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2023年12月 | ARCHIVE-SELECT | 2024年02月

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宮下奈都    「ワンさぶ子の怠惰な冒険」(光文社文庫)

 愛犬の柴犬ワンさぶ子の独白を含めた、宮下さんの日記風エッセイ。

作家のエッセイというと、執筆風景中心、なかなか筆が進まなくて呻吟するとか、編集者との交流を描くのが定番。ところが、このエッセイは、そんな部分もちょっぴりあるが、殆どすべてが日常のスケッチ。

 淡々と描かれているように見えるが、これは普通と違う、これだから宮下さんは、次々ベストセラーを紡ぎだせるのだと思った作品だった。このちょっとが、凡人作家とは大きな差になる。

 宮下さんは、今は福井の小さな町に生活していて、元々はご夫婦と長男、次男、娘さんの5人暮らしだった。
 長男が大学生で東京暮らしになる。変わっているなと思ったところは、長男が誕生日のとき、家族一人一人がカードを作り、お祝いのメッセージを長男に贈る。

 宮下さんが仕事で東京に泊まったとき、コンビニからおやつと飲み物を買って、ホテルの部屋に戻る。袋を開けるとそこに買っていないヨーグルトやクラッカーが入っていた。

 面倒だと思ったが、またコンビニに行き、この商品間違っていると戻す。そのとき、間違えた店員がベテラン店員から叱責を受けていた。ベテラン店員と間違えた店員が、大きな声で深々と頭を下げ「ありがとうございました。助かりました。」と言う。

 ここまでは、あるかもしれない。しかし、この後、店にいたお客さんから大きい拍手が沸き起こった。これは無い。まさに宮下さんのオーラが店中に鳴り渡った瞬間。

 宮下さんが、その東京から夜中福井に帰る。福井で越前鉄道に乗り換え最寄りの駅に到着する。すると、次男と娘が出迎えにでている。そうか、車で迎えにでていたのかと一瞬思う。しかし待てよ、次男はまだ高校2年生。免許は持っていない。その後、出迎えた子供たちと歩いて帰ったとエッセイは続く。こんな家庭は想像つかない。暖かい家庭を宮下さんは創っている。

 そして、娘さんの天然ぶりが本当に愉快。
宮下さんはカキフライが大好物。すると娘さんが、カキフライならいつも行くうどん屋で食べられるよと言う。半信半疑で附いて行くと、メニューのトッピングに「かきあげ」とある。そこをさして娘さんが「あるでしょう。かきフライ。」と。

 英作文で日本語と英語とどちらが好きかという問題がでた。その解答
「I liker Japan」
私は財布をなくした。
「I lost washlet.」「お尻を拭く機械をなくした。」先生が変な回答をした人がいたと答案用紙を返す前にみんなに言う。娘さんもその時声をだして、みんなと笑った。

 宮下さんは、これからもずっと魅力いっぱいの作品を創りだせると、確信したエッセイ集だった。

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大山淳子   「あずかりやさん 満天の星」(ポプラ文庫)

 大好評の「あずかりやさん」シリーズ第5弾。4作品が収録されている。

あずかりやとは、全盲の主人公桐島がやっている店。何でも一日100円預かってあげる。料金は前払いで、決められた期日に取りにあらわれない場合は、桐島が自由に処分できる。

 真夜中、20歳の男が誰もいない商店街を歩いていた。男はひたすら怒っていた。

男ははっきりとわからないが5歳位のとき、小学校の門のところに捨てられていた。自分の名前も、両親の名前も、住んでいたところもわからない。それで医者に診てもらい5歳くらいと判断された。男には手の甲に金魚の彫り物がなされていた。持ち物は、これで世の中をわたっていけと父親から持たされたのか万能ナイフがあった。

 その金魚の彫り物のため、全ての人から敬遠され、施設に収容されたが、一人も話をしてくれる人はいなかった。

 18歳で施設をでて、流浪していた。そして、今夜完全に行き詰まり、誰でもいいからナイフで人を殺そうと思っていた。

 そんなとき、商店街のある店にたどり着く。もちろん灯りはなく真っ暗。しかし、玄関の引き戸をひくとがらがらと開く。店に入ると誰もいない。レジがあったので、開ける。やけに100円玉が多いレジ。札束と百円玉を別々にポケットにいれ、ナイフを構えて、あたりを見回す。

 すると全盲の男が現れる。男はナイフの持つ手に力をいれる。そして、何の店なのか聞く。
男が答える。何でも一日百円で預かる店ですと答える。

 男は言う。今はなにを預かっている?高価なものはあるか。と。この間預かったのがタバコ2箱。何でそんなもの預けるんだ。わけは聞きません。どんなものでも大切に預かります。
 店主は奥に行き、ハーブティーを作って持ってきてくれる。

男は生まれてこのかたこんなに他人と会話したことはなかった。暖かい雰囲気にいざなわれて、辛い過去を思わず店主に話す。

 すると店主は、奥から古いオルゴールを持ち出してくる。
「このオルゴール、50年の契約で預かっていますが、預けた方はすでに亡くなっています。このオルゴールと家にあるお金全部さしあげましょう。オルゴールはタワーマンション一戸買えます。」

 男はオルゴールを鳴らす。優しい音色で思わず笑う。
店主は言う。
「このオルゴールは、金持ちの人でも、貧乏な人でも、差別せず同じ音色をかなでます。

男はレジから奪った金を返し、何も取らずに店をでてゆく。
それから、男は工務店で働くようになる。

ある日、川に落ちてしまった少年を川に飛び込み救ってあげる。少年は助かったが、男は沈んだまま浮かんではこなかった。

 ありがちな物語だが、「あずかりや」を経由すると、色彩が鮮やかになる。収録されている「金魚」より。

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北野武    「首」(角川文庫)

 北野武が監督した映画「首」のノベライズ作品。
信長が本能寺の変で殺され、それを秀吉が謀反者明智光秀を討つまでを描く。

 映画は見てないが、総製作費が15億円の大作、興行収入は8億円で北野作品では完全に失敗作に終わったようだ。

 戦国時代はおびただしい数の合戦がなされたが、その結果の褒章、即ち大金獲得及び出世は、いかに合戦で、相手のより地位の高い者を討ち取り、その首を持ち帰ったかにより決定された。その場合、元々の身分は考慮されず、戦果だけが評価された。

 というわけで、武士ではなく、農民や流浪者が、合戦に加わり、戦果をあげ、戦国武将の側近に取り入れられることもあった。

 鬼才北野制作だから、史実とは離れた、北野特有の創作があるかと思ったが、およそ物語は史実に従った作品になっていた。

 この物語には、狂言回しとして噺家の曾呂利新左衛門という人物が登場する。この曾呂利新左衛門は実在の人物で、日本で最初の噺家だそうだ。

 信長は武田との戦いを制すれば、天下統一がほぼ実現しそうな状況にあった。それで、織田家の後継者は、家康、秀吉、光秀の3名の合戦での働きにより決定すると3人の前で宣言し、彼らの奮闘を煽った。

 ところが、先ほどの曽呂利が、当時日本にやってきていた耶蘇人より信長が息子信忠にあてた書状に写しを手に入れる。その書状によると家督は、息子の信忠に譲ると書いてあった。

 これを耶蘇人から、家康、光秀、秀吉はみせてもらう。
このことが、信長天下を終わらせる要因となった。

 本能寺の変が終わり、戦った者たちが、これぞ光秀の首と称して、秀吉の前に持ってきた。その数3000。秀吉が検分する。「これも違う、あれも違う」

 その中に、これぞというのを見つけた。そのとき、一緒に立ち会っていた曽呂利が言う。
「それは光秀とは違う。百姓茂助のものです。」

秀吉はもういいやと言って、検分を投げ出す。戦は勝てばいいんだと。ここから落語の落ちが始まったのかと思った。

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中山七里    「おわかれはモーツァルト」(宝島社文庫)

 デビュー作「さよならドビュッシー」から続く、シリーズ7作目。

主人公は天才ピアニストの榊場隆平。榊場はショパン コンクールで2位入賞の栄冠を獲得。加えて隆平は全盲。そして日本凱旋コンサートツアー行うことになる。

 ここにゴロツキ フリーの雑誌記者寺下が現れる。寺下は隆平とのインタビューで、「全盲は擬態で、実は隆平は目が見えるのでは」と疑問を投げかける。しかも、この寺下はコンサート一日目、聴衆として会場に現れ、「全盲はうそだ」と大声で野次をとばす。

 ここから隆平の演奏は崩れ、完全にコンサートは失敗に終わる。

小説はここまでが長い。ほぼ半分を費やす。その多くが、モーツァルトの曲がいかにすごく素晴らしいかを微細にわたり描かれる。さらに、隆平の演奏が実に鮮やかにそのモーツァルトを表現しているかを曲に沿って解説する。

 物語が動くのではない、ひたすらモーツァルトと隆平の演奏にたいする賛歌につぐ賛歌であまりクラシックに知識のない私はいささか戸惑い辛い。

 で、ここから悪辣な寺下との泥沼の戦いが始まるのかと思ったら、一気に目が覚めたのだが、何と隆平の自宅の練習室から、寺下の銃殺死体がみつかる。
 当然、警察は犯人は隆平と認識する。

