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2023年10月 | ARCHIVE-SELECT | 2023年12月

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知念実希人   「吸血鬼の原罪」(実業之日本社文庫)

 天才医師、知念鷹央シリーズ作品。

 我が家の近くにあるアパートの多く住人はベトナム人、ブラジル人。今はいたるところに多くの外国の人が住んでいる。日本は30年間経済が成長していない。この結果所得は全く変わらない。

私が仕事で現役のころは、安価な労働者を求めて、工場を中国やアジアの国々に移設する企業が多かった。しかし、日本経済が停滞している間に、アジアの多くの国が発展して、相対的に日本の地位が低下して、日本にやってくる海外労働者は減ってきているのではと思っていた。

 家の近くにベトナム料理店が数年前にできた。ベトナムの屋台で食べたフォー現地の価格が100円しなかった。ところが、この店で食べると900円。まだ、ベトナム人の所得は少ないんだ。それで、家のまわりはベトナム人が多いのだと思った。

 日本にやってくる、外国人労働者の多くは、技能実習制度を利用している。実習というのは、日本企業の技術を習得するという目的で、日本企業の労働現場で安価な報酬で働くことを意味する。多くは、中小企業が多く、劣悪な環境で、過重労働を強いられる。こんな中で、
機械に巻き込まれ、けがをしてしまう事故が多発。殆どは労災にならず、働けなくなれば、そのまま社会に放りだされる。

 技能実習制度を利用して日本に来た人は、受け入れ企業以外で働くことはできない。それで放りだされると、詐欺グループなど悪の道に進むしか選択がなくなる。

 この物語では、働けなくなったベトナム人が何人も殺害される。不思議なことに遺体から血がすべて吸い取られ失血症で亡くなっている。

 作者知念は、この作品を作るときに、吸血鬼のような症状がでる病気はないかと思い立って作品を創ったように思われる。それがポルフィリン症。ポルフィリンというのは、赤血球に含まれるヘモグロビンの一部であるハムという物質。遺伝性の病気で、このポルフィリンが皮膚や体の臓器に溜まると、強い精神症状を引き起こす。幻覚が起き、『おまえは吸血鬼』だと言われると、血を吸わないと我慢できない状況になる。

 この知念の天久シリーズでは、いつも一般に知られていない、病気が犯罪の原因になる。

この作品では、それがポルフィリン症。
 で、このポルフィリン症だけでは、殺害事件の謎は解けない。
なぜなら、人間は平均4-5リットルノ血液が体内にある。いくら吸血鬼といえどもこんな大量の血液を一度の吸引することはできない。

 それで合わせ技で、異なる病気が登場する。HTLV-1関連脊髄症。この病気については、本を手に取って確認してほしい。

 技能研修制度、ポリフィリン症、HTLV-1関連脊髄症。なにかごまかされている気持ちが少しわくが、この合わせ技にいたる事件の背景が見事。知念の才能に脱帽。

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| 古本読書日記 | 06:40 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山本幸久    「大江戸あにまる」(集英社文庫)

 山本が描く、笑いと涙いっぱいの江戸時代小説集。
時代は江戸後期。弱小の小藩、石樽藩の江戸詰留守居役のあまりパッしない木暮幸之進。

この幸之進の肩書がすごい。
江戸留守居役手添仮取次御徒士頭見習

この役は、藩より幕府への上申書があがってきたとき、過去に同じような上申書がないか、書庫から探し出す役である。書庫には書類が2-300年分もある、探し出した書類を添付して、上申書を正式文書として整えるのである。

 当時、大名の江戸屋敷には上屋敷と下屋敷の2つがあった。上屋敷は江戸城の近くにあり、参勤交代で藩主や主要役人が住んだり、幕府へ登楼する役人が住む屋敷が上屋敷、引退した藩主の正室やその世話をする女中が住む屋敷が下屋敷である。

 石樽藩の下屋敷は渋谷村にあった。今の渋谷である。想像もつかないが、当時の渋谷は村で、農村地帯、のどかな場所だった。主人公の幸之進は上屋敷ではなく、下屋敷に住んでいた。

江戸後期は、繰り返す冷害で農作物の凶作が続いていた。また、幕府の城や土木作業に人またはお金を提供しなくてはならず、すでに、石樽藩の財政はひっ迫、借金まみれになっていた。

 それで、江戸屋敷で消費する食材は自らで作り、賄おうと考え、下屋敷のまわりの土地で多くの野菜を作ったり、動物、家畜を飼っていた。

 それから、実際の存在したのかわからないが、物産会合という会議がしばしば開催される。

この会議は、新しく発見した植物や動物についての研究を参加者が発表して意見を交わす会議である。この会議は、地位や権力がとっぱらわれて、自由平等に議論がなされる。

 作品には作者山本の強い想いが込められている。

畑の耕作、家畜や動物の飼育には渋谷村の農民に手伝ってもらわねばならないし、指導してもらわねばならない。だから、農民も武士も全く平等で、差別はない。ここが山本らしいのだが、一緒に農作業をする武士、国定村忠次郎が登場する。この忠次郎と平出御酒の対決や、11歳の勝麟太郎が、渋江抽斎が生き生きとして登場し活躍する。

 人間と動物たちが上下関係はなく、平等そして共同で支えあい社会を回し、作っていかねばならないという具体的世界を山本は楽しいユーモアを交えて描いている。

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| 古本読書日記 | 06:29 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山本幸久  「ふたりみち」(角川文庫)

 本を楽しむとはどういうことを言うのだろうか。他の人たちの書評に接すると、自分の書評のレベルの低さに啞然とする。まず、他の読書人の方の書評は、過去に読んだ作品の内容をよく覚えていて、それにより、自らの読書感を持ち、知識と読書感を基盤にして読んだ本を評価するのが特徴になっている。

 私も乱読するのだが、年のせいか、殆ど内容を記憶しておらず、それゆえ読書感などというものは全く無い。だから、他のレビュアーの方々と自分は超えることがないガラスの天井が存在していることをいつも感じている。

 今回紹介する本の作者山本幸久は、ストーリーの作る力に優れ、それに被さる想像力も秀でている。大好きな作家である。

 ところが、いくつかのマイナーな賞の受賞歴はあるが、著名な賞は受賞していない。何か突き破れないガラスの天井があるように思えて仕方がない。

 この作品、かってムード歌謡歌手だった67歳で、今は函館でスナックをやっているゆかりが、詐欺にひっかかり200万円をとられ、それをとりもどすために、歌手時代にドサまわりをしていた時の伝手に電話して、小さくてもよいから歌謡ショー開くことをお願い、受けてくれた全国5か所をまたドサまわりをするロード小説。

 このドサまわりに12歳の家出少女縁がピアノ伴奏者として同行する。
それぞれの会場で起こる大トラブル。かおりと縁との漫才のようなかけあい。そして、徐々に明かされる、かおりの過ぎ去った人生が見事に溶け合い、これぞ山本作品という作品になっている。

 北海道と言えば、同じようなテーマで作品を書く、直木賞作家の桜木紫乃を思い出す。桜木さんの作品は、同じテーマでも基調は悲しく、調べはどんより暗い。

 しかしこの作品は、内容は暗いが、色調は明るく楽しい。でもちょっぴり切ない。
私は山本作品を好む。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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石田祥   「猫を処方いたします2」(PHP文芸文庫)

 「中京こころのびょういん」シリーズ第二弾。第一弾は10万部売れ大ヒット作となった。
京都中京区にある「中京こころのびょういん」は変わった神経心療科病院だ。住所が何か変。京都市中京区麩屋街通上ル六角通西入ル富小路通下ル蛸薬師通東入ル。

 そして処方が薬でなく、猫だ。医師の先生が言う。
「猫を処方します。服用方法は、吸うなり、撫でるなり、お好みでどうぞ。」

主人公の梶原友哉は、「保護猫センター都の家」の副センター長をしている。副センター長といっても、仕事は何でもせねばならない。休みもとれず、アパートへの帰宅はいつも深夜。疲れ切っている。

 そんな姿をみて心配した円花が中京区に評判のいい神経心療科病院「中京こころのびょういん」があるから受診に行ってみたらと紹介する。保護センターの仕事が辛いからしんどいのではなく、友哉は別の大きな悩みを抱えていた。

 アパートで飼っている猫のニケがずっと寝ていて全く起きないのだ。餌は半分ほど、水も減っているから、不在の時には起きているようだが、友哉のいるときは、ゲージからだして抱いても、仰向けにしても目を覚まさず眠っている。このことが深く友哉の心の重荷になっていた。

 紹介の「こころのびょういん」に行き、その悩みを同い年くらいの医師に話す。すると医師は「猫を処方しましょう」といい、看護師に猫を持ってくるように言う。

 ところが、看護師はすべて猫は処方に使用し、今は一匹もいないという。それで、医師は今飼っている猫を処方するよう指示する。

 今のは何なんだ。不信、不満一杯で、アパートに帰ると、驚くことに猫がゲージから飛び出してきて友哉に甘えるし、食事もするし、元気に遊ぶ。

 しかし、3か月ほどすると、また猫が死んだようになって動かなくなる。近くの原田獣医の所に連れていって診てもらう。原田獣医はもう寿命ですという。

 それで、友哉は「こころのびょういん」に再度行き、このまえ病院にきて、帰ったとき、猫は元気になったが、またぐったりとなってしまったと先生に話す。

 病院の先生は、もうその猫は死にます」と言ってさらに
「猫が目を閉じて、眠ってる時、そこにうかんでいるのは楽しいことです。猫は楽しい夢を見ながら逝ける強さを持っているんですよ。」と言う。

