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2023年09月 | ARCHIVE-SELECT | 2023年11月

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大石学    「徳川将軍15代」(じっぴコンパクト新書)

 江戸幕府15代将軍のそれぞれの時代における幕政を明らかにして、徳川幕府は何であったのかを考察する作品。

 どうも、年をとると、難しい考察を理解することが困難になる。それで、著者大石さんには失礼とは思うが、下世話な内容について、書かせてもらう。

 5代将軍徳川綱吉の時代末期、幕府を揺るがす騒動が起きる。側用人として、徴用された柳沢吉保が起こしたいわゆる「柳沢騒動」である。 

 吉保の愛妾で、同時に綱吉からも寵愛を受けた染子。綱吉との寝物語の最中に、吉保に100万石を与えるようにお願いする。
 なんと、綱吉はこれを受けいれて、老中に一筆したため、指示を発する。100万石は加賀藩にしか与えていない所領。
 これを妾の一言で、決めることはできない。「柳沢騒動」である。

このことをきっかけにして、次のことが決められる。

 将軍の寝所には必ず、「お伽の者」が寝ずの番をする。
正室と将軍が寝る場合は、「お伽の者」が、寝室の隣で朝になるまで、隣部屋で控えて、番をして将軍と正室との会話に耳を澄ませる。

 側室との場合は、何と同じ寝室で、お伽坊主とお手付きがされてない中臈女性が、将軍と側室の両側に横たわって寝ずの番をする。

 番をしている者は、将軍の方を向いてはならず、そうかと言って眠ってもいけない。側室が何かおねだりをしないか、耳を澄ませて聞いていなければならないのである。しかも、翌日、寝室の様子を年寄に報告する義務を負う。

 将軍とはどえらいものだ。他人にチェックされながら、セックスをしなといけないとは。
 男色だった家光が、こんなことをやられたらどうなったんだろう。想像不能の世界だ。

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北村薫   「遠い唇」(角川文庫)

 私の学生時代には自動コピー機、プリンターなど便利な機械は無かった。
授業は、まじめに出席していなかったので、試験が近くなると、まじめに出席した学生から、ノートを借りて、そこから講義内容を知り、それを読み込んだり、要点をまとめて、試験に臨んだ。

 しかし、まじめな学生の割合が少なく、不真面目なたくさんの学生の間で、講義ノートの取り合いになった。そんなことをしていたら試験までに、ノートが回ってこない可能性がでてしまう。そこで、変ったアルバイトが登場する。

 当時、貧乏学生の印刷は、ガリバン印刷しかなかった。講義ノートをガリバンに書き、それをインクをしみこませたローラーでわら半紙にコピーしてゆくのである。このコピーしたわら半紙を求める不真面目学生に売るのである。

 主人公の寺脇は、大学4年生のとき、追い出しコンパの案内を先輩も含めて、学生に出すことになる。自分は字もきたないし、ガリ版印刷も苦手なため、ガリ版に書く案内は、長内先輩に書いてもらうようお願いした。

 出来上がった案内をローラーでコピーして、案内状を創る。その時、コピー機の横においておいたコーヒーの入っていたコップが倒れ、一枚にコーヒーの染みができる。

 長内先輩は仕上がった案内状を寺脇に手渡し、染みのついた一枚は私へだす案内状だと言って持ち帰る。

 大学を卒業して仕事についてだいぶ経ってから、染みのついたハガキを押し入れから取り出してみる。そこには普通の案内のほかに、奇妙な文字が書かれている。

 AB/CDE/FGHI/JKLMK/NMJKCODOの雪/FIPJQKR/SMTUJQKRK/RGENSK.だから・TNLT これは、何を言っているのだろう。長内先輩の大好きな小説はヘミングウェイの「キリマンジャロの雪」だった。だからNMJKCODOの雪は「キリマンジャロの雪」だろう。それで、Nはキ、Mはリというふうに、他のアルファベットもキリマンジャロをあてはめてゆく。すると、キリマンジャロもそうだが/で区切られているところは、モカ、ブラジルとかコーヒーの銘柄だとわかり、どのアルファベットがどの日本文字にあたるか全部わかる。

それで最後は「だからテラワキクン・スキデス」と書いてあったことがわかる。

 遠い青春時代が甘酸っぱく鮮明によみがえる。楽しいミステリーだ。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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和田裕美   「それでも会社は辞めません」(双葉文庫)

 長い間の会社勤め、その間バブル崩壊とか、事業撤退などがあり、会社が人員削減を実行したことがあった。その時、どの会社もそうだが、キャリア デザイン室なる部署を設けて、会社で不要と判断した人たちを集め、仕事を与えずに、放置して、それに耐えられずに会社をやめていくのを待つ方法をとることが流行したことがあった。もちろん会社ではコンサルタント会社を使い、この会社ではあなたの力を発揮できる仕事は無いと言い続け、退職を暗に強要した。

 新入社員の主人公初芽の勤める会社は、業界大手の人材派遣会社「パンダスタッフ」。
初芽は営業に配属されるが、仕事は遅いし、しょっちゅうミスばかりする。その結果入社たった3か月で新設されたばかりのAI推進部に異動させられる。

 このAI推進部は決まった仕事はなく、毎日水田部長の指示により、社内の事務所を清掃したり、トイレを清掃したり、書庫の書類を整理したりする。

 それから、もっと重要な仕事。「パンダ スタッフ」は人材派遣会社。派遣先はもちろんオフィスワークもあるが、多いのは肉体現場労働者派遣。この現場労働は肉体的にきついため、派遣労働者が無断で現場に行かないことが多い。そんな時、AI推進部の人間が代わりに派遣される。

 工事現場の交通誘導員。夜勤が多く仕事もきつい。おじさんたちに交じって黄色い反射ベストをつけ、ヘルメットを被り、立ちっぱなしで車を誘導する。ホームレスの人も多いし、歯の無い人もいる。たまの休憩では、次はどこの現場があるとかどこの風俗が面白いかの情報交換ばかり。彼らの毎日は今日のためにだけある。未来を考えると圧し潰されそうになるから。

 それから、アマゾンのような巨大倉庫での作業。そのなかでもピッキングは厳しく辛い。
重い荷物をピッキングしてコンベアに載せる。これに電光掲示板がついていてその作業時間を表示して、作業のスピードを競争させる。全く、翌日配送が実現しているのは大量の派遣労働者の首や腰を痛めて走ったおかげ。