追い詰められた、隆平は同じショパンコンクールでファイナルまで残った、これも天才ピアニスト岬洋介に事情をメール。で、岬によりどんどん捜査が進むかと思ったら、さんざんの評判だったツアーコンサートに岬が参加することになる。それによってコンサートの勢いを盛り返し、2回目のコンサートはブラボーの嵐がやまないコンサートになった。

 捜査が進展しないのは、またまた作者中山が2人の演奏を微細に解説しながら描写するからだ。

 で真相は、最後の10ページほどで描かれる。この真相が今まで眠気を誘う演奏描写から一気に目を覚まさせる内容。こんなのありかと思ってページを前にたぐっていったら、確かにささやかに仕掛けが仕込まれていた。その鮮やかさに、眠かったことすべてを忘れてしまった。

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千野隆司   「おれは一万石 出女の影」(双葉文庫)

 「おれは一万石」シリーズ第16作目。この作品も実に面白い。

作品のテーマは参勤交代。高岡藩、今まで藩主の井上正国が幕府の奏者番をしていたため、参勤交代は免れていたが、その任を解かれ20年ぶりに幕府より参勤交代実施の命令が下る。
 ところが、高岡藩は小藩、天明の飢饉もあり、財政がひっ迫。とても、参勤交代の費用など出せる状況ではない。

 参勤交代で、莫大にかかる費用は次の3つ。

①行列の武士が持つ、矢や刀などの武具類。前回の参勤交代が20年前。使えなくなった武具を新品にして買え揃えねばならない。

②行列の武士を揃えねばならない。常時、参勤交代用の武士は配下に用意してはいない。大概は、武士を用立てる口入屋から、派遣社員のように、用立ててもらう。しかし、この費用も大きく、高岡藩では用立てることは不可能。

③旅程にかかる費用。宿泊費や、食事代など。

このうち①は、武具をできるだけ修理して使うことでまとまる。

②は、主人公高岡藩の世子井上正起が札差や藩と関係のある、大富豪を回るが、老中松平正信の発布した義捐令のため、お金が回らなくなり、どこも貸し渋りで金を貸してくれない。

弱り切って、正起が妻の京に愚痴を言うと、妻が故郷の高岡藩より、百姓などを集めて参勤交代の人員にしたらと言う。武士の作法など全く知らないしできない農民たちとは思ったが、それ以外にやりようもなく、俄かに農民を集め、作法を訓練し起用する。
それでも、40両という大金が不足。

 以前、大奥若年寄の滝川、幕府より与えられた拝領屋敷の運営が窮地に陥る。これを正起が助けたことがあった。滝川は高岡藩の隣の萩原村に生まれたが、幼い時母親がなくなり、父親の妹のおばさんに育ててもらった。そのおばさんが余命3か月の重病にかかっていて、どうしても、亡くなる前に会いたいという強い希望を持っていた。

 大奥の女性は、幕府の許可がないと、江戸城の外にでることはできない。家族が亡くなる場合は外出はできるが、滝川の場合はおばさん。これは外出不可能。

 それで、滝川は正起に参勤交代に紛れて連れて行ってほしいと依頼。不足する40両を全額負担すると申し出る。

 これがばれると、高岡藩はお取り潰し、藩主や正起は切腹せざるを得なくなる。しかし危険をおかしても実施せざるを得ない。

 この話を掴んだ、高岡藩と正起に強い恨みを持っていた、白川藩の用人が高岡藩の参勤交代行列を襲う。ここが物語の白眉。本当に手に汗握る描写の連続。

 いつも思うが、作者千野の想像力と創作力と物語の組み立て力には感動すら覚える。そしてとにかく江戸時代の政治、生活、経済について細かいところまで熟知している。

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吉川潮   「浮かれ三亀松」(ランダムハウス講談社)

 私の家は、高校生になるまでテレビが無かった。それで、もっぱらラジオにかじりついた。小学校の頃は、ラジオは寄席番組が花盛りだった。落語が大好きになった。しかし、古典落語、前座のやる話は単純で面白かったが、本格的古典落語は小学生には少し難しかった。それで、もっぱら新作落語が好きになった。

 この寄席番組にしょっちゅう出演していたのが、この本の主人公柳家三亀松。都都逸、新内など音曲の名人、更に今の林家木久扇が時々洒落でやる、往年の大俳優、大河内伝次郎、坂東妻三郎の声帯模写がおはこだった。

 そんな俳優や音曲など知らないし、三亀松が登場すると、早く終われ!とラジオに向かって声を上げた。しかし、三亀松の人気はすごかった。売れっ子落語家、漫才師より大きな声援が沸き起こった。

 昭和前期から中期まで、大芸人と言ってよい、柳家三亀松の生涯を本作品は描く。

三亀松の人生の特徴。

まず、関係を持った女性がたくさんいたこと。弟子の亀松に関係を持った女性のアルバムを見せる。50人が写っていた。三亀松が言う。この写真に写っているのは、見栄えスタイルがいい女性だけ。どうでもよい女性はこの何倍もいる。

 こんな三亀松が、驚くことに宝塚の娘役のトップスター高子に舞台を見に行って気に入り、その夜ご飯に誘い、結婚してくれとプロポーズ。さらに高子はOKとプロポーズを受ける。しかし高子はどうやっても体を許さない。体を許したのは、結婚してから。

 披露宴の途中、突然新郎の三亀松が失踪する。そして三日たって現れる。その間、今つきあっている女性が5人いて、手をきるために走り回っていたと言う。

 次に、とにかくお金をあたりかまわずばらまく。東京駅の駅員にものし袋にお金をいれて差し上げる。これで、東京駅では神様のような扱いをいつも受けていたという。

 それから交流した人がやたらに多い。

少し前まで、話題をふりまいた悪名高きジャニーズ事務所。そのジャニーズが発足、その大タレント事務所の基礎を築いた、初代グループジャニーズが解散するといって、相談にきたのが三亀松。大スター石原裕次郎の対談番組が企画された。その時石原裕次郎がだした条件が最初の対談者は三亀松でないと、この企画は受けないという。
 作家吉行惇之介は人生の師匠と三亀松を敬う。

三亀松が大阪吉本に事務所を移った時、吉本から三味線ではなく、バックに西洋楽団をつけたほうがいいと言われ、ピアノ奏者久保益雄が起用される。その後久保は専用伴奏者となる。

最初にピアノ伴奏をした時、久保には可愛い赤ちゃんがいて、三亀松は、この赤ちゃんのおしめをかえたり世話をしてあげた。この赤ちゃんが江利チエミである。

 三亀松芸人40周年記念公演の最後のトリをしめたのが江利チエミと美空ひばりだった。

この作品では、多くの三亀松が作った、新内や都都逸が紹介されている。その中で私が一番だと思った作品を記しておく。

 あの虫は 粋な虫だよ 蛍じゃないか
 忍ぶ恋路の 道ょ照らす
この道ょを「みちょ」と唄うところが最高。

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千野隆司   「おれは一万石 繰綿の幻」(双葉文庫)

 「おれは一万石」シリーズ第11作。昨日第12作を読んでいるので順番が逆になっている。大丈夫だろうか少し心配。

 この作品では2つのことが繋がって、読み応えのある作品となっている。

表題にある繰綿とは、関西以西で栽培が主に行われている綿花のこと。この綿花が上方から運ばれ、紡がれ綿製品、木綿衣料となる。木綿製品は関東から東北にかけて寒い地域での主要衣料となり需要が多い。

 一万石の小大名高岡藩主井上正国は幕府の奏者番に任じられている。奏者番は将軍の警護を行う役、常に将軍とともにいるので、更に出世できる可能性が高い地位である。それで、この奏者番は、他大名や大旗本にとってはつきたい役。この役を正国が争ったとき、正国に敗れたのが亀山藩主石川総博の次男で大旗本の石川総恒。で、石川家は正国、井上家に強い怨念を抱いている。

 事の起きた年は、木綿の原料になる繰綿が豊作で価格が下落傾向にあった。高岡藩で勘定を担当している井尻に、繰綿問屋の庄九郎が繰綿はこの先更に値が下がる。空売りすれば、値が下がるから大きく儲かると、空売りを勧める。堅物だった井尻がこの誘いに乗ってしまい10両の空売りをする。

 ところが、繰綿2500貫を積んで江戸に向かっていた菱垣廻船が下田沖で居所がわからなくなり、江戸に入ってこなくなる。これを契機に繰綿相場が値上げに転じる。このままでは高岡藩の勘定に大きな穴があく。

 この陰謀は、奏者番になれなかった石川総垣と相場を操作して大儲けを目論んだ繰綿問屋蓬莱屋の庄九郎、諸色問屋郷倉屋の庄吉がつるんだ諮り事だったのだが、これをどのように仕組んだのかその手口の造りが見事。作者千野の変わらない創造力に脱帽。

