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2023年11月 | ARCHIVE-SELECT | 2024年01月

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知念実希人    「幻影の手術室」(新潮文庫)

 天才女性医師、天久鷹央シリーズ作品。
相変わらず、この作品においても、殺人事件の真相トリックはなじみのない特殊な病気が使われている。

 それは、リポカリンアレルギーによって引き起こされるアナフィラキシー。
そうであっても、天久が最後に事件の真相を明かす場面は、他の知念作品に比べ、際立って素晴らしかった。

リポカリンというのは、主にねずみなどのげっ歯類の唾液に含まれる物質で、げっ歯類にかまれたりすることでアレルギーが発生する。

私は、この作品、初めに、知念はクライマックスの謎解き場面を書き、それから、それ以外を感動的なクライマックスに合致するように執筆して完成させたような思いがする。

 物語は、手術後のオペ室で、麻酔科の医師が殺害される。この時の状況は映像記録が残っていて、その映像によると、医師が殺害されたときには、この医師と、手術を終えた患者しかいなかった。そうなると、殺された医師は、患者によって殺された以外ありえなくなり、警察の捜査もその線に沿って行われる。

 この手術を受けた患者は、天久が部長を務める、統括診断部の研修医鴻ノ池舞。ということは殺害犯人は舞ということになる。もし舞以外の誰かが犯人ということになると、完全密室殺人事件となる。
 ところが、映像によると被害者は、死ぬ前に誰かと必死に格闘しているように見える。

これらの映像のナゾは果たして・・・・。
 明かすことはできないが、このクライマックスでの謎解きが見事だった。それで知念は、クライマックスを最初に書いたのではと思ったのだ。だからいつも少し残る、ごまかされたという印象は全く残らなかった。

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アンソロジー   「おひとりさま日和」(双葉文庫)

 女性作家による、短編作品集。

本のタイトルから想像したのだが、最近、宣伝によく登場する本に、「100歳でもこんなに元気」とか「90歳、これからが本当の人生」という老後の人生こそ楽しみという本が多い。

その本は決まって老女性が執筆した本で、表紙を90歳の著者が飾る。
そういうのを見ると、男というのは哀れだなあと思う。しょぼくれ老人の姿しか浮かばない。

 で、この作品集も老人女性の物語を扱っている本と思って読みだした。たしかに、そのような作品が多いのだが、中には40代の女性を主人公にした作品もあり、年代はさまざま。

 私の家の近くの歯医者。離婚した40代の女性がやっている。そしてその院長先生は、一人飲みをこよなく愛し、近くのすし屋に毎晩一人で現れ、晩酌を一人で楽しんでいる。

 都会では当たり前の風景だが、私の住んでいる田舎の地方都市では、さすがに女性一人で食堂や飲み屋にゆくのは珍しいし、勇気のいることだ。

 この作品集の中の「週末の夜に」も、そんな40歳くらいの女性の、一人の豊なシングルライフが描かれる。ファミレスには当たり前のように一人で入るし、全く気後れする様子はない。一人生活を大切にしている女性。たまに友達と映画を観にゆくが、映画に集中するために、2人は遠く離れて席をとる。

 しかしやっぱし、作品の中心は老人の域に入った女性。

都会のマンションに娘夫婦と同居していた主人公の女性。住んでいて肩身は狭いし苦痛が多いので、生まれた故郷に土地を買い、家を建て住むことにする。

 すると、そこで、高校時代憧れのサッカー部の選手だった、交際の申し込みをされた堀米君が、今はシングルということを学生時代の同級だった女性から聞く。

 それで、思い切って一回会いましょうと手紙を書いておくる。

すると、ある日怒った堀米君の妻という人が訪ねてくる。
 妻が言うには、今は高校時代の面影なんてまるで無い。不摂生と酒飲みの生活で、腹は樽のようになっている。まだ70歳だというのに、ケアを怠ったので、入れ歯になってしまい、残ってる歯は9本だけになった。それを自分は、9本のシングルになったとばかなことを皆に言ってるの。

 そこで主人公は勘違いに気付く。シングルは離婚のことではなく、歯の残った本数のことを言っていたのだと。所収されている「サードライフ」より。

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岩井俊二   「キリエの歌」(文春文庫)

「ラブレター」「スワロウテイル」をはじめとして、ヒット映画を多く世に送り出している名監督岩井俊二が書いた小説。もちろん、この小説も後に映画化され大ヒット作品となっている。

 私は映画を見ていないで、小説を読んだのだが、小説はかなり映像を意識して書かれている。映画をみてから、小説を読んだ人は、戸惑いは少なかっただろうが、小説から入ると文章はわかりやすいのだが、混乱し戸惑うことが多かった。

 その理由、主人公は路上ミュージシャンでキリエというのだが、本名は小塚賂花で名前はルカと読む。
 それから、このキリエのマネージャーをかってでたのがイッコ。その本名は広澤真織里。
更にイッコは一条逸子からきている。

 そして、キリエ、イッコが、時と場合によって、ルカ、路花、イッコが真織里、逸子で登場し、誰が誰だか混乱してわからなくなる。

 それから、物語で重要な出来事があまり脈略がなくドンと登場する。その出来事の起こる場所が、新宿、帯広、石巻、仙台、大阪藤井寺など。何で突然、登場人物が帯広、藤井寺にいるのかが全くわからない。何故かは、他の場所での出来事の中で描かれる。

 それで、あのことは、ここにつながっていたのかと認識をする。
まったく、ふりまわされっぱなし。

 で読み終わると、深い感動の渦の中にいる。すごい、岩井マジックは。すぐに映画が見たくなった。

 路上シンガーキリエがどのようにして路上シンガーとなったのか、その背景に東日本大震災があることが、ダイナミックに描かれ、いつまでも感動が残り、味わい深い作品となっている。傑作だと思った。

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東野圭吾   「ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人」(光文社文庫)

 冒頭から、驚愕な場面が展開する。

ラスベガスのマジックショーの場面である。

まず美女が3人登場する。その美女を、日本の忍者を演じる3人の男が登場し、それぞれの美女を筵で簀巻きにして、硬い紐で縛り上げ、簀巻きのまま舞台に立たせる。そこに白装束の武術師が登場。持っていた刀で、バッサリと簀巻きを顔のあたりから、腰にかけ3つとも切り落とす。

 そこにさっき美女を簀巻きにした黒装束の忍者が後ろ向きで並ぶ。そして白装束の武術師が登場し、忍者仮面を刀ではらりと切り落としてゆく。3人の忍者の仮面が切り落とされたと同時に正面に向き直す。その3人の忍者は見事に簀巻きされた美女になっていた。

 それでこの物語は、このマジシャンが名探偵になり、マジックを駆使して、犯人を推理してゆき真相を明らかにしてゆく物語なのだと認識する。

 神谷英一という、かって生徒たちに愛されて、今は引退している教師が、一人住まいの家で何者かに殺害される。この真相の追求を、弟のマジシャン、武史がマジックを使いながら行ってゆく。
 マジックというのは、人間の錯覚や思い込みを使って、術をかけてゆく。
この物語、そのマジックが随所に登場する。作者東野が、種明かしをするものもあるが、中には種明かしをしないものもある。しかし、読者はこれだけのマジシャンだったら、そんなことはできて当然と思う。

 神谷英一先生の葬式が行われる。それから、しばらくして生徒たちの同窓会が行われる。

その同窓会で、マジシャン武史が登場して、葬式の映像を公開する。武史は、遺影の目のところに、カメラを仕込んでいた。遺影をじっとみつめそれから、静かに礼拝する人は、先生を殺害していない。しかし遺影から目をそらし、礼拝の仕草も落ち着かない人は犯人か、犯行の関係者だと考え犯人をあぶりだす。

 犯人の大の親友が、中学時代に病気で亡くなる。そのとき、親友が犯人にあてた手紙が親友の家にとってあって、同窓会の前に、親友の母親が、息子から犯人にあてた手紙だとして茶封筒を渡す。そこには手紙といっしょに犯人が犯行をする、証拠品が一緒に入っていた。犯人はその証拠の品を川に捨てた。

 同窓会の時。マジシャンから、親友の母親から預かったという茶封筒を渡される。その封筒を開封すると、手紙と一緒に川に投げ捨てた証拠品が入っていた。

 もちろん物語では、そのマジックの種明かしもされる。

全編、東野マジックに堪能された。このマジシャン武史はこれからシリーズになって登場するのだなとも思った。

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知念実希人   「スフィアの死天使」(実業之日本社文庫)