 この物語にもでてくるが、魚屋が、LEDランプがつかなくなって、300歩もあるけばランプを売っている店があるのに、面倒と言って、アマゾン(この物語ではジャングル ドットコム)に発注する。小さな商店が、スーパーにより駆逐され、そのスーパーもひょっとすると、ネットスーパーに駆逐されるかもしれない。

 物語は、生産性だけを追い求めて、派遣労働者の辛い実態をえぐりだしながら進む。
最後は半沢直樹ばりのかっこういい解決が登場しシャンシャンとなるが、すこしきれいすぎ。そんなには上手くいかないよ。

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| 古本読書日記 | 06:13 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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住野よる     「この気持ちもいつか忘れる」(新潮文庫)

 主人公は16歳の高校2年生の男子生徒鈴木香弥。香弥は、クラスだけでなく、誰からも孤立して会話を誰ともしない生徒だった。

 香弥が、夜中、家をでて自転車ですでに廃線になって残ったバス停の待合室に行く。そこにいたのが、爪と目しか見えない異星人の子。互いに名前を言い合うが、その子の名前が聞き取れなくて、香弥はその子をチカと名付ける。

 これは、周りから嫌われ、孤立してしまった高校生が、異星人との交流を経て、生まれ変わり再生してゆく今よくあるステレオタイプの物語、しかも500ページ以上もあって、げんなりしながら読み進む。

 ところが、この物語さすが住野さん。設定が変わっていた。いくら、交わらないとしても物語にクラスメイトが登場する。その登場するクラスメイトは田中君と斎藤さん。驚くことに、香弥は男子生徒をすべて田中といい、女子生徒はすべて斎藤と呼ぶ。

 バス待合室。実はチカの異星の国は戦争中で、チカにとっての待合室は戦争避難所らしい。
この待合室で、香弥は目と爪しかみえないチカに、今の孤立状態の自分について飾ることなく話し、チカも戦争の日々について話す。

 そして、2人は急速に親密になり、ストイックな香弥も変化してゆく。香弥はチカに「好きだ」と告白する。しかし異星の国では好きという言葉、概念が無い。それで、香弥は懸命に言葉を尽くして、好き、恋愛感情をチカに説明する。

 だんだんチカも心が高まり、香弥に向かって好きと言う。そして香弥は見えないチカの口を探り当て、2人は抱き合い、熱いキスをする。ここが物語のクライマックス。キスの場面だけで10ページも費やす。

 しかし、チカの国の戦争が終わると、チカのしゃべる言葉が香弥には全くわからなくなる。そして、ついにチカはバス停に現れなくなる。

 それから15年後。香弥は斎藤沙苗という高校の時同級だった女性に出会い、沙苗から迫られ結婚を約束する。しかし、香弥に転勤辞令がでて、そこで香弥は高校生の時のチカこそ自分の愛する人だったと告白して、沙苗との婚約を破棄しようとする。

 しかし、チカのことは記憶から薄れて、上手く思い出せない。
沙苗は香弥に言う。
「あなたの話はすべて~はず。好きだったはず。キスしたはず。」

そう、読んでいてチカも香弥が想像して作った女性に思えてきた。そして、もちろん沙苗は斎藤沙苗ではなく、須能沙苗だった。
 私も大した人生ではなかったが、高校時代の記憶は、殆ど無くなった。

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知念実希人   「崩れる脳を抱きしめて」(実業之日本社文庫)

主人公の碓氷蒼馬は、広島から実習のため神奈川の「葉山の岬病院」にやってくる。

そこは、やがて死を迎えるために、入院している患者用、ホスピスのような病院。そこの3階にある超デラックスの個室に28歳のユカリが入院していた。
ユカリはグリオプラストーマという重病の脳腫瘍を患っていて、いつ脳が破壊されてもおかしくない状態で入院していた。

 碓氷の実家は、広島福山で会社を父親が経営して成功したのだが、経理を担当した役員がお金をごっそり持ち逃げ、それで実家を売り払い、親戚の家で暮らす。そのうち、父親が失踪。そしてパリから愛人と再婚すると離婚届が届けられる。その父親はそれから一年以上たって、九州の山で滑落して死亡する。

 この本の帯には、知念が描く最高の恋愛小説とあった。
それでか、主人公蒼馬とユカリの苦しく切ない恋愛描写が延々と続く。昔からある、不治の病にかかった人との悲しい恋愛。ステレオタイプの物語が進み、一流ミステリー作家の知念がこんなつまらない作品を書くのかとがっくりしながら読み進む。

 ところが、後半初めに、愛人とパリにいた父親から、しばしば投函していない絵葉書が封書の中に入れられ碓氷の実家に届くところから、急にミステリーの雰囲気が濃厚になる。

 更に、恋人である患者のユカリが、横浜の路上で倒れ、救急車で病院に搬送されるが、直後に死亡。どうして、外出が認められていないユカリが横浜まで、誰の付き添いもなく外出できたのか。ましてやユカリの外出目的は何だったのか。更に、見知らぬ弁護士が突如現れ、ユカリが遺言書を残しているがそれが見当たらないと碓氷に告げる。

 次々に起こる不可思議な現象に、碓氷の調査が行われ、一気に物語は緊張感いっぱいとなる。そして、平板な恋愛小説ではないことを知り、私も興奮してくる。

 後半の作りは、知念のミステリー作家として面目躍如。驚きの連続。本当に知念を堪能した。

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知念実希人   「誘拐遊戯」(実業之日本社文庫)

 4年前女子中学生誘拐事件が起きる。その時ゲームマスターと名乗る犯人との交渉役にあたったのが主人公の当時警視庁刑事上原慎吾。この事件、誘拐された少女は殺害され、犯人ゲームマスターであった桃井一太は自害してしまう。

誘拐された中学生が殺害されたこと、犯人自殺に対し社会で大きな非難が巻き起こり、その責任をとって上原は警察をやめ、警備会社で警備員となる。

 そして4年後、東京白金の富豪の女子高生が誘拐され、身代金5000万円が要求される。
犯人は4年前と同じゲームマスターと名乗る。ゲームマスターは4年前自害しているはずなのに。
 そしてゲームマスターは交渉役として、もう刑事はやめている上原を指示する。