 友哉の愛猫は名前がニケ。そして先生はニケ先生という。どうなっているのコレ。面白い。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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大山淳子   「あずかりやさん、桐島君の青春」(ポプラ文庫)

 ベストセラー「あずかりやさん」シリーズ第2弾。この作品集5番目「海を見にゆく」で、桐島君があずかりやを始める前の物語が描かれる。

 桐島君が営んでいるあずかりやは、なんでも1日100円で期限を決めてあずかる。料金は前払い制。期限内に受取に来ない場合は、桐島君が預かり品を売るなり処分できるという商売。

 桐島君が小学校に入る前の年、お母さんの運転する配達用の車の助手席に乗り、配達に同行する。途中、車の前を白猫が横切る。お母さんがあわててブレーキをかける。そのため、後ろの乗用車がお母さんの車に追突。その衝撃で、お母さんは何もなかったが、桐島君は眼にけがをおい全盲となる。

 これで、お母さんと、お父さんの関係が壊れ、2人は離婚する。

 桐島君は通常の学校には行けなくなり、寮完備の盲人学校に行くことになる。桐島君は運動、学業ともに超優秀で、学校をでたら全盲では働くことは難しいと思っていたが、担任の西野先生が桐島君を励まし、東大法学部に行き、将来全盲の総理大臣になりなさいと、難しい盲人大学入試試験の手続をしてくれ、桐島君も東大、総理大臣を目指そうと頑張る。

 長野から転校してきた同級生の河合さんが長野には海がないから海に行きたいと言って、眼が見えない同士、鎌倉の海岸への小さな旅をする。その時の描写が素晴らしい。切符を買うところ、乗り換え、桐島君は引っ込み思案で何も聞けないのだが、河合さんは通行人に聞き、助けてもらう。
電車の中ではお話ができない。アナウンスを聞いていないと、降りる駅がわからなくなるから。

 海岸の砂浜にでる。歩きにくいから、靴を脱ぎすてはだしになる。桐島君は靴を手に持って海に向かう。しかし河合さんは、脱いだ場所に同じように戻れば靴の場所がわかるからと海にゆくが、波にさらわれてずれ、靴の場所がわからなくなる。

 鎌倉の海の色は澄み切った青色?それとも日差しに照らされた黄金の輝く色?想像してもわからないから、通りがかった人に「どんな色?」と聞いてみる。すると「美しい色」
と言われる。2人で「美しい色」を想像してみる。

 帰りに、2人の降りる駅で人身事故があり電車が止まる。仕方なく駅にある食堂で2人は食事をする。桐島君が注文したカレーライスをスプーンでかきまわす。「こうすると、全部残さず食べられるから」と。

 帰りの下車駅で、事故で心配していた担任の西野先生が2人を迎えにでていた。その時、老人がプラットホームを踏みはずし、線路に落下。それを助けようとした西野先生が電車に轢かれ死んでしまう。

 それを知ると、桐島君は、急に小学校以来殆ど帰っていない、実家の和菓子屋のことが浮かぶ。

 あずきを炊く鍋。湯気。白い餅。あざやかな食紅。

 東大、総理大臣になることはやめ、家に帰ろうと決心する。そして何年かして父も他界。
「あずかりや」が始まる。

 「あずかりや」シリーズ。文章、描写も秀逸。この物語がシリーズの中では最高だと思う。

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町田その子    「うつくしが丘の不幸な家」(創元文芸文庫)

 25年前に造成された住宅団地、山に囲まれ、海も見える風光明媚、交通の便は少し悪いが、公園も、学校もある申し分ない場所。うつくしが丘団地と言われている。この団地の借家やマイホームで起こる、トラブルとそれを克服して、最後はハートフルな結末になる、5つの物語集。

 表現方法は様々あるが、発生するトラブルとソレヲ克服してゆく過程は斬新なものはなく、どこにでもある定番な物語になっている。

 雑誌で知ったのだが、婚姻件数が最高だったのは72年で、その数110万組。それが、昨年は50万5千組、半分以下になり、50年前生涯未婚率は男性が1.7%、女性は3.3%だったのが50年後の現在は男性28.3%、女性17.8%。特に未婚男性は役7万人だったのが、20年には391万人に達し、23倍に激増している。

 これは、もちろん、収入が少なく、結婚できない人たちが増加していることも原因だが、結婚しないで生きるという選択肢が人生の在り方として確立されたことを示している。

 主人公の叶枝は、30歳の同窓会で高校時代憧れだった秀仁に再会し、愛し合うようになり結婚する。秀仁は同じ同級生と高校卒業即結婚し、別れていて再婚だった。

 うつくしが丘の団地に家を持ち、秀仁の両親と同居。そしてすぐに子供響子を授かる。

家事、育児に頑張っていた時突然儀父が脳梗塞で倒れ、半身不随となる。しかも間の悪いことに、儀母も癌になり、面倒をみるようになる。響子、儀父、儀母の介護世話に振り回される。そして秀仁の財布を除くと、コンドーム、ラブホテル回数券がでてくる。もう人生にうんざりする。

 しばらくすると、儀母が亡くなる。棺に響子がおばあさんあての手紙を書き、入れようとすると、儀父が「そんなものを入れなくてもいい。割烹着を入れてやれ。あっちへいったら死んだ祖父母の世話をせにゃあならんのだから。」

 少し大きくなっていた娘響子が言う。
「女はお墓に入っても地獄に行くしかないんだわ。」

 極端な物語だが結婚後の暗い生活の断面を表現している。結婚は、するものだというには、あまりにも負の面が多いように作品を読むと思ってしまう。

 収録されている「さなぎの家」より。

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白石一文     「道」(小学館文庫)

 大長編724ページもある。文章はわかりやすく、読みやすいのだが、内容は複雑。

  主人公は大手食品メーカー品質管理部門のトップの唐沢功一朗。
 二年前に功一朗にとって衝撃的な出来事が起きる。三軒茶屋で一人娘の大学生の美雨が、車に轢かれて亡くなってしまう。悲嘆の極に陥った妻渚は心を壊して、二回も自殺を試みる。どうしようもなくなった状態の妻を支え、世話をするために、妻の妹の碧が功一朗の家に住み込む。碧は仕事の大半をテレワークに変えた。また功一朗は、役員手前で、本社を離れ、我孫子工場に異動を願い出て、渚の主治医がいる千葉の柏に生活場所を移す。

 生活に疲れ果てた功一朗は、九州に出張した際、ある場所に行く。その場所の壁にかかっている二コラド・スタールの絵画「道」に描かれている3本の道の一つの道の中に飛び込み、美雨が亡くなった時の直前の三軒茶屋の交差点にワープする。そして、事故にあわないように美雨に大声で交差点に近付かないよう叫ぶ。それにより、美雨は事故にあわず、一命をとりとめる。

 ここから物語は、以前と同じように、美雨、妻渚、功一朗の3人の生活がなされ、功一朗は柏に移ることもなく、本社で役員になる。

 物語は事故以前の世界を今の世界として、中心に進行する。そして、美雨が亡くなり、渚の辛い生活がなされる前の世界が表現されるようになる。
 ここで、私は作品は功一朗が今と前の世界のどちらにも存在し、パラレルの世界が進行するものと思った。

 実は、事故の起こった時、車に轢かれる場所に若い女の子がいた。その女の子を事故寸前で功一朗は救ってあげる。

 この女の子は、超人気アイドル霧戸ツムギ。その頃ツムギは密かに男性アイドル戒江田龍人と付き合っていた。ツムギは、龍人の乱れた女性との付き合いに悩んでいて功一朗に相談する。功一朗は前の世界では、ツムギがホテルで龍人を殺害、そして、自分の部屋から飛び降り自殺することを知っていた。それで、それを防ぐために、道の絵を使い、ツムギを龍人と出会う前の世界に行かせる。ここで、え?と思うことが起きる。ツムギは絵に吸い込まれ、今の世界から完全に消える。事実、その後今の世界では、ツムギの失踪は大事件になる。

 ということは、異なった世界にワープしてしまうと、それまで存在していた世界では完全に消滅するのだ。それにしても、よくわからないのは、今の世界にやってきた功一朗が、前の世界で(前というのは、今より将来の世界)、ツムギが自殺することを知っていたこと。もう功一朗は前の世界から飛び出して今の世界にしか存在しないのに?