 天才女性外科医天久鷹央シリーズ作品。

最初からえ?っと思う。作品は、天久の部下小鳥遊(たかなし)遊が、大学で課せられた研修医を終了して、天久の部下として赴任するところから始まる。本は11月半ばに文庫として出版されているが、それ以前に小鳥遊が天久の部下になっている作品はたくさん出版されている。順番通り出版されているのではないのかと不思議に思った。

 今回の作品は、新興宗教と天久、小鳥遊コンビが戦う内容。

天久が勤める天医会総合病院の外科医沖田が患者の男から神の命令だとして殺害される。沖田は娘が失踪して行方がわからなかった。娘は新興宗教大宙神光教に入信していた。
そして、殺害犯人も大宙神光教の信者だった。

 ということで、天久、小鳥遊は犯人の動機を調べるため、大宙神光教の実体験ツアーに参加する。この宗教「神羅」なる教祖がいて、世界は神としての宇宙人が存在していて、「神羅」は、神である宇宙人と交信ができる。「神羅」を通じて、神宇宙人に導かれるという宗教である。

 体験ツアーでは、大きなドーム教場の中にはいり、そこで神羅が神である宇宙人との交信の様子およびその神と遭遇もできる場面がある。この場面を体験した人たちは、ほとんど大宙神光教に入信する。

ただ、教場では、まず香草を焼き、むせるような匂いの煙を吸い、その後、カプセルの入った薄茶色の液体を飲むことを強制させられる。

 このことが原因か、体験者は全員夢遊状態になり、神羅の交信により宇宙神と遭遇したような状態に陥る。これは、香草カプセルが幻覚作用を引き起こしたのかと安直なミステリーだと思ってしまったが、幻覚の原因はそれでは無かったことがその後明らかにされる。

 その後、物語は人間の心とは何かという問題追及となり、さらに、この宗教は、人間をアスベルガー症候群にしてしまう難しい問題に読者を導き、そのアスベルガー症候群は何によって引き起こされるかという話になる。

 正直、物語の展開が遅く、内容も薄い、さらに原因動機となるアスベルガー症候群を引き起こす手術、試みが長く解説され、読み続けるのが苦痛となった。

 沖田が亡くなり、小鳥遊が一緒に葬式に行こうと天久を誘う。天久が言う。
「葬式に行ってももう沖田はいない。あるのは沖田の遺体だけだ。脳への血液が遮断され、前頭葉の脳細胞が死滅した時点で、沖田は死んだんだ。こんなものを見に行くことが何の弔いになるんだ。」

 この発言は、葬式は何のためにするのかを考えさせられた。亡くなった人間がどうなるのかは、人間の想像から生まれた。そして、誰も、死んだあとのことを見た人はいない。

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門田泰明    「重役たちの勲章」(祥伝社文庫)

 今は、企業小説というのは、あまり目だたない存在になってしまっている。もちろん、現在の企業小説は、作家の創造物語が主、ところが、私の会社時代はまさに企業小説花盛り、そして内容は、現実に起きている企業内のトラブルを下敷きにして、そのトラブルをデフォルメしている作品が多かった。

 そんな小説を、興味いっぱいで、会社生活していたころ貪るように買い求めて読んだ記憶があり、その内容が、酒席の話題にもなった。
 この本は、そのころの面影が色濃く残る、3篇の中編が収められている。

関西のスーパーマーケットの雄、カリスマ創業者河内が率いる、「スーパーダイオー」。河内は、関西での大成功をひっさげ、関東に進出を試みていた。

 それに対し、関東では、大手鉄道、流通グループの南部流通グループが、百貨店や、関東のスーパーを組織して、それを阻もうとして対決していた。

 関西のスーパーは、倒産したダイエーのこと、カリスマ経営者は中内功のことである。
一方迎え撃つ南部流通グループは西武、セゾングループで、経営者は堤清二のこと。

 当時西武グループは鉄道を堤義明が経営をしていて、商品流通グループは小説では高見となっているが実際は堤清二が経営。この兄弟は犬猿の仲という評判だったが、この作品では、仲睦まじい関係だったと描かれている。

 会社時代にシドニーから帰国するとき、どうしてかわからないが、座席が突然ファーストクラスにアップグレードされたことがあった。当然、座席は、ドア口のそばが与えられた。

 成田について、席がドア口だったので、真っ先に降りたら、航空会社スタッフから待つように止められた。同じ飛行機に日本を動かす影の黒幕と言われていた笹川良一氏が乗っていた。まずは、彼が降りてから、他の客を降ろすとのことだった。戸口には、ガードマンや航空会社スタッフが待ち構えていて、笹川良一氏を先導していた。私は身軽だったので、どうしても笹川良一氏を追い抜いてしまいそうになる。すると彼にギロっと睨まれ怖い想いをした。

 この作品にも、笹川良一氏と思われる人物がスーパーダイオーの黒幕として登場する。
それに南部グループ経営者高見が震えあがる。

 しかし、当時も今も、具体的に笹川氏がどんなことで、相手を震え上がらせるのか、全くわからない。
 この作品を読んで、会社時代を思い出した。

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山本幸久  「寿 フォーエバー」(河出文庫)

 お仕事小説。

主人公の井倉靖子は、結婚式場、寿々殿に勤めブライダル コーディネーターをしている。
亀チームに入っている。チームは多々良課長、カニ平さんこと小久保平蔵、若大将ことバツ3の中島宏と靖子の4人だ。

 靖子は、大学を卒業して薬品会社に入るが、社長が背任罪で逮捕され、会社が倒産、それで、寿々殿に入っている。

 最近の会社では、成果主義というのが浸透してきて、常に、抜きんでた成果を求められ、成果が出ない社員は、給料ボーナスで差がつけられ、そして、リストラで退職を勧められ、退社させられることが当たり前になってきている。

 靖子が担当しているのは、ハリーとメロロンの結婚式。ハリーは大企業の社長の息子、メロロンの父親は銀行の取締役。富豪、エリート家同士の結婚。300人も出席する大結婚式である。

 この結婚式の準備が、ハリーとメロロンの関係がギクシャクしていて、思うように進まない。
で、靖子は、ここは今決めないと、ここはこうしましょうと思うときが度々あるのだが、気後れして言い出すことができない。しかも、退社後行われる合コンのことに気ばかりが行ってしまう。

 この仕事ぶりをみて、ベテラン社員のカニ平が言う。

「同じ職場、同じチームで働いてまだ四か月しか経っていませんが、あなたが熱心で真面目なことはよくわかります。他人に対して気配りもできていらっしゃる。
 しかしあなたの仕事のしかたは、いまいち感心しません。一言でいえば中途半端なんですよ。これくらいしておけば、あとはどうにかなるという具合に、仕事を切り上げてしまうことが多い。要するに詰めが甘くて自分に甘いんです。」

 今は知らないが、私の現役時代はこんな人が多かった。ここまでやったんだから、何とかなるだろうと思ってしまうことが。思わず、ここを読んで「すみません」と声をあげてしまった。

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原田ひ香    「人生オークション」(講談社文庫)

 2編の中編小説が収録されている。

瑞希とりり子という2人の女性が登場する。

 主人公の瑞希は、大学は卒業したが、就職活動でことごとく、一次面接あるいは書類選考で落とされアルバイトで働き、実家で両親と暮らしている。両親は困ったものだという気持ちはあるものの、瑞希にきついことは言わず、瑞希を許している。

 瑞希の世代の特徴は、恋や結婚の意欲もなく、贅沢もせず、人間関係も薄く、何にも希望を持てなくてすごす世代。

 一方40歳になる、おばのりり子はバブル世代。このころは、ミツグ君、アッシー君が全盛時代。男は女性にかしづく。りり子は、会社に就職。上司と不倫に陥る。しかし、相手の妻と対決して、その場で奥さんにケガを負わせ、傷害罪で逮捕される。そして、会社は当然クビになる。

 しかし、その間、上司は徹底的にりり子に貢ぎ、膨大な装飾品、衣服、アクセサリーや靴、台所用品、高級食器を与える。

 その時、りり子は1DKのアパート住まい。処分できずに部屋においてあるダンボールが50箱。寝る場所もないため、台所で寝ている。

 この大量の品物を、瑞希の友達の麻美のアドバイスでネットオークションに出品することにする。とても売れないだろうと思っていた品物がビックリ。高値で売れるのである。それで、瑞希とりり子は、オークションでの見せ方、値付けをいろんんな工夫を凝らす。

 ネットオークションというのは、セリ落とした人と発送方法や支払いについて打ち合わせをする会話が発生する。また、購入者からネットに商品の評価の報告があり。それに対してのお礼を含めた会話も始まる。最後は、実際にどんな品物を持っているか、客がアパートを訪ねてくる。

 孤独な、無気力な生活をしていた、瑞希、りり子が徐々に社会とつながってゆく。
そして、前向きな人生の歩みが始まる。元気になる小説だ。

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アンソロジー   「女がそれを食べるとき」(幻冬舎文庫)