ここからが、読んでいてぐったりする。ゲームマスターは、東京のあちこちに行くことを指示して、上原を振り回す。いいところまで追いつめるのだが、ゲームマスターの正体はつかめない。
 何だかスマホ・ゲームか、アナログのゲーム盤をしている感じ。全く推理や、捜査が進行するのでなく、これは知念とは思えない愚作だと溜息をつきながら読み進む。

この物語の前半、ゲームマスターと思われる人物は殆ど登場しない。それは無いと思うが登場人物は上原の離婚した妻と、上原が月一度会うことができる一人娘優衣のみ。

 これは、最後の驚きのドンデン返しで元妻か優衣がゲームマスターになる布石ではと思い後半に読み進む。

 後半は、上原に余命幾許もない重篤のガンが発覚する。更に誘拐された女子高生が殺害され、警察が上原の捜査を妨害する中、異様に雰囲気は緊迫する。上原が命をかけ、ゲームマスターに迫ってゆく。知念らしい作品になった。

 それで、やっぱり思った通り、ゲームマスターは娘の優衣だった。
もっと前半に、あやしげな人物を登場させるべきと思ったよ知念さん。

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| 古本読書日記 | 06:12 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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山本文緒    「ばにらさま」(文春文庫)

 2年前急逝してしまった山本文緒の作品集。
どの作品も、山本さんらしい、一番難しいのだが、日常の生活が飾らず表現され、珠玉の作品集になっている。

 その中で、最も優れた作品ではないが、たまたま、私が働き、そして長い間暮らした浜松を舞台にした作品があるのでそれを紹介したいと思う。作品名は「バヨリン心中」。

 主人公の私は、短大の英文科を卒業して、浜松駅前にある、巨大ホテルに契約社員として勤めている。

 浜松は楽器、音楽の街で、海外の演奏家を招待して、楽器クリニック、ワークショップがしばしば開催される。

 主人公の私が、展望回廊の受付をしていた時に、入場切符が購入できなくて困っていた外国人を助けてあげ、回廊を案内してあげる。彼の名前はアダム。ワルシャワから来ていることを知って、翌々日休暇をとって、浜松を案内してあげることにする。

 浜名湖や、湖のロープウェイなどをめぐり、うなぎを食べる。そして、その夜実家に連れて帰り、夕食を振る舞ってあげる。
 主人公の父は造園会社を経営していて、そこの従業員や、親戚、近所の人たちが集まり大宴会になる。アダムも「上を向いて歩こう」をバイオリンで演奏し拍手喝采を浴びる。

 その後私とアダムは恋人同士になり、その結果私は妊娠する。
私は、子供を産み育てると宣言する。するとアダムは結婚しようと言う。アダムはワルシャワに帰らず、結婚してヤマハ音楽教室の講師となって働く。

 幸せな暮らしが続いていたとき、東日本大震災が起こる、そして原子力発電所大事故が起きる。

 そんな混乱の中、アダムが子供を連れて密かにポーランドに帰ってしまう。
私は怒り狂う。しかし、しばらく前、ワルシャワから遠くないところのチェルノブイリで原子力発電所が大事故となり大量の放射能が漏れ拡散していたことに想い至る。

 そんなことを、繰り返し息子や孫になつかしそうに喋る私は認知症が進んでいる。
そう物語の時代は2065年。

 本当に恐ろしい原発事故。浜松の近くにも、浜岡原子力発電所がある。

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| 古本読書日記 | 05:55 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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井上篤夫   「志高く 孫正義正伝」(実業之日本社文庫)

 ネット事業、ブロードバンド事業、投資家として時代の寵児である、孫正義の人生を描いた作品。

 今や、孫正義の人生の成功者としての姿は、誰でも知っている。だから、そこについては触れない。この本を読んで、孫正義の偉人ぶりは、青春時代に発揮されていたことを、この書評では紹介したい。

 孫は1957年、佐賀県鳥栖で生まれている。父親は魚の行商、養豚業から身を起こし、やがてパチンコ屋、飲食業、不動産業などで成功して、経済的基盤を築いた。

 鳥栖では高いレベルの大学へ進学できる学校がないということで一家は鳥栖を離れ北九州市に転居する。そして、九州ではラ・サールに次ぐ進学校として有名な久留米大付属高校に進学する。

 ここからがすごいのだが、その入学したばかりの久留米大付属高校1年の夏、カリフォルニアに短期留学すると言い、高校を退学してカリフォルニアに行く。そして、サンフランシスコ郊外にある、ホーリー・ネームズ・カレッジ構内にある英語学校に入学する。その7か月後、4年生高校セラモンテ・ハイスクールの2年生に編入される。

 ここから孫はすごいことをする。この高校はたった3週間学んだだけで、大学入学のための検定試験を受ける。科目は数学、物理、化学、歴史、地理、英語。しかし、試験では、見知らぬ専門の単語ばかり、その問を読んで、論文形式で英語の回答をせねばならない。試験は午後3時まで。

 孫はここで試験官にお願いする。辞書を使うことと、制限時間を自分だけ延長してほしいと。

 試験官は当然拒否するが、孫は自分で交渉すると言って、職員室に行く。職員室の教官が教育委員会に問い合わせをする。アメリカという国はおおらか、孫の要求を認めたのである。
歴史は午後11時までかかる。物理は午前0時を廻っていた。そこまで、試験管は付き合う。

 結果孫は検定試験に合格。殆ど、高校を経験しないで、大学、ホーリー・ネームズ・カレッジに入学したのである。この大学を2年で終え、そのあと憧れの、カリフォルニア大学バークレー校に入学する。

 大学卒業後、孫はビジネスを立ち上げる。そのスタートは当時日本で大流行していたインベーダーゲーム機を輸入してアメリカで販売することだった。
 孫はこのビジネスで成功を収め、溜まったお金一億円を手にして帰国。日本ソフトバンクを九州で設立したのである。

 そして、ご存じの通りビジネスで大成功を収めるのだが、今はロボットの開発に力を注いでいる。

 ロボットは、労働人口減少に伴い、労働者にとってかわるものとして開発導入されているが、孫の開発するロボットは「うれしいとか、悲しいという感情がわかるロボット」だ。

 すでに、そのロボット完成まで、もう少しというところまできているそうだ。
名前はペッパー。社会改革は政治家がやるのでなく、実業家孫が行うことだと孫は言う。

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内田康夫   「砂冥宮」(実業之日本社文庫)

50数年前、私は大学生になった。家が農家であまり裕福ではなかったので、大学では寮に入寮した。まだ、学生運動の残り火が燃えていた。そして、活動家の供給先が学生寮だった。当然私もデモや活動に動員された。