 その創造力。

まず、事故にもあっていない廻船が不明になったのはどうしてか。廻船が積んでいた繰綿2500貫は、江戸に着いているはず。どのようにして、江戸に運ばれたか。更に江戸で通常倉庫に隠匿したならば、正起たちが探索すればその倉庫を突き止めることはできるはずだが、その隠し場所が見つからない。倉庫でなければ繰綿の隠し場所はどこか。

 江戸時代の物流、風習、規則を丹念に調査して、見事に謎を構築し解決している。これなら、このシリーズがベストセラーになっていることは納得できる。

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千野隆司   「おれは一万石 慶事の魔」(双葉文庫)

「おれは一万石」シリーズ12作目。

大名ギリギリ一万石の高岡藩に婿入りし、世士となった主人公の井上正起、いろいろ危機に直面それを乗り越えてきた。そこに慶事が生じた。嫁京が妊娠し娘孝姫が誕生した。また、身分を超えて、高積見回り与力山野辺庫之助も許嫁ができてこちらも慶事が生じた。

 このシリーズの前作で、江戸城留守居役大身旗本5千石の石川総恒と繰綿問屋蓬莱屋庄九郎、諸色問屋郷倉屋庄吉の3者で、繰綿を隠し、相場をつりあげ大儲けすることを企み、それが幕府に露見。石川は役のはく奪、庄九郎と庄吉は商売の禁止及び手鎖の刑が科せられた。

 そんな時、関西淡路屋から超高級菜種油100樽を積んだ船が、高岡藩の管理する高岡河岸に到着。そのうち98樽は、更に違う舟に載せ替え、関東地方に配送されるが、2樽は慶事のお祝い品として主人公正起あてに贈られていた。一方山野辺にもお祝いの品として灘の高級酒が2樽正起より贈答ということで贈られてくる。

 山野辺に正起がお酒を贈った事実はないし、高級菜種油2樽は、娘誕生祝としてはあまりにも高額で、あり得ない贈答品だった。しかし2人はそれぞれの品の受領確認証を発行していた。正起と山野辺は、これは庄九郎、庄吉の仕業と思い、行方を探すが、すでに彼らは行方をくらましていて居所がわからない。

 そうこうするうちに、高級菜種油100樽は幕府御用達品で、それが納期まで収められていないことが発覚、その行方がわからず、しかも2樽は正起に贈られていることが判明、その繋がりで高級酒が山野辺に贈られていることが判明。

 正起と山野辺は高額賄賂を受けたということで幕府の取り調べを受ける。

このままでは、正起も山野辺の重い罰を受け、高岡藩は大名から落ちることになってしまう。しかし首謀者と思われる庄九郎、庄吉の行方は不明。捜査は行き詰まる。さあ、この窮地をどう突破するのかが、物語の読みどころ。これが、感服するほど素晴らしい。それに、折に触れ、正起の嫁、山野辺の許嫁綾乃が事態突破のためのヒントをささやく。ここも、憎い演出。最期までハラハラドキドキが止まらない。千野の力量に驚愕する。

 おれは一万石シリーズ今まで読んだ作品で最高の出来だった。

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藤井邦夫   「律義者」(双葉文庫)

 新・知らぬが半兵衛手控帖シリーズ15作目。初めて読むシリーズなので間違っているかもしれないが、物語のきっかけは次のようにできている。

 主人公の半兵衛は北町奉行所の臨時廻り同心。上司に吟味方与力大久保忠左衛門がいる。

半兵衛は臨時だから、当番同心がいて、何か事件が起きればその同心が捜査をするのだが、事件が起きた時に、当番が不在の場合、大久保は臨時の半兵衛に捜査を命じる。半兵衛は損な役回りを演じている。

 そして半兵衛は、部下の岡っ引き半次と下っ引の音次とともに捜査をする。

今回の大久保からの依頼。大久保の剣道場仲間で400石取りの旗本成島家の当主、成島平四郎が突然失踪して、行方がわからない。この平四郎を探せというのが大久保の指示。

 平四郎は同じ旗本250石の村川家の部屋住み。それで、跡取りのいない成島家の娘静乃に婿入り、当主となり20年、その息子恭一郎が16歳で元服したばかりでの失踪。

 長い捜査を経て、「香露園」という茶問屋に行きつく。この「香露園」の若旦那淳吉が悪賭博に引っ掛かり莫大な借金を抱える。そして引っかけた陣内が、殺害される。

 この「香露園」には若旦那淳吉に嫁いだみながいて、その娘で2歳になるちよがいた。
実は、平四郎とみなは愛し合っていて、結婚の約束までしていたのだが、平四郎の兄の命令で成島家に行かされる。

 平四郎は、成島家で息子が16歳で成人して、後継者として成島家を背負えるまできた。

みなにも娘ちよができ、香露園の問題は、若旦那の賭博狂いとそれに巣くう陣内。それで、平四郎は成島家を密かに出て、陣内を殺害。かっての恋人みなと娘が幸せに暮らせるようにしてあげた。

 江戸小説のいいところは、現代なら平四郎も殺害犯となって罪に問われるが、温情で罪を問わないことになるところ。平凡な物語だが、暖かい雰囲気でよい。

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千野隆司   「おれは一万石 大奥の縁」(双葉文庫)

 「おれは一万国石」シリーズ15作目。

美濃今津藩3万石より高岡藩1万石の娘京に婿入りして高岡藩井上家の後継者となった主人公の井上正起、1万石を1石でも減封されると、藩は解体、しかも藩財政は借金の山で首が回らない状態。藩財政改革まったなしで奮闘しなければならない。この苦闘、奮闘をこのシリーズでは描く。

 紹介の15作目では3つの基本問題が動く。

時代は、老中田沼意次が失脚して、白川藩松平定信が老中として居座った時代。
この物語によると、老中を決めるのに、重要な力を発揮するのが大奥年寄。当時の年寄は大崎、高橋、高岳、滝川の4人。このうち大崎、高橋は定信擁立派で、高岳、滝川は反対派だった。

 井上家は、尾張徳川に連なっていて、正起は松平反対派。

大奥の最高権力者年寄への幕府からの支給金はたった50石。合力金60両10人扶持で少ない。幕府はそのため「拝領町屋敷」を下賜している。年寄はこの屋敷を貸家や商売人に貸付その上がりの何割かを収めてもらい、大奥の生活を維持している。

 物語の一つ目は、この滝川の「拝領町屋敷」に正起が商売人を結びつけ、その上がりのいくらかを滝川と高岡藩で分け合うことを目論むが、これに何者かが屋敷を襲い殺人までする。この真相はどういうことかが一つ目。

 二つ目は、旗本は幕府から屋敷を拝領される。土地は幕府の所有地、使用権が与えられる。
そしてその使用権を大名が交換することができる。交換は必ず等価。しかし、場所により価値が異なるため、その差額を引料として支払うことで価値の差を埋める。

 三宅、大島、野崎の3旗本がこの使用権の交換をしようとする。ところが不思議なことに、大島の屋敷は、自殺者がでたりして、呪われた屋敷となっており、住人が誰もいつかない。三宅はそんな屋敷でも構わないと交換を進めようとする。
 なぜ三宅はこんな大損をする取引をするのか。
 
 それから、江戸に大嵐が到来。滝川の屋敷が崩壊しそうになる。これを正起たち高岡藩士が懸命に守る。これが3つ目。

 3つとも老中松平派と反松平派が絡む。特に屋敷交換のくだりは緊迫感があり面白い。

千野は、江戸幕府時代の独特の制度を物語に生かす。その制度によって引き起こされた問題を、想像力たくましく物語にする。すべての物語のベースに確かな史実がある。これが物語にリアリティを生じさせている。

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藤原緋沙子  「恋指南」(双葉文庫)

 藍染袴お匙帖シリーズ6作め。3作品が収録されている。

武士の階級に中間というのがある。この中間は旗本だけど、3つの階級がある。幕府のために登城し、幕府を守る中間。それから各藩の江戸詰で、江戸の屋敷を守る中間。それから、参勤交代で藩主とともに田舎からやってくる中間。田舎からやってくる中間は一番位が低い。

 旗本中間で無役の菊池求馬の親友に同じ中間の山本金十郎がいる。
この金十郎が深川門前仲町の岡場所「伊那屋」に行く。そこで、はぎのという女郎に惚れる。そして、はぎのを嫁にすると言い出す。

 深川岡場所がどれほどのものか知らないが、身分の低い中間武士が岡場所の売春女性と結婚するなどあり得ない。

 女郎というのは、直接か女衒を通して、少女を買い取る。この女郎を嫁にするということは、その買い取ったお金、それから少女が大人になるまでの費用、更に、この女性が、売春により稼ぎ出す費用を全部計算して、その大金を身請けの費用として女郎部屋に支払わないと結婚などできない。当然、そんなことができるのは、商売で成功した大金持ちや高利貸しくらいしかいない。
 ところが、この作品では、友人の求馬と主人公の千鶴が、わざわざ女郎部屋を訪ね、はぎのに会い、金十郎に代わり、金十郎の想いを伝え、答えを聞く。常識的にあり得ない。