 もう年を私はとりすぎて、混乱してわからなくなってしまった。物語を前に戻り確認してみればと思うのだが、700ページを超える分厚い作品。そんな読み方をしていたら、いつ作品を読み終えるかわからない。

 しかも、物語には、美雨が亡くなった世界、美雨が無事だった世界、ツムギが自殺しなかった世界と3つの世界が生まれることになる。そして、功一朗がこの3つの世界を動き回る。

 混乱したままでも、作者白石は実にリアルに3つの世界を描き、読者の私を飽きさせない。それは、すごい力だと感心する。でも、最後までやっぱり、混乱は収まらなかった。

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知念実希人    「天久鷹央の推理カルテⅣ」(新潮文庫)

 知念を最も有名にした天久鷹央シリーズ。本の帯に160万部販売達成と派手に描いてある。

主人公の天久は天医会総合病院の統括診断部の部長。統合診断部というのは、多くの専門科で病気が何なのか診断したが、結果病名が不明な場合、統合診断部に患者が送られ、そこで病名を診断するのを担当する。

 統合診断部は部長の天久と部下小鳥遊(たかなし)の2人体制。あまり、患者が送られてくることはなく結構暇。天久は女医である。

 その統括診断部に、患者大山秋恵が移送されてくる。激痛の脇腹を押さえながら脂汗を浮べしかし病気が何かがまったくわからない状態。

 聞いてみると秋恵はこの強烈な痛みと血を吐くことが初めてでなく、何回も経験しているとのこと。それが、いつも恋人と別れるたびにその症状がおきる。これは別れた恋人の怨念によって引き起こされていると思うしかなく、霊能者で有名な佐山香織に相談。佐山は300万円払えば、別れた恋人の怨念の魂を追放させるという。どの医者からも、原因がわからないため、300万円は高額だが、魂のお祓いをやってもらおうと秋恵は考えている。

 ここからが、面白い。
佐山が、いかに自分が霊能者として力があるかを信じさせるために、ものすごい努力をする。その努力の偽りを暴く天久との熾烈な戦いがすさまじい。

 この物語を読むと、佐山も天久も、誰も気にとめることのないような物や、出来事を敏感に捉えて、そこから佐山は嘘を造り上げ、更にそれを天久が暴く。当たり前だが、推理小説というのは本来読者が気が付かないトリックから推理解決に向かうものだが、作者知念はこの過程と表現の仕方が卓越している。

 それで、秋恵の病気の原因。子宮内膜の組織が、子宮内部以外の場所に迷いこんで生ずる病気。つまり女性の生理が子宮の外でおきる病気。「異所性子宮内膜症」だと診断。ここまでくると専門的すぎてしばしばタメ息。いつも、聞いたことのない病名にごまかされる。ここが知念ミステリーの評価の分岐点になる。

収録されている「迷い込んだ呪い」より。

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石田祥   「猫を処方いたします。」(PHP文芸文庫)

 京都の住所は複雑だ。

京都府中京区麩屋町通上ル六角通西入ル富小路通下ル蛸薬師通東入ルにある、心療クリニック「中京こころのびょういん」は知る人ぞ知る、心の病を治癒させる有名な病院だ。

 主人公の古賀は52歳。会社のコールセンターに勤務して15年。職場は古賀以外はすべて女性。その女性たちの悩みを聞いたり、時にはクレイマーの強烈な攻撃に平謝りをしたり、懸命に対応してきたが、女性ばかりの職場ということで、一人ポツンとしていることが多くさびしい想いを抱きながら仕事をしてきた。

 そこに、突然45歳、気鋭の中島雛子がコールセンター副本部長という肩書で古賀の上司としてやってきた。雛子の口癖は、何に対しても、誰に対しても「かわいいね。かわいいね。」
 この口癖に、コールセンター社員は、魅せられ、古賀はますます孤独にさいなまれる。

一方、家では、妻には卑下され、殆ど会話が無いし、娘笑里とは馬鹿にされ全く会話がない。
こんな状況で、古賀は全く眠ることができなくなり、藁をもつかむ思いで「中京こころのびょういん」を訪れる。

 医院長の診断を受けると、処方としてマルゴという猫を与えられ、10日間マルゴと過ごすように言われる。

 猫の飼い方の処方箋とともに、家に帰ると、妻が怒る。自分は結婚前に、ネコアレルギーだと言ったじゃないかと。それで、仕方なく、マルゴを2階の部屋に連れて行き、一晩一緒に過ごす。マルゴは部屋を夜中走り回り、ニャーニャーと叫び続け、一睡もできない。これはダメだ。疲れ切って会社から帰宅すると、マルゴと猫アレルギーの妻と娘が楽しそうにリビングで遊んでいる。何?ネコアレルギーじゃなかったのかと妻に言うと、病院に行って、猫アレルギーに処方をしてもらって、薬ももらってきたので大丈夫と、マルゴが可愛くて仕方ないと大はしゃぎ。古賀も楽しく一緒になってマルゴを可愛がる。

 久しぶりの妻と娘の笑顔と楽しい会話がかけめぐる。そんな、楽しい瞬間を娘がスマホに撮り、SNSに載せる。するとかってないほどの大きな反響がある。

 古賀がコールセンターに出社し、このスマホの写真を上司の雛子にみせると、大きな声で「かわいいね。かわいいね。」の連発。その声にたくさんのセンターの女性たちがやってきて「かわいい、かわいい」の合唱。

 猫マルゴのおかげで、孤独から脱却できたというお話。確かにペットは人の苦悩を癒して救ってくれる。

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涌井学   「ブラック校則」(小学館文庫)

 映画「ブラック校則」のノベライズ作品。

数年前、高校の校則がブラックで、生徒の人権を侵害しているということで、校則廃止、被害を受けた生徒に対する賠償という裁判が起きた。裁判は、生徒への人権侵害は少し認めて20万円程度の賠償を決定したが、校則は法律違反ではないという判決がでた。

 この前後から、校則の問題が俄かに社会問題化した。だから、校則が無くなったり、大幅に内容が緩やかになった校則が多くの学校で生まれたと想像していたのだが、実態は殆ど変わっていないことをこの作品を読んで知った。

 主人公小野田創楽の通う光津高校の校則がすごい。服装の制服以外の付帯校則。
インナーは白無地のTシャツか肌着以外禁止。帽子・ニット帽の着用禁止。腰パン禁止。ローファー以外での通学禁止。セーターのみの着用禁止。ジャケット・シャツのボタン外し禁止。男子の靴下は白以外禁止。カーディガン等の羽織物禁止。学校指定のカバン以外は使用禁止。女子はそれに加えて、スカートは膝丈から上下2センチ以外禁止。

 これを3人の先生が、登校時校門でチェックする。それで、この校則以外、先生が風紀を乱すとその場で判断すると、校則には無くても、先生から厳しい指摘が行われる。

 どうしてこんな規制が必要か、指導の先生が反発する生徒に言う。

「お前の言う通り、校則は偏見に満ちている。だけど、この世の中の殆どのことは偏見で決まるんだ。人間は、一つの物事を360度の角度からは見られない。すべての角度から見られない以上、絶対にどこかに偏るんだ。奇抜な恰好をしていれば奇抜な人間だと思われるし、校則通りに制服をきちんと着ていれば真面目な生徒と判断される。お前らは自分の主義主張のために、光津高校全体の評判を落としても構わないって言うわけだ。お前達のせいで、ちゃんと校則を守って真面目にやっている全校生徒の足を引っ張れば就職率だって下がる。お前らが生徒たちの人生をぶっ壊すんだ。」

 作品では、この学校側の校則論理を見事にぶっこわす。しかし、前記の指導教師が言う学校側の論理を知ると、校則から自由を獲得するのは、本当に困難だと感じた。

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アンソロジー   「恋する男たち」(新潮文庫)

 気鋭の女性作家が描く、男たちの恋についての作品集。

この作品より、優れた作品が収録されていると思われるが、サラリーマンを長年送ってきた私が身につまされる作品唯川恵の「終の季節」をとりあげたい。

 主人公の杉浦は中堅商社の木材部門で長く働いていた。最近会社は赤字が続き、人員整理がずっと行われている。そんな中、杉浦も、出来の悪い部下、藤沢を会社から追い出した。

 そして、ある日、杉浦は常務から呼び出され、資料室への異動を言い渡される。その時の常務の言葉。
 「辛抱してくれないか。会社を立て直すにはしょうがないんだ。不満はいろいろとあるだろうが、こんな時代だ。社員が一丸とならなければこの不景気を乗りきれない。会社が潰れれば元も子もないだろう。なに、しばらくの間だ。心配することはない。また必ず復帰させる。僕が保証する。だから我慢してくれ。」

 だけど、その保証はなく、杉浦は退職する。

木材取引を担当していた時は、普段は接待で帰りは遅く、土日もゴルフ接待で家にいるのはほんのわずか。しかし異動した資料室では仕事はまったくない。当然土日は家にいる。

 家で終日ゴロゴロして、ボーっとテレビを見ている。妻は銀座の靴店に職をみつけ、土日は出勤していない。いつも、妻は出がけに杉浦に言う。
「それから、もし雨が降ってきたら、洗濯物お願いしますね。どうせ、今日もまた、一日中うちでゴロゴロしているんでしょう。」

 それで、高校生の一人娘に、「少し話さないか。」と声をかける。娘の夏美が言う。
「あのね、今更そんなこと言われても困るのよ。ヒマになったからって、急にこっちに神経向けないで欲しいの。おたくはおたくで、好きなことすればいいじゃない。」

 自分のことパパでもお父さんでもない、おたくと呼ばれる。

そして、杉浦は援助交際をしている藤沢ゆかりに電話する。藤沢ゆかりは夏美の友達で同い年だ。
 家庭の粗大ゴミに援助交際をする力はない。作者唯川恵さんの現実から遊離した想像。

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大山淳子   「猫弁と魔女裁判」(講談社文庫)

 大人気の「猫弁」シリーズ完結編。完結編とうたっているが、よく調べてはいないが、この作品の後も、何冊か「猫弁」シリーズは出版されているようだ。

 主人公の弁護士百瀬太郎、お金を儲けるようなもめごとに係わる弁護はせず、もっぱら猫を中心としたペットにまつわるモメゴトばかりに係わり、お金には無縁なのだが、その結果引き取られないネコが事務所に住み着き、この物語では21匹の猫が事務所にいる状態になっている。

 他のシリーズ作品に描かれているかもしれないが、百瀬には大福亜子という婚約者がいる。百瀬が初めて、亜子の実家に、娘さんをいただく了解を両親に求めるためにやってくる。