 大学に入った頃は、運動は下火になりつつあったが、それでもデモや集会には、多くの社会人労働者の参加もあった。しかし3年後くらいから、社会人の姿は無くなり、デモも集会も大学の寮生しか参加しなくなり、数十名しか集まらなくなった。

 しかし、寮では、毎日のように議論が交わされ、アメリカ帝国主義、搾取の資本家階級にたいし、一般労働者が学生とともに立ち上がり、この2つの敵との闘いに勝利し、人民は解放されるとみんな信じ、盛り上がった。

 しかし、ひとたび世の中にでて見渡すと、自分たちだけが孤立し、社会が変わるような様子は全く無かった。

 そして、そのうち学生運動のエネルギーは内ゲバへと変化していった。私と同部屋の先輩は鉄パイプとバールをいつも枕元において身構えていた。しかし、ある夜中、自転車で寮に帰る途中、別セクトの連中に襲われ、半身不随の重傷を負い、その後遺症で数年後に死亡した。

 私も人生70年を超えたが、その事件が人生の中で、最大の悲劇として、こびりついている。

金沢の内灘が、朝鮮戦争の砲弾の試射場所として、使われることが計画された。それに対し、住民を含め学生、全国から活動家が集まり反対闘争が起こった。しかし、住民は政府からの支援金や産業の育成支援の政策により、殆どは試射場所設置容認となった。

 しかし、学生や活動家は闘争を継続した。その闘争の中で、ある学生が、高熱のなか、デモに雨中参加させられ、途中で倒れ、それでも、デモは継続され、結局その学生は亡くなる。

 この学生の死が、それから数十年後、闘争に熱心な活動家だった仲間同士の、殺人事件を引き起こす。それが紹介した作品である。

 2年前、大学のゼミ生の宴会があった。ゼミの教授はマルクス主義経済学者だった。先生は、自宅近くのコミュニティ センターで社会人相手にマルクス主義経済の講習をしている。こんな化石のような経済学、受講生は集まらないのではと思っていたら、仕事をリタイヤした人で、学生時代の経済学を学びなおしたい人が多く集まって盛況だとのこと。

学生運動に燃えた青春時代の郷愁。
 驚いたが、何となく、わかるような気がした。

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安達瑶   「紳士と淑女の出張食堂」(実業之日本社文庫)

 会社はクビ、彼氏にもふられた主人公の居間野ヒロミは、ひょんなことから超高級ケータリング料理店で働くことになる。色んなパーティにケータリングするが、そこで必ず大騒動が起こる。その騒動と始末を描いた5作品が収録されている。

 私は、殆ど関心が無いが、今、社会がジャニー喜多川氏の少年性犯罪で揺れている。この問題に火がついたのが、英国のBBCが取り上げたことからということは成程と興味を持った。

 この作品の3作目に収録されている「『不可能を可能にする』メニュー」には引き付けられた。

 舞台は埼玉県の山中にある高濃度の硫黄泉・三途川温泉。
この温泉町では毎年町長主催の「温泉で桜を見て暖まる会」が行われている。その会に今年は料理提供者として、ヒロミのケータリング会社が参加している。

 こういう会には、しばしば女性のコンパニオンがいて、エロ爺の標的になる。
このパーティでも町会議員3人の標的にコンパニオンがなる。お尻をさわったり、女性にせまったりするのである。

「いいじゃねえか、減るもんではなし」
「口だけなんだよわしらは、大事なモノはもう役にたたないんだし。」
「老い先短い老人を虐めるなよ。」
いつも、見る風景で、特に問題にならなかったのだが。

 これをよろしく思わなかった、町議会の唯一の女性議員ヒナコ議員が、画像と映像をとりBBC,CNN,ル・モンド、フィナンシャル・タイムス、ニューヨーク・タイムス、ワシントン・ポスト、ガーディアン、ウォール・ストリート・ジャーナルに送る。

 こんな田舎町のことなんか、世界の大マスコミが関心をもつなんてことはあるわけないと思っていた、エロ議員はその後、とんでもない世界からのバッシングにあうことになる。

 今は、どこから爆弾がとんでくるかわからない。気をつけなければならない。
井の中の蛙状態の特に中年以上の男たちは。

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五十嵐貴久   「マーダーハウス」(実業之日本社文庫)

 私は会社を退職して10年以上たつので、ネット社会がどこまで進化しているか、把握できていないが、今の社会は、人間同士が対面で会わなくても、殆どのことがネットワーク上で対応できる世界になった。

 会社間の契約や、売買処理も対面で説明しなくても、ネットで会話して、ネット上で契約をすませ成立させることができる。公共サービスだって、今はコンビニまで出かけて行ってサービスを受けるが、もう少したてば、家のパソコンでサービスが受けることが可能になるだろう。

 この作品、カマクラハウジングという不動産会社が仲介で、シェアハウス「サニーハウス」の住人を募集する。

 場所は鎌倉。洋風の城のような外観。各部屋は20畳。家具、バス トイレ、寝具すべて装備、それで家賃は45000円/月。信じられない設備と格安家賃。

 普通、新住居を決める時は、不動産業者に案内してもらい、環境、部屋の状態を確認して決める。
 このサニーハウスで行方不明者や不審死事件が多発する。住人の主人公の理佐は、恋人の弘に連れられ、WEBのホームページにある、サニーハウス広告の管理会社カマクラハウジングの住所に行く。
 しかし、そこにはカマクラハウジングは無く、古い有料駐車場があるだけ。

弘は新潟の高校を卒業して、隣の長野にある大学生になっている。その弘が言う。

「ぼくも長野のワンルームマンションは不動産会社のホームページで見つけて、申し込んだ。免許証を本人確認のためFAXして、敷金礼金を払い込んだら、手続きはそれで終わった。エントランスのオートロックの暗証番号と、マンションのドアのパスコードを教えられたけど、不動産会社の社員とは直接会っていない。」

 この物語の殺人は、進化したWEB処理を使って行われる。まさに、契約当事者が対面で互いを確認することなく契約がなされる現実を逆手にとった犯行。変に複雑でないため、非常に内容がリアルで面白いと同時にゾッした。

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泉ゆたか   「猫まくら 眠り医者ぐっすり庵」(実業之日本社文庫))