 だからはぎのの回答もこうなる。

「ご覧の通り、私は岡場所の女です。金十郎さまのお気持ちは身に余る思いですが、女郎は売り物、買い物、私にとってはどのお客さまも大切なお方、そのようにお伝えくださいませ。」
「どなた様も同じです。私にとってはただのお客・・・・」
「天下のお旗本のご子息が何を世迷い言をおっしゃるのでしょうか。私は女郎です。男に春を売っている下賤な女です。」
「はっきりと私の気持ちをお伝えします。私は金十郎さまの気持ちが煩わしく思っています。」

 この先、金十郎とはぎのに関連してたくさんの騒動が起こる。しかし、その女郎と地位の低い旗本との結婚というあり得ない前提に首をかしげていたため、作品に乗り切れなかった。

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藤原緋沙子   「風光る」(双葉文庫)

藍染袴お匙帖シリーズ第1巻。藤原は時代小説家の第一人者で多くのシリーズ作品を発表している。

 表題のシリーズ作品の主人公若き女医桂千鶴、長崎でシーボルトに医学を学んだ後、死亡した父の後を継いで神田で桂診療所の主をしている。

 この診療所には助手のお道と、父の代からいる女中のお竹がいる。
それから、菊池求馬、家禄200石の旗本若き当主。しかし、無役のため、暇をかこっている。それで、千鶴の周りで起きる事件を勝手に捜査して駆け回る。しょっちゅう千鶴の診療所にやってくる。

 そして浦島亀之助。南町奉行所の同心。この亀之助も普段仕事は無く、事件が起き、応援依頼があるときだけ、捜査に参加する。人柄はいいが捜査官としては物足りない。
 そして、この亀之助の手札、部下で岡っ引きの猫の甚八。

紹介した本には4つの作品が収録されている。

 面白いと思ったのが、4作目の「走り雨」。

藩にとって最大の失敗は、幕府の怒りを買い、藩のお取り潰しや減封の処罰を受けること。

 出羽国本山藩は5万石だったのだが、不作が続き、幕府から半分の2万5千国に厳封され、領地の3分の一を幕府に召し上げられる。当然、配下の武士の俸禄も半減となる。しかし何とか武士を路頭に迷わすことなく水準は維持している。

 しかし、配下の部下の中には、幕府の制裁を食らったのは、藩の大目付下妻大和守の裁断が失敗したから、こんな状態を招いたのだと、下妻大和守を襲撃しようとする動きが起きる。

 しかし、真相は、今のままでは、領内の農民が窮乏に瀕し、大量の餓死者が発生してしまう。この農民そして、配下の武士を守るため、下妻大和守と藩主の判断で、領地一部を幕府へ返納、石高削減を幕府に上申し、幕府が認可したものだった。

 当然、真相を下妻大和守や藩主は領内に公開しないため、不穏な事件が起きるのだが、この真相を千鶴、求馬が捜査により、明らかにする。

 罰としてお取り潰し減封の物語は多く見られるが、藩主自ら減封を申し入れ実現するという逆転の発想。藤原が人気作家の地位を獲得した理由がわかる。

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吉屋信子   「紅雀」(河出文庫)

 この作品が発表された1930年は少女小説が爆発的に流行した時代だった。そして少女作家として、その筆頭だったのがこの作品の作者吉屋信子だった。少し前まで、テレビでヒット番組があると、翌朝「昨日のアレ見た?」ということがあいさつ代わりになったものだが、当時はあいさつがわりで学校では、この作品が雑誌「少女の友」に連載されていて「もう紅雀よんだ?」というのがあいさつ言葉だった。

 私の子供時代は、月間少年少女雑誌が花盛り。まだその後隆盛になる、週刊漫画雑誌はまだ発刊されていなかった。
 我が家では姉が今でも健在である「なかよし」「少女クラブ」を愛読。私はもっぱら「少年画報」だった。

 私は「少年画報」の「赤胴鈴之助」「いがくり君」が大好きだった。姉がけちで雑誌を見せてくれなかった。手塚治虫の「リボンの騎士」やちばてつやの「ユカをよぶ海」が読みたくて仕方なかった。

 この作品。両親を失って、辻伯爵家の家庭教師に拾われ、伯爵家で育てられることになった主人公の健気だが、おてんばのあゆみを描く。伯爵家の伊香保温泉の別荘から脱出、しかし途中で激しい雨に出会う。その時の描写。

「雨よ!もっともっと烈しく私を打て!
 雷よ!もっともっと烈しく鳴って私を打て!
 稲妻よ!もっともっと激しく光って私を打て!」
こんな表現に出会うと、子供の頃の漫画を思い出しなつかしさがこみ上げる。

子供の頃、演芸の主流は、講談、浪曲だった。落語や漫才はマイナーだった。
釈台を前において、クライマックスでは釈台をバンバン張り扇で叩き名調子で声を張り上げる。

 そう!この作品の文章表現は少女のための講談そのものだ。

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奥田英朗   「コロナと潜水服」(光文社文庫)

 表題作品を含む、剽軽な怪奇現象を伴った作品集。

 どの作品も、奥田の特徴がよくでていて面白いが、内容は平凡なのだが、ユーモアたっぷりの「占い師」を紹介したい。

 6大学野球で頭抜けたスラッガーだった田村はドラフト1位指名で人気の球団東京メイツに入団する。
この田村と高校時代から付き合っていたのが、主人公の浅野麻衣子。契約金が1億円に麻衣子は舞い上がる。これで、自分の将来のセレブな生活は約束されたものだと。

 しかし田村は一年目から躓き、2軍暮らしが続く。麻衣子は田村がこのままだったら、球団を首になる。そうすれば、ろくな仕事にありつけず、自分はみじめな生活になってしまうとあせりだす。

 麻衣子自身は3流大学を卒業、テレビ局のアナウンサーを目指したが、すべて書類選考で落とされ、仕方なくフリーのアナウンサーとなり、結婚披露宴や商店の新規開店のセレモニーなどの司会を時々して、生活の糧にしている。

 しかし、二軍から一軍に昇格すると、田村はブレークしてホームランは量産するは、首位打者になるは、大活躍。俄然マスコミに注目され、試合前の練習では、たくさんのギャルが内野席に押し寄せ、黄色い大声援を送る。もちろん麻衣子自身もその内野席にいるが、本当の恋人は自分だと、ギャルたちを馬鹿にする。

 そのうち、テレビ局の有名女子アナが田村にインタビューをする。その女子アナの田村を見つめる瞳は完全に☆印。田村もまんざらではない表情。これでは田村は自分から離れてしまうとあせった。所属する事務所の内藤社長に相談すると、原宿の裏通りのビルの2階の占い師を訪ねたらと言われ、藁にも縋る思いで占い師を訪ねる。

 すると鏡子という麻衣子と同じくらいの女の子がそこにはいて、「一緒に水晶玉に祈りましょう、田村の調子が落ちるように」と。それで2人で祈る。

 すると田村は大不調になり、また2軍に落とされる。するとクビになるのではと不安になる。そこでまた鏡子のところに行って、今度は好調になるようにと祈る。すると、絶好調に田村はなる。するとギャルが周りにあつまり、あの有名女子アナとの密会までスクープされる。田村もだんだん麻衣子に逢うのをためらったり、逢ってもホテルで抱き合うだけになる。

 そのたび原宿の鏡子を訪ねる。
そしてある日鏡子の所に行くと、入り口に板がうちつけられていて、ビルは来月から解体すると張り紙がされている。近くの商店の人に聞くと、もう3年前から廃ビルになっていて、誰もビルの入居者はいなかったと。ということは鏡子とはだれ?

 麻衣子は田村のお金と暮らすのが目的?でも少しは田村のこと恋してた?

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長岡弘樹   「切願」(双葉文庫)

 長岡自選の短編ミステリー集。すでに発表して本になっている作品のため、既読作品がけっこうあった。
 その中で、群を抜いて面白かったのが「黄色い風船」。

主人公の梨本は刑務官として、刑務所に勤めている。彼は雌のラブラドール犬名前はリンを飼っていて、夜、犬の散歩を日課としている。

 ある日、散歩をしていると、いつものように伊藤老人に出会う。リンは伊藤老人になついていて、まとわりついて、くんくんと匂いを嗅ぐ。

 別れる際、伊藤がしばらく会えなくなるという。明日から入院して肝臓がんの手術をする。担当の先生は市立病院の簑島先生。
 不思議なのだが、その後5人の男とすれ違ったがリンはその男たちの誰にも見向きもしない。

 梨木は、刑務所に収監されている死刑囚与田を気にしている。7年前老夫妻殺害で逮捕されその後裁判で死刑判決を受けている。死刑囚は判決後平均5年で死刑が行われている。ということはいつ死刑が執行されてもおかしくない状況になっている。

 この与田最近は腹痛で体調不調を訴えていて目も黄色く濁っている。

ある日、囚人の健康診断があった。診断医は伊藤老人の担当医、簑島医師。実は死刑囚は病気に罹っている間は、死刑は執行されない決まりになっている。
 どうみても与田は病気に罹っているようにしか見えないのに、簑島医師の診断は「異常なし」。