しかし、びっくりしたことに、約束の時間にやってきたのは、百瀬ではなく、事務所の部下の弁護士。驚く、人生一大事を、代理に行かせるとは。しかし、この代理が一生懸命、亜子の父親に百瀬がいかにすばらしいか訴える。そして最後、父親は結婚を了解する。

 で、この婚約者大福亜子と百瀬はどこで知り合ったのか。
亜子は、結婚相談所の職員。百瀬はこの相談所に入会し、亜子の紹介で30回見合いをしたが、すべて断られ、30連敗男との異名をとる。さすがに、百瀬は会の退会を申し出る。その時、亜子が言う。「私が百瀬さんと結婚しましょう。」と・・・。

 百瀬はお母さんに育てられる。法律は時に間違いを犯すが、お母さんは完璧だった。そして優しかった。ところが百瀬が7歳の時、子供収容施設「青い鳥子ども園」に預けられ、その後お母さんの行方はわからなくなる。

 中学卒業の時、百瀬は認識を変える。
「母は完全でした。完全な母が私を捨てたのだから、私に非があったに違いない。ならば身を正しく、美しく生きよう。そうしたら、母は許してくれ、いつか会うことができる。」
 この信条が百瀬を支えていて、今の百瀬がある。

そして、この作品、35年後に母に百瀬は会うことになる。しかも法廷で。この場面が物語のクライマックス。

 母が、百瀬と別れる時に言った言葉こそ作者大山さんが読者に心をこめて伝えたかった言葉だ。
 「万事休すの時は上を見なさい。すると脳がうしろにかたよって、頭蓋骨と前頭葉の間にすきまができる。そのすきまから新しいアイデアが浮かぶのよ。」

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朝井リョウ   「正欲」(新潮文庫)

 難しい作品だった。朝井さんの創作モチーフとあっているか自信が無いが、思ったことを書きたいと思う。

 金沢八景大学の大学際、昨年までの祭りの目玉はミスター、ミスコンテスト。しかし、最近は、このようなコンテストは、セクシャルハラスメントだとして、祭りを企画した神戸八重子は、今年の大学祭のテーマはダイバーシティ祭りとして開催、大成功を収める。

しかしいくら読んでも、ミスコンテスト以上に何で盛り上がったのか具体的な認識は持てなかった。とにかく最近はダイバーシティ、多様性を認める社会に対する圧力が強くなった。

 しかし、従来からある、社会規範に従わないと、まだまだ社会から除外されてしまう恐怖が強いことも現実にある。

 佐々木佳道は、30歳になり、同級生の幼馴染夏月と結婚する。その報告を会社にすると、ようやく一人前になったなと言われる。実家に報告すると、両親は心底喜ぶ。

 しかし、この結婚は、社会の規範に合わせるための結婚。二人のマンションの部屋は、セントラルキッチン、ダイニングがマンションの中心にあり、食事が済み、食器洗いが終わると、それぞれの部屋に入って過ごす。

 自分に係わることは、食事でも家事でも全部自分で対応するとか、共通の家事は一週間ごとに交代することなどが取り決められるが、更に強い掟が決められる。
互いの体の接触は禁止。更にこの結婚の仕組みは他言しない。他に暮らしたい人ができたら真っ先に報告する。そして最後。自殺の禁止。

 今は、自分の変わった性癖のために、社会と交われない人がたくさん存在する。LGBTQは国際的要請もあり、カミングアウトしても差別されない状況になりつつある。しかし、他の性癖で苦悩している人は多い。この作品では、次のような性癖が提示される。

 人が嘔吐する様子に興奮する嘔吐フェチ。対象が丸のみされることに興奮する丸のみフェチ。人体が変化してゆく様子に興奮する形状変化フェチ。風船そのものや、風船を膨らましている人に興奮する風船フェチ、窒息フェチ、腹部殴打フェチ、流血フェチ、真空パックフェチ。

 これらの異常と考えられる人たちは孤独で辛い人生を送ってきたが、今はネットで同じ性癖の人を発見、繋がることができる。

 そして、やがてLGBTQの人たちのように、カミングアウトして、差別反対の潮流に乗る人たち団体により、支えられ独自の性癖があっても普通に生活にできるようになる。

 学園祭の実行委員をしていた、諸橋の言葉が胸に突き刺さる。
「お前らみたいな、世間に応援されるとわかってて傷さらしてる奴をみると、その瘡蓋にナイフでも突き立ててやりたくなる。」
 本当に、私のような年寄りには理解できない社会になってきた。

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大山淳子  「猫弁と幽霊屋敷」(講談社文庫)

 大山の大人気「猫弁シリーズ」第8作目作品。

猫弁というのは、新宿の古く傾きかけたビル内にある百瀬法律事務所の所長で作品の主人公百瀬太郎のニックネーム。何しろペット訴訟で、裁判後、訴訟主がペットを引き取らないため猫17匹が事務所に住みついているから。

 この作品、社会、学校、家族からネグレクトされ、孤独で追い詰められた人たちが犯行に及ぶが、最後百瀬を初め、他の人たちから人間の持っている本質と可能性を教えられ、再生するきっかけをつかんでゆく、世の中にあふれかえっている定番の物語になっている。

 出版業界が大不況と言われて久しいが、そんな定番の話であっても、あくまで、物語が非凡な創造力によって作られていて、作品集も50万部以上の販売記録を達成している。

 この作品では、犯人である鈴木章夫が、高級ペットホテルリッツホテルで開催されていた「猫お見合いパーティ」に侵入して、たくさんの猫や、いくばくかの他の種類のペットを人質ならぬ猫質にとりホテルに立てこもる事件を引き起こす。

 人質が人間ならば警察は真剣に捜査するが、猫では真剣にならず、わずかな人数で対応するだけ。しかし、人間同様、72時間食料が与えられないと、動物も生き抜く限界を超える。警察も犯人も動物ということで対応しない。しかも、犯人の要求が、声優の玉野ミュウに合わせろというのが猫質解放の条件。しかし玉野ミュウからは拒否される。

 そして、百瀬と百瀬事務所スタッフだけが、事件の真相追求と事件解決に挑む。
色んな事象がおこり、それらも見事に回収して、面白く楽しい作品になっている。

この前、大ベストセラー作家東野圭吾が文化勲章を受章していた。そのときのコメントで
「常に読んでいて面白い作品を今後も創作してゆきたい。」と語っていた。
大山さんもそうだが、面白く楽しい作品を創ることを信念にしている作家の作品は、出版不況を全く知らない。

 ホテルが、今度の事件は、自分たちも被害者と宣言する。これに対して。事件を伝えるテレビのコメンテーターが言う。
「要するに、ホテルは自分たちは被害者で、責任ないぜ的な態度で原辰徳ですよ」
この原辰徳は、腹がたつという意味?それとも敗戦の責任は選手やコーチにあって自分にはないという態度のことを言っている?それとも両方?

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大山淳子   「あずかりやさん まぼろしのチャーハン」(ポプラ文庫)

 ベストセラー「猫弁シリーズ」でブレークした大山淳子が次のシリーズ「あずかりやさん」でもまた、ベストセラーをものにした。この本は「あずかりやさん」シリーズ第4弾。

 主人公の桐島透は7歳の時事故にあい、全盲となる。家は、昔から和菓子屋をしていたのだが、継ぐことは不可能、そのため新商売あずかりやを始める。なんでも預かる。預かり料金は1日100円。預かるとき、預かり期間を決め、預かり日数分を前金でもらう。

 もし期限がきても、受取に来てくれない場合は、預かり品は、桐島のものになり、桐島が自由に処分できる。

 紹介の本には5作品が収められている。ユニークなのが、預かり品や、店にある小物の語りで物語が進行するところ。

 面白い作品2作目の「ツキノワグマ」。この作品は、和菓子屋時代からある黒電話の語りで、物語が創られている。今は、携帯電話の時代。めったに黒電話が鳴るときはない。

 ある日、その黒電話が鳴る。北林と名乗る男から預け品依頼の電話である。その時の預け品が変わっていた。これから言うことを預かって欲しいと言う。桐島は、ボイスレコーダーを用意しようとするが、それが少し遅くなって、声を記録できなかった。

 そして、何年ぶりかで、また黒電話が鳴る。女性の声で北林八重子と名乗る。夫北林が預けた品を引き取りたいと。

 北林は総合病院の小児科医をしていたが、52歳の時、病院に行くと家を朝出た後行方不明になる。妻が探すと、近所の公園にいた。妻のことはわかるが、北林は何でこんなところにいるかわからなかった。アルツハイマーと診断され、小児科医はやめ、しばらくして施設に入る。

 数日前、患っていた病気が進行して、意識も混濁。そして亡くなってしまう。

夫の書斎を整理していると、紙きれが見つかる。そこには「あずかりや」とその電話番号が記されていた。そこで八重子は電話をして、預かり品を受け取りにやってきたのだ。

 預かり品は、北林の声だったが録音がミスでされていなかった。しかし、桐島はちゃんと北山の声を記憶していた。そしてその声を桐島が、八重子に言う。

「北林洋二郎52歳。生きてきて良かったことが3つあります。一つは八重子に会えたこと、二つ目は、八重子と結婚できたこと。三つめは八重子のつくったハンバーグを食べられたこと。悲しかったことはみんな消えてしまった。僕に残るのはそれだけ。」

 そして八重子は、残りの預かり料金16万4千円を幸せいっぱいで、桐島のところに振り込む。暖かい、感動的なお話。

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| 古本読書日記 | 06:38 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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知念実希人 「天久鷹央の推理カルテⅢ」(新潮文庫)