 好評のぐっすり庵シリーズ第一弾。

茶問屋「千寿園」経営していた両親が相次いで他界。残された兄妹、松次郎とお藍。
兄は蘭医学を学びに長崎の鳴滝庵に留学。その間に「千寿園」は叔父叔母に乗っ取られお藍はそこで毎日働いている。

 そんなある日、突然松次郎が長崎から戻り、茶畑の中のぼろ屋で、眠られない人を眠れるようにする「ぐっすり庵」なる養生所を開設。お藍は「千寿園」での仕事のかたわら、松次郎の「ぐっすり庵」も助手としてお手伝いをしている。

 この本では、そんな眠られない患者を扱った5編の作品が収録されている。

よく、たくさんの人が、眠る前に眠りをよくするために寝酒に一杯と酒を嗜む。
松次郎が言う。

「眠るためには、何よりも息がゆっくりと深く穏やかでなくちゃいけない。酒は脈を速くするんだ。頭を熱くして、息を浅くする。ちょうど全速力で走っているのと同じ調子だ。酔っ払いは酒の作用で頭が惚けて、ただ、その異変に気付いていないだけなんだ。
 酔っ払いが寝込んでいるのは、酒という薬を己の体の限界よりも飲みすぎて、前後不覚になってぶったおれているだけだ。酒のおかげで気が楽になって眠くなっているわけではない。」

 なるほど、これは納得だ。

この作品に虎之助という質屋「蔵屋」の主人がでてくる。この虎之助、仕事でいいアイデアはないかと夜床についてから、ああでもない、こうでもないと必死に考えるくせがある。それで全く眠れなくなって毎日朝を迎える。食欲もなくなり、げっそりやつれ、眼もくぼんでしまう始末。

 この虎之助が、不眠を克服して、眠れるようになる。
これが、この作品の読みどころ。上手い解決策で感心。それは何か、本を手に取って確認してください。

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水生大海   「ランチ探偵」(実業之日本社文庫)

 久しぶりの「安楽椅子探偵」小説。「安楽椅子小説」とは、探偵が一切捜査や事件現場に行かず、事件の話を聞くだけで、事件を推理し、真相をつきとめる小説。

 主人公は、住宅メーカーの経理部のOL,阿久津礼子と天野ゆいか。2人は時々、ランチ合コンを行う。そこで、合コン相手の話す、不可思議な出来事について、特に勘が鋭いゆいかが推理を働かし、真相を明らかにするスタイルで物語が創られている。6つの作品が収録されている。

 2人は、最近ランチが美味しく行列のできる移動販売車09のランチを楽しんでいる。移動販売は2人、楢崎と岡がやっている。ある日、楢崎に興味を持った礼子が2人に合コンを申し込む。

 楢崎は有名店レストラン「高木」の第2シェフをしていた。店主の高木が第一シェフ。高木が店を閉じたため、いずれ楢崎は自分の店を持つための資金を集めるためにランチの移動販売をしている。

 この移動販売に変わった客が2人やってくる。

一人は30過ぎの女性。毎週金曜日にやってきて、大量のランチを購入してゆく。しかも、ライスは大箱に盛ってもいいが、総菜は料理ごとに別詰めしてほしいと頼む。

 もう一人は50歳くらいのサラリーマン風の男性。この男性は、料理について大きな声でこれはダメだ。ここを直せとか名物のハンバーグランチが注文して品切れの時には、品切れは許せんと文句をたらたら言う。

 2人の言うことに、ゆいかが推理を働かす。レストラン「高木」の店主の奥さんは少し前から、注文を忘れたり、いろんな失敗をするようになった。また店主も時々料理の方法を忘れるようになった。これをゆいかは2人とも若年認知症のためと指摘する。若年認知症というのは徐々に記憶が消えてゆくのではなく、ある記憶がスパっと消えるのが特徴。だから、料理の手順の一部の記憶がスパっと消えると、もう調理はできなくなる。

 大量にランチを購入してゆく女性は、店主夫妻の娘さん。店主が教えた料理を、金曜日に家族で食べるのである。
 楢崎は大学中退、父親から勘当され、全く生家とは音信不通。父親は大銀行に勤めている一流銀行マン。

 その一流銀行マンのクレームをつけている姿をゆいかは見て、楢崎の父親は、銀行を退職させられていると言う。日焼けが銀行マンにしてはおかしいことからゆいかが推理。父親は退職金をそれとなく、楢崎が店をだす資金として提供する。
収録されている「金曜日の美女はお弁当がお好き」より。

 礼子とゆいかの人物造型がよくできていて笑いを誘う。ゆいかの推理も無理がなく、納得できる。

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泉ゆたか   「 朝の茶柱 眠り医者ぐっすり庵」(実業之日本社文庫)

4編の時代小説を収録。

主人公は叔父が経営する茶園「千寿園」の手伝いをする藍。
藍には、松次郎という兄がいる。松次郎は長崎で医薬の勉強をして、今は「ぐっすり案」という養生所を開いて、不眠の患者が眠ることができるよう薬種を使って治療している。

 治療は、心を安らかにする薬とか、心臓の動きを穏やかに薬とか、一応科学とは言わないまでも、根拠がある処方がなされ、その効果もあって、そこそこ繁盛している。

 この養生所に道場破りをすると言って、乱々亭乱太という落語家がやってくる。

乱太が言う。
「何がどうなっているかわからないが、寄席で俺が話し始めると、客が揃いもそろってぐうすか寝込んでしまうのさ。うちのばあさんは、眠りが浅くて困っていたところを、俺の話が始まった途端に、そのまま寄席の床で朝までぐっすり寝込んじまうんだよ。この前は、天井裏の蛇がうとうとしちまって、客の頭に落っこちてきてしまったんだよ。」

 こんな状態だから、乱太の落語は人気がなく、乱太は悩みの真っただ中。

 これはすごい。面白い。乱太と松次郎の対戦はどうなるだろうかと、興味深々で読み進む。

 で、そのあといろいろあるのだが、客を寝かせないように、「千寿園」のお茶を濃いめにだし、客の眠気をとばして、最後まで噺をきかせる作戦を実行する。

 濃茶が効いて、客は噺の途中までは、起きてじっと乱太の落語を聴いている。しかし、途中で強い眠気が襲ってきて、耐えられなくなり、眠ってしまう。

 すると、あの噺の最後の落ちは何だったんだ。その落ちを何としても知りたいという客がたくさんでて、乱太の落語はいつも満席になるという物語。

 物語の導入は面白くてこれはと思ったのだが、最後がいかにもシャビー。期待したのだが、残念だった。
 収録されている、「眠り男の十八番」より。

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吉田雄亮  「北町奉行所前腰掛け茶屋方時雨」(実業之日本社文庫)

