:01 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

アンソロジー   「七つの危険な真実」(文春文庫)

 大物ミステリー作家によるミステリー短編集。
純粋なミステリー作品もあったが、物語が中心で、ミステリーだから、最後にミステリー要素を付け足したような作品も結構あった。

 うーんと考えさせられたのが、乃南アサの「福の神」。

舞台は東京下町の料理屋「茜」。この店の常連に池内という50少し超えた客がいた。池内は少し傍若無人のところがあり、態度もでかく、女将の妙子や板前も嫌っていた。池内は大手化粧品メーカーに勤めていた。

 その池内がある男を連れて店にやってきた。男は転勤で、池内の上司、部長としてやってきた。池内は50過ぎ、普通なら部長になってもおかしくないのに、新たな部長を迎えざるを得なかったようだ。

 池内はまさにコバンザメ。「部長の好きなように、指示してください。私がすべて部長の思い通りに部下を動かしますから。」。そして、オベンチャラの連続。

 そんな池内が、しばらくたって若い部下2人を連れてやってくる。
2人がふてくされている。新しい企画を提出し、これはいいということで、池内は部長に提案して承認をもらうから安心して待っていろと請け合う。ところが部長が承認をしない。部下は、次長が大丈夫と言ったではないか。と不平、不満を池内にぶつける。怒り狂った部下は、池内に三行半をつきつけ、池内を置き去りにしてどこかへ飲みに行く。

ある日、珍しく、池内が一人で店に来る。そして悪態をつく。
「いいねえ、板前は。包丁一本で気楽にどこへでも行き、仕事ができる。気楽で」
板前が怒る。それをいつも一人でやってきている客が立ち上がり池内に「謝れ!」という。
ふてくされて池内は外へ飛び出す。お客は松木といって、少し規模が小さい化粧品メーカーの社員だった。

 そしてある日、松木が悪態をついていた2人の男を連れて店にやってくる。その2人は池内に歯向かっていた社員たちで、池内の会社から松木の会社に転職していた。で、驚くことにあの池内も栄転して、浜松工場長(部長待遇)で異動していた。

 私の会社も、以前は、コバンザメ人間ばかり出世していた。しかし、今はそんな社員ははじきだされる。企業間競争が激化したりITの進化のスピードが激しく、池内のような人間は、早々に淘汰されてしまう。

 すこし古い香りのする物語だった。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

中野量太    「湯を沸かすほどの熱い愛」(文春文庫)

 映画のノベライズ作品。2016年制作された映画で、日本アカデミー賞6部門で最優秀賞を受賞。海外の多くの映画賞にも出品された。監督、脚本を中野量太が担当。ノベライズも中野が行っている。

 主人公の幸野双葉の家は銭湯を経営しているが、一年前夫の一浩が失踪してから、銭湯は休業してしまう。

 子供は娘2人。長女の安澄は中学生で、次女の鮎子は小学生。それで驚くのだが、安澄と鮎子の母親は双葉ではない。安澄は、夫一浩がかって結婚していた人が、耳が全く聞こえなくて、これでは育てられないということで離婚。その後一浩に双葉が嫁ぐ。それから、鮎子は、一浩の浮気相手の子供。

 こんなバラバラの家族が再度一緒になり、銭湯を復活させる。
すると、双葉の体調が悪くなり、検査をすると末期ガンと診断され、余命幾ばくもないことがわかる。

 しかし、バラバラ家族を一緒にさせる、当然、問題がいっぱいある。
末期がんと診察された双葉は、家族の絆を築き上げるために強い決心をして立ち上がる。

気が弱く、引っ込み思案の安澄は、学校で激しいイジメにあっている。登校拒否をしようとする安澄をひっぱたいても学校に登校させる。「負けてはいけない。自分で突破するしかない。」と。

 学校では、体育以外の時は制服でいなければならない。ところが体育の後、制服が誰かによって隠されてしまう。先生が「制服に着替えろ」と命令する。しかし制服が無くなったと安澄は答え、そのまま保健室で過ごし、放課後運動着姿で帰る。

 帰って双葉が驚き「どうしたの?」と聞くが、安澄は「もう明日から学校へは行かない」と答える。

 次の日、安澄は登校時間になっても、居間に降りてこない。もうだめかと思い双葉はバイトにでかけるが、安澄は頑張って11時に家をでて学校に向かう。

 授業は運動着姿では受けられない。すると安澄は、運動着を脱いで、下着姿になり「制服がないので、下着で授業を受けます。」と宣言する。」

 放課後、制服がどこからか返され、安澄は制服姿で帰宅し、学校の出来事を双葉に報告する。双葉は「それでいい。よく頑張ったね」安澄を抱きしめる。

 鮎子は、本当の母親を渇望する。一浩はふらふらしていて、大事なことに対しいつも逃げる。そんな一浩を双葉は平手でぶんなぐる。

 そして、だんだん家族の絆が造られてゆく。その過程が、リアルによくできている。さすがいくつもの映画賞を獲得しただけのことがある作品だった。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。
            

| 古本読書日記 | 09:23 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

絲山秋子     「御社のチャラ男」(講談社文庫)

 久しぶりの絲山作品。楽しみだ。

この作品、今もたくさん作られている企業小説。しかし、半沢直樹のように企業の腐敗を暴いたり、企業の栄枯盛衰を描く小説とは趣が全く違う。企業に所属している従業員の告白を描く。そこから、企業の矛盾やこれからのあり方を考えさせる体裁をとっためずらしいタイプの小説。

 タイトルのチャラ男44歳の三芳道造。地方の飲料メーカー、ジョルジュ食品の営業統括部長。三芳は大学を卒業して就職するが、突然会社を辞め、アメリカ放浪の旅にでる。しかし、おじけずき、西海岸から取って返し帰国。パソコンの修理会社にバイトではいり、パソコン修理の縁で、ジョルジュ食品の社長の妹と知り合い、結婚。その社長の引きで今の地位となる。
ということは、社内経歴は短い。

 で、この三芳が主人公かと思うが、そうではない。多くの社員が登場して、三芳について語ったり、会社について語る。

 この社員たちがユニーク。すぐにでも退職しようと思っている営業マン。社長秘書なのだが、なんでもやらされる女性社員。会社、家庭で居場所のない社員。精神疾患で休職中の女性社員の面々が三芳と会社を語る。

 三芳は頭はいいが、自己中心で全く責任感がない、まさにチャラ男。

精神疾患から立ち直りつつあり、会社に復職した伊藤雪菜がその経験から語る。

「運命は必ずそのひとの弱点を暴きに来る。
美しさや健康にこだわる人は、だらしない体形や不摂生に酔う人を嫌う。そうなることを一番恐れているからだ。正直さにこだわる人は嘘つきを嫌う。そうしないと自分を保てないからだ。善良を自覚する人は無自覚な冷酷さを露呈する。気がつかなくてなによりだ。優しい人は矛盾に突き進み、結局はばかをみる。人生は悲しい。
 私は努力しない人が嫌いだった。なんでも楽々こなしてしまう人。勘でものを言うようなタイプ、さぼっていても帳尻だけを合わせる輩。物事をほったらかして平気なひと。
 そう、それはチャラ男である。
だが、その軽やかさが羨ましく、心は楽したいと叫んでいたかもしれない。」