 怜悧な頭脳と膨大な知識を持つ変人女医天久鷹央とそれをアシストする小鳥遊優、統合診断科の名コンビが活躍する天久鷹央シリーズ第3弾。大人気シリーズで現在まで7冊がリリースされ、累計150万部の売上を達成している。

 医師をしながら、ミステリー作家として活躍している人は何人かいるが、トリックが、我々読者が知らない病気に由来している場合が多く、いつも騙されたような気持ちになる。

 この本には3作の中編ミステリーが収録されている。その3作目「密室で溺れる男」も医療ミステリーの典型作品になっている。

 ある医療法人の長男が、頭から血を流し、しかも水に溺れ溺死体となって、家の2階の部屋で発見される。その部屋は完全密室。部屋には水道など、水の設備は全く無く、溺死などありえない。この謎に推理の天才天久が挑む。

 2つのことにより謎の解明がなされる。
クモ膜下出血というのは、発症すれば、即座に倒れれるものと私たちは考える。しかし天久は言う。

 一つに「クモ膜下の出血量が少なければ、軽い頭痛や肩こりを覚えるだけっていう場合もあるんだ。救急をやっていると、時々軽い症状のクモ膜下出血患者、自分の足で歩いて受診に来る。」

 次に「神経原性肺水腫。頭部外傷、クモ膜下出血、重症のてんかん発作などは脳神経への障害によって引き起こされる、かなりめずらしい肺水腫だ。典型的には、原因となる障害の数時間後に突然肺に水分が浸みだし、呼吸障害を引き起こす。」

 つまり、密室死体は、誰かにより殺されたものではなく、軽傷のクモ膜下出血者が書斎で倒れ、肺水腫で吐き出された水によって溺れ死んだもので全く事件性はないということ。

 こんなこと、読者には全く知識がない。しかし、これを知念がやると、やられた、はぐらかされたという思いが少しもわいてこないのが不思議だ。

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| 古本読書日記 | 06:15 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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大山淳子    「牛姫の嫁入り」(角川文庫)

 江戸旗本祐筆係の加納家当主加納光政。昨今の幕府の緊縮政治により、いずれ家屋敷も没収、俸禄も減らされ窮乏生活を強いられるのではと心配している。嫡子である長男黒光は美男子で優男、女性にもてて、ふらふらした暮らしをしている。

 下妻藩主藤代家一万石から十万石までに出世した勢いのある大名。この藤代家に絶世の美女三女である重姫がいた。
 光政は何とかして、この重姫と長男黒光を引き合わせ、藤代家と繋がり、家の凋落を防ごうと考える。

 光政は三日月村にいる、忍びの者、女忍者、コウと守市を雇い、藤代家から重姫をかどわかすことを依頼する。その後、息子黒光と重姫を見合いさせるのである。

 で、コウと守市が、藤代屋敷に忍び込み、重姫の存在を確認する。可憐であるはずの重姫。驚くことに、巨大な牛のように太り、脂肪の塊、三重顎。こんな姿の姫、とても光政の前につれてゆくわけにはいかない。

 一方藤代家でも、重姫を嫁がせねばならないのだが、こんな姫をもらってくれる家などない。

 そこでコウは、藤代好継から一か月重姫を預かり、その間に重姫を変えることを約束する。
コウは、重姫の世話係の女中佐久に、食事の中身と、屋敷の掃除、洗濯などの仕事を重姫にさせることを指示。

 元来、重姫は真面目な性格だったので、初めは苦しかったが、コウの指示に素直に従い、一か月もすると、かっての美しい姿を取り戻す。

 そしてある日、重姫に町民の姿にさせ、町にだす。そこで、浪人武士に重姫は襲われる。そこで、コウの仲間の忍びの者、オオタカが重姫を救出、隠れ家に連れてゆく。そこで重姫が意識が遠のいて倒れる。しばらくして意識がもどり、薄目を開けると、目の前に優男で恰好よい武士の姿が映る。

 ここまでは、実に物語のテンポが良く、ファンタジー映画を見ているような錯覚に陥る。

ところが、ここから重姫と黒光が美女、美男子として再会をするまでが長く、軽やかなテンポの物語が乱れる。面白い作品なのに、そこが残念、心残りだ。

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| 古本読書日記 | 06:51 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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真山仁    「レインメーカー」(幻冬舎文庫)

 医療過誤をめぐる物語。

ITベンチャー企業社長の野々村喬一の息子喬太2歳9か月が、未明に高熱と痙攣を発症する。この時、妻結子は学会出席のため、シンガポールに出張していて、その間は、喬一の母が喬太の面倒を見ていた。

 救急車を呼ぼうと喬一は思ったが、母が自分の車のほうが早いと言って、喬太、喬一を乗せ、総合病院賢尚会中央病院に連れて行く。

 ここで3つの大きな問題が生じた。
 この喬太の病気に対応したのが、大学出たての研修医丸本明菜。小児科医長の堀江は当直で仮眠をとっていた。

 次に、病気の特定をするためにCTスキャンが必要だったが、当時交通事故で危機状態にあった患者へのスキャンが優先されたため、喬太へのスキャンが後廻しになった。

 さらに幼児の病気を特定するのに、最も大切な母子手帳を喬太が所持していなかった。各種のワクチンの接種歴が手帳には記載されているからである。

 研修医の丸本はこのような状況の中で、病気の特定ができず、しかも喬太の容態がますます悪く危険な状況になったため、仮眠中の堀江を呼び出すが、堀江も手の施しようがなく、喬太は息をひきとる。

 この中央病院の対応に対し、医療過誤訴訟で名をあげている日向法律事務所が、野々村夫妻を原告、医療過誤が喬太の死因として、中央病院に1億円、丸本、堀江にそれぞれ5千万円の賠償を求めて訴訟を起こす。これを受けてたったのが雨森法律事務所。

 そして裁判は、喬太が運び込まれた状態、更にトリアージの観点からCTスキャンを他患者に優先させたことは、どんな医者が対応しても、同じ対応になっていたことを裁判所が認め、原告敗訴となる。

 妻結子は、出張する前、喬太の世話について、事細かく書いた紙を喬一に手渡していた。しかし、それを喬一はまともに読んでいなかった。だから、喬一は裁判でも母子手帳携帯のことが書いてあったか記憶にないと答えた。

 裁判敗訴直後、喬一、結子夫婦はホテルに宿泊していた。その時結子が言う。
「病院には何の落ち度もなかったじゃない。喬太を殺したのは、あなたとあなたのお母さんだ。これにあなたの判を頂戴」と離婚届W差し出す。

 通常医療過誤訴訟では悪は病院というのが一般的。病院の対応は正しいという物語は新鮮だった。

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楡周平    「食王」(祥伝社文庫)

 寿司と居酒屋のコンビネーションのチェーン店で大成功を収めた「築地うめもり」の社長梅森大介。この事業をおこした時、銀行の貸しはがしにあい、店が潰れそうになる。そんな時、築地の仲買商の桶増が、梅森の窮地をすくってやろうと仲買人仲間に呼びかけお金を集め、金額は少なかったが、築地仲間の熱い励ましで、苦境を乗り越えた。

 その桶増が所有していた、麻布の5階建てのビルはコンパス通りに面して建っていた。
そのビルの周りは住宅街で、通りの人通りが少なく、たびたび、テナントとして、レストランなどが出店したが、どこも商売にならずすぐに撤退してしまう。

 桶増の大将が、病死する。そこで、昔助けてもらった恩返しで、梅森はこのビルを購入。
そして、梅森は社員に対し、このコンパス通りのビルを活用して新たな事業を開始したいがどんな事業にしたらよいか企画案の提出を求める。

 しかし、誰もそんな幽霊ビルを活用する案を思いつかず、社内から一つも企画案は上がってこなかった。

 東北大震災で、家を失った女子大生の由佳。「うめもり」の六本木店でバイトをしていた。
最近は外国人の日本食ブームで、日本に日本食を食べにくる外国人が大勢いる。外国人が、マグロやアジなどの握りずしをおいしいと絶賛しながら食べる。

 由佳が言う。
「地方で当たり前のように食べられてる食材で、商業ベースに乗せたくても量が絶対的に不足して東京では食べられないものがたくさんあります。私の故郷の周辺だと、川蟹や山菜があります。地方の郷土料理店か高級料亭でしか食べられません。
 量が少ないのは、地方の高齢化が進み、川で魚を取ったり、山菜取りをする人が少なくなったからです。」

 こんな思いを持っている由佳が、そのことを「うめもり」の社員の石黒に話す、それを企画書にして梅森社長に提出。

 5階のビルに期間限定で、地方料理店の店をだしてもらおうと。期間が終わると別の店に変える。
面白い企画だ。この企画を邪魔しようとして、高利貸しが絡んで高級バー街にしようという案が提案され、その提案と争って由佳の案が乗り越えてゆく過程がこの物語の読みどころ。

 こんな案を思いついた作者楡はすごいと思ったのだが、その案がいかに素晴らしい案であるのかを最後長いページを割いてとうとうと書く。ここが少々鼻につく。

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松井今朝子   「幕末あどれさん」(幻冬舎時代小説文庫)

 見事な小説だと思う。

幕末小説と言うと、明治維新に向かって走るか、維新を成し遂げた、リーダー、英雄が主人公となる小説になり、読者も彼らの苦闘、活躍に胸躍る。しかし、そんな革命の中、一般の人は何を考え、どう生きただろうかという小説は殆どみない。それは当たり前だけど、そんな資料は殆ど残っていない。だから、そんなことをテーマにしたら、作者が広く、深く想像して描かなくてはいけなくなるからだ。