 しばらく時代小説の大家直木賞受賞作家の松井今朝子さんの作品を読んできた。一冊、一冊が分厚く、狂言、歌舞伎の独特な世界を描き、専門用語も多く、読み込むのに本当に苦労した。
もう時代小説はしばらくいいやと思っていたのだが、また時代小説を手にとってしまった。

 この作品、一文ごとに、行替わりをするという久しぶりの読みやすく、わかりやすい小説だ。ライトノベル時代ミステリー小説のようだ。

 かって北町奉行所与力を務めていた主人公弥兵衛。今は、その奉行所前で腰掛茶屋を開きその楼主人となっている。

 北町奉行所管内の阿部川町で、医者町仲間という組合ができる。その医者町仲間に質屋の備後屋も加わっている。

 阿部川町は長屋が中心の庶民が住んでいる町。病気になったら幾つか町医者がある。しかし住人が貧乏だから、治療代はともかく、薬代が払えない。今までは、町医者は、ある時払いで、支払いを待ってくれていた。

 ところが町医者仲間ができてから、治療時に薬代を払わないと治療をしない医者しかいなくなる。
仕方ないので住人は、家にある金目のものを質屋の備後屋に持ち込み、金を得て、薬代にする。

 しかし、そんな庶民の家に質になる品物などあまりに無い。だから預けた品物は流れ、金を質屋に返せないことになる。こうなると、病気になっても医者にいけなくなり、死者まででる始末になる。

 そして娘まで、質のかたにとり、金の支払いが不能になると、娼館に売り渡す。
 備後屋は、預入物や娘を市場で捌き、そこで手にいれたお金を一部、医者仲間組合を運営している黒幕に渡す。

 これを主人公の弥兵衛とその仲間が暴き医者仲間、黒幕、備後屋を一網打尽にする。その箇所は、痛快で面白い。

 しかし、よく考えると、なぜ医者仲間や黒幕、質屋がつかまり裁かれるかがよくわからない。
 確かに救いようのない手口は悪なのだが、ビジネスモデルとしては、法を犯しているようには思えない。何の罪で奉行所は罰したのかわからなかった。

 でも、はびこる悪を懲らしめるのは気持ちがいい。それでこれでもいいと思う。

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阿川大樹   「終電の神様」(実業之日本社文庫)

 真夜中の終電か、終電近い満員電車に乗り合わせた主人公たちが、それぞれの事情で、どうしても、行きつかない。そんな時 焦る気持ちが、徐々に諦める気持ちに変わってゆく。そうすると、現在の自分の状況や、過去の出来事などを考えたり、思い出す。

 停車により、人生が変わってゆくきっかけになる物語集。

この物語集のテーマから少し離れる。

 私はあるプロ野球、弱小チームのファンである。FAで主力選手が次々でてゆくが、資金が無いのか、FAで入ってくる選手は皆無。

 そうなると、若手を育成して、数年後に強くなるチームにするのだということで、2軍からいれかわり選手をあげ戦う。しかしどの選手も帯に短かしたすきにながしで、その中から光り輝く選手いっこうにでてこないし、全く成長する気配もない。

 この物語集で、競輪選手を恋人にしている女性の話がある。

出会った夏に2人で、二泊三日で高原に行く。しかし、「一日でもトレーニングを休むと筋力が落ちるから」ということで、それからは旅行は一泊になる。

 その日朝家から出かける前にトレーニングを終えてからやってきて、次の日の夕方別れると、寝る前にトレーニングをする。それでも筋肉が削り取られたように力が落ちていることがわかる。

 秋に箱根のホテルに行ったときには、彼女は観光や庭園を散策していたのだが、彼は箱根の山道を走りに出かけた。

 春は稲村ケ崎の海をバルコニーから、一日中、見て過ごした。
彼は、海岸沿いの道を茅ケ崎まで往復して戻ると、更に材木座海岸の砂浜で延々とダッシュを繰り返した。

 私はひいきチームの野球を見ていて、変り映えのない練習をして、漫然と二軍のゲームをしているだけのように見えた。そんな集団から抜け出る他とは異なる独自の猛特訓をしなければ秀でることはできないと思った。

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養老孟司、角田光代   「脳あるヒトと心ある人」(扶桑社新書)

 養老孟司と角田光代が特にテーマを決めるのではなく、産経新聞紙上に手紙形式でやりとりしたエッセイを、本にまとめるまでになったので、新書にした作品集。

 含蓄を含んだやりとり、どのエッセイも内容が濃く、紹介したくなるのだが、その中でもこれはと唸った内容を紹介する。

 角田さんとお母さんの会話。

角田さんがお母さんに言う。
「この間より太ったみたいだけれどどうしたの。」
「服を買いにいったら大きなサイズの店に行けと言われて腹がたった。」
「甘いものを食べすぎたんじゃないの。」
「どこそこの店の大福を買ったらまずくて食べられたものじゃなかった。」
 こんな、思うままの会話がどんどん進んでゆくと、最後に決まって母が言う。
「小説なんて書いてないで結婚したらどうか。」
「あなたが太った話が何故私の結婚問題に結びつくのか。」

 この会話は、角田さんの完全な創作なのか、それとも最近の母親との会話を思い出して書いたのか。

 普通の小説家は、日々ありそうだけど、なかなかこんなとんちんかんな会話を思いつかないし、会話していても終わるとすぐ忘れてしまう。

 私がねじれた読者だからかもしれないが、こんな会話が面白く大事と思い書ける角田さんの感性に、感動を覚える。
 これは、本当に並みの作家では思いつきもしないし、なかなか書けない。

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松井今朝子    「吉原手引草」(幻冬舎文庫)

 直木賞受賞作品。

江戸吉原の遊郭舞鶴屋の花魁、葛城。数々のお大尽を手玉に取り本気にさせた。その葛城がある日忽然と姿を消す。何が起こったのか、その謎をおいかけながら物語は進む。

 不思議な体裁を物語はとっている。
物語は葛城に関係する者たちに、謎を追求する形で進むが、この追求者の正体が最後まで明かされることが無い。
 遊郭は、たくさんの異なった役割を果たす人たちで構成される。引手茶屋の女将、遣り手、床廻し、楼主、女衒など。語り部は18章にわかれ、それぞれが証言する。ダブリがあるため、17人の証言となる。