 女性著名作家たちによる「食べる」ということをテーマにした短編集。
今、活躍している作家だけでなく、過去の作家の作品も収録している。それで既読作品も結構ある。私が、女性作家による短編の最高傑作と思っている、岡本かの子の「家霊」、あるいは傑作との評判の高かった幸田文の「台所のおと」も収録されている。

 ホラーと言えば、霊魂が現れたり、吸血鬼が現れたりしてどうだ怖いだろうと押し付ける作品ばかり。

 しかし、そんなお化けの類が登場させなくても、十分に怖い作品を創ることができることを示しているのが、収録されている小池真理子の「贅肉」である。

 主人公の祐美には、美人で、頭脳超優秀の姉葉子がいた。両親は葉子こそ自慢の娘で、葉子への期待が生きがいで暮らしていた。
 成績は体育4以外すべての科目が5で常に学年トップ、小学校6年のときには児童会長にも選ばれる。勉強以外にもピアノ、声楽でも才能を発揮した。

 そんな葉子の人生が、暗転したのが、彼女が大学1年生のとき、寵愛を与えてくれていた、母がガンになり他界した時。衝撃を受けた葉子の巨食が始まる。

 そのすさまじさ
「ケーキ、パイ、和菓子、チョコレート、あられなど菓子類はもちろんのこと、肉、ハム、チーズ、もち、ご飯、麺類、各種インスタント食品に至るまで、およそ人が買うことができるあらゆる食品が、猛烈なスピードで胃袋を満たしていった。」
 それに連れて、体重が急激に増加。100KGは優に超える状態になる。

何しろスーパーで買い物をしても、財布がとりだせないし、取り出しても、お金が払えない。
だから、特別にスーパーから買った商品を配達してもらうようになる。

そのうち、父親が再婚する。相手の千代さんが、葉子の世話をする。しかし父親と千代は交通事故で突然死する。

それで、妹祐美が姉の面倒をみる。体を横にすることができない。寝た体を自分で起こすことができない。体を支えてあげないと、足が体を支えることができない。

 そして、最後、2階の部屋から葉子が外をみていると、猫が駐車している車の下にもぐってでて来ない。心配になって、祐美に支えてもらいながら駐車場に行く。そして猫を助けようと車の下に這ってもぐる。だけど、もぐってしまうと、そこから出られない。それで・・・・。

 これが、絶妙の筆致で、だんだん恐怖を連れてくる。これこそホラーの神髄。

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藤野千夜   「じい散歩」(双葉文庫)

 主人公の新平は89歳。妻の英子は88歳。この老夫婦にどうにも困った息子が3人。

長男 孝史は高校中退依頼、ずっと部屋に引きこもり。次男健二は、恋の相手は男性。三男雄三は会社経営。主な仕事はグラドル撮影会主催とかなりいかがわしい。その度に赤字となり、しょっちゅう父親にお金の無心をしている。当然3人とも50歳を過ぎて独身。

 新平は、朝起きてマットレスの上で、いつもの体操。そして、ヨーグルトや米ぬかスープを中心とした決まりきった朝食を取り、10時に家をでかけいつもの散歩にでる。夕方家に帰り、6時半に夕食という生活を毎日決まって繰り返す。

 東京、大都会はうらやましい。私も犬を連れて、毎日散歩に行く。犬という障害はあるが、途中立ち寄れるところは何もない。公園は2か所あるが、人っ子一人おらず、朽ち果てる寸前のベンチがあるだけ。歩いて出会う人の数も1-2人。

 じいと言われる新平の散歩は、寄り道できる場所が多い。たくさんの喫茶店。そこそこ人がいる神社仏閣、公園。簡単な食事処。本屋、ゲームセンター。いくつかの個人商店。それから博物館。その日の気分にまかせて、いろんな場所に立ち寄れる。そして、そこでちょっとした会話。
 新平は、建築会社を経営していたが、バブルがはじけて、会社は傾き、社員は全員解雇して、自社ビルだけが残る。そのビルで、かって会社の事務所があった部屋に、散歩の午後立ち寄る。そこには家に置いておけない、趣味の品やいかがわしいエロビデオがおいてある。それらを密かに楽しみ、夕方家に帰るのである。

 妻の英子は、最近少し認知症気味。実は、新平は50歳のころ、料理屋の仲居をしていた富子と浮気をしていて、英子と離婚して富子と一緒になろうという会話もしていた。今は89歳。当然、ずっと昔に富子とは別れていた。

 しかし英子は、新平が「散歩に行く」と家を出ようとするとき、「今日もまた浮気なの?」言う。

 新平と英子。それから家族。現在もその先も完全に真っ暗な状態。こんな状態を描くと、悲惨で、辛い物語になりがちだが、藤野さんのこの物語の雰囲気は明るく、楽しくコメディホームドラマ調で、面白い。でも、その明るい薄膜の先は、かなり辛く、切ない。

 私も数年先に後期高齢者になる。物語が明るいだけに、その反動で先は深い暗闇に見えてくる。

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横山秀夫   「ルパンの消息」(光文社文庫)

 重厚なミステリー小説を次々発表している横山秀夫の処女作品。

15年前起きた、高校女教師自殺事件、時効寸前に、所轄署に警視庁から、該当の件は、自殺ではなく殺人事件とのタレコミがあり、再度事件を洗いなおせとの指示がある。しかし、時効まで2日間しかない。その時間内に殺人事件として犯人も割り出さねばならない。時間との闘いが開始する。

 女教師が自殺と断定したのは、屋上にハイヒールとそのハイヒールの中に遺書がねじりこまれていたからである。

 しかも警察にとって間が悪かったのは、事件当日、府中で起きた3億円事件の時効の日であり、捜査陣は何とか事件を解決させるために最後の捜査を行っていた。そして犯人と思われた喫茶「ルパン」の店主早川を自白に追い込むため、厳しい取り調べを行っていた。

 自殺事件が起きた日、自殺者が先生をしていた高校の不良生徒3人が、夜間高校に忍び込み翌日からの期末試験のテスト用紙と解答が保管してある、校長室金庫から盗もうとしていた。ところが、3日目の問題と解答を盗もうと金庫を開けたところ、そこには問題と解答は無く、代わりに、自殺したとされる女教師の死体があった。

 3人は新聞で、女教師が自殺との記事をみるが、明らかに他殺であることを知り、犯人を独自に突き止めようと捜査を開始する。
 その3人は
 喜多芳夫  現在は普通のサラリーマン、竜見譲二郎 地上げ屋、そしてホームレスの橘宗一。

彼らは、3億円強奪犯人と思われていた早川が店主の喫茶「ルパン」にいつも集まっていた。。

 物語は、15年前の不良3人が行った捜査と、そのことを知っていた警察が、3人を連行(ただし、橘は行方わからず)取り調べが重なりあいながら進行する。

 時効が迫りくる、その時間までに犯人をあげねばならないという異様な緊張感が物語の全体を通じて常に存在し、読者は手に汗をにぎり興奮が途絶えることがない。しかも事件に3億円強奪の犯人と思われる早川が、女教師殺害事件にも絡んでいて、全く興味がつきない。

 事件解決の糸口になったのが、女教師が別の女教師にレズ関係を強要されていたことが判明したこと。

 それが、なぜ判明したかは、強要していた女教師が雑誌の告白手記にレズであることを写真とともに投稿していたことから。
 今から30年ほど前、出版不況となり、街の小さな書店は、普通の書物雑誌を店の奥に置き、入り口付近に告白記事と写真が中心のエロ雑誌を置き、活路を開こうとしていた。

 物語では、投稿記事と写真が事件の解決の突破口を開いたように書かれているが、読者はみんな知っていた、投稿記事も写真も専用ライターが書き、用意していたことを。
 そこだけがちょっぴり嘘くさかった。

しかし、そのほかのトリックは細部にわたりよくできていて、しかも深い人間の本質あるいは恋愛の物語になっていて、その重厚さには圧倒された。

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楊逸    「ワンちゃん」(文春文庫)

 最近は、日本の国力が落ちてきたのか、アジア女性との結婚の話はあまり聞かなくなった。

 私は地方の中都市に住んでいる。女性は男性に比し元気で、この街を飛び出して都会で暮らす人が多いのだが、どうも男性に覇気のある人が少なく、地元に残って、結婚もすることなく、燻ぶった生活をしている人が結構いる。たまに女性も残っているが、そんな女性は自分より学歴のある人を求め、高卒の人にあまり見向きをしない。