 この作品は700ページを超える大作。視点は庶民というより、大革命の中、没落してゆく、徳川に忠誠を誓う武士たちが、どう生きたかということを、想像力をたくましくして描き切った作品だ。

 この作品には、江戸城に登城して、幕府に仕える、3つの家が登場する。

一つは久保田家。家を継いでいるのは、長男の上馬。この家に宗八郎という次男がいる。長男に比し、ダメ息子。それにいやけがさして家をでて、狂言の世界に飛び込む。

二つめは、岩瀬家。同じ幕府勤めなのだが嫡子の長男弥市郎は家を顧みず、博打、女に狂い、家を飛び出し、行方がわからない。しかし、次男源之助は剣術に長け、幕府に忠誠を誓う優秀な人材。

三つ目は、井岡家。井岡家は、江戸城登城家なのだが、子供は娘千鶴しかおらず。後継者がいない。それで千鶴は、岩瀬家の源之助を夫として迎えることになっている。

 物語は、宗八郎と弥市郎を交互にその人生の軌跡を追いながら進行する。

印象に残ったこと。

 当時、幕府が武士を鍛える場所として、講武所があった。しかし黒船が日本にやってきて以来、剣術や柔術、弓矢では、戦を戦うことが無くなる。それで、講武所は陸軍ができ、その管理下におかれ、西洋の銃弾、砲術を習得する場所伝習所となった。

 幕府は、旗本や自らの部下に技術習得させるのは困難として、兵士として、直轄地の百姓を集め、訓練を行った。これをすると、変なことになる。

 従来の武士の鍛錬、訓練は、戦争では不要になる。ということは、講武所では、訓練を受けた百姓が、武士を教育訓練するようなことが起こってしまう。

 幕府は、当時フランス式兵隊、軍養成方法を取り入れる。結果フランス軍兵が招かれ、日本人兵隊の養成を行う。

 しばしば、北朝鮮なんかの軍事パレードで銃を肩掛けして、足をまっすぐにして一糸乱れない行進をみることがある。
 それだけではないが、あの行進ができるように日本武士を訓練するのである。

それが、源之助にはうまくできない。つい、こんなことにどんな意味があるのかとつぶやくと、フランス人教官から思いっきり殴られぶったおされる。殴った団長は二十歳そこそこ。自分よりだいぶ年下。頭にくる。

 その時、フランス人団長が「ヴーアドレサン」という。

 団長は二十歳そこそこ。そんなに若くして、フランスから日本にやってきている。家族と離れて、3か月もかけ、日本にきて年単位で教育する。彼らも孤独でさみしい。

 源之助は彼のいう「ヴーアドレサン」を宿舎に帰って意味を辞書で調べる。
それは、「君たち、若者よ」という意味。そこから、若き団長への尊敬とシンパシーが興る。

 物語の内容は盛りだくさん。そしてどれも印象に残る。しかし、この場面の印象が最も強かった。

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安達瑶    「悪徳探偵」(実業之日本社文庫)

 今は、ブックオフに古本文庫を注文して読む本を購入している。大量に購入しているので、本や作者の特定をすることはあまりなく、出版社をキーにして購入している。メジャーの出版社は、すでにたくさんの本を購入していて、へたをすると二重に購入してしまうので、最近はすこしマイナーな出版社、実業之日本社文庫の本を購入している。もちろん、この出版社も東野圭吾など、著名な作家の作品も出版しているが、アットランダムに購入すると、とんでもない作品を購入することになる。

 紹介する本もそんな作品。

  主人公の飯倉良一は、ブラック企業で働いていたが、納入したシステムにプログラムミスがあり、相手先企業が損失を被る。飯倉の企業は、大きな相手先を失うとともに、損失を相手企業から支払いを要求される。この金額をブラック企業は飯倉に肩代わりさせる。飯倉は仕方なく高利貸しから金を借り、損失を補填する。そして会社からは解雇される。

 借りた金は大金。とても返せない。悩んで、場末のブラック フィールドという探偵社に相談する。

 そこの社長の黒田が、突然、社員として飯倉を雇うという。月給は5万円で、歩合で成功報酬を払うという前の会社より更にブラックな企業。

 その会社に相談者丸井が来る。丸井はAV女優の麻生ルルが大好き。ところが、その麻生が最近失踪して行方不明。依頼はその麻生を探してほしいという内容。

 黒田は最初の仕事として、飯倉に麻生ルルの住んでいるところを探しだす仕事を命ずる。
飯倉は、麻生ルルの所属事務所に電話する。しかし個人情報保護のため教えてくれない。それで麻生の相手をした男優にもあたるが、誰も知らない。

 そこで、ネットで検索すると、平塚で見たとか小田原で見たとか、札幌で見たなどの情報がでている。しかし、場所が大きすぎてそれでは、麻生ルルを突き止めることは不可能。

 その見たことがあるという情報の中で、東武東上線の上板橋付近というのがある。それで期待せずに、飯倉は上板橋駅に行く。だけどそこいらに歩いている人にはなかなか聞けない。

 仕方なく、駅近くにある弁当屋に聞く。ここから、あれこれたぐっていって、その間に怪しい人間がでてきて、そのたびに障害を突破して、最後麻生ルルに至る話かと思ったら、その弁当屋の店番していたのがお目当ての麻生ルル。なにこれとポカーン。

 しかも、その後飯倉は、ルルに誘われ、ズッコンバッコン。

 そして黒田が依頼者丸井を会社に呼ぶ。その時、飯倉は体中を包帯でグルグル巻きにされ、丸井の前に放り出される。

 黒田が言う。
「この依頼の調査は飯倉にやってもらった。規定の調査料に、飯倉の治療費、休業補償、それから飯倉への慰謝料として別途150万円を申し受けます。」ひどいなー、ブラック探偵社とは。

 内容はどうでもいい内容だったが、挿入されている会話が異常に面白く、下手なコントより、優れている。なかなか、面白かった。収録されている「さらば愛しき・・・」より。

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井上荒野   「ママナラナイ」(祥伝社文庫)

「ママナラナイ」というタイトル。人間は幾つになっても、変化に襲われる。それが、心であったり体であったり。その際、この変化は、こういうことだろうと解釈しようとするのだが、それがなかなか折り合いがつかず、悩み混乱がさらに深くなる。こんなテーマで書かれた短編集。

 井上さんの短編は、登場人物に突然、混乱や苦境に襲われる。そして、面白いのだが、それが極まったところで、物語がふっと終わる。いつも、読者に、この後、この混乱はどうなっただろうかと思わせてしまう。

 鞠子は50歳を超え、更年期障害に苦しんでいる。その日、夫真一は、会社で送別会があり、どうしても外せないと言う。

 その日というのが、息子拓馬が、東京の大学に受かり、東京で一人暮らしをするため引っ越す日だ。それで、仕方なく、家の軽自動車で、鞠子が運転して、拓馬を乗せ東京まで行かねばならないことになってしまった。

 鞠子は、真夜中の拓馬の電話から、拓馬に愛果という恋人がいることを知っていた。拓馬は東京に行くが、愛果は隣県の短大に受かり、2人は離れ離れになる。愛果はこのままでは、2人は別れなければならないと悲痛の訴えを拓馬にする。

 鞠子は助手席に拓馬を乗せ東京に向かう。走ったことが殆どない高速に乗って走る。途中のサービスエリアで、ベンツに乗ったカップルが生まれたばかりの子猫5匹を捨てて消える。

 それを見た、拓馬が愛果の家に引き返すように、鞠子に要求する。仕方なく鞠子は高速に乗って、また住んでる町に引き返し、愛果の家に行く。

 拓馬と愛果は長い間2人で話をして、愛果も東京に行くと言う。

鞠子は、勘弁してよ、自分は更年期障害なんだぜ。そういえば、愛果は最近運転免許を取得したらしい。鞠子は強く、運転を変わるように愛果に言う。

 ここで、作者井上さんの特徴、この作品は終わる。この終わり方が当初は戸惑ったが、私には恍惚感を沸き上がらせる。だからまた井上荒野に会いたくなる。

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彩瀬まる   「また温かい鍋を抱いておやすみ」(祥伝社文庫)

 料理、食事がテーマの短編小説集だ。料理、食事小説というのは、たいていは、舌がとろけるような美味な料理が主人公で、それを味わうことによって、たとえ苦境に陥っていても、食事で幸せになり、元気になっていく小説ばかりだ。

 この小説は、逆の発想。でてくる料理は、美味しくないのだ。中には美味しい料理もあるかもしれないが、生きている環境が苦しくて、美味しく感じない、さりとて、それにより更に苦痛が増すのかと思いきや、そうにはならないひねりが効いている作品ばかりになっている。

 主人公の私と5歳年下の営業部の弦巻は、取引先に対する企画提案書をまとめあげ、2人で会社をでて、電車に乗る。途中駅でライブ コンサートがあったようで、大量の乗客が乗ってくる。私と弦巻君ぎゅうぎゅうに押し込まれ、身動きとれない状況になる。その後の駅でも降りる人は殆どおらず、乗り込んでくる乗客ばかり。その時、股間にスーパーボールのようなものが当たる感触がある。弦巻は申し訳ない顔をするが、どうしようもない。