 松井さんのミステリーの特徴なのだが、最初から最終近くまで、よく読めば、解決につながる仕掛けが埋め込まれているかもしれないが、凡人の読者である私には、一向にそれがわからず、終盤まで読んでしまう。その過程は長く辛い。そして終盤突然物語が変転して、一気に解決に向かう。

 この物語も13章「柳橋船宿 鶴清抱え船頭 富五郎の弁」からやっと事件の端緒が現れてくる。

 これ以前の語りは、知らない、わからないばかりで全く事件の内容が不明となっている。
そして、事件の真相は、最終章から三つ手前の「蔵前札差 田之倉屋平十郎」の章ですべてがわかるようになっています。

 内容は忠臣蔵に似ていて、葛城は武家秋山家の娘。父親が、河野家の河野修理により毒殺され、秋山家と河野家の上下関係が逆転、河野家にバカにされ虐め続けられ、秋山家はそのため殺傷事件を起こし、お家断絶。その復讐に吉原に登楼した河野某を葛城が殺害。

 当然、幕府の裁きになる事件なのだが、河野家は真相がわかれば、河野家に大きな被害が及ぶことを考え、河野某は病死で処理される。

 このお家が何よりも大事ということは、今の2世、3世政治家に引き継がれている。

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大山淳子    「あずかりやさん」(ポプラ文庫)

 全国書店員の圧倒的支持を受けている大山さんの作品。

東京の下町の商店街の一角に「あずかりや」という変わった商売をしている店がある。主人は桐島透さん。もともと砂糖を売る店だったが、透さんが7歳の時にちょっとした事故にあい、全盲となり、店を引き継いだ時、現在の「あずかりや」を始める。
 一日100円で何でもあずかり、約束の期限に預け品を取りに来なければ、すべて「あずかりや」の品物となる。

 この本には7作品が収録されている。全作品が変わっているのは、透さんが語る物語ではなく、店ののれんや預かった自転車、住み着いた猫、オルゴールなどが語る物語になっているということ。

 中でもいい作品だなと思ったのが2作目の「ミスタ・クリスティ」。

クリスティは自転車の名前で、外国の小さなメーカーが創っている希少で高級な自転車。
そのクリスティは、大きな自転車屋の天井から吊り下げられ、いつも、床に並べてある自転車や、窓から外の風景をみている。

 ある日、自転車屋に父親と息子がやってくる。受験に受かったご褒美に通学用の自転車を父親が買ってあげるために来店したのだ。

 息子のつよしは、天井から吊り下げられているクリスティが欲しい。しかしとんでもないほど高価だ。でも、父親は高校進学祝いだからと、クリスティを買ってあげる。

 つよしは有頂天になって、クリスティを漕いで走り回る。しかし、走り回った後、クリスティを「あずかりや」に持って行きまたあずける。そして翌日の朝7時半に取りに来ると預け代金100円を店主の透に渡す。

 翌日朝、つよしは「あずかりや」に紫のしょぼいママチャリでやってきて、ママチャリを預けて、クリスティに乗り換え学校に向かう。そして夕方下校時、クリスティを預けに「あずかりや」にやってきて、ママチャリに乗り換え家に帰る。

 つよしの両親は、小学生の時、離婚をする。それから、つよしは母親の手で育てられる。
母親は昼、夜パートで懸命に働き、つよしが高校に通えるようにする。

 高校通学には自転車が必要となるが、その自転車が買えない。隣の遠藤さんに、娘さんが使っていたママチャリを安く分けてくれるよう母親が頼み込んで、何とか手にいれる。それで、あずかりやまで行き帰りは乗り換えてママチャリで家に戻るのである。

 ある日、学校の駐輪場で荒井さんという女子高生がママチャリで、自転車を倒してしまう。
当然、つよしのクリスティも倒され小さな傷がつく。

 荒井さんのママチャリにはチャイルドシートがついていた。そのママチャリは母親からのお下がりで荒井さんは小さいころそのシートに乗っていた。

 その日、つよしはクリスティで「あずかりや」に行き、「あずかりや」にクリスティを処分してくれるよう頼む。それから、もうつよしが「あずかりや」に来ることはなくなった。

 こんな暖かい話を作れるから、大山さんは大人気作家になれるのだ。

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池井戸潤  「半沢直樹 アルルカンと道化師」(講談社文庫)

 半沢直樹シリーズ第5弾。

現代アートで大成功を収めた仁科譲。その大成功へのきっかけとなった作品が「アルルカンと道化師」をモチーフにした作品。

 この仁科の作品を大量に収集して所蔵しているのが、ITネットワークシステムで大成功した会社ジャッカルの創業者田沼時矢。

 この田沼が、芸術雑誌出版や作品展の企画をしている仙波工藝社を買収しようとしていた。半沢が勤める東京中央銀行では、大きな手数料がはいる、M&Aの仲介業務推進を頭取の指示で進めていた。しかも、驚くことに、買収金額は数億円もあれば実現可能にもかかわらず、田沼は15億円での買収を提案してきた。

 それで半沢が勤務している大阪西支店融資課及び大阪本店では、ジャッカルの仙波工藝社の買収をものにしようと活動する。
こんないい案件なのに、仙波社長はM&Aを頑として受け入れない。

 仙波工藝社は出版界の不況で赤字が続いていた。しかし社長の仙波は事業改革をすれば会社は立ち直れると思っていた。そのためには2億円の銀行からの融資が必要だった。

 この2億円の担保が仙波工藝社には無い。半沢とその部下は、担保をいれてくれる、相手を探す。そして資産家の堂島政子にたどり着き、2億円の担保を差し出してくれることを受け入れてもらう。

 事業計画、担保が整えば、融資は承認されるのが、銀行。このルールに従い融資申請したにも拘わらず、銀行の本部は融資却下をする。

 ジャッカルのM&Aを田沼に約束をしていたため、何としてもM&Aを実現しようと本店を含め動く。

 この物語のキーになるのは、なぜ法外な15億円ものお金をだして、田沼が仙波工藝社を買収しようとしたのか。

 実は仙波工藝社の社長室には「アルルカンと道化師」の絵がかざってある。
しかし、作者のサインが仁科譲ではなく、別の作者のサインになっていた。これが買収の真相を解くカギとなる。