 梨本は刑務所長に申し出て、囚人の運動をいつもの単調な運動を中止して、風船遊びに切り替えることを提案して、所長の了解を得る。

 梨本は風船を与田に膨らまさせ、運動が終わった時、あらかじめ用意していた同じ色の風船とすり替え家に持ち帰った。

 そして、翌日与田に言う。「君は重大な病気を患っている。」と。与田はこの前の健康診断では「異常なし」だったので不審に思う。しかし梨本は強制的に医者に診断させる。結果「肝臓がん」が見つかる。

 それで入院して、手術を受ける。手術は成功し、与田は退院する。
その間に、老夫妻殺人犯として、簑島医師が逮捕され、与田は無罪で社会に復帰する。

 梨本が持ち帰った黄色の風船に、愛犬リンが異常にうれしがる反応をしていた。
どうすれば、長岡はこんなストーリーを考えられたのか、本当に感心した。

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千野隆司   「おれは1万石 塩の道」(双葉文庫)

 シリーズ2作目。この本を読んでわかったのだが、1巻目の複雑な人間関係、藩と他の藩との関係がわかっていないと、2巻目の争いごとの根本問題が理解しにくい。すでに、飛び飛びで4冊このシリーズ本を購入している。このシリーズは順番に読んでいかないと、混乱するのだろうか。大いに不安になった。

 江戸時代の塩の運搬。関西赤穂などで精製された塩は大型船にのせられ大市場江戸に運ばれる。この塩は河川運搬用の船に載せられ、江戸に運ばれその後、下総、常陸、上野、下野などにこれも舟が主流で運ばれる。
 また、常陸などで精製された塩も、やはり舟で江戸に運ばれる。

この作品は、2つの視点から描かれる。

 一点目は、高岡藩主の世子である井上正起は、苦しい藩財政を少しでも立て直すため、高岡藩内に船着場を創り、そこから運上金、冥加金を取ろうとする。しかし、他の船着場を持っている、藩や塩問屋が反対、問屋、他藩や、高岡藩内部の正起反対派と正起支援勢力との血みどろの戦いが一つのテーマ。

 2つめは、この争いに絡んでいると思われるのだが、塩の大問屋である伊勢屋の息子が、醤油問屋の前に積み上げられていた、醤油樽が崩れ落ち、下敷きとなり死ぬ。さらにこの事件の犯人と思われた杵造が水死体になって河原に上がる。これらの事件の真相は何か。与力の山野辺が懸命に捜査をする。

 作品の冒頭、醤油樽事件が描かれるので、どうしても、この事件の真相は何なのか頭にこびりついて読み進んでしまう。

 しかし、物語の重点が、船着場の建設、利権の争いに移り、この争いも面白いのだが、死亡事件の捜査描写がすこしおざなりになる。

 そして、最後に2行。それぞれの犯人名が、推理もなく、書かれる。
それはないよ。どういう捜査をして、犯人に到達したか、書いてほしかった。

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千野隆司    「おれは一万石」(双葉文庫)

 本を読まなくなった人が増えて、出版界は大変な苦境に陥っているといわれて久しいが、最近本当に本は売れてないのかと疑問になることが時々ある。確かに、芥川賞や直木賞を獲得した一流作家の作品はなかなか販売数を伸ばす壁にぶつかっている感は否めないが、ちょっと肩の力をぬいて幅広くみてみると、一流文学から外れていて、文学的レベルには低いらしいが、とにかく面白いという本がたくさん出版されていて、そんな本が圧倒的多数の読者を掴んで爆発的に売れている。しかし、こんな本が話題になることはあまりない。

 紹介した作品もその一つで、ドラマ化もされているし、読者に支持されて、シリーズ作品となって、すでに、28作目が発売を待っている状態。

 これから、このシリーズを読み紹介してゆくが、その前提として、物語の構造を理解しておかねばならない。

 主人公は竹腰正起。美濃3万石今津藩藩主だった竹腰勝起を父に持つ17歳。

 正起は、高岡藩の娘京に婿入りして、井上正起となり、やがて藩主になることが決定している

 高岡藩は、一万国の弱小藩。天明の凶作もあり、財政が破綻寸前。もし、一石でも減封されると藩は解体されるギリギリの状態にある。 

物語は、正起が、財政を立て直すために、次々襲い掛かってくる難題に立ち向かい、打ち勝ってゆく姿を描く。 正起と、策謀集団の戦いが興奮するほど面白い。正起の性格が楽しい。思い込んだら、もう一切振り返ることなく猪突猛進。

 やがて大名になる人間が活躍する。こんな設定は殆どない。ドラマでわずか「暴れん坊将軍」でみられる。作者千野の着想力に脱帽。

 江戸時代の物流の主要手段は船輸送。

 この作品で嵐の中、2000本の杭を船で運ぶ場面がある。大揺れの船を船頭が懸命に漕ぐ。この場面の描写が圧巻。作者千野は船頭の経験があるのではと思われるほどリアル。

 とにかく面白い。28巻も刊行されていることをなるほどと実感した。

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高田郁    「ふるさと銀河線」(双葉文庫)

 「みをつくし料理帖」シリーズでベストセラーを連発した著者が、めずらしく現代の作品を紡いだ作品集。
 正直、すべての作品に感動して、その素晴らしさに驚いた。

その中の作品「ムシヤンナイ」を紹介したい。

「ムシヤンナイ」とは関西の言葉で、ちょっと小腹に何かを収めて、腹の虫を宥めておくという意味だそうだ。

 主人公の路男は製麺工場で働いていたが、定年を機に、大阪梅田駅の隣T駅のプラットホームの駅そばの店を任されて働いている。電車を待つ間ちょっと空腹を満たしておこうという客で、店はお客が途切れることはない。

 路男の息子は、東京の大学に進み、そのまま東京で就職、今は東京に住んでいる。
息子たち夫婦は、一人息子の弘晃に対する教育熱心で、小学生で放課後、塾に2か所も通わせ、いつも帰宅は夜10時を過ぎる。

 そんな子供の弘晃が、我が家がいやになり、大阪に家出をしてきて、駅そばの店にやってくる。

 弘晃が路男に言う。
「オジイ毎日虚しくない?駅ソバを食べるって客ってさ、別に料理を期待してるわけでもないし、手っ取り早く食欲を満たしているだけじゃん。」
「ええやんか。それで」「それでもやっぱ虚しいよ。」

その夜、弘晃は、苦しそうに一晩中うなっている。
弘晃の父親である息子から電話がある。路男は言う。
「当分、弘晃をあずかる。」
「そんなことすると、息子の勉強が遅れる。
「お前は息子を潰す気か。」と路男はガシャンと受話器を切る。

次の夜、弘晃が言う。
「ぼくは包丁があったら、お父さんを刺し殺す。」と。

次の瞬間路男は台所から包丁とたくさんのネギをとりだし、弘晃の手を引いて、駅ソバ店まで連れて行く。そして、包丁の柄に人差し指を添えて、ねぎの千切りをする。それを弘晃にさせる。ぎこちなかった弘晃が千切りができるようになる。
「包丁というのは、千切りのためにあるものだ。」と路男は孫の弘晃に言う。

この作品集を読むと、人が苦しいとき、辛い時、100万人の人の励ましよりもたった一冊の本がそんな人たちを救ってあげることができることを知る。

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湊かなえ  「ダイヤモンドの原石たちへ」(集英社文庫)

 湊かなえ作家デビュー15周年を記念して、現在まで出版した全作品の紹介や、活動を描いた湊かなえトリビュート集。

 この中で、驚愕したのは、2019年から集英社が主催して、開催している、高校生の書いた小説のコンテストを行う「高校生のための小説甲子園」のこと。この選考を湊かなえが一人で行っている。

 今は、若い世代での本離れは進み、読書を趣味にしている高校生がいるなどということは想像もできない。まして小説を書く高校生がいることなんて。

 ところが、応募作品数が想像以上に多く、ブロック別で審査して、そこで最優秀に選ばれた作品が本選に進出し、そこで湊さんの評価により大賞が決定する、予選まであるとは驚きだ。しかも年ごとに応募作品数は増加していて、作品のレベルも高いと湊さんは言っている。

 2020年第2回大会で大賞を受賞したのが、東京都立片倉高校3年生哀川さんの作品「零落」。

 この作品、昭和20年代の売れない画家と人気小説作家との友情を描いている。物語の詳細はわからないが、令和の時代の高校生が、昭和20年代の小説を書く。そして湊さんは、その時代の描写に全く違和感がなかったと言う。

 ということは、哀川さんは、昭和20年代に活躍した作家の作品が好きで、読み込んで、応募作品を創作しているのだ。

 高校生の作品だから、現実とはかけはなれたファンタジーや現代風青春物語ばかりと想像していたのだが、とんでもなかった。

 どんな場面なのか想像できないのだが、湊さんが作品で感動したところ。

画家と小説家は、常に小説家が主導権を握っている。その会話の中で、さりげなく小説家が
「夏は夜船、冬は北窓」言う。この言葉が、画家に海外渡航を促す言葉になっていると指摘して、賞賛している。

 何回も読み直すが、その意味することは、私には全くわからなかったが、この部分を読んで、受賞作品を読んでみたくて、たまらなくなった。

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坂口安吾    「暗い青春」(角川文庫)