 それで、中年以上の男性では、斡旋会社に依頼して、中国、フィリピン、ベトナムの女性を伴侶にしている人も結構いる。

 この物語の主人公王学勤、日本名木村紅は、中国で結婚して男の子を授かるが、夫がだらしなく、お金をしょっちゅうねだり、女性関係もだらしないため、離婚をして、日本人との結婚斡旋会社に登録、そこで知り合った愛媛の田舎の工場勤めをしている男性と結婚する。この男の家には、年老いて体の弱っている母親がいた。男は無口で、夫婦は全く会話が無い。紅は、年老いた母親の面倒をみるためだけに結婚したような状態。

 紅はそんな中、日本人男性と中国人女性を結びつける結婚斡旋会社を始める。
女性は中国の田舎の人を斡旋。中には離婚を2回も経験している女性もいるが、大半は若くて独身。相手となる日本人男性がよくない。前歯が抜けるほどの老人。病弱。女房に逃げられた中年。過疎地の農業従事者など。
 見合いパーティなど公式行事が終わると、結婚申し込みの男たちはマッサージなど、女性売春の店にふけこむ。

そんな中、紅は、結婚できた家をしばしば訪問し、結婚後の生活も懸命にうまくいくよう支援をする。老母の世話も頑張る。

 紅の女性として、人間として異国同士の結婚で起きる障害を越えて行く素晴らしさが際立つ。佳品だった。

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涌井学    「夫婦フーフー日記」(小学館文庫)

 映画のノベライズ版。作品は、清水浩司夫妻のブログ、がんフーフー日記をまとめたものをノベライズしている。作品では夫は清水浩太、妻は清水優子になっている。

 2人は20歳のとき、飲み会に誘われる。その時初めて2人は出会う。その時浩太の向かいに座った、優子が居酒屋だというのに、クラシックバーガーを大口をあけて、おいしそうに食べている。変わった人だと浩太は思う。浩太が自己紹介する。優子はもぐもぐバーガーを咀嚼、一気に飲み込みながら自分の名前を浩太に言う。

 この時から2人の交際が始まる。酔っぱらって大声を上げる優子を背負いながら、浩太はしょっちゅう自分のアパートに連れて帰る。

 そんなことを続けて18年。38歳の時、浩太のプロポーズで2人は結婚する。そして初めて2人は結ばれ、子供ができる。その子が生まれペーと名付けられる。

 しかし妊娠がわかった直後、優子の直腸がんが発見され、治療はいろいろ試みられるが、亡くなってしまう。その亡くなるまでの間、ブログが公開される。

 優子は亡くなっても、幽霊となって浩司のもとに現れる。その姿は浩太にしか見られない。
 浩太優子は漫才カップルのよう。優子が強烈なツッコミをして浩司が大ボケをかます。

 浩太のブログが本になることが決まる。もちろんその時、優子は亡くなっている。だけど優子か浩太のそばにいる。

 喜んだ浩太が優子に「出版が決まったぞ」と大声で叫ぶ。優子も「よかった」と喜ぶ。
少しして、優子が「あんた何してん?」と聞く。
 気が付くと浩太は電信柱を思いっきり抱きしめている。

優子がやせ細り、口からは何も食べられず、点滴で栄養補給をしている。最期が近い。東京ではなく、最期を優子の故郷福島で 遂げさせてあげようということで、車で福島に向かう。

途中のドライブインで、突然優子がクラシックバーガーを食べたいという。それで、クラシックバーガーを買って優子のところに持ってゆく。優子はうれしそうにおいしいと言って、バーガーを全部食べ切る。そしてその夜、優子は天国へ旅立つ。
 クライマックスの感動場面。

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ビートたけし   「アナログ」(集英社文庫)

 この物語、私のような年寄りの時代の人生、青春を思い出させてくれる。

まずは素晴らしい友達ってどんな友達なのだろうかということ。この作品では、主人公の水島、高木、山下が友達同士で登場する。由来ははっきりしないが、たぶん幼い時からの集まり、遊び相手で、それがたまたま住む場所も遠く離れず、今も友達として関係が続いているようだ。

 水島は建築デザイナー、山下はデジタルとは全く関係ないゲーム機、UFOキャッチャーとか、ガチャガチャ、もぐら叩きなどアナログのゲーム機の開発、販売をゲーム会社でしている。山下は地元大手の不動産会社の長男として、不動産管理を担当。父親は、後継者として、長男ではなく次男を据えようとしている。

 この3人は、30歳近くなるまで、ずっと一緒で、いつも心おきない関係を続け、よく集まって飲んだり、遊んだりしている。

 仕事や会社関係、学生時代にしりあった友達もそれなりに良いとは思うが、上下関係や気遣いもなく、おさないまま言いたいことを言える友達が、やはり最高の友達のように、思える。

 事実、物語で主人公の水島の母親が亡くなる。普通は会社総務とか、近所の人が通夜、葬儀の段取りをするが、物語では、落ち込んでいる水島の代わりに、友達の高木、山下がすべて段取りをつけてくれる。
 ビートたけしが紡ぎだす、3人のかくしごと、遠慮のない、ユーモアいっぱいの会話がすばらしい。

 2つめは、恋人との約束や連絡。私たちの青春時代、もちろん携帯やパソコンは無い。コミュニケーションは、家庭にある固定電話。私は学生時代寮生活、電話機はわずか2台。この電話を使い彼女に電話したり、電話当番がいて電話がきたときは呼び出してもらう。どちらかが、家や寮で不在の場合は、会話ができない。だから、デートの約束は手紙で行う。一週間以上前に約束し、回答も手紙で受け取る。だから手紙をだすと、返事はまだかと寮のBOXをしょっちゅう確認に行った。このドキドキ感がたまらなかった。

 3つめは、喫茶店の存在。物語では、水島とみゆきが喫茶店で会話し、2人とも、携帯や家の電話番号を教えあわず、毎週木曜日の夕方、喫茶店で落ち合おうと約束。その時、相手が来なかった場合は、デートをあきらめるという約束で交際を始める。

 そう落ちあう場所は喫茶店。今のように、いきなり飲み屋とかレストラン、映画館で落ち合うということは無い。必ず喫茶店で落ち合ってから、目的の場所に行く。

 この喫茶店が、今は無くなってきた。もちろんセルフのチェーン店はあるが、当時は人生相談にのってくれるようなマスターがいる喫茶店が至る所にあった。物語では、その喫茶店はピアノという名前で、水島の母が亡くなったとき、マスターも葬式に参列している。

 この3つの条件がからまりあった物語をビートたけしは作っている。青春時代を思い出させてくれた。そして、水島、みゆきの恋の行方は?それも中々感動的な結末が用意されている。

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角田光代    「銀の夜」(光文社文庫)

 時々作家のエッセイやインタビューで、登場人物が勝手に動き出して作品を創ってくれる時があるということを拝見することがある。角田光代、少年少女向け小説作家から脱却して、「幸福な遊戯」でデビューしてからの作品「ピンクバス」「学校の青空」「キッドナップツアー」「地上八階建ての海」の登場人物は、まさに角田さんが言っていたように、勝手に作品の人物が動き出したという雰囲気があり、実に情熱的だった。

 直木賞を受賞した「対岸の彼女」あたりから、登場人物は落ち着き、角田さんによって造型され、作られるようになった。

 この作品を読みだしたとき、この作品は今の角田さんの作品と違い、登場人物が作田さんの手から離れて、自由、思うがままに動いてる初期の作品だと思った。

 この作品は角田さんが、2005年に書いた作品で、当時は超売れっ子作家、月に締め切りの作品が30作品もあったと述懐している。とてもゆっくり考え抜いて書いている時代ではなかった。

 この作品の主人公は3人いる。35歳の麻友美、ちづる、伊都子。この3人が所せましと動きまわり活躍する。3人は高校生の時、ひょんなことから、素養もないままにガールズバンドとしてデビューする。当時、社会はまさに女子高生がブランドとして最高潮の時代。

 しかし、彼女たちが通う女子高は、バイト、タレント活動禁止の高校。このため彼女たちは退学処分となる。彼女たちの価値は女子高生であることにあった。それで、女子高生で無くなると、価値は消滅。そして、世の中から消え去った。

 35歳になった3人麻友美は、イラストレーター。夫の寿士は、会社の若い子と浮気をしている。しかし麻友美は、そのことに全く関心を持たない。そして、その世界で知り合った胡散臭い男に誘われ、抱かれ、だんだん彼に魅かれる。

 ちづるは裕福な家の男と結婚。自分のバンド時代に強い郷愁があり、一人娘ルナをタレントにしようと懸命に活動する。そのわがまま、一方的活動により、幼稚園の父兄から総スカンをくらい孤立する。すると今度はルナは頭の出来がよいと思い、私立の有名小学校に入学させようと活動をする。もちろん、タレントになることも同時に目指す。
 その姿はルナのためではなく、自分の欲望を満足するための活動になっている。