 この作品での絲山さんの突き刺さる言葉だ。
それでチャラ男は最後業務横領罪で逮捕されてしまう。

この作品では、会社には必ずチャラ男がいると書いているが、今は貴重人種になったように思う。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:10 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

伊吹有喜    「犬がいた季節」(双葉文庫)

 三重県四日市にある進学校八陵高校に通う生徒とそこで飼われていた「コーシロー」という白犬との高校生活を1989年から2001年までを描いた作品集。5編の短編と一遍の掌編が収録されている。

 当然登場する高校生は5編とも異なる。

この物語構成が素晴らしいのは、13年近くを描いているのだが、拾われて、学校の生徒に飼われたコーシローが亡くなるまでを描き、さらに拾った生徒優花が、東京の大学を経て、母校八陵高校の英語教師29歳になって、最後の作品に登場するところ。

 私は70歳を過ぎているから、高校生活の詳細な記憶はあまりない。優花29歳は、記憶も鮮明に残っているし、同級生の多くとまだ生きた交流がある。でも、30歳を超えると、その交流も記憶も急に薄くなるのかもしれない。ちょうど13年くらいが物語にはいい長さかもしれない。

 伊吹は、この期間に起こったことや、ファッション、音楽、風俗をうまく取り入れて、伊吹も含め、この時代に高校生を送った人たちにはなつかしくたまらない作品に仕上げている。

3作目の「明日の行方」という作品が印象に残った。

 不謹慎な言い方で申し訳ないが、人間もう死にたいと思うことがあってそれは自然なことだと思ってしまう作品だった。

 阪神淡路大震災が起きる。主人公で大学受験生の奈津子のお祖母ちゃんが神戸で一人暮らしをしていた。震災後電話をしても連絡がつかない。そこでお父さんが、車で神戸まで行く、そこで倒壊していた家で下敷きになっていたお祖母ちゃんを救出して、四日市の奈津子の家まで連れてくる。

 奈津子の家は大きくない。だから、お祖母ちゃんの生活や寝る部屋が無い。それで、仕方なく奈津子と妹の久美子が一緒の部屋にする。

 奈津子は受験が目前に控えている。奈津子はお祖母ちゃんに言う。「気にしないで、受験が終わるまではわずか2か月。そして、その後は東京にでてゆくから、お祖母ちゃん遠慮しないで、自分の家だと思って暮らして。」

 奈津子だけでなく、家族全員がお祖母ちゃんに過剰に気を遣う。奈津子と付き添いの父親が東京での受験そのための交通費、宿泊費、それから東京でのアパート探し、その引っ越しや家具などの生活用品の購入代としてお祖母ちゃんが、お金を奈津子に手渡そうとする。しかしそんな気を使わないでと奈津子はお金を受け取らない。

 それがお祖母ちゃんにはたまらなく切ない。自分は役立たたずのただのあぶれもの。
お祖母ちゃんは一人「死んでしまいたい」と心底思う。

 能登地震の被害者にもこんな切ない思いをしている人がいるかもしれない。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

浅倉秋成   「六人の嘘つきな大学生」(角川文庫)

 映画化もされた、就職試験を扱ったミステリー。

会社は優れた人材を採用したい。しかし、何回も段階を踏んでペーパーテスト、面接を行っても、それにより、優れた人材を採用できることはない。そんなことで、その人の持っている特性など把握することは不可能だからだ。

 私は50年前、就職試験に臨んだ。当時は毎年9月1日が就職試験の解禁日だった。
私は、入社試験日の前に勤めた会社の会社訪問をしようと、申し込んだ。すると会社から手紙がきて、訪問日と時間を指定しらされた。

 前泊して、翌日指定の場所に行く。すると驚いたことに、簡単な健康診断と確かクレペリン検査をさせられ、午後から社長出席のもと、面接試験を行うと言われた。

びっくりした。そして午後面接試験が行われた。4人一組で面接を受ける。おかしな面接試験だった。質問する人は一人。社長は何もしゃべらず、ひたすら受験者を見つめているだけ。

 そして変だと思ったのは、誰に対しても、質問者の質問が全く同じ。私は最後だったので、前の質問に対する答えを考えておくことができた。
一週間後に会社の指示により、会社に電話をいれると、「あなたを採用することになりました。」と回答があり、解禁日には会社に集めさせられその場で「採用内定書」をもらった。

 当然優秀と思われる人もいたが、私のようなできそこないも結構いた。

この作品、5000人も応募があった人気IT企業スピラリンクスに面接など幾重にも重なる関門をクリアーにした受験者6人が人事部長より「一か月後にグループディスカッションをして採用者を決める。当然、君たちは優秀なので、6人全員採用ということもある。」と言われる。

 6人は毎週集まり、ディスカッションの対策を練る。確かに6人は優秀で、ある人は、あらゆる情報源から、会社の秀でている所、弱点、現在の課題を調べ上げしかもそれを整理してまとめてくる。またある人は、国際市場における会社の位置、問題点と優位なところをまとめてくる。そして徹底して会社を洗い直し親睦を深めるため飲み会までして、6人だれも落ちこぼれることなく、同期として採用を勝ち取ろうと頑張る。

 ところが直前になって人事部長からメールがみんなにきて、本年の採用は一人とする。ついては、みんなでディスカッションをして、その一人を決めなさい。会社はそこで決まった人を採用すると。

 そしてディスカッションの日に各人にあてた封筒が見つかる。それを開けると、優秀で信頼できる人と思われた受験者の実像が証拠写真とともに入っていた。

 野球部の優秀なキャプテンが、しごきといじめで後輩選手を自殺に追い込んだ。妊娠中絶に追い込んだ者。ファミレスでのバイトはキャバクラだった者、詐欺商法をしていた者などとんでもない人だらけ。
 この中から多数決で内定者が決まる。

この中の受験者の中で、別の会社に就職した一人が、人生を狂わせたあの封筒の中味は本当のことだったのか、当時の受験者の交友関係者などをまわり、真実を突き止めてゆく。そしてその結果が出た直後に自殺してしまう。そのことを内定者で現在スオイリランクスで働いてる人が、誰があの封筒を用意したのか突き止める。

 しかし、今の就職試験は本当に大変だと、この作品でわかり、就活学生は可哀そうに思えた。わかっておかねばならないこと。採用された人が優秀な人とは限らないこと。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:25 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

泡坂妻夫   「亜愛一郎の狼狽」(創元推理文庫)

 雲や虫など奇妙な写真を専門とする青年カメラマン亜愛一郎が活躍する、「亜愛一郎」シリーズ9編の短編を収録した作品集。
 この本のトップを飾るのが、泡坂のデビュー作品「DL2号機事件」。