 坂口安吾の20歳から30歳までの、生き様を描いた10作品を収録した作品集。

私は大学時代、前半を寮で過ごした。隣の部屋に変わった私と同じ新入生がはいってきた。

だいたい新入生は10代の終わりなのだが、彼はおじさんとしか思えない風貌だった。すでに27歳で8浪だった。

ある日、夜中の12時、もう寝ようとしていた時、突然彼から「今から飲みに行こう」と誘われた。私の大学は地方都市にあって、今と違って夜中12時以降開いてる飲み屋など皆無だった。いぶかしながら、彼に附いて行くと、おんぼろ小屋に赤ちょうちんがかかっている飲み屋があった。明かりは裸電球一個で、暗い飲み屋だった。

不思議な人だった。自分は全国の国立大学を全部受験する。そして、それが終了したら死ぬ。だから明日退学届をだすと。そして、翌日退学届をだして、寮から去っていった。

 坂口安吾は20歳のころ、同人雑誌をだしていた。その編集を、芥川龍之介の自殺した部屋でしていた。

 その時、3人が死んだ。一人が根本君。二人目は脇田君。三人目が長嶋君。みんな持病があり、自殺のような死に方だった。三番目の長嶋君は、よく自殺を試み失敗ばかりをしていた。彼が死んだとき、彼は精神を病んで入院していた。

 ある日長嶋君を見舞いに坂口が行くと、彼は枕頭で坂口に死んでくれ。坂口が生きている限り、自分は死にきれない。だけど、君は自殺はできないだろう。しかし安心してくれ。自分が死んだら、必ず呼ぶから安心しな。と言う。

坂口は言う。私の青春は暗かった。青春とは暗いものだ。
 そんな坂口。人類は長い歴史があり、それ以上未来はもっと長く続くと。人間に最も重要なことは自由であること。もし、これからの時代共産主義になって、それが唯一無二の正しい思想で、それ以外の思想、生き方を許されないとしたら人類の未来は絶望だけが続く。

 今まだ坂口が生きていて、共産主義独裁国家が日本に起こったら、彼は真っ先に自殺するだろう。

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村山由佳    「雪の名前」(徳間文庫)

 物語の舞台は、新幹線で行ける、長野県の田舎村。

私がおかしいいのかと思うが、どうも村山さんの見ている田舎の風景、有り様と私の見ている田舎の風景が異なり、私からみて、最初この物語は現実から遊離していると感じてしまった。

 私は、物語の舞台、長野県の田舎の出身で、家は専業農家だった。

まず違和感を案じたのが、住居の前や、周りに、田圃や畑があるということ。事実この作品では、主人公が東京からやってきて住んでいる、曾祖父母の家が隣と100M離れているということ。北海道の大平原が広がるような場所では、こんな風景が一般的とは思うが、長野県のような田舎は集落は幹線道路沿いに密集していて、田畑は集落から離れたところにあるのが一般的。それで、自分の家の田畑に行くには、耕運機や軽トラで行く。

 それから曽祖父母のしゃべりが「~だわな」とか「~だか?」が多用されているが、確かに方言はしゃべるが、こんな喋り方はしない。私は70歳を超えているが、小学校の同級会に行って、ずっと田舎で暮らしている人と会うが、みんな標準語の喋り方だ。我が家の両親も明治生まれの祖父もみんな標準語。村でも、こんな変わった喋り方をする人に出会ったことは無い。

 そして物語では脱サラをして田舎にやってきた人が、村人が憩えるカフェを「納屋カフェ」として始める。

 この納屋というのは、私の家にもあったが、それは田畑の入り口にあって、農機具や収穫物を保管、あるいは一時保管する場所として使っていた。つまり、物語で登場する納屋は、たくさんの田畑の中にあり、ここを改築してカフェにするといっても、農作業の合間や、作業終了後にちょいと立ち寄るには距離が遠くてそんな気にはならない。そんなカフェを作ってもお客が多くやってくるとは想像できない。

 このまま、現実との乖離を残したまま、ありえない状態のままで物語が最後まで進行するのか、それともどこかで現実に接近するのかと思いながら読みすすむ。

 そして、近付いたところが登場した。

主人公は都会でいじめにあい登校拒否状態にあっていた小学5年生の雪乃。やはり田舎に来ても、学校には行くことができない。
田舎の子は放課後塾に行かねばならないということはない。それで、学校が終えて家に帰ると、仲間が集まって、神社や田畑を走り回り夕方まで遊ぶ。この集団が面白い。家を皆で飛び出ると、他人の家に行く。そして自分の家でなくても、自分の家のように振る舞う。かってによその家に上がる。そこで当たり前のようにお菓子などがふるまわれ、そこで皆で宿題をしたりする。その集団は、登校拒否など寄せ付けない。同じ集団に登校拒否児は、当たり前のように吸収されるのである。

 この物語で、そんな場面が最後のほうで登場して、あ~、自分の見てきた場面がでてきたと思いうれしくなった。そして、その場面がクライマックスで際立って良かった。胸をなでおろして、読了し本を閉じた。

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中島京子    「ムーンライトイン」 (角川文庫)

 突然会社を解雇され、自転車旅行中の栗田拓海、夜中に電車で八ヶ岳高原の駅に到着したが、突然の雨で宿泊するところがなく、古いペンション風の建物に飛び込み、宿泊をお願いする。その建物には元ペンション オーナーの中林虹之助とともに3人の女性が共同生活していた。その3人はわけあり。まずは、80歳の新堂かおる、息子夫婦により施設に送り込まれたくなくて逃走中、50代の津田塔子、なにかやばい事件を起こし潜伏中、20代のマリー・ジョイ、フィリピン女性、自分の日本人の父を探している。

3人の女性は、ひっそりと元ペンションに暮らしていて、何もおこらないことを望んでいる。この作品中島さんにしてはめずらしく400ページを超える大長編。中島さんは、中編から中編より少し長い作品に味わいがあり、こんな長編で大丈夫かと思って読む。

 事実3人の事情がよくわからないまま、断片的に描かれ、それが長く少し退屈した気分で読み進んだ。

しかし、人生では、必ず変わらざるを得ない事態が起きる。そこで、3人の抱えている問題が明らかにされ、事態が急に動きだす。

 ここからは、中島さんの卓越した創作力がいかんなく発揮され、面白い作品となった。

特に、かおるの息子夫婦が会社の異動辞令で東京に戻ることになり、もう息子夫婦と同居したくないかおると息子との対決は迫力があった。

 息子は80歳のかおるは認知症が進み、いかがわしい宗教団体にはまり、だまされお金をむしりとられていると思い込む。しかもその思いに息子の本音がかいまみえる。息子夫婦はかおるの世話をするつもりは無く、すぐ施設にいれ、かおるが亡くなったあかつきには、財産をもらおうとしている。

 これに対し、かおると虹之助は、東京には帰らず、2人は結婚すると宣言する。
このやりあいが、迫力があった。結果は何?と拍子抜けの結末にはなってしまったが。

 物語は暗い内容だが、実際はユーモアいっぱいで明るい。これは作者中島さんが強い人間への信頼があるからと思った。

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桜木紫乃  「俺と師匠とブルーボーイとストリッパー」(角川文庫)

 桜木さんの作品はよく読む。で、いつも物語は北の最果て、あるいは北海道が舞台で、行き場を失った人物やその群れを重厚な筆致で描く、もうこれ以上はどこにも行けないと追い込まれ、トーンは本当に暗い作品ばかりで、感動はするのだが、行き場のないところに追い詰められいつも暗く重くなった。

 この作品も、極寒の釧路のキャバレーが舞台で、そこに勤める主人公と捨てられたような3人の芸人の物語で、いつもの作品と設定は殆ど同じ。

 ところが、驚くことに、この4人の絡み合いがユーモアいっぱいで描かれ、辛さはあるのだが、中身は面白く、こんな作品も桜木さんは描けれるんだと驚いた作品だった。

 主人公はキャバレーで下働きをしている章介。それに年末、年始にかけ、キャバレーが呼んだ芸人、師匠と呼ばれる失敗ばかりする手品師、女言葉の男性歌手ソコ シャネル、それからストリッパーのフラワーひとみ。

 師匠はマジシャンだけど、最初の舞台で、手にもったカードをシャッフルしたときに全部失敗して床に落とす。それを拾おうと背を曲げると、シャツの背中にいた鳩がとびでて舞いだす。

 これを同じように、毎日繰り返し、失敗するたびに会場が笑いのうずになる。
しかし、章介は知る。師匠は故意に、失敗とみせかけているのだと。事実、大晦日の有名歌手のショーで、天井から降ってきた、たくさんのカードが途中で空中に浮かび、浮遊して落ちてこなくなる。

 章介は一か月前に父親章二を亡くす。しかし、お金が無く、葬式ができず骨箱を自分の部屋においたままになっていた。それはいけないと芸人3人が言い、ちゃんと墓に納骨しないと。しかし墓など購入するお金など章介には無い。すると3人が墓苑に行こうとタクシーをつかまえる。