 伊都子はいまだ独身。写真家を目指している。彼女の母は、有名な翻訳家。出版界に対し大きな力を持ち、有名編集者、作家とも交流がある。そして、伊都子は完全に母親にマインドコントロールされている。

 こんな3人が、角田さんの手を離れて、勝手気ままに作品の中で暴れまくる。それがどんなにすごいか、作品を手にとって確認してほしい。熱量いっぱい、角田さんの作家デビュー時を思い出した。

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樋口有介    「ぼくと、ぼくらの夏」(創元推理文庫)

 作品は1988年サントリーミステリー大賞読者賞受賞作品。作者樋口は、中学校を卒業して、高校には行かず、母親の実家の看板屋を手伝う。友達に夜間学校に通っている子がいて、彼の勧めで夜間学校に通う。そして大学まで行き卒業後、劇団俳優など、職業を転々としながら純文学作家を目指し、文学新人賞に何回も応募したが、まったく目がでず、やけくそでミステリーに挑戦、その作品が紹介した作品で作家デビューを果たす。

その後、青春ミステリーや青春ハードボイルド小説で傑作を連発。一躍人気作家となったが、2年前、沖縄の自宅で死体となって発見された。しかも死んでから何日もたっていた。

 この作品、1988年は、話題の中心は女子大生から女子高生に移っていた。おニャン子クラブが2年前に結成され、全盛期を迎えていた。

もちろん、私には関係なかったが、国会、地方問わず議員は、建設業者、病院医者と癒着し、収賄で裏金も使われたが、女子高生を斡旋するという見返りが流行っていた。女子高生を起用した秘密クラブもあった。

 この作品は、当時の社会風潮を思い起こさせる。
今はその女子高生の価値も低くなった。

 この物語の主人公は高校生の戸川春一。父親は女狂いの刑事。愛想をつかされ、母親とは離縁。その春一が暴力団の親分の娘で同級の女子高生を家に連れてくる。親父は大いに戸惑う。もちろん、交際は反対なのだが、自分の女性狂い故、春一に強くでられない。

 しばらくたって父親が春一に言う。
「こないだの子とすぐにでも結婚しなさい。」
春一は驚く。
「だって俺はまだ高校生だよ。」
父親が言う
「二度と会えん女はいる。若かろうが、年寄りだろうが。」
これは、いい。本当にその通り。

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山本幸久    「失恋延長戦」(祥伝社文庫)

今までに、殆ど読んだことのないタイプの小説。まず、主人公と主人公の愛犬が会話ができる。そして、悲鳴とか叫びに対する「キャアアアア」とか「ウォォォォォォ」などやたらに大げさな表現が多い。
 ラノベやドラマのノベライズとも異なるし、いろいろ考えてみる。そして思い当たる。
女性用の漫画雑誌の漫画をノベライズした作品だ。

 作品は主人公真弓子の高校時代から30歳過ぎまでの人生を描く。

その人生に強烈な影響を与える2人の女性が登場する。高校で2年間同級で、まったく真弓子とソリがあわなかった藤枝美咲と、真弓子の憧れの先輩で恋心を抱いていた大河原先輩の恋人になったおお金持ちの令嬢で後輩の蔦岡るい。

 蔦岡と真弓子の大河原先輩をめぐっての関わり合いも面白いのだが、変わり者美咲の行動がすごい。

 何の素養もないのに、自分は音楽に生きると突然宣言して、親から10万円もするギターを買ってもらい、男性メンバー2人をみつけ、バンドを組む。そして、街のライブハウスでライブをするからと真弓子にチケットを売りつける。しかたなく真弓子はライブに行くが、最初から最後まで、客は真弓子一人。

 高校卒業後、美咲、今度は女優になると東京にでる。
ある日、地元で真弓子は偶然美咲にあう。そして下北沢の劇場で舞台劇をやるから、見に来てほしいとお願いされる。大河原君に逢えればと思い、彼女からチケットを購入して劇場に行く。

 崩れ落ちそうな4階建てのビルの一階の中古のレコード屋に金粉を体中に塗りたくった美咲のポスターが掲げてあり、駅裏劇場は4Fにおあがりくださいと書かれている。

 二階には雑貨屋があり、三階には「ふんどしパブ 日本海」がある。四階の劇場に入ると暗い場内に客は10人。劇が始まる。その劇がひどい。筋もわからないし、俳優のセリフは棒読み。客が一人、二人帰り、最後に真弓子だけになる。しかし美咲は登場しない。芝居の最後にやっと金粉を塗りたくった姿で美咲が登場。せりふを大声で叫んでその場で倒れ意識不明に。慌てて救急車を呼び病院につれてゆく。医者が今時めずらしい、しばらく何も食べていなくて、栄養失調ですと言う。

 「楽屋に案内してほしい」というと「少し狭くなりますけど」と言われ連れていかれた先はトイレ。

 マンガに思えるから、大げさには感じるが、何だかこんな世界で、夢をみて必死に頑張っている人がたくさんいるのでは下北沢にはという思いが残った。

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湯本香樹実   「夜の木の下で」(新潮文庫)

 最近は読書も疲れるので、エンターテイメントあるいはライトノベルに類する小説ばかりを読んできた。紹介している作品はまさに文学作品。久しぶりの文学作品に、やはり本格派の作品は素晴らしいと認識した。

 この本には6編の作品が収録され、どの作品も見事。その中で、最も短い作品「私のサドル」を紹介したい。

 私の青春時代。もう50年も昔のこと。性の体験は非常にハードルが高かった。特に女性は、結婚後の体験が初めてでなければならないことが暗黙の規律だった。

 初体験をテーマにした小説が爆発的に売れた。今のように、性体験なんて普通のことという概念は無かった。で、ごくたまに性体験をした女性が妊娠することがあった。その中絶手術にみんなでカンパを募って、費用を捻出なんてことがあった。

 主人公のミキちゃんは現在高校2年生で自転車で通学している。
ある日、自転車に乗って、通学しようとしているとき、「ミキちゃん」と呼ぶ声がする。そこには誰もいない。「だれ?」と声をかけると、「わたし」とサドルが声を発する。

 ミキちゃんには小学校からずっと一緒に通学していた城ヶ崎君がいた。城ヶ崎君は、勉強もスポーツもでき、ミキに勉強を教えてくれた。

 高校も同じ高校に入ったが、城ヶ崎君は登山部にはいり疎遠となった。そんな城ヶ崎君にとんでもないことが起きた。城ヶ崎君と女教師の松本先生が愛し合いそして松本先生が妊娠した。ミキちゃんは衝撃を受けた。松本先生より、城ヶ崎君に嫉妬をした。

 ミキちゃんが、サドルに言う。「このこと知ってた?」サドルは「もちろん知ってた」と答える。そして、ここがいいのだが、サドルは続けて言う。

「ミキちゃんは、城ヶ崎君と一緒の時は決して俺に乗っかってくれなかった。」初めてサドルがミキちゃんに俺と自分のことを言った。

 それからミキちゃんは大学に行き、先輩と付き合う。先輩に誘われ、あの自転車で先輩のアパートに行く。そしてアパートで先輩に抱かれ、初体験をする。

 そして先輩と別れて家に帰ろうと外にでる。すると自転車は盗難にでもあったのか、なくなっていた。もうサドルとは、語り合うことはできない。

 上手いなあと思う。味わい深い小説。

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吉永南央    「リペア RE*PAIR」(中公文庫)

 主人公の透子は高校卒業して、父のやっている革製品の修理工房にはいり、職人として働いていた、2年後に父が亡くなり、工房を一人で切り盛りしている。

 10年前、透子は堂場敬史と婚約。神戸の堂場家へ挨拶にゆく。挨拶は済んだのだが、それからしばらくして、敬史から婚約を破棄すると通告される。それはある事件によることからと敬史に言われる。

 ボーっとして読んでいたので、10年前にどんな事件が起きていて、婚約が破棄されたのかが、わからない。

 あわてて、前に遡って読んでみる。そして書かれていたのが、敬史の県会議員である父親の不祥事、市内の総合病院に勤務する敬史の兄の医療ミス、交通過失事故が記載されていた。

 不思議なのは、10年の間に、透子のところにたまに丹羽という刑事がやってきて、容疑者を未だにさがしているという場面が登場する。

 事件といっても、3つの事案は、犯人は明確で逃亡しているわけでなく、10年たっても犯人がつかまらないような案件ではない。しかも、事件は透子の側にあるのではなく、堂場側に関係があり、透子に問題がなければ、結婚のための障害は無い。