いろんな思いが交錯するだろう、サイコロ振り。最初のサイコロ振りで一の目がでる。すると、次は一はないだろうと思い違う目を掛ける。しかし、中には大穴狙いで一の目をかける人がいる。でも、かなりまれ。

 この物語はそんな人間の想いを表現した物語。

羽田発、地方の小都市宮前行、DL2便。羽田出発30分前に何者かから、「機内に爆破物をしかけた」という電話がある。

 しかし、DL空港で機内チェックをしたが、そんな爆発物はみつからなかったため、予定通り羽田を出発する。一方、宮前空港では、羽田刑事を始め刑事、警察署員3人が万一に備え空港警備にあたっている。更に、雲の写真をとるということで、カメラマンチーム3人が空港に来ていた。

 この宮前市、直前に震度7の大地震が起き、大きな被害を被っていた。

DL2便は予定時間に宮前空港に着陸。しかし、飛行機は滑走路を外れ、飛行場の草地に止まる。その飛行機から降りてきたのが、柴総合工務という大会社を率いる柴。

 柴は、タラップを降りるとき、わざと階段に躓いたような仕草をする。また同じ仕草を空港と道路の段差の階段でもする。

 そして迎えの車に乗り込む。この車を運転しているのが、緋熊という男。緋熊は少し前に酔っ払い運転をして若い娘を跳ねる。娘は奇跡的に軽傷で済んだが、この時緋熊は酒を飲んでいて、そこから酒をやめると誓い酒を断っている。

 柴は東京から、活動拠点と住居を宮前市に移し、豪邸を建てていた。その豪邸で運転手の緋熊が殺害されそうになる。

 この経過から、カメラマンの亜は、爆破予告と緋熊殺害未遂事件の犯人を柴と言い当てる。

宮前への移住は、大地震が起きた場所には、続けて大地震は起きないものと思ったから。爆破予告は、その結果飛行機会社が安全チェックを厳しくするから、完全に安全が担保される。階段で故意に足を躓かせたのは、これで次は躓かなくなるというために行ったこと。緋熊を運転手に雇ったのは、あんな事故を起こしたのなら2度と事故を起こさない運転をするだろうということで雇う。

 つまり一回起こったことは、2度続けておなじことが起こることはないという信念で起こした行動と亜は推理。
 しかし最後に運転手緋熊を柴が襲った動機がよくわからないまま終わる。

人間の深層心理をついた物語になっていて面白かった。この後、泡妻がベストセラー作家になることを彷彿とさせる作品だった。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:16 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

真藤怜    「女教師」(幻冬舎アウトロー文庫)

 以前、別の作品の書評で報告したが、本の購入はブックオフからしているが、最近は購入本の抽出が面倒になり、ブックオフが過去の私の購入履歴を分析して、おすすめ本が提示するので、そこから購入するようにしている。

 それでショックを受けたのが、紹介本が推薦本になっていて、当然何も考えずに購入したのだが、これがいわゆる官能小説という類の作品。

 読まずに廃棄しようと一旦は思ったのだが、もったいないからと思い読んでみた。

驚くことにこの作品は「女教師」シリーズとなっていてすでに番外編もふくめ4冊の本が発売されている。

 本作品がそのシリーズの一作目。平成13年に刊行しているが、平成16年現在、すでに7刷を記録している。現在が令和6年だから、ひょっとすると10刷以上を記録しているかもしれない。

 本の内容からして、1刷で何冊製本しているかわからないが、最近の新刊本は1刷で終了することが殆どで、重版となると作家も出版社も喜ぶという時代だから、10刷となるとベストセラーの域にたっする。あまり話題にはならず、静かに官能小説はブームになっているのかもしれない。

 この小説、読み始めて驚いたのだが、実に文章がしっかりしていて、表現力も豊かで、作者真藤は作家としての力は十分に備えていることがわかった。

 当然、殆どが官能シーン描写なのだが、結構大きな出来事が起きる。
女性教師歴2年の主人公が生徒の集団に、保健室で襲われ暴行される。大学時代に関係した塾の人気のイケメン講師に、数年ぶりに呼び出され関係を持つ。もちろん講師は妻も子供もいる。

 更に、学校をやめてロンドンに留学するという生徒と関係を持つ。この生徒は、同級生の子とも関係していて、その女の子が妊娠する。
 たまたま、女の子は流産したのだが、怒った両親が学校にやってきて、校長と担任をしめあげる。

 作品では、これらの問題事がやりちらかし。読者としては、これらの出来事の結末はどうなったのか知りたい。でも、この小説は一般小説ではなく官能小説。そんなことは必要なし。

 しかしこれだけ力量のある作家なのだから、その落とし前をつければ、優れた作品を書けるのではと思うが・・・。しかしそんなことをすれば、7刷、10刷なんてことはなくなるのか。それにしてもブックオフはどうしてこんな本を推薦したのだろうか。

 今日確認したら、ブックオフ推薦によりシリーズ3作目も購入していることがわかった。ガックリ・・・・。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

赤祖父俊一   「オーロラ」(岩波新書)

 オーロラの発生原理とその基礎になる物理学理論の記した本。
驚く。ブックオフの私に推薦した本に、官能小説「女教師」とともにこの本も入っていた。どういうことなのかまったくわからない。
 で読んでみて全く理解ができなかった。申し訳ない。

常に地球には太陽から発生する「太陽嵐」というプラズマが吹き流れている。これが、地球の磁気圏と反対に流れるため常に地球の裏側に流れる。このプラズマが地球の磁気圏と影響しあい、不明なのだが、地球の裏側のプラズマシート内に留まる。このプラズマが、地球の電離層に落下し、それが元の状態に戻るとき発光する。これがオーロラだそうである。書いてる当人はまったくシンプンカンプン。

 初めて、40年前にヨーロッパへ出張した。今はロシア上空が飛行禁止になっているからどうなっているか知らないが、当時も東西対立のあおりでソ連上空飛行が禁止状態でヨーロッパへは北極圏まわりで行った。

 帰りの便で、操縦士がアナウンスで「今、右側にオーロラが見れます」と言う。窓の外は暗くて何も見えない。オーロラの写真のイメージから、飛行機より下に見えるかと思ったらキャビンアテンダントが、「上のほうですよ」と言ってくれ生まれて初めてオーロラを見た。
 この本によるとオーロラは高度100KMあたりで発生するらしい。

しかもオーロラは地球の磁気の関係で、発生する範囲が限られる。北極点では発生しないで、そこから下がったところで発生。そして、下限は、太陽の黒点の活動が活発となると、その2-3年後には南におりてきて、10-12年周期で、北海道でもみられるそうだ。

 しかし、まだオーロラ発生のメカニズムは100%解明されていない。それは、その発生源となる太陽のプラズマが解明されていないから。ということは、オーロラのメカニズム解明のためには、太陽の活動メカニズムが解明されねばならない。オーロラ解明は太陽研究が前提となるからだ。