 私は弦巻の手を引き、降りたことのない次の駅で下車する。そして駅近くのラブホテルに弦巻を連れて行く。

 ホテルに入ると、お腹がすいていることに気付く。そこで、フロントにミックスピザの注文をする。ピザが届く。そのピザには、数粒のコーン、紙のように薄い玉ねぎ、脂っぽいサラミが4枚載っているだけ。全然ミックスになっていない。

 その後、弦巻とはホテルに一緒に行くようになる。

主人公の夫晴仁は、会社で研究職で勤めている。会社が新しい事業をすることになり、そこに管理職として異動する。しかし、その直後から体調を崩し、会社を休職になる。私の家には幼稚園に通う息子桜輔がいる。今は、晴仁の母がしばしば来てくれて桜輔と晴仁の面倒をみてくれている。

 晴仁の母は、晴仁が、しっかり働けるように、私が支えなければならないという。そして最も大切なのが食事。野菜とタンパク質をきちんと取って、晴仁の病気を治し、立派な家庭にしないといけないと毎日のように言う。

 私はそんな時いつも思う
「結婚すると私たちは『立派』を積み上げはじめる。家を買ったり、子供を生んで育てたり、立派な人間でないと達成や維持が難しいことに手を伸ばす。でも何一つ立派でない私は、家庭で必要とされる瞬間がない。」

 心に重くズシンと響く言葉だ。

収録されている「ミックスミックスピザ」より。

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松井今朝子   「吉原12月」(幻冬舎アウトロー文庫)

 直木賞受賞作品「吉原手引草」に続く、吉原シリーズ作品。この作品は吉原大籬・舞鶴屋四代目の主人、舞鶴屋庄右衛門の語りにより作られている。

 女衒により売られてきた幼い少女あかねとみどりが新造あかね、みどり、そして舞鶴屋の大看板花魁小夜衣、胡蝶となり、その過程で起こる出来事を1か月ごと、12か月間にわたり、12の物語で語られる。

 この2人の特徴が、物語の中で書かれる。
「小夜衣はどちらかと言えば気がきかん子で、いつもぼんやり見えました。ふだん敏捷そうでもないからこそ、ときどき思わぬ知恵のあるところを見せて、こちらを驚かせてくれた。片や胡蝶はあれやこれやとよく気のまわる子で、いいかえれば気散じな性分でもあった。」

 小夜衣は口数少なく、熟慮して行動するタイプで胡蝶は思ったことはすぐ言葉にして行動するタイプということになる。
 物語にするには、小夜衣が面白いので12の作品のうち殆どが小夜衣についての話になっている。 

 吉原の掟として、女郎が絶対やってはいけないことが3つある。心中、女郎街からの逃走。
そして、妊娠。

 この物語集では、直情型の胡蝶が逃走して失踪する事件がある。殆ど唯一、胡蝶単独で扱っている。

 一方小夜衣には妊娠の物語がある。
材木商五代目雑賀市郎兵衛には子供が無かった。市郎兵衛が舞鶴屋に登楼して、小夜衣と懇ろになった時、市郎兵衛が小夜衣に懇願する。「自分の子を作ってくれ」と。そして、小夜衣は妊娠する。

 こうなると、楼主は、市郎兵衛に小夜衣を身請けしてもらうことになる。だけど、市郎兵衛は、できた子供はもらうが、小夜衣は身請けしないと、とんでもないことを言う。

 楼主庄右衛門は、談判に雑賀屋に行く。そこで、市郎兵衛の妻に会う。その妻は小夜衣そっくり。その時、庄右衛門は、妻を愛しているのだと思う。そして、代償のお金はもらうが、庄右衛門の申し出に協力することを決心する。

 この小夜衣と胡蝶の最後が実に鮮やか。本当に胸にジーンときた。

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| 古本読書日記 | 06:21 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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篠田節子    「田舎のポルシェ」(文春文庫)

 少し悲哀のこもった中編3編のロードノベル小説集。

私の家のある場所は、40年前に開発された住宅地。それ以前は、田んぼと麦畑が広がっていた。江戸時代には13軒の農家があった。そこには、庄屋もあり、今でもアパートを挟んで南隣に当時庄屋だった家がある。かっては、すべての家は、寺を除いて、百姓。

 半分ほどの家がもともと農家だが、働き手は家を離れて都会に住む。で、農家はなくなるが、いまだにたくさんの田んぼを所有している人も多い。それで、現在でも残る農家に稲の耕作を依頼している家もある。

 この本のタイトルになっている「田舎のポルシェ」発想が逆転していて、最初は読んでいて戸惑う。

 主人公の増島は、八王子の稲作農家に生まれる。兄がいて、農家は兄が引き継ぐことが、田舎では既定路線。それで、増島は、高校を卒業すると岐阜の大学に入り、教師を目指したが、目的はかなわず、岐阜の資料館に勤めている。30代半ばで独身。住まいは学生の頃から住んでいる1DKのマンション。

 偶然、祖父母、両親が亡くなり、農家を継いだ兄まで亡くなってしまう。そのままだと、実家の家、土地と800平方メートルの田圃を相続せねばならない。しかし、そんなものを相続してもどうしようもない。相続放棄をするかどうか迷っていると、隣家の農家の人が、自分が稲作を代わりにしてあげるとの申し出があり、それを受ける。

隣家から、収穫したお米を送るという連絡がある。30KGが10数袋、そんな大量のお米を送ってもらうと、とんでもない輸送料が取られるということで困っていると、潰れた酒屋の息子で今便利屋としてなんとか糊口をしのいでいる、同じ30半ばの瀬沼が輸送をかってでてくれ、瀬沼と一緒に八王子まで片道500KM、往復1000KMを車で走ることになる。で、驚くことにその車が軽トラ。これで、高速を走って往復するのである。

 私が混乱するのは、岐阜から八王子にお米を取りに行くという発想。逆じゃないか、八王子のような都会の街に、農村のような所があるのか想像がつかない。

 それから、驚いたことに、800平方メートルという広大な土地で獲れた300KG以上のお米。隣家との交渉で、引き取り金額が45000円。確かに有機栽培米でも、銘柄米でもない。しかし田圃を一年面倒をみて、苗も肥料も農薬を買って、たったの45000円。

 30KGのおコメが10数袋以上。全部消費するには数年が必要。しかも1DKの部屋には保管場所がない。
 私の近くの耕作農家もこの程度のお金で、耕作を引き受けているのかと少し切ない気持ちになる。

 物語は、往復の高速で台風に直撃されたり、ポルシェを盗難して事故を起こしたカップルとして、警察に疑われたり、トラブルだらけ。往復道中、息つく暇がない。ハラハラドキドキの小説。面白い。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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阿川大樹   「終電の神様 台風の夜に」(実業之日本社文庫)

 ベストセラー「終電の神様」シリーズ作品。

 今回の作品は、台風がやってきて、終電の時間が早く打ち切りとなる。そんな中で起こる出来事を描く5作品が収録されている。ただし一作目と五作目は繋がっていて、正確には4作品ということになる。

 赤嶺莉奈に友人の生山文香からお願いがくる。食事会に参加する予定の女性が急に来られなくなったので代わりに参加して欲しいと。相手は男性2人で、どちらも外科医をしているとのこと。莉奈と文香は、ともに劇団の舞台女優をしている。

 私は教養もなく、人間性もがさつのため、知らなかったのだが「ギャラの飲み」という飲み会があるそうだ。

 信じられないのだが、食事をして、その代金は男性が持つのだが、更に来てくれた女性にギャラとしてこの物語では、一人2万円を払う。だから「ギャラ飲み」と言うのだそうだ。つまり、女性のアルバイトの一つで、文香はその斡旋でお金を稼いでいる。

 この「ギャラ飲み」。互いに交際を申し込んだり食事後更に誘うことは禁止。名刺など連絡先を教えることも禁止。
 こんな会が、成立できるとは、信じられない。
面白いのは、莉奈は今バイトで地下アイドルをしている。地下アイドルではなく、あくまでしているということ。つまり、アイドルを演じているのである。

 文香は言う。こんな会が楽しいのかについて。

劇団俳優というのは、頭もよいし、知識もある。そして、色んなアルバイトをしている人がいる。ビルの窓ふき、美大や老人サークルのデッサンのヌードモデル、着ぐるみを着てショーにでる、ディズニーランドの白雪姫や、英会話の講師、葬儀屋、ホステス、政治家の講演会のサクラとか、本当に人材豊富。だから話をするだけでも面白い。

 莉奈が、「ギャラ飲み」の掟を破り、外科医の重山をネットで調べ、病院の重山あてに手紙をだす。「もう一度会いたい」と。
 重山は、その日は妻の誕生日で、会うことはできないと回答する。
しかし、莉奈は調べて知っている。重山の妻は亡くなっていて、今は妻はいないことを。

 人生経験豊富な、舞台女優と話しをしてみたくなる。

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| 古本読書日記 | 06:43 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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葉室麟   「刀伊入寇 藤原隆家の闘い」(実業之日本社文庫)

 私たちは歴史で平安時代のことは、箇条書きされた項目を覚えるだけで詳細をあまり習わない。また、歴史小説も戦国、江戸時代が題材で、あまり平安時代の小説は無い。だから平安時代がどんな時代だったのかあまり知らない。

 更に、日本が外敵に攻められたのは、鎌倉時代の元寇との戦いが教科書には記載されるが他は殆どない。

 ところが、元寇にも増さるとも劣らない外敵との戦いが平安時代に行われていた。
この作品は、その戦い「刀伊の入寇」を描いた作品。

 西暦936年、朝鮮半島に高麗という国ができる。高麗はしばしば攻め入ってくる北方民族、女真族を「東夷」と呼んでいた。この「東夷」を日本では、国外から攻め入ってくる敵として「刀伊」とよんでいた。