 もやもやした状態で読み進む。そして物語の中盤になって、その原因が明らかにされる。

実は、透子の母親の里子は堤という詐欺師のもとにゆき家庭を捨てる。堤はアジアの国々への投資話をもちかけ大金をだましとるが、約束された配当や、解約に応じない。それで、堤と、里子は指名手配されていたが、行方が全くわからない状態になっていた。

 10年たって、透子の周りに、2つの大きなことが起きる。

一つは、体の一部足だけが見つかり、これが堤のものと判明。それから、婚約を破棄した、敬史家族が、透子の目の前の家に妻と息子とともに引っ越してきたこと。

 そして警察は懸命に捜査するが、足以外の体の部分は見つからない。
物語はミステリーと透子と敬史家族との葛藤が描かれる。

 ミステリーとして上手いと私をうならせたのは2点。

堤の他の体の部分は見つからないはず。何と堤は、片足を壊死のため切断していたのである。

それから詐欺にひっかかる人間は、金の亡者か悪人というのが通り相場だが、普通の人や善人でもひっかかることもある。物語で犯人が示されても、よくミステリーである何でこんなりっぱな人が犯人?という違和感がわいてこなかった。

 恋に揺れる透子の行動、心情も豊かに描かれているし。なかなかの力作だと思った。

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山本幸久    「芸者でGO!」(実業之日本社文庫)

 昨日紹介した山本の作品「ミックス」は山本のやる気なさ満開のつまらない作品だった。あの勢いのあった山本が今やこんな駄作を創る作家になり下がったのかと心配して次にブックオフで買い置きしておいた表題の作品を手にとった。

 この作品は、山本の味が十二分に発揮された楽しい作品だった。それもそのはず、山本が生まれ育ち、今も暮らしている八王子が舞台。

 八王子は、この作品によると、今でも芸者の置屋が連なる、古い伝統的な通りがあり、およそ20人の芸者が活躍中らしい。
 この芸者、八王子の一大イベント秋祭りには、祭りの中心となって活躍、祭りにはなくてはならない存在。

 先頭は、火消しの纏。そこに「手古舞」なる衣装をまとい芸者が木遣りを唄う。それに続く山車に6,7人の芸者が乗り、三味線、太鼓、笛、当たり鉦などで、賑やかな音曲をメドレーで演奏する。

 八王子の芸者置屋「夢民」には女将と女将の母、それに5人の芸者がいる。物語はそれぞれの芸者の来し方と今、未来を描く。
 それぞれにそれなりに波乱があって、恋に悩み、逆境を楽しく超えてゆく。

その5人は以下の通り。
 茂蘭 元看護師、シングルマザーで高校生の息子がいる 寿奈富(スナフ)元丸の内のOL, 未以(ミイ)元キャバ嬢、兎笛(トテキ)元女子プロレスラー、弐々(ニニ)女子高卒業即芸者になる。

 この元の経歴をみても、個性的な人生の一端が伺える。それぞれの特性を八王子の街に溶け込ませ、現実味のある物語に作者山本は見事に表現している。

  物語には、小唄が有効的にさしはさまれる。その中でこれはいいと思った唄を紹介する。

  伽羅の香りとこの君様は
  幾夜とめてもわしゃとめあかぬ
  寝ても覚めてもわすられぬ
  夢の手枕つい夜が明けて
  別れ煙草の思いの煙
  おもうおかたへなびきゆく 

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山本幸久    「ミックス」(ポプラ文庫)

 新垣結衣、古沢良太主演の映画「ミックス」を山本幸久がノベライズした作品。
卓球をテーマにした、少しコメディタッチの物語。

主人公の富田多満子の母華子は元日本を代表する卓球の選手。母は、卓球引退後、フラワー卓球クラブという卓球教室を始める。多満子は2歳の時ラケットを握らされ、毎日母から卓球の猛訓練をさせられた。

 強烈な罵声や殴打、多満子は卓球をやめたくてしかたがなかった。14歳中学生の時、母華子が悪性腫瘍で他界する。多満子は、これを契機に卓球をやめ、高校時代はガングロ、ヤンキーな学生時代を過ごす。
 そして卒業後、IT企業渚テクノロジー社に就職。その渚テクノロジーには、卓球の日本

 ところが、渚テクノロジーには小笠原愛莉という、江島のダブルスのコンビがいて、江島代表選手江島がいて、多満子は江島と恋愛関係となる。江島は愛莉と関係をし、ショックで多満子は江島と別れ、会社もやめる。

 そして、父が細々と続けていたフラワー卓球クラブのコーチとなる。
その卓球クラブに建築現場の作業者をしていた萩原が入会する。萩原は元ボクサーでチャンピオン戦までいった経験を持つ。

 卓球は未経験だったが、動体能力が飛びぬけて優れていて、多満子の指導により、卓球の力も急速につけ、最後多満子とペアを組み、神奈川大会で江島、愛莉ペアと戦うことになる。

 こう筋を書くと、厳しい訓練や、激しい試合に打ち勝ち、2人が勝ち上がってゆく物語かと思うのだが、最初に記したように作品はコメディ作品。試合、訓練の描写は殆どなく、全編おしゃべりばかりの作品になっている。早朝の走行訓練でも、農作業している農家のひとたちとのおしゃべりの描写。
 作者山本は、脚本を読んであるいは映像をみて、それを忠実にノベライズしたのか。自分で作品のストーリーをつかんで小説として仕上げなかったのか。じつにつまらない作品になってしまった。こんな映画に出演した女優新垣結衣が可哀そうになった。

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朝倉かすみ    「にぎやかな落日」(光文社文庫)

 人生最晩年の生活の、寂しさ、諦めを鮮やかな筆致で描いた物語。

主人公のおもちは北海道石狩市に住む、83歳。学校を卒業して、料理屋に勤め、そこからデパートガールに転進。その時代に、ブリキ職人の勇さんと結婚する。

 子供は近くに住む長男と、横浜に嫁いだ娘。それで。おもちが勇の世話をせざるを得なくなる。3年間は、デイサービスや近くの義嫁の協力を得て、3年間は頑張ったが、それ以上は、おもちの糖尿病が悪化し、それに伴い、体も動かなくなり、認知もすすみ、勇は特養に、しばらくして、おもちも別の老人ホームに入居することになる。

おもちが、勇にプリンを食べさせる場面には唸った。

プラスティックのお匙は透明の袋に入っている。おもちさんはお匙の柄のお尻に薬指の腹をあて、ぐうっと押し上げた。お匙の四角いアタマが透明な袋を破って出ようとする。透明な袋はニューっと伸びて薄くなりはするものの、なかなか破れない。ハァァァッ。おもちさんは全力でお匙の柄のお尻を押し上げる。親指の腹が赤くなる。痛い。でも、お匙のアタマはまだ透明な袋を破って出てこない。ったくモーこの袋。

「アアツ゚情けない」

つまるところ、歳を取るということはこういうことだと大きめに嘆きたくなる。ごく些細な部分なのだ。日常の些細な動作が上手くできなくなる。そもそもその日常が長く生きているうちにいつのまにか変わった代物だった。お匙の透明な袋だけでなく、あの手のちっちゃな袋全般。缶詰のパッカンと開けるフタ。ペットボトルのフタ。新品のボールペンの先っちょに付いているカバー。みんな手ごわく、みんなおもちの若い頃にはなかった。

 介護や認知の物語は、著者が、取材をしたり、介護ホームの現場にゆき調査して描いた作品が多い。そして、トーンは暗く、絶望的な作品ばかり。

 しかし朝倉さんのこの作品は、中身が本当にリアルで表現も素晴らしく、読者に強く迫ってくる。この作品は朝倉さんの実体験から書かれていると確信した。

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芦沢央   「汚れた手をそこで拭かない」(文春文庫)

 ちょっとした、失敗、悪ふざけ。忘れるくらいのことだが、ふっとしたことでそのことが沸き上がってくる。すると、そのことが、大変なことを引き起こすのではと不安になり、それがどんどん増幅する。その心配を取り除くために、いろいろ考え悩む。
 そんな人間によくある出来事を紡いだ5編の小説集。

2作目の「埋め合わせ」。主人公の中学校の教師。誤ってプールの水を半分排出してしまう。
これを隠すために、水量をもとに戻さねばならない。

プールの水をミスって入れなおす案件が当時は頻出していて、水道料金が異常に増える。ある事件ではそのときの水道料金が249万円になりそれをミスした教師が補償したということが起こっていた。

 中学校の教師、まず、不足した水をプールに入れたら水道料金がいくらになるか、あれや
これやと計算してみる。すると13万円になる。この程度の失敗だったら、校長や教頭に失敗を正直しても大がかりなことにはならないと思うのだが、校長の叱責が怖くなったり、
査定に響くのではと思い、その重圧に耐え切れず、いろいろ策をめぐらす。