 オーロラの光の一つである緑白色は酸素原子によって生まれる。それは、植物が光合成の副産物として、酸素を大気中に放出するから生まれる。

 で、地球以外の太陽系の惑星でも、オーロラは発生するが、すべて水素の発行するピンク色。ということは、地球以外の惑星には、植物は存在しないのだそうだ。

 すみません。この程度の報告で。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:11 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

角幡唯介    「空白の五マイル」(集英社文庫)

チベットの奥地にある世界最大のツアンボー峡谷に単独で挑んだ探検記。

今時、探検家、冒険家というのはめずらしい。何故なら、地球上に有名な人間の未踏地はほぼ存在しないから。未踏地でなくても、チョモランマやアマゾン探検だったら、社会の興味を集めるかもしれないが、この作品のように、殆ど一般に知られていない地を探検してもまず話題にならない。つまり、今は月へでも行かない限り、探検、冒険で生業を築くことは困難な時代なのである。

 そんな中、角幡は、探検家として、ツアンボー峡谷踏破を目指す。

1880年、探検家キントゥブがツアンボー川の峡谷を遡り、ペマコチュン村まで到達。そしてツアンポール峡谷には世界最大45Mの大滝があると紀行文に記す。この紀行文が呼び水となり、その滝を目指して、探検家が探検を開始する。そして1924年キングドン ウォードがさらに探検を行い、その際、未踏地5マイルを残し、探検を終える。

 しかし大滝は発見できず、5マイルは長い距離ではないため、大滝は存在しないのではという観測が拡がる。

 こんな時、著者角幡はこの未踏地5マイルを踏破して、大滝の有無を確認したいという欲求が高まり、勤めていた朝日新聞を退職して、ツアンボー峡谷探検に向かう。そして、ウォードが最後に行きついた「空白の5マイル」地点まで行き、更に奥地に進み、幻の大滝に2003年1月9日に到着する。ここで、私はすごい世界で初めての大滝発見と感動したのだが、探検記はその手前で反転。実は大滝には1998年アメリカの探検家が到着。更に翌年中国の探検家グループが大滝に到着していたことが詳細にわたり記述される。

 当然、角幡はこの事実を知っていながら2002年から03年にかけ、大滝探検の旅を敢行する。なんだ、冒険でも探検でもないじゃんと読んでる私はガックリ。

 そして、角幡は更に真冬のツアンボー峡谷探検を別ルートで2008年に敢行。ここで、吹雪、嵐、極寒にさらされ、死の一歩手前までおいやられる。

 正直、もう空白の5マイルはほぼ踏破されていて、踏破しても話題になることはないのに、なぜこんな危険を犯してまで探検にこだわるのか理解できない。

 それを角幡は、この作品で書く。
「死ぬかもしれないと思わない冒険に意味はない。論理をつきつめれば、命の危険があるからこそ、冒険には意味があるし、すべてをむき出しにしたら、冒険は危険との対峙という要素しか残らない。そこに飛び込み、その代償は命をもって償わなければならないことに納得しているが、それをやりきれないことだとは考えない。」

 これだから、この作品は読者に感動を与える。開高健ノンフィクション賞を受賞したことよく理解できる。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

アンソロジー  「ANNIVERSARY 50」(光文社)

 カッパ・ノベルスが発刊されてから50年を記念して、日本を代表するミステリー作家9人が執筆した作品を収録した作品集。

 さすがに一流ミステリー作家、しかも彼らを育てあげたカッパ・ノベルス記念の作品集ゆえに、どの作家も力が入り、名作ばかりで読み応え十分。

 その中で、これミステリー?と思える作品があった。島田荘司の「進々堂世界一周シェフィールド イギリス」だ。しかし、この作品は圧巻の感動作品だった。

 私事で恐縮なのだが、初めて生まれた娘が重大な障害を持って生まれた。生まれて、即心臓の手術をした。これが成功しても、その障害で1年生きることができるのは10%と担当の先生から絶望的なことを言われた。しかし、娘は900Gを切る体重だったが、頑張って生き抜いた。その後通った施設の熱心な先生の懸命な支援により、食事も細かく砕くと口から飲み込むし、少しの時間なら座っていることもできるようになった。

 私は地方の中核都市にある企業で働いていた。娘が小学校に入る年齢になった。それで特別支援学校に面接に行った。すると面接してくれた校長が、「この娘は入学不可能。この学校は学び、訓練すれば、社会にでられる可能性がある子だけが通える学校。見込みのない子は、定期的に先生が自宅を訪問し、様子を見る子となる。」

 ショックを人生の中で一番受けた瞬間だった。

ところが、中核市から少し離れた、地方小都市で、新しい支援学校が新設されるとの情報を得て、その学校の面接に行った。

 すると校長先生が娘をだきあげ、「可愛いいい子だ」と優しく言ってくれ、「誰でも光る子なんだ」と言って、入学を受け入れてくれた。しかし、入学条件がその小都市か、周りの市の住民でなければ受け入れできない。もう迷うことなくその小都市に引っ越しマイホームも建てた。

 収録作品の解説に移る。

主人公の御手洗は集団で食事のため店にやってきた。みんながてんでバラバラに注文をしだした。すると、店員が混乱して困ったような表情になった。それで御手洗が、一人、一人確認して、店員に注文を告げてあげた。店に行った客が「どうしてあんなことをしてあげたのか」聞いた。すると御手洗が「あの店員は障害を持っている人だ。順番にゆっくり注文を言ってあげないとパニックになってしまうからだ。」そして、同じ経験をしばらく前まで滞在していたイギリスのシェフィールドで体験したと言ってその経験を話だす。

 夜、御手洗がコリンという人を見つける。コリンは、夜中町を回って、食料品店にお願いして収集している。それが、障碍者施設の食べ物になる。

 それから、御手洗はコリンと話し出す。
コリンにはギャリーという一人息子がいた。小学校からテストの答案用紙を持ち帰ってくる。全科目零点。用紙には名前が書いてあるだけ。その名前も枠からはみ出している。学校からの連絡がある。どうもギャリーは目が見えないようだと。全く気が付かなかった。眼科医にゆき特別なメガネを作ってもらい少し見えるようになった。ところがある日、レンズにひびが入って帰ってきた。ギャリーは間違っておとしてしまったというが、それはあり得なかった。

 コリンとギャリーがバスに乗る。その中に集団で子供が乗ってくる。最後に乗ってきた子が集団の生徒のバッグを全部持たされている。その子の腕やひじには赤い痣がたくさんあった。調べると同じ痣は息子ギャリーにもあった。

 家の近くにスポーツジムがあった。ギャリーは小太りで力持ちだった。そこでジムに入って重量挙げをやってみたらと思いジムに申し込むが障碍者は無理とジムから拒否される。父親がついて全責任を持つという条件で、入会を何とか認めてもらう。