 章介の苗字は名倉。墓苑について、管理人が名前を聞く。「名倉」と答える。名倉の墓は2つあり、1つは1か月前に亡くなった人の墓で、もう一つは誰も墓参りに来ていない墓だという。3人は、誰もきてないほうの墓といい、場所を教えてもらい、その墓に骨を収める。墓には一つだけ骨が収められていた。歌手のソコ シャネルが言う。

 「あの骨はずっと一人でいたんだ。でも今日から2人になり、寂しいこともなくなる。よかった」と。

ストリッパーのフラワーひとみは、舞台で毎日新品のパンツを使う。それでしょっちゅうパンツを買いに行く。そのパンツは舞台で脱いで、客の頭からかぶせる。客が大喜びをする。

 まあ、こんな感じの出来事がポンポンとびだす。腹を抱えて笑ってしまう。
それゆえ、この4人が別れる最後はジーンと胸を打つ。

この作品、桜木さんの作品で今までで一番印象に残った。

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吉川潮   「本牧亭の鳶」 (ランダムハウス講談社)

 吉川潮が好きだ。吉川は、寄席に入りびたり、演者だけでなく、下足番、出囃子など裏方まで、徹底的に関係を築き、寄席で働く人たちの哀歓を描いた。そんな吉川の作品を講談社が芸人小説セレクションとして五巻にして出版。紹介の本は、その5巻目の作品集で6篇が収録されている。

 その中には、登場人物が実名ででてくる作品もあるが、実名でなくても、本当にあった出来事を作品にしているのではないかと全作品が思わせるほど、リアルで情緒たっぷりの作品が収録されている。

 私は、高校時代、演芸が大好きで、高校に初めて落研を作った。修学旅行は大阪、京都に行ったのだが、先生に無理を言って、友達と2人自由行動にしてもらい、大阪角座、京都花月にゆき、桂米朝、ボヤキ漫才の大御所、人生幸郎、生恵幸子、この前亡くなった財津一郎、桂三枝、を見て感動した。

 この作品集、どの作品も見事なのだが、一番短い百面相の形態模写波多野栄一をモデルにした「カラスの死に場」を紹介したい。作品で波多野は河田寛一で登場する。

 河田は声帯模写ならぬ、有名人の演じる姿を模写して人気を得た芸人である。当時でも今でも、日本の芸界で、芸人やタレント、俳優を含めて「百面相」を演じることができる芸人は河田しかいない。

 ところが今や河田も80歳。もう体がうまく動かない。おはこであった「金色夜叉」のお宮と貫一も舞台で貫一からお宮にすり替わり、演じるのだが、これがすんなりできず足がもつれて倒れそうになることもしばしば。

 そこで河田は芸人として最後は、舞台の上で死のうと考えるようになる。河田は、心臓に持病をもっていた。そこで、金色夜叉、熱海の海岸の名場面で心臓発作で倒れ、死のうと計画する。舞台で死ねれば自分の評判は、未来にまでずっと残る。

 それで心臓発作を起こすにはバイアグラが良いということを知り、その効果は服用後、一時間後にでるということで、お宮貫一の場面になる一時間前に服用して舞台にたつ。

 ところが、その場面に至る大分前に、バイアグラの効果がでて、胸が苦しくなる、これは何とかせねばとこらえて動悸をおさめる。しかし、このままでは、舞台で死ぬことはできない。

 そしたら、その名場面直前に、舞台最前列に座っていた若い女性のミニスカートがまくれ上がり、河田はその女性の下着が目に入り、久しぶりに興奮して局部がそそりたつ。そして、そのまま舞台で倒れる。

 しかし、寄席のスタッフや芸人の介抱により、息を吹き返す。その時まだ局部はそそりたったまま。久しぶりの快感に河田はうれしくなる。

 そんな河田90歳まで舞台にたち、最後は弟子や妻にみとられ亡くなる。
そうそう、この作品がでる、少し前まで、若い女性はみんなミニスカートだったことを思い出す。

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本郷和人     「恋愛の日本史」(宝島社新書)

 平安の世から現代に至るまでの、日本人の恋愛の変遷を論じた作品。
恋愛と言えば、何と言っても、日本が世界に誇る恋愛小説「源氏物語」を取り上げられる。
まずは、主人公である光源氏が、どんな位置にある人物であるか、確認しておく。

 光源氏は、先の天皇桐壺帝の息子で、現在の天皇、朱雀帝の弟。しかし、光源氏の母は、天皇が男女関係を結べる最下位の女性更衣、桐壺更衣である。しかし天皇は、桐壺更衣を寵愛、桐壺更衣が亡くなると、桐壺更衣にそっくりだった桐壺天皇の先代の天皇の娘藤壺を、後妻として迎える。

  しかし、母の面影を持っているこの藤壺を光源氏も恋し、2人は男女関係になる。これは大変なこと、
もし男の子が生まれれば、天皇の後継者となる可能性がでてくる。その男の子が、桐壺の子か光源氏の子か判別できないから。

 この藤壺の姪に若紫がいる。若紫は当時まだ10歳。この若紫が母藤壺に似ているということで、光源氏は若紫を寝取る。まだ10歳そこそこの少女である。しかし光源氏は、この若紫が大人になると、彼の妻にしている。それにしても10歳の娘と男女関係になるとは光源氏は完全なロリコンかつマザコン。

 それから、零落した姫君未摘花との恋。この未摘花。彼女の容姿は醜い。
一方、光源氏は妻を、柏木に寝取られる。そして、光源氏の妻は柏木の子供を産む。

 最後は源典侍、朝顔のこと。天皇は正妻または中宮と男女関係を持つが、ときに典侍とも関係を持つことがある。朝顔と光源氏は17,8歳の時関係を持つ。その時、朝顔の年齢は57,8歳である。

 寝取り、寝取られ、ロリコン、ありえないほどの年齢差での関係。何でもある、今でいえば色狂いの恋が物語では展開する。

 そして、何よりも驚くのは、もちろん殆ど文字を知らず読めない一般の人はこの物語を読むことはなかったが、貴族の間では、争うように読まれ、しかも教養の書となっていたことである。

 現在は、もちろん大分男女関係も乱れてはいるが、平安時代には及ばない。今は、徐々に平安時代に近付きている状況。

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林真理子   「成熟スイッチ」(講談社現代新書)

 現在日大理事長をつとめて、作家でもあり時の人になっている林真理子の作家になってから、理事長になるまでの人生記。

 林は、1982年「ルンルンを買っておうちに帰ろう」というエッセイで作家デビュー。この本が大ベストセラーとなりルンルンが流行語になり、時の人となった。林は、その時メディア、テレビにもしばしば出演。正直言って、私は林は、ルンルンというからには、女子大生で可愛いキャピキャピガールではないかと想像していた。で、申し訳ないが、その姿をテレビで拝見して、全く想像していなかった容姿に驚いたことを覚えている。

その後、「最終便に間に合えば」「京都まで」で直木賞を獲得。しかし、こんな薄い内容でよく直木賞がとれたなと思っていたら、選者の黒岩重吾が、林さんは、作家となりずっと書き続ける人だからということで直木賞に推したと言っている。

 こんな状態で林は本当に作家としての能力があるのかと思っていたら、24歳の時、50歳の九州の炭鉱王伊藤伝右衛門と見合いの末、結婚し、その後東大生の社会運動家宮崎龍介のもとに走った波乱万丈の歌人白蓮の人生を、丹念に資料を集め、見事な作品に仕立て上げた「白蓮れんれん」を読んで、林はとんでもなく能力のある作家だと見直した。

 紹介した本は、ルンルンの林が、古希目前になった現在に至るまで、どれほど成熟した素晴らしい人間になったかを描く。少し自慢臭がきつく辟易とした。

 高校生の時の卒業アルバムがでてきた。
林はそれを見て啞然としがっくり肩を落とす。「ここまで私、ブスだったか。」

その時林は
「今まで私が見ていたのは、自惚れ顔の鏡だったのね・・・でも、今は仮の姿だからいいもん。」
大人になれば、美人になる予定だったが、大人になっても全く変わらなかった。

 林がすごいのは、この写真を最近まで、周りの人たちに見せ、それほどにひどい写真をとられてしまったと、みんなで笑いあったところ。

撮った写真家が下手すぎると笑い飛ばす林。この自信が、林の人生を支える。

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| 古本読書日記 | 06:23 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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落合陽一    「忘れる読書」(PHP新書)

 少し難しい本だ。私のような人生の黄昏時の人が読んでも意味がない。

最初のページで著者落合は言う。今身に着けるべき教養は「抽象化する力」だと。

会社時代にいやだったことは、研修でコンサルタントが例えば3年後の仕事について自分のビジョン、目標を持ち、その目標をどのような工程を経て達成するのかをグラフ化しろという演習をさせることだ。この工程のグラフ化というのが面倒だった。