 生徒が、ふざけて行ったようにみせようとする。時間いつ、どの水道を使ったのかを懸命に考える。

 そして、色々策動する。そこに別の教師が登場して、そんなこともしても無駄。どうやっても、嘘はばれる。追い詰められた主人公の教師、じゃどうすればいいかと他の教師にすがりつく。教師は、たいしたことないじゃんと飄々している。

 そうなんだよね。なんで、人間というのは、こんなたいしたことではないことに、くよくよ悩んでしまうのだろうか。

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知念実希人   「となりのナースエイド」(角川文庫)

 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのベストセラー作家の知念。この文庫本は11月下旬に書店に行って購入したのだが、なんと11月に知念の文庫本新刊がこの作品も含め3冊もでていた。
 こんな猛烈な作家、最近聞いたことがない。しかも、この作品は日本テレビでドラマ化され放送中だそうだ。

 主人公の桜庭澪は調布中央総合病院で外科医として勤務していた。澪には姉唯がいた。唯は優秀な姉で、大学をでて、大手新聞社の記者になった。

 ところが姉は2年前シムネスという病気にかかり、澪の病院に入院して、澪が主治医として担当していた。手術は不可能といわれる病気なのだが、澪は手術をすることを決め、唯に相談、唯もそれを受け入れ手術を実行、成功。シムネスは手術で完治はできないが、しばらくは新聞記者として復帰できたのだが新聞社が復帰を拒否。気落ちした唯は、記者ができないのなら生きていても仕方ないと澪に訴える。

 澪は訴えに応えることができない。そして、唯はアパートから飛び降り死んでしまう。

 姉が死んだことに衝撃を受けた澪は、勤めていた病院をやめ、星嶺大学医学部付属病院にナースエイドとして働きだす。ナースエイドは配膳、食事の介助、おむつの交換、入浴介助、ベッドメイキング、褥瘡予防の体位変換など、治療以外の雑用をすべて行う。病院での地位は最底辺だが、患者の最も近い存在で、患者とのコミュニケーションが最も多い職である。

 澪は、患者に寄り添おうという思いでナースエイドになったのである。

この大学病院に神の手を持つ名外科医の竜崎がいた。
物語では、竜崎、看護師、ナースエイドを困らせる患者が登場。それで多くのトラブルが発生、その解決の過程をスピード感をもって描く。

 そして最後に、最も困難な問題にぶちあたる。

玉野小夜子という子が母親早苗とやってくる。小夜子はブルンベルグ兆候がみられCTをとると盲腸がどんどん膨張して破裂しそうになっていることがわかる。放っておくと血が噴き出し、失血症で亡くなる。即手術が必要な状態。

 ところが、母親の早苗が手術を拒否。早苗は新興宗教「オーラの御心」に入信していて、開腹するとそのオーラが体から放出され、神様とつながらなくなるからと言う。

 しかし竜崎が、早苗の同意のないまま手術をしてしまう。これにより、「オーラの御心」と紛争がおき、マスコミも騒ぎ、騒然とした状態になる。

 そこから宗教団体と竜崎、澪の戦いが始まる。ここが、物語のよみどころ。

 知念の作品は、トリックに馴染みのない病気を使い、読者を煙に巻く作品が多いが、この作品は困難に正面からぶつかり、熱い作品になっている。
 これを読むと、なるほど知念の作家としての能力は卓越していることがわかる。

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真梨幸子    「フシギ」(角川文庫)

 ホラーミステリー短編集。短編集なのだが、最後にミステリーの謎ときがなされ、全体でもひとつの作品になっている。

 主人公の作家である私に、出版社ヨドバシ書店の編集者である尾上まひるから、何回かメールがくる。しかし尾上は、マンションの窓から飛び降りすでに死亡している。こんなところからミステリーは始まる。

 真梨さん、このホラー小説、物語にのめりこみ、乗り移って書いているだろうか。犬神、死神、死霊、生き霊、怨霊など、ホラー言葉はたくさんちりばめているが、作者自ら物語の世界に入りこみ、少し狂ったような状態にならないと、ホラー作品は迫力がでてこない。

 真梨さんの作品にしては、ホラー度が薄い作品のような気がした。

これは、そうだなとうなずいたのが、主人公と編集者里見との会話での話。

醤油の原料は言うまでもなく大豆だ。大豆の主成分はたんぱく質。もっと言えばアミノ酸。
で同じアミノ酸が主成分なのが髪の毛。

戦後、日本が物資不足の時、大豆がなかなか手に入らなかった。しかし、醤油を求める声が大きくて、メーカーは苦肉の策として髪の毛から醤油を作った。もちろん今は大豆が原料で作られているが、日本以外、発展途上国では、女性の髪の毛から醤油を作っている国もあるそうだ。

 それから、この作品でちいさい頃のことを思い出した。

縫い針をさしておく針山。この針山の中身が髪の毛だった。髪の毛が詰められている理由は、髪の毛に含まれている油分が、針のさびを防ぐからだからそうだ。

 そうそう思い出す。ばあさんが針仕事をしているとき、しょっちゅう髪の毛をさわりながら、針をあやつっていた。

 ホラーとは関係ない内容で、感心した感想。申し訳ない真梨さん。

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瀬尾まいこ  「その扉をたたく音」(集英社文庫)

 瀬尾のユーモアいっぱいでハートフルな、瀬尾ワールド全開の作品。

私の家の近くに以前、バーがあった。人通りも殆どなく、よくこんなところでバーなどやるものだと驚いていたのだが、昼間前を通るとランチありという看板がでていて、どんな店かと思い入ってみた。店は薄暗く、客はおらず、30半ばのお兄ちゃんがでてきてランチのカレーを作ってくれた。

カレーをだしてくれながら、お兄ちゃんが言う。
「この店、明日で閉店します。半年やってみたのだけど、ほとんどお客さんが来なくて。」

ある日、犬の散歩をしていたら、変わった喫茶店ができていた。店をのぞいたら、あの潰れたバーのお兄ちゃんが店をやっていた。

 大学を卒業して、東京のバーでバイトをして、故郷に帰ってきて、閉店したバーをやっていたんだが、自分の実家を増築して昼は喫茶、夜はバーの店を開いた。

 時々、彼は店にでない。その時は彼のお母さんが店にでている。

お母さんが嘆く。
「全く困った息子で、大学終えても就職もしないでバーをするんだと言ってアルバイトをしていて、こっちに帰ってバーをやっても失敗して、とうとう親のお金で家を建て増ししてバーを作るし、食費も世話も年寄りの親だのみ。」
 それから、時々散歩の途中で立ち寄ったが、店にお客は、その店で待ち合わせしている60過ぎの浮気カップルだけ。

 この作品の主人公宮路。大学を終えても、ミュージシャンになるという夢を持って、全く働こうとしない。実家に金があり、毎月20万円の仕送りをしてもらい30歳目前までブラブラ暮らす。
 老人ホーム「そよかぜ荘」のレクリエーションの場でギター弾きながら歌を披露。全く反響がなかったのだが、彼の前でサックス演奏をした「そよかぜ荘」職員で介護士渡部の演奏を聴いて、運命の人に出会ったと思い、一緒にバンドを組もうと懸命に渡部をくどく。

 渡部が宮路に言う。
「排泄物も嘔吐物も処理して、ののしられながらお風呂にいれて、それでも、必要とされていることに喜びを感じて、宮路さん、仕事ってそういうことです。これが、ぼくたちの生きてる現実の世界です。」

 私の知っているバーのお兄ちゃんとミュージシャンになれると信じている宮路。現実の世界から遊離していつまで生活をして行けるのだろうか。親がかりでうらやましく思うが、なかなか目覚めないんだろうな。この前お兄ちゃんのバーの前を通ったら、シャッターが降りていた。

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伊坂幸太郎   「逆ソクラテス」(集英社文庫)

 5作品が収録されている。面白いと思ったのは、それぞれの作品はもちろん独立していて、どの作品も面白いのだが、全編読むと、それぞれの作品にちりばめたトリックが、全編を通じて見事に回収されて、全体が一つの作品として成り立っているところ。

 こんな前文を書きながら申し訳ないが、個人的な経験から印象に残った「スロウではない」をベースに語りたい。

 この作品、主人公の僕のクラスに高城かれんが転入してくる。そのころのクラスは、勉強もでき、運動能力抜群な渋谷亜矢が牛耳っていた。その対極にあるのが、友達が誰もいない村田花だった。

 全校恒例スポーツ行事、全校クラス別対抗リレー大会が開催される。各クラスから2チームが出場する。1チームは、渋谷がアンカーになり優勝を狙う編成となるが、期待されない2チーム目のメンバーが決まらない。それで、渋谷の提案によりクジ引きで決めることになる。そして、主人公の僕が2チーム目のメンバーになる。