 コリンは重量挙げのトレーニング方法を色んな手段を使って収集し、ギャリーに教え込んだ。

 そしてギャリーはシェフィールドのメイフェア地区の小学生部門で優勝する。といっても大会にでたのはギャリーも含め3人だけ。残りの2人も、コリンが学校に頼み込んで参加してもらった。コリンは「よく頑張った。優勝までしたのだから重量挙げはもうやめよう。」
とギャリーに言うが、ギャリーは「続ける」と言う。生まれて初めてギャリーが意志を示した瞬間だった。

 そしてギャリーはシェフィールドの大会でも優勝する。この先は全国大会。そこで優勝すればオリンピックにも出場できる。シェフィールドでは、300ポンドを成功。あと50ポンドを上乗せできれば、イギリス大会でも優勝できる。

 コリンは、英国の有名コーチにギャリーの指導を頼み込む。しかし、コーチは拒否する。
もし重量を上げられなくて、バーベルが落ちると、死ぬ事故になる。だから指導は不可能と。
今まで事故が無かったのは幸運が重なっただけ。とどう頼んでもコーチは首を縦にふらない。

 その時、大地震が発生。コーチはガレージの駐車場の下敷きになる。ギャリーがガレージのシャッターを下から持ち上げて、コーチを救い出す。

 そして、その後コーチはギャリーのコーチとなる。

御手洗が言う。
 「さっきの食堂の店員も、全力でぶつかれるものを見つけてくれたらいいな。」と。

私の障害娘。一歳の時、医者にもう生きてゆくことは難しいと言われ、10歳のとき、20歳のとき医者から死を覚悟しておくようにと言われた。
 で、今40歳を迎え、みんなに支えられ元気に毎日施設に通っている。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:07 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

アンソロジー   「死ぬまでにしたい10のこと」(ヴィレッジブックス) 

 映画「死ぬまでにしたい10のこと」に触発されて、小説家、漫画家を中心に10人の女性に死ぬまでにしたいことをつづってもらったエッセイ集。

 帯に前提として余命2か月と宣言された場合とある。しかし、この前提を守っていない作品も散見される。

 首をかしげたのが、コメンテーター、エッセイストの横森理香。

 横森はなかなか子供に恵まれず、何と出産ギリギリの年齢39歳で子供を産んだ。それで、この子供を育てたり、旅行したりして楽しんだり、結婚や成人の記念写真を撮りアルバムにしておく、更に、子供に孫が生まれ、この孫をいれて、多くの記念写真を死ぬまでに撮っておきたいという。

 これじゃあ、余命わずか2か月という主旨から完全にはずれる。今より倍くらい生きなければ、そんな希望は達成できない。
 出版社はよくこのエッセイを没にしなかったものだ。とても余命の言葉からくる、短命、薄幸という感じは全くない。

 その他のエッセイは殆どが、おいしいものを腹いっぱい食べたいとか、美しい静かな場所に移り住み、そこで最後を迎えたいというような常識的な作品ばかり。

 一つくらい、発想がつきぬけていて破天荒なエッセイはないものかと思っていたら、漫画家の倉田真由美の作品が少し突き抜けていた。

 倉田さんは、今までに自分からが告白して、振られた男が3人いる。
その2番目の男に再会したいと思っている。

  19歳の時、彼に連れられラブホテルに行く。そのホテル名が「野猿」。当時はやえんという言葉が無く、まさに名前は「のざる」。初めての経験なのに、その経験するところが「のざる」では失礼、悲しすぎる。
 あまりにも品や配慮が無い彼に怒り、その場で別れる。

  その彼に再会したいのだ。で、なぜ再会したいのか、彼が今はハゲで太ったと噂で聞いていて、それをどうしても死ぬ前に確かめたいから。

 それから、今付き合っている女性の友達に、知っている最上の男たちを連れてきてもらい、極上の合コンを開く。その時は、豊胸手術を受け、巨乳になって参加する。巨乳になって闊歩するのが最大の夢だったから。

 そして最後は景色の良いホテルで徹夜マージャンをする。その部屋で、柔らかな朝日をあびながらコテンと死ぬ。

 本当に倉田さんの最後は私からみても最高。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:09 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

群ようこ    「濃い人々」(講談社文庫)

 私が会社にはいってしばらくしてから、群ようこが登場して大ブレークした。

彼女のエッセイ。非活動的で、日がな一日寝転んでごろごろしているのが素敵という視点から世の中をユーモアたっぷりに描く。当時エコノミックアニマルと揶揄されていた社会を皮肉り私も夢中になって次から次へと読み漁った。

 不思議だと思ったのが、これだけ無気力で生きている人が、そのころでは珍しいアメリカに一人で行き描いた「アメリカいすわり一人旅」え!あの群ようこが?と驚愕した。しかし、面白く読んだ「無印」シリーズは気力ない人々を描いて一世を風靡した。

 群さんは、少し小太りで確かに美女ではないが、可愛げがあり優しそうで、恋をして結婚してもおかしくない風貌をしていた。しかしやはり70歳ちかくなった今でも独身のまま。

 どうして、ずっと一人なのだろうかと不思議に思っていたが、この作品でとても信じられないことが書いてある。電気湯沸かし器のように、怒ったら声をはりあげ止まらなくなるのだそうだ。

 これでは、自分はだれからも相手にされなくなると不安になり、肉を食べると怒りっぽくなると知り、菜食主義者になったのだが、全く効果がなく、肉食に切り替えたそうだ。

 ある人からヨガが効果があると言われ、ヨガ道場にゆく。足が大根足で太く、お尻も太く、ドテンとなり、うまく座れない。先生から、組んだ足の間を通して、手をだすと、うまくいきますと言われてやってみたが、そのまま後ろにひっくりかえりヨガは諦める。

 私の子供のころ、人気があったのがテレビ番組の「お笑い3人組」音羽美子、楠トシエ、桜京美。一方海外の番組で人気のあった番組は「ルーシー ショー」。

 不思議だと思ったのが、日本のコメディでは、登場する役者、美人は登場しない。ところがアメリカの「ルーシー ショー」では、主人公のルーシーも他に登場する男たちも美人か、颯爽としてかっこいい俳優ばかり。このかっこいい俳優が階段でこける。手に持った鉢植えを思わず投げ飛ばす。これをかっこいい男が見事にキャッチする。こんなことは、原節子や吉永小百合、石原裕次郎は決してやらない。

 アメリカというのは、住んでいる世界が異なると本当に思った。
それとルーシーが大声で男の人を呼ぶと、いつもその瞬間に呼ばれた男が魔法のように現れるのも不思議で仕方がなかった。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

藤野可織   「爪と目」(新潮文庫)

 芥川賞受賞作品。

この作品は変わっている。
夫は浮気をしている。妻は気がついている。こうなると、それなりに愁嘆場があり、恨み、嫉妬が混ざり合う、暗いドロドロした物語になるのが相場。更に妻の不審死があり、警察もはいる。これは何かが動き出すぞと思い読みすすむのだが、全くそういうことにならない。