 抽象化する力というのは、3年後の姿を抽象化した言葉で表せということ。その抽象化する言葉を創造するために必要なのが読書。

 さらにそのビジョンを達成するために、節目、節目で越えねばならない障害がある。その節目はどこに設定し、それを超えるためにやはりまた本がいる。それもグラフ上に記す。

 この工程表作る能力を身に着けるために必要なことは、現在の世界を過去の人はどのように見通しをしていたのか知ること。

 この本で紹介しているのが、モリス・バーマンの「デカルトからベイトソンへー世界の再魔術化」。

 この本が出版されたのが1989年。今から約30年前。社会は魔術化してゆくとベイトソンは書く。

 ここで言う、魔術化というのはコンピューター、インターネット、スマホなどのツールや、情報サービス、労働環境と、あらゆる面でブラックボックス化すること。この状態を落合は「インターネット蟻」や「デジタルネイチャー」と呼ぶ。うまいことを言う。世界の人々は、まさにインターネットに群がる蟻のような社会になっているということをベイトソンは魔術化という言葉で言っているのである。

 で、更に30年後はどうなっているのか。集団を閉じ込めているハコを飛び出し、労働形態も時間、場所から脱し、全員が好きなことで食べていくような多様化社会になる。

「1億人が4億種類の仕事をする時代。」この時代に向かって何を節目にせねばならないか工程表を作らないといけない。

 それから落合はこのほかに面白いことを言う。中小企業、大企業という区分けはもはや通用しない。低速企業、高速企業と区分けして企業をみなくてはならないと。

 こういう分類、あるいは30年後の社会の変化を的確に表すには、読書をせねばならない。

こんな発想はどうしてできるのかと思ったら、落合陽一はあの大衝撃本を連発した落合信彦の息子で、陽一はこの父親の影響を受けていたことも、この本の中で書いている。納得。

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徳永友一  「小説 翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて」(宝島社文庫)

 この本は映画のノベライズ。映画と本が大きな反響となっているため、今日の新聞でさいたま市が「本当に埼玉はダサイのか」とアンケートをとったところ、ダサイ、ダサクナイがどちらも27%で拮抗しているという記事をのせていた。

 埼玉県は確かにダサイと思っている人が半数もいるのかと、田舎に住んでいる私は驚いた。

 その昔、埼玉は東京より迫害を受けて、通行手形がないと東京には行けなかった。主人公の麻実麗(男性)や麗に恋心を抱く壇ノ浦百美をはじめとする埼玉解放戦線によって県境は解放され今は自由に東京との往来が可能になった。

 麗は、埼玉に海を創ろうと考え、戦線を率いて、和歌山の白浜海岸に行く。ところが、白浜海岸は大阪に占領されていて、和歌山の領地ではなかった。

 実は関西も埼玉に似ていて、大阪、兵庫、京都は大阪が支配し、和歌山、滋賀、奈良は大阪の奴隷地となっていて、住民は人間扱いされていなかった。
 滋賀などは、滋のしの字の形から「ゲジゲジ」と言われる始末。

そんな中、麗と滋賀解放戦線の桔梗が、滋賀のみならず、和歌山、奈良を率いて大阪に挑む。
大阪はいずれ関東にも攻め上がり、日本を支配しようと目論んでいる。

 麗と桔梗が率いる滋賀、和歌山、奈良の連合戦線部隊が戦いをどうするか会議を持つ。そこでの各県の代表のののしりあう発言が秀逸。

 「滋賀には織田信長公が作った安土城があった。それを未だに誇りにしているのか。いい加減にしろ。今は何もないただの禿げ散らかしの山や」

 「比叡山延暦寺。8割が滋賀県大津市に位置するにもかかわらず、境内のたった2割が京都に触れているばかりに、京都の名所として扱われている。何たる、屈辱。」

 「奈良、笑っている場合か。お前らだって、鹿、大仏、1300年以上も時が止まったままだと揶揄されているじゃないか。」

 「和歌山だってそうや。過疎地帯、陸の孤島、関西のお荷物扱いされて悔しくないのか。」

目が飛び出るほど圧巻だったのが、通天閣が弾道ミサイルとなり埼玉にむかって、飛んで行ったこと。そして、タワーなどが全くない、埼玉が行田の田んぼアート見学の見晴台になっている通称行田タワーが、迎撃ミサイルになって通天閣を迎え撃ち破壊するところ。

 いやーとんでもない驚きの物語だった。この作品が実写版の映画になっている。どんな映画になっているのか、見てみたくなった。

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藤原正彦    「本屋を守れ」(PHP新書)

 子供にIPADを与え、教科書を無くし、IT教育を徹底させるという教育をやめ、本を読ませ、そこから日本人の持つ惻隠の情を育てることが日本人教育の前提と訴え続ける藤原の月刊誌でのインタビューをまとめた作品。

 会社に入ってから、70歳を超える今までに読んだ本の冊数が15000冊を超えた。全部を保管していたわけではないが、それでも1万冊ほど家にはあったと思う。

 これを嫁さんが、家がつぶれると怒り狂い、私の了解も得ず、ある日から、娘がせっせと本をブックオフに持ち込み売ってしまった。

 もちろん全部駄本ばかりなのだが、松本清張、石川達三、吉村昭、三浦綾子などは殆ど全数とりそろえていたし、壷井栄や平林たい子、岡本かの子の印紙税代わりに作者の認印が押印されている本もあったし、全部なくなった時は、歴史が消えたような気持ちになり悲しくなった。

 50年以上も前の学生時代、街には本屋があふれるほどあった。その本屋もそれぞれ特徴があった。歴史書や思想哲学書などを店頭にならべ、その奥に週刊誌や一般書物を並べている店もあった。

 卒業するころから、本屋が変わった。どの本屋も「GORO」とか「スコラ」、「平凡パンチ」などヌードグラビアが載っている雑誌や、いわゆるビニ本といわれる本が小さな本屋の店頭には並ぶようになった。本屋の衰退はここから始まった。

 会社時代、仕事でしばしばイギリスに行った。ある日、取引先相手のイギリス人の人たちと食事をした。

 その時、一人のイギリス人が、「君は、新井白石をどう思うか。」と聞いてきた。何でイギリス人が新井白石を。新井白石もちろん名前は知っていたが、何をした人なのか私は知らなかった。それで、困って何も答えないでいたら、その後相手のイギリス人たちは、私に何も話しかけてくれなくなった。実に切ない思いをした。

 この作品で藤原は論理はAから始まり、B,Cと展開し最後Zに至るが、最初のAが大事で、それはその人の持つ情感から始まる。その大前提の情感は、読書をしているかどうかで決まると言う。

 またAIは、3分ほどで数万の俳句を作る。しかし、その中でどの俳句が優れているか判断はできない。それは、人間にしかできないと言う。

 なるほど、だから読書は大切なんだと思った。
「人は良書を読むことによって、瞬時にもう一段高い境地に達することができる。」

この良書が肝要なんだな。私がだめなのは、無駄本ばかり読んできたことだ。

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黒川博行    「騙る」(文春文庫)

 著者黒川は、京都市立芸術大学美術学部彫刻科の卒業で、美術や彫刻の世界に詳しく、これまでにも、美術ミステリーで数々の名作を残している。この本は黒川の得意な美術ミステリーの短編集。

 美術、絵画、書画の世界は、難しい用語が多く、それぞれの作品のからくりがよくわからないのだが、なぜか不思議に面白い。

 どの作品も、面白いのだが、比較的わかりやすい「ヒタチヤ ロイヤル」を紹介したい。

主人公は衣料雑貨卸販売業を営む箕輪。箕輪は資金繰りに行き詰まっていて、闇金からもたくさんの金を借り、早急に金を作らねばならなかった。

 そんな時、美術雑誌でハワイオアフ島でヴィンテージアロハシャツの在庫500枚が見つかるという記事を見つける。
 そこで、このヴィンテージアロハを25000円で作り一着270,000円で販売することを目論む。

 まずは雑誌社に行き、雑誌に掲載されたヴィンテージアロハの在庫写真を、携帯で撮る。
それを持って、縫製屋にゆく。偽造服を製造するルートを持っている会社だ。縫製を行う製造工場は福井にある。ここで生地、色を決め、注文枚数、買い取り金額、納期を細かく取り決め、注文品が出来上がると、ロゴマークを縫い付ける会社に持ち込む。
ここでブランド名の字体などで失敗したらまずいので、自らロゴマークを書き、業者としっかり確認する。

 この制作工程が、詳細に描かれ、こうやってニセブランド商品は作られるのか初めて知る。
最近では日本は労賃が高くつくので、主に中国で作る。

 その際、ロゴマークがついていると、通関で見つかるので、ロゴ部分に上から中国ブランドのマークを刷った共生地を極細の糸で縫い付けて隠し、通関後、共生地を外して、襟にブランドネームをつける。

 そして、どうしてかわからないが、関西ではニセブランド品が見つかることが多く、商品は東京に持って行き、原宿、六本木、西麻布、渋谷などのショップで売りつけその場で代金回収をする。この部分も面白い。

 ニセブランド品というのは、もちろん製造するのは、中国やアジアの国々なのだが、それを企画販売しているのは、日本の会社であることを知り、ニセブランド商品というのは、中国や東南アジアが企画製造販売拠点という先入観があったので少し驚く。

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| 古本読書日記 | 05:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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