 リレーが始まる。僕は第3走者。バトンをアンカーの村田花にわたそうとする。そこに花はいなくて、なんとアンカーは高城かれんに変わっていた。

 かれんは、ものすごい走りで次々前を走る走者を追い抜き、最後は渋谷を抜きトップでゴ-ルをかけぬける。しかしチームは登録メンバーではない走者が走ったということで失格となる。

 私の高校時代、クラス対抗リレーマラソンが秋に開催されていた。有名な湖を一周、約20KMを6人で走った。優勝を狙うチームとどうでもいいチームが結成され、全く運動音痴なのに、私がどうでもいい2チーム目のアンカーに指名された。

 河原で、前の走者を待つ。ダントツの最下位、長い間前の走者の到着を待った。
やっとやってきた走者からたすきを受け、やおら走りだした。

 それで、学校の運動場が見えるところまでやってきた。長距離競技は中途半端な順位はよくない。一位か最下位は、大きな拍手、歓声が飛ぶ。少しそれを期待していた。

 で、グランドに突入しようとしていた時、見ると、大会の撤収が行われ始めていた。忘れさられていたのである。まだレースをしているチームがいたことを。

 ショックを受けた私は、グランドに入らず回れ右をして、教室にむかった。
この作品を読んで、高校時代のみじめな経験を思いだした。

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アンソロジー  「ぬくもり」(PHP文芸文庫)

 人気女流時代小説作家による、人間と動物の交流を描いたアンソロジー。

禅寺、円福寺。夜明け前に僧侶たちは全員起床する。そして、読経、座禅、参禅と朝の朝課を終え、朝食を取る。朝ごはんは粗食で、水っぽいおかゆのみ。それが終わると副住職、週信の指示で、寺内をピカピカにする掃除がなされる。

 それが終わり、朝8時から公案という禅問答が行われる。これは、住職や副住職から、問いが発せられ、それに弟子の僧侶が回答するのである。不思議なのだが、回答に正しいものは無い。しかしそれは否というものはある。これを午前中行うのである。

 柴犬の次郎。家族が住処にしていた森が火事になり、次郎以外は焼死する。そして、次郎だけが円福寺の僧侶諒斎に助けられ、寺の軒下にいる。諒斎は5歳になるまで言葉を全く喋れなかった。ところが5歳になった途端、突然喋れるようになり、寺では諒斎が悟りを開いたとみんな信じる。しかもこの諒斎は犬の次郎の言葉もわかり、次郎と会話もする。

 副住職の周信と諒信が公案をする。
周信が問う。
「犬には仏性があるか。」

これを、聞いていた次郎は何を言っているのかわからない。
私は、人間も仏性があるとは凡人だから信じることはできない悟りの境地に達することなどいくら修行を積んでもできるとは思えない。近くの寺や菩提寺の僧侶とも、しばしば会話するがとても悟りを開き、仏性があるとは思われない。

 仏性があれば、死を最大の恐怖と思い、徳を積んで、死んだ後でも、天国に行き、幸せに暮らしたいと願う。

 私は、何匹も犬を飼ってきて、犬の死にも立ち会った。もちろんそれぞれ悲しいことと思ったが、犬の仏性があるという思いは全く浮かばなかった。

 次郎が言うように、犬はまず死ぬということを考えることはない。死ぬという考えそのものがない。だから恐怖も起こらず、それにたいし何とか対応しようとする思いもない。

 次郎は、餌をもらい、日がな一日、境内や寺のなかを、ぶらぶらして、時に体を休め、そして、諒信に散歩に連れていってもらい、一日がすごせればそれでよいのである。

 だから、半日もかけ「犬には仏性があるか」と真剣に問答する僧侶、人間がへんてこに見えてしかたがない。
 こんなことを書いているダラダラ人間の私は、犬以下なんだろうな。
収録されている、小松エメルの「犬に仏」を読んでこんな不埒なことを思った。

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松井今朝子    「料理通異聞」(幻冬舎時代小説文庫)

 江戸時代、享和の頃から隆盛を極めてきた、江戸きっての料理屋の名店「八百善」。物語では「福田屋」という名になっているが、その「八百善」江戸随一の名店に導いた4代目栗山善四郎(物語では福田屋善四郎)の生きざまを描いた長編小説。

 「八百善」は浅草にあったが、関東大震災にあい、築地へ、それから第二次世界大戦の後、永田町に移転。現在は多くの出店を有しながら、本店を鎌倉の寺の中に構え、十代目栗山善四郎が当主として経営にあたっているという長命な料理屋になっている。

 松井さんが描く主人公の善四郎、実際もそうだったかもしれないが、誠実で真面目、変わった気質、性質が乏しく、正直松井さんにしては、面白味にかけ、あまり印象に残らなかった。加えて、画家酒井抱一、谷文晁、儒学者亀田鵬斎、狂歌師太田南畝、最後には渡辺崋山、多士済々なる著名人と交流をするが、そのいずれも、人間性に乏しく、何か教訓めいた会話ばかりで、酒井の吉原花魁の身請け話以外、印象が薄い。

 もっと、松井さんいつもの想像力を働かし、人間臭い交流を造り上げてほしかった。

元来、私はグルメ志向が乏しいため、多くの料理が登場したが、全く食指が動かなかった。
 それでも、福田屋の茶漬けが一両二分、今のお金に換算して十五万円には目が飛び出た。

それから、いかなる料理のなかでも、一番の眼目となるのが鶴料理というのも驚愕した。
古来、鶴は肉にも血にも薬効があるとされて日本で貴人の食用となり、汁物や鍋物、酒浸に食材として使われていた。

 特に調理道具まな板から名前をとった真鶴が美味とされ、更に、最高級の食用鶴は丹頂鶴。魚の活けづくりのように、焼いた鳥肉の周りに、頭と脚と羽付きの両翼を飛ぶ時の形に揃えて盛った羽盛りは丹頂鶴最高の料理だったそうだ。

 全体の物語は単調で眠くなったが、この鶴料理のところでは、眠気が鶴のように飛んだ。

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山本幸久    「床屋さんへちょっと」(集英社文庫)

 連作短編集。

主人公は宍倉勲。勲は父親の興したシシクラ製菓を引き継いで社長となる。シシクラ製菓は飴菓子「ナメタリーナ」がヒットして、菓子業界では有名な会社。

 ところが、勲が引き継ぐと、円高、石油ショックにより社会は不況に陥り、その煽りを受けて「ナメタリーナ」は販売不振になり、社長就任後2年で会社は倒産してしまう。

 物語は勲を中心に、勲の父、それから勲の娘、その子供たちに至るまでの、宍倉家の人々の群像劇となって展開する。しかし、父親について語られても、子供たちについて語られても、その物語の中心には常に勲が居座っている。流石に孫の物語となると、勲の影も薄くなり、彼らの両親と孫の話が中心となる。

 こういう類の物語は、勲を中心にその子供たちがいかに辛く、厳しい生活を強いられそれにどのように立ち向かったか、そしてそれに打ち勝った栄光を最後に描き、現実感の薄いどん底からのサクセスストーリーになる。

 しかしこの作品は、ダメぶりを、暗くならず、明るくユーモアをちりばめ描き、現実から遊離しない物語にしていて好感が持てる。

 社長だった勲が、売り上げが落ちていく主力商品「ナメタリーナ」を反転させるため、社員から新しい企画を募る。その時、新人の女性社員の海原が、グリコのようにおまけをつけましょうという企画案を提出する。おまけは万能ナイフ。

 海原は、当時の会社の雰囲気。女性社員は男性の補助。遅くとも20代のうちに、結婚相手をみつけ結婚し、その後退職して、家事育児に専念するという社会や会社の通念を跳ね返し、自らも社員として独り立ちして、定年まで「シシクラ製菓」で働こうと考えていた。

 勲はこの海原の企画を取り上げ、幹部社員を集め、海原にプレゼンをさせ、この企画を通し、会社を変えようと考えた。 
 しかし、企画会議で、先代の社長から働いていた、幹部から総すかんをくらい、すごすごとこの企画を取りさげた。
 これでは、ダメだ。全く社長の体をなしていない。

こんな会社を潰した勲が、そこそこの規模の繊維会社に転身して、取締役にまでなる。ここだけが作品で、現実感がない。勲にどんな能力があり、次の会社で成功を収めたのか記載がないからだ。

 それにしても「ナメタリーナ」のCMソングはなかなか良い。思わず節をつけて歌いたくなる。
 「お母さん、一本だけじゃなめたりない。
  もう一本だけなめたいな。
  なめたりないな、なめたいな
  ナメタリィィィナァァ」

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