 それには理由がある。こんな衝撃的出来事、物語が3歳の女の子の視点から描かれているからだ。

 世の中には、超人的に記憶力のいい人がいて、3歳で起こったことを全部しっかり覚えている人がいるかもしれないが、そんな人はごくわずか。しかも3歳は、起こっていることを表現できる言葉を持っていない。だから、そこで起こっていることは、瞬間的にすぐ忘れてしまうことになる。

読みだした時、この出来事には何があるのだろうか、妻や夫はどんな思いでいるのだろうか、想像しながら読んでいこうかと思ったのだが、3歳の目から淡々と起きた現象が語られるだけだから、途中で無駄なこととわかり、想像は疲れるばかりだからやめた。

 一人になった主人公、3歳の娘の父は、眼医者で出会った女性と付き合い始める。そして、父はその女性に結婚を申し込み、女性も受諾、結婚をする。

 新しい住居に移る。夫は多くの本を所有していた。妻はそれらはいらないと思い、古本屋に売る。古本屋が本を引き取りに来た時から、妻と古本屋との不倫が始まる。

 何しろ3歳の子の描写だから、本当に当人同士が愛し合っているかがよくわからない。

そのうち女性は、家の家具や食器やカーテンをネットで買うようになる。更に、ブログをたちあげ、それらの画像をアップ、そのブログ造りに夢中になる。そうなると、古本屋と関係を持つのが面倒になってくる。

 古本屋から、「いつ会える?」としつこく催促がくる。まともに返事はしない。そして「もうやめようか」と返事をする。

 熱量の全くない物語。そういえば、私の妻も、朝から晩までネットにかじりついて、あれやこれやと品定めをして購入に夢中になっている。
 こんな状況を主人公の3歳の女の子が描いたらどんな小説になるだろうか。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 05:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

米澤穂信   「儚い羊たちの祝宴」(新潮文庫)

 5つのホラーミステリー作品が収録されている。それぞれ独立した作品になっているが、大学のお嬢様たちが集まる読書サークル「バベルの会」がどの小説にも通底していて、それぞれの作品を繋げている。

 そして本のタイトルにもなっている「儚い羊たちの祝宴」という作品がクライマックスでバラバラの小説をひとまとめにしている。

 この5作品のうち、面白いと思ったのが4作目の「玉野五十鈴の誉れ」。

今は、ご飯は炊飯器にかければ、何をしないでも、自動的に炊けるが、私の子供の頃は違った。竈に羽窯をのせまきで火を起こし炊いた。

 そのとき上手に炊く要領は、こんな掛け声だった。
「はじめチョロチョロ、中パッパ、赤子泣いても蓋とるな。」よく、母や女中が背中に赤子をだいてご飯を炊く場合が多く、絶対に赤ちゃんが泣いても蓋をとってはいけないということで、できた掛け声だ。

 この作品で、犯人の女が、資産家の後継ぎになる1歳の子供を、遊びとだとして誘導し、焼却炉の中に押し込め、ゴミに火をつけ、外から留め金をして、燃やす。

 作品の最後が、あの掛け声。効果抜群。

それから表題になっている「儚い羊たちの祝宴」。

「バベルの会」は作品ではメンバーは何人いるか明らかにされない。この会読書クラブという集まりなのだが、秘密の食事会が開かれるのも特徴。

 ここで最高の食材がふるまわれるのだが、それがアルミスタン羊の肉。実は、この肉は人間の肉。それで、会のメンバーの数はいつも流動的。

 ゾクっとくるミステリー。実にうまくできている。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 05:56 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

有川ひろみ   「不倫幸福論」(幻冬舎文庫)

 私は、活字中毒者で、どんな本でも読む。それで、ブックオフで17,8冊くらいまとめて購入して読んでいる。少し前までは、作者などを検索キーにして購入本を決めて発注していたのだが、最近はそれが面倒になってきて、ブックオフが過去の発注本から、私にあった本というのを選択してくれるので、その本を購入するようにしている。

 で、今回紹介したような本が、紛れ込んでくる。全く私には関心の無い内容なのだが。

私が毎日犬の散歩の途中で立ち寄る喫茶店がある。そこにいつも来る水道工事屋の親父さんがいて、彼が来て少し遅れて、普段着のおばさんが現れ、しばらくコーヒーなどを楽しんで、そのままホテルに行く。おばさんは子供があるから、子供が帰ってくる時間に間に合わせて家に帰る。

 不倫は恋の一つの形。それを取り立てて語るようなものでもないし、至る所でみられる現象である。
 この本は、不倫を行う時のあるべきマナー、態度について指南している本である。

しかし、この本は、不倫は社会一般に広く行われているのに、指南する対象者を完全に限定している。

 女性も男性も、一流企業のオフィスに勤め、ハイクラスな生活を享受している人たちの不倫のあり方を論じている。私の喫茶店で出会う不倫カップルは関心の対象外なのである。

読むのもばかばかしく、恥ずかしい。
「職場や家庭から離れた空間、交わす言葉で揺れ動くふたりの空気と匂い、ふとした表情や仕草、笑い、親しい友人同士のようなおだやかで静かな触れ合い。この恋こそ、大人のロマンスなのである。」

 しかし、いくら男を愛しても、盲目的になるのは危険。そのためにボーイフレンドを別に持っておく必要がある。そのボーイフレンドとは、
「憎まれ口をたたけるほどの関係で、それでも会えば心がぱあっと華やぐような相手。」だそうである。

 何でブックオフは後期高齢者になろうとしている私にこの本を推薦したのだろうか。それから作者有川さん、素晴らしい不倫カップルが近くの喫茶店にいますので、ぜひ取材にきてください。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:02 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

星新一    「ふしぎな夢」(新潮文庫)

 星新一の短編、掌編11編を集めた、異次元ワールド作品集。

小学生の時、ソ連のガガーリンが宇宙を飛行した時、高校の時、人間が初めて月面に降り立った時は本当に感動、興奮した。
 しかし、この作品集を読むと、月に移住したり、宇宙を旅行するのは、実現は不可能のように思えてきてしまう。

 月に宇宙基地を建設するために、隊員が派遣される。人間が生きてゆくためには、食料、空気、水が必須となる。何となく、宇宙食とか空気は、宇宙船で製造したり、備蓄しておいて、在庫量に応じて地球から供給すればいいように思うが、この作品集では、水は地球からロケットで供給するように描いている。タンク6個分。水は食料、飲み物でも必須となるが、基地建設の材料としても必要となる。月には水がない。びっくりする。これを地球から運ぶのか。それで間に合うのか、恐ろしいほど方法がレトロだと思った。今、国際宇宙ステーションへの水の供給はどうしているのだろうか。やはり都度地球から供給しているのだろうか。