 1019年の3月27日から4月13日にかけて、大船団を擁して3000名もの刀伊の大軍が攻めてきた。これは、高麗ではなく、女真族。女真族は、自らの国家がなく、この侵攻に伴い、女真族国家を樹立するために、壱岐対馬、博多に攻め入ってきたのである。

 この時、太宰権師だった藤原隆家が、九州の武将を指揮して、刀伊を打ち破った。物語のクライマックスで葉室の筆も冴え、興奮冷めやらない作品になっている。

 この小説、戦いの場面も面白いのだが、藤原隆家が、大宰府に行くまでの物語も面白い。
藤原隆家の祖父は兼家、そして、父は道隆。道隆には子供が3人。長男が伊周、次男が隆家、そして娘の定子。定子の身の回りの世話をするのが枕草子の作者清少納言。

 祖父道隆は、自らの地位を長男道隆に譲ったのだが、道隆が早逝。道隆の弟に道長がいて、後継者争いを道長と伊周・隆家が争う。そして道長が勝利して、伊周・隆家を放遂する。

 この争いも面白い。

物語に瑠璃という女性が登場する。瑠璃は隆家が出雲に流罪で滞在していたとき、隆家と知り合い床を共にする。この時、瑠璃は寝物語で隆家に切ない恋物語を語って聞かせる。一方で藤原為時の娘が登場する、

 定子に仕えた清少納言は、在りし日の定子の姿を世に残そうとして「枕草子」を描いた。
為時の娘は貴族の間の不信と裏切り、愛欲に満ちた光源氏の生涯を描き、同時に主人公に振り回される女たちを描く。この作品は未完で、瑠璃はさらに描きたい章「輝く日の宮」があった。この章での主人公のモデルは愛する藤原隆家だった。

 葉室の想像なのだが、この想像は本当に面白くわくわくさせる。

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川上弘美    「三度目の恋」(中公文庫)

 在原業平の「伊勢物語」オマージュ作品だそうだ。申し訳ないが、私は全く「伊勢物語」の内容は知らない。

 主人公は、梨子。幼いころから大好きだった原田成矢と結婚している。成矢は、梨子のほかに、勤めている会社の副社長の許嫁と浮気をしている。あまつさえ梨子が通っている琴の教室の通子とも浮気している。

 それを梨子は知っているが、全く嫉妬とかは感じることなく平然と過ごしている。

物語に重要な人物が更に一人登場する。梨子が小学生の時、用務員をしていた高丘。高丘は梨子が小学校5年のとき用務員を辞める。そして34年ぶりに河原で偶然出会う。そこで、夫の浮気のことを梨子が話す。

 その夜から、梨子は不思議な夢を見る。

梨子が、江戸時代に暮らしている夢と平安時代に暮らしている夢。

 江戸時代の夢。梨子は田舎の百姓の小作の三女。貧乏で両親は梨子を食わせて行けず、女郎買いに梨子を売る。そして梨子は女郎買いに連れられ吉原に行く。吉原では花魁の世話をする禿の仕事をし、やがて花魁となり春月という名前になる。この花魁時代に高田という武士と恋仲になる。この高田と吉原脱出を決行する。吉原というところに一旦入った女性は生涯お大尽に身受けされない限り、出ることはできない。仮に脱走できても、見つけられてしまうと容赦ない折檻をうけ、殺されてしまう。脱出した2人は、小さな廃屋に追いやられそこで突然高田が消え、もうだめというところで、梨子は目覚める。そして高田が用務員の高丘だと気付く。

 平安時代の梨子は、天皇を支える殿の長女の女房となる。ここでいう女房とは、今でいう妻のことではなく、お姫様の身の回りを世話する女性のことを言う。

 お姫さまが、二代前の天皇の息子在原業平と婚約する。平安時代の貴族の結婚は、男である夫の実家からの通い婚。2人夫婦で生活することはない。しかも婚約して最初の3日間は必ず、妻のところにやってきて、抱き合わねばならない。これが続かない場合、婚約は破棄される。在原業平は別の姫の寝屋にも通う。そのことは自由で、平安時代には当たり前のこと。

 この制度が窮屈かと言えば決してそうではないと梨子は言う。

今は恋や結婚は自由。それゆえ、自身で裁量しなければならないことが無数ある。親戚つ‘きあいのやりかたは、ご近所さんとのつきあいは、子供の育て方は、家事の分担は、家計の割り振りは。こんな実務的なことのほかに感情の問題もある。

 これら、結婚生活において考えるべきこと、おりおりに話し合ったり、無言のうちに了解しあったりして確認すべきことを、個人的な規範において決めてゆかねばならない。

 平安時代の貴族たちの結婚には、ほとんど一通りのやり方しかなかった。今は百組の夫婦がいれば、百通りのやり方がある。自由はよいかもしれないが、煩雑なものである。こんな煩雑に耐えうる力のあるものしか生きてはゆけない。

 何だかこんな風に書かれると、今の恋愛、結婚は辛いものだと思えてしまう。平安、江戸、現在と恋のありようがリアリティを持って描かれている作品だった。

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知念実希人   「生命の略奪者」(新潮文庫)

 帯に 天久 鷹央シリーズ160万部販売達成と記載されている。大人気シリーズの作品。

天久 鷹央は、一族経営の天医会総合病院の副院長兼統括診断部長。しかも女性医師で天才推理探偵。

心臓移植をするための心臓を運んでいる移植コーディネーターが新幹線車内で襲われ、移植のための心臓が略奪されてしまう。

 神宮寺由佳がトラックに巻き込まれ全身を強く打って、天医会総合病院にかつぎこまれる。由佳の意識は二度と戻ることはなく、脳幹の機能を失っていて、近いうちに生命活動を維持できなくなる状態。

 この由佳、免許証に「私は、心臓が停止した死後に限り、移植のために臓器を提供します。」と記載してあり、臓器移植の意志が確認できる。

 母親は臓器移植を猛烈に反対したのだが、由佳の意志を尊重して、臓器を摘出、レシピエントに提供することになる。
 ところが、このとき摘出された腎臓が、誰かに盗まれるという事件が発生したのである。

日本では、通常遺体は火葬にされる。しかし、特別の地方で未だに、遺体のまま埋葬される土葬が行われているところもある。

 この作品では、古代エジプトから今に至るまで続いている、ケメティズムという宗教が登場する。

 この宗教によると、生前の罪を測るための心臓は当然死者のものではなくてはならない。そして他の臓器は、臓器としての機能を果たせば他人のものでもよいが、臓器として機能はしていなければならない。このケメティズムを信仰している人が亡くなった場合、機能している人間の臓器を移植せねばならないことになる。

 ここが作者知念の飛び越えたとんでもない発想。

臓器移植というのは、脳死状態の人間の臓器を、その臓器が致命的病気に侵されている場合、患者に移植して、病気を完治させるために行うものと普通の人は理解している。

 しかし知念の想像は、生きている臓器を、死人に提供したらととんでもない発想をする。
ケメティズムというのは、少し苦しいが、しかし常識をとっぱらってこんな発想をして物語を作る知念、正直本当にすごい作家だと思う。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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葉室麟    「草雲雀」(実業之日本社文庫)

 主人公の栗屋清吾は姫野藩馬廻り役の栗屋家三男として生まれる。長男次男は優秀なのだが、清吾はダメ人間で嫁ももらえず厄介叔父として、長男に養ってもらっている。しかし清吾は片山流の剣の達人で、秘太刀「磯之波」を伝授されていた。

 清吾は山倉家の女中をしている、百姓の出のおみつに恋心を抱き、結婚の約束までする。武家の男が、百姓の娘と結婚することなどありえない。しかし、互いに強く愛し合っている。

 清吾の剣道場仲間で友人の山倉伊八郎がいる。伊八郎は元家老国東武左衛門の三男だったが、山倉家に養子にだされ、育てられる。

 この武左衛門の嫡子である長男は病弱で、早逝してしまい、仕方なく武左衛門は家老を山辺監物に譲る。

 しかし、その後、武左衛門は山倉家に養子になっている伊八郎は、妾に生ませた子で、自分の子であるとして、自分の後継者を伊八郎にすると宣言する。

 これに対して現家老の山辺が反発する。
 伊八郎は、自分が家老になり、それが実現したときには友達の剣豪、清吾を大役を与えることを約束して、清吾に自分の用心棒になることを要求する。

 家老になるには、現家老の山辺派を一掃せねばならない。
そのためには、大金を用意して、要職や藩の女に賄賂をおくらねばならない。
 その金額が300両。

とても、伊八郎にはそんな金は用意できない。そこで、伊八郎は金貸しの白木屋に、清吾の愛妻おみつを差し出すように要求、そのかたに300両を白木屋から借りる。
しかし、そんな金は、とても白木屋に返済できるあてはない。

 物語は山辺派との、熾烈な戦いとおみつの運命はどうなるかを中心に進行する。

作者葉室は、おみつという名前にこころを込める。

 清吾の秘太刀は「磯之波」である。清吾にとって生きる力はみつである。
水は古語では濁点で表記されず「みつ」である。さらに、「みつ」は愛が満ち溢れていることにも通じている。

 命のシンボルでもある「水」が「満つ」ること。それが男に勇気を与えて男が愛する女性のために活躍する。それを見て女性は心にも愛が満ちてくる。
 そんなことを感じさせる物語だった。

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