 また月の裏側では、気温が零下100度となる。そして、地球から運んだ水が凍結。貯水タンクが破裂して水が無駄となる事故がこの作品集では発生している。

 進んだ星の宇宙人は、すでに幾つかの星を訪ねる観光旅行をしている。これが地球では難しい。光速の何百倍で走る宇宙船を開発せねばならない。この作品集では、進化が進んだ宇宙人では、この光より速度の速い観光船が実現している。そうであっても、星から星への移動は、年単位にかかる。ということは、その時の流れに合うように、人間を改造しなくてはならない。星の観光のためには、長い移動の間は眠ることが必要となる。夜寝て昼活動するという人間の営みは、宇宙で暮らしを成り立たせるためには変化させねばならない。

 これにはとんでもない長い年月がかかるだろうし、科学による大革命が必要に感じた。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:06 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

中山七里  「護られなかった者たちへ」(宝島社文庫)

 映画にもなった本作、中山七里の作品。

 8年前塩釜の福祉保険事務所が放火される。犯人は利根勝久。懲役10年の実刑判決を受けるが、8年で仮釈放され、刑務所を出所する。

 その直後、塩釜の福祉保険事務所で8年前課長をしていた三雲とその上司である城之内が誰も住んでいない朽ち果てそうな住宅から死体になって仙台青葉区で発見される。手足は縛られ、猿轡を嵌はめられた状態で、死因は餓死という異常殺害。

 捜査一課刑事の笘篠と蓮田が、殺害された2人が、塩釜の福祉保健事務所で上司、部下の関係で、働いていたことに事件と関係あるのではと推理捜査を始める。

 福祉保険事務所というのは、色々な業務があるが、その中の最も重要な仕事は、生活保護申請の認否判断と手当の支給である。

 生活保護というのは、困窮者が最早生活することができないという状態でも、最低生活が憲法で保障していることによって、その生活のための手当を国から支給し、生活の保障を確保してあげる制度のことである。

 一見この制度は、困窮者、弱者に寄り添う良い制度のように思えるが、最早、この制度を利用しなければ暮らしが成り立たない状態と認められなければ、生活保護受給者にはなれない。

 事務所の窓口は、貧困者に寄り添っているように想像するが、かなりの申請者が受給条件を満たしていないという判断で、困窮者認定を却下される。しばしば、申請者が窓口担当者に襲い掛かることがあり、これをバックヤードにいる人間やガードマンが間にはいり阻止する。

 窓口の人間は申請の受付と申請認否の業務だけでなく、現在の受給者が、認可条件に適合しているかを確認するため、受給者の住宅を訪問。そこで不適合がみつかると、保護費の支払いを止める仕事までする。
課長以上は、窓口や訪問調査をするわけでなく、危険な状態になることはない。

 こういうことになるのは、年々生活保護費受給者が増加して、資金が足りなくなる懸念があるからである。

 この作品でも、北九州小倉で独り住まいの老婦人が、生活保護費が受けられずに自宅で餓死してしまったことが話題になった時、厚労省の福祉保健の全国会議で、北九州市が生活保護支給額が前年より少なくなったと報告され、出席者が厚労省の賞賛を浴びている。

 この作品では、三雲と城之内の被害者の上司だった上崎が3人目の殺害を受ける人間として狙われる。

 捜査をしている刑事笘篠と蓮田は当然8年の刑務所生活から出所した利根勝久が犯行を実行するだろうとして追跡を始める。
この部分が長いのだが、読者である私は、利根が犯人になってほしくはないと思いながら読み進む。

 そして結果犯人は、生活保護認定業務を担当している事務所の窓口の人間だったことを知り、これは素晴らしい結末だと思った。
矛盾を一身に抱えているのは、窓口の人間だからである。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。


| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

村山仁志   「魔法の声」(ことのは文庫)

 あまり聞いたことのない「ことのは文庫」。その文庫ではじめて手に取る作品。

作者村山仁志は、人気作家村山由佳の弟。現在長崎放送のアナウンサーを務めながら小説家としても活動している。この作品が8作目。以前、私は村山さんの「午前0時のラジオ局」を読んでいる。

 主人公は長崎の阿蘭陀坂テレビ局に勤めるアナウンサーの章太郎。章太郎は、高校途中までは、スポーツクラブに属していた体育会系バリバリの学生だったが、阿蘭陀テレビで放送していた番組でMCをしていた柳原小夜子に一目ぼれ、それでアナウンサー志願となり、高校大学を通じてアナウンス部にはいり、卒業後念願の阿蘭陀坂テレビ局アナウンス部に就職。あこがれの柳原小夜子に指導してもらい、アナウンサーとして歩み始める。

 ところがその柳原小夜子はわずか一年後に結婚退職でテレビ局を退社。そして退社2か月後に結婚することなく病気で亡くなってしまう。

 実は柳原小夜子は、すでにテレビ局で仕事をしているときから、不治の病に罹っていて、退社するときは、余命わずかな状態だった。

 柳原小夜子が亡くなってから16年後、章太郎は担当する番組の中継映像で憧れの柳原小夜子の姿をみてしまう。小夜子はすでに亡くなっているはずなのに。

 この女性、名前は菊池小夜子16歳の高校2年生。菊池小夜子は、養父母に育てられたが、養母が亡くなり、養父は酒浸りで仕事はせず、しょっちゅう小夜子を殴りつけ、小夜子は体中傷だらけ。暮らしは小夜子がアルバイトで賄うがとても賄いきれない。

 養父は莫大な借金を抱えている。ある日小鳥遊(タカナシ)というヤクザが現れ、借金を全部肩代わりするから、小夜子をくれと要求、養父はその要求をのむ。小夜子は絶望的な気持ちになり、売られる前に実母に会いたいと思い、噂で実母がいるといわれている長崎に家のある福岡から歩いて向かう。

 そして長崎にやってきて、フラフラ歩いている時に、章太郎が担当している番組の映像に姿が映ったのだ。

 そのブラブラしていた小夜子がコンビニで万引をする。それを、章太郎と一緒に番組を務めている若い女性アナの胡桃が発見。万引き商品のお金を払い、自分のマンションに連れて行く。

 そこから、小夜子の実母探しと迫ってくるやくざとの戦いが始まる。
一貫した、阿蘭陀テレビ局スタッフの小夜子を守り抜く姿勢に心が打たれる。それから、小夜子を暴力養父から救い出そうとしている小鳥遊も優しく小夜子想いの善人だと明かされる。クライマックスの小夜子を支えるテレビ局スタッフと小夜子を奪おうとするヤクザとの戦いは迫力があった。

 しかし、作者村山が、むりにこじつけた、章太郎が人生を変えた、柳原小夜子への憧れ、村山もそこが肝心なのだが、いかにも動機として弱いと思ったのか、そこをしつこく割いたページ数が長すぎた。物語の構成バランスが悪すぎ。小説家としての未熟さを感じた。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 05:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

葉室麟   「蛍草」(双葉文庫)

 作者の葉室は私と同じ、1951年生まれ。だから同じ時代の空気に包まれ育ってきた。私が小さい頃はまだテレビが放送を始まったばかりでテレビのある家は殆ど無かった。その時代は、少年少女向けの月刊漫画雑誌が全盛時代。子供たちはむさぼるように、漫画雑誌に夢中になった。

 当時はみんな貧乏だった。そんな時代を背景に、物語の主人公は不幸で貧乏な少年少女。
しかし、どの主人公の少年少女も悪いことは大嫌い、可愛く健気で懸命に前を向いて生き、やがて、悪人を暴き、対決してやっつけるという話が多かった。

 この物語の主人公奈々。父親が城で悪の罠にはまり、城内で刀をふりまわす事件を起こし切腹を命ぜられお家断絶となる。

 それで、奈々は、町にでて、武家の女中になり奉公にあがる。2人の子供にもなつかれ、武家の夫妻にも愛されながら、懸命に女中として尽くす。ところが、奈々を支えてくれた、奥様が病気で亡くなり、旦那は悪の罠にはまってしまい、無実の罪を着せられ、遠い国へ流罪となる。

 奈々と子供は屋敷を追い出され、奈々と子供はどん底に追い詰められる。私の少年時代の漫画では、こういう時には必ず、悪に対抗する、情や義を第一とする親分が登場して不幸な奈々と子供たちを助けてくれる。

 そして、奈々は悪の首謀者との仇討ちに立ち上がる。この仇討ちを奈々は成し遂げることにはならなかったが、ここで、悪の企みが暴かれ、悪の一派は撲滅され、首謀者は切腹となる。

 文章もリズム感があり、少年時代をなつかしく彷彿させてくれた。
私は、こういう作品が好きだ。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:36 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

千野隆司  「おれは一万石 麦の滴」(双葉文庫)

 「おれは一万石」シリーズ第4弾。

この作品、2つのことを知っておかねばならない。
徳川将軍でも、その親族係累が治めている大名がいる。御三家といわれ、水戸、尾張、紀州である。江戸将軍は、もちろん日本全体を統治、法律も指示もだすわけだが、徳川家だけで
御三家を集め、取り決め、例えば江戸老中を誰にするかなどを決める。
 同じように、正起、正広が世子としている、高岡藩、下妻藩でも井上家として、その領袖浜松藩井上家の指示に従わねばならないことが一点。

 次に下妻藩の世子となっている井上正広は藩主井上正棠の長男で正室から生まれたのだが、正棠は正室を嫌い、側室が生んだ正建を世子にしたかった。その結果、未だに、配下の武士の中に、正広派と正建派が存在していて、正建派は正広を世子から転落させようとしていること。

 この作品、本家浜松藩井上家より、井上家の菩提寺になっている浄心寺の改築することが提示され、高岡藩、下妻藩に費用200両のお金を出すように申し渡される。更に檀家からの寄進のお金も集めねばならない。
 高岡藩も下妻藩も、天明の凶作により、金蔵に余っているお金など一銭もない。このお金をどうやって創るかが、この作品のテーマ。

 天明の大凶作が続いている。そのため米不足になり、米の価格が暴騰している。こんな時、庶民は米に麦をまぜて飯を炊く。それで麦不足も顕著になり、麦の価格も暴騰することが予想される。

 正起、正広はここに目をつけ、米穀問屋の蔵にある麦を買い占め、麦の価格暴騰を待ち、売って二百両を捻出しようとする。

 正広を失脚させようとする勢力が、この買い集めた麦を舟で輸送時、舟をひっくり返して、麦を紛失させ、二百両を回収できないように邪魔をする。

 他の一万石シリーズでは、窮地を脱するために、正起、正広ともアイデアを絞り出し実行するが、この作品では麦相場や為替相場に手をだし、金を捻出する。

 知恵で戦う場面がなく、相場とは千野らしくない安直な方法。いくら、相場の上げ下げに一喜一憂する場面を描いても、面白さは無い。
 4巻目は期待外れの作品だった。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 06:01 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

≫ EDIT

川上弘美選  「武田百合子」(文春文庫)

 川上弘美が愛し、尊敬してやまない、武田百合子のエッセイを選び編んだ作品。「富士日記」を中心に編んでいるので、殆どが既読作品ばかり。

 しかし、武田百合子の名著「富士日記」驚愕の作品だった。失礼とは思うが、その天衣無縫、破天荒なところは、黒柳徹子の「窓際のトットちゃん」以来。面白かった。

 このエッセイ集で知ったのだが、「富士日記」は、夫武田泰淳が自分も書くから、百合子も日記をつけなさいというところから始まったようだ。百合子はとんでもないと断ったのだが、その日の食事メニューだけでもいいから書きなさいと言われしぶしぶ始めたらしい。

 だから作品は、一般読者を対象にしたものではなく、夫武田泰淳だけに見せるため書いた作品だった。百合子が亡くなって、遺品整理をしていた時、日記が書いてあるノートが発見され、遺族の承諾をとって雑誌に掲載された。

 そう意識してなく読んでいたので、この作品で初めて知ったのだが、東京の自宅から富士山麓の別荘までや山麓での移動は、百合子が運転。泰淳は運転免許を持っていなかったようだ。エッセイで描いた時代、昭和40年代、山など舗装はされておらず、悪路ばっかり、そんな時代に女性で自動車免許を持っている人は殆どいなかった。百合子は昭和20年代に免許を取得して、しょっちゅう愚連隊の連中とやりあっていたらしい。「富士日記」でも、追突してきたトラック運転手との泰淳を含んでのやりとりが一番面白く印象に残っている。

 「富士日記」以外でのエッセイも載せてある。その中で印象が強く残ったことを記す。

 日の丸弁当というご飯に梅干しだけがのっている弁当がわびしい弁当の象徴としてよく語られる。この弁当は戦争中、前線で戦っている兵隊さんを偲ぶということで、毎月1日と15日、軍部の指示で始められた弁当だそうだ。

 戦後すぐにデパートに行く。すると衣服販売のところで、自由に試着してくださいとの張り紙がある。だけど試着室が無い。それで客は窓際に品物を持ってゆき、身に着けている衣服を脱いで試着する。それを、たくさんの警備員がじっと見ている。万引きを防ぐためだ。

 私が小さい頃走っていたバスはオンボロだった。乗ると椅子のシートがよくはがれていた。そしてその中身が飛び出していた。中身はなんと藁だった。東京の電車も藁だったと百合子が書いている。

 百合子は戦争直後、銀座のバー「らんぼお」で働いていた。文壇人が集まったバー。
そこにやってきた泰淳が、酔っぱらって「君のオッパイを吸いたい」と言った。百合子は何のためらいもなく乳房を露出する。それを泰淳が「少し嚙むようにモガモガと吸った。」そこから2人は夫婦になることに向かって走った。

 このエッセイ集は、百合子と泰淳の2人の愛が溢れている。

ランキングに参加しています。ぽちっと応援していただければ幸いです。

| 古本読書日記 | 05:59 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

| PAGE-SELECT |