 お決まり、お待ちかねの「やられたら、倍返し!」も最後見事に決まり、悪に鉄槌がくだされ読者はいつものように気分爽快で本を閉じる。本当に面白かった。

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| 古本読書日記 | 06:54 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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松井今朝子  「家、家にあらず」(集英社文庫)

 高校生の頃、今から50年以上も前、特に日本映画は斜陽となり、暴力、エログロ映画が全盛となった。

 そんな中、東映は鬼才石井輝夫監督のもと、大奥シリーズをたくさん撮った。この石井の作品の大奥のえげつなさ、お仕置き、女同士が大奥で殺し合いしても、本当かどうか知らないが、罪にならず放置される、繰り返されるエロ場面に高校生の純真な心を奪われ、よく仲間とつるんで観に行った。紹介の作品は、そんな高校時代を思い起こさせる。

 この作品、江戸北町奉行同心笹岡伊織の17歳の娘瑞江が、大名砥部家奥御殿に行儀見習いに上がるところから始まる。幕府と同じように、各大名にも奥御殿という、大奥と同じ女性ばかりが勤める職場が存在していた。ここに入った女性は、大名の側室となって、大名家の後継者を作り、産み落とす、それが成功すると生涯を大名屋敷で暮らすことができる女性と、瑞江のように将来の結婚を意識して、行儀作法を習う目的で奥御殿に入る女性の2つのタイプがある。

 そして瑞江は、奥御殿に入った早々から、きつい仕来たりや、奥女性の虐めにあい、窮屈で屈辱的な日々が始まる。

 そんな中で、長局という所で、中老の女性玉木が死ぬ。そして今の藩主の元乳母で現在奥御殿で茶の湯を教えている五百崎の死に巻き込まれる。この2つの死、玉木は自殺として処理され、五百崎の死は元中老で現在気狂いの病を患っている「おゆらさま」が刺殺した事件として処理される。

 しかし瑞江は、この決着に不審を感じ、独自に推理をしようとする。

 一方瑞江の父で同心である笹岡伊織は、大川で発見された男女心中事件に立ち会う。しかし、その死に方からこれは心中ではないと判断し捜査を行う。

 この奥御殿の事件と、心中事件。心中事件の男が、人気歌舞伎役者で相手が砥部家下屋敷の奥勤めをしていた女とわかり、2つの事件が結び付き真相に向かう。

 登場人物の個性、江戸歌舞伎のしきたりがいつものように見事に活写され面白い物語になっている。

 松井さんの他の作品で知ったのだが、江戸時代の家は長男が引き継ぎ家を継承してゆくものだと思っていたが、町同心は異なり、幕府の人事によって決められたそうだ。

 この作品で、伊織の父が臨終にさいし、伊織に言う。
「伝えておきたいことがある」「我が家は、家にあらず、と心せよ」

我が家は家を持たない。だから業を懸命に磨き、働かねば、世の中を渡れない。働く者の心構えと厳しさを伝えている。現在にも通じる言葉だ。

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| 古本読書日記 | 06:14 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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松井今朝子  「非道、行ずべからず」(集英社文庫)

 タイトルの「非道、行ずべからず」は世阿弥が「風姿花伝」で、何かひとつの道を極めようと思うものは、断じて他の道に行こうとしてはならぬという意味で書かれている文からきている。

 物語は、文化6年元旦、江戸最大の劇場中村座が発生した大火により炎上。焼け跡から男の死体がでてくるところからはじまる。その遺体は劇場に出入りしている忠七という小間物屋だった。
 その後、桟敷番右兵次、楽屋頭取中村七郎兵衛が殺害される。

私の子どもの頃人気アニメで「巨人の星」が放映されていた。これが主人公星飛雄馬が一球投げるたびに、その投げる球の意味、どうしてその球を選んだのか、長々と説明、眼が光ったり、球がゆっくりうなり声を発し、えらく時間がかかった。それで30分の番組で、3球しか投げないこともしばしば。やたら進行の遅い作品だった。

 この作品も、3人が殺されるが、真相解明、犯人捜査が全く進まず、ため息ばかりがでるばかりだった。

 しかし、江戸狂言、歌舞伎に登場する役者だけでなく、金主、脚本家、木戸番、大道具方など、その役割とそれぞれの人物の個性が豊に描かれ描写は見事で、江戸演劇を理解するのに大いに役立った。

 それから作品はミステリーにも係わらず、捜査に携わる探偵役が北町奉行所同心の笹岡とその部下見習いの薗部となるところだが、彼らが脇役となり物語が停滞して進まないことにもいらいら感が募った。

 500ページを超える作品で、380ページを超えるところから、急に物語がミステリーの雰囲気に変わり、そこからようやく興奮の連続となった。

 特に、元旦に殺された小間物屋の忠七が、実はかって女形で有名な役者だったのだが、現在の立女形の大役者三代目荻野沢之氶との競争に敗れ、そのまま上方にゆき、行方不明になった袖崎林弥だったことが明かされ緊張感が高まった。

 これに還暦を過ぎた沢之氶が引退。2人の息子市之介、宇源次のどちらが引き継ぐのかが、林弥の殺害と絡む。そして、沢之氶の命を懸けた最後の舞台の演技のすさまじさには読んでいて驚愕し、眼を見張った。

 すさまじい作品だった。

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| 日記 | 06:22 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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知念実希人    「祈りのカルテ」(角川文庫)

 主人公の諏訪野良太は、医大を卒業し、初期臨床研修で様々な科を回っている。
救急、精神科、外科、皮膚科、小児科、循環器内科、を回る。それぞれの科で、トラブルが発生する。

 愛する男の暴力から逃れるために、大量の薬品を服毒して、定期的に救急搬送され入院する女性。
 医師が胃がんの内視鏡手術を提案するが、何としても開腹手術に切り替えてくれるよう80歳間近の老人。
 幸せな未来を手にいれるために、下腿に熱湯をかけ、火傷を創る女性。
 離婚した両親の父親に会いたくて、処方された薬を捨てていた少女。

こんなことをどうして行うのか、謎解きを見事に主人公の良太がする。少し、出来すぎのきらいはあるが、真相解明とそれへの対応が、良太のやさしさがいっぱいで読んでいて幸せな気持ちになってくる。

 医療ミステリーというのは、読者にはまったく未知の病気を登場させ、不思議な症状を描き、ミステリーを解決させる作品が多い。読んでいて、何となく読者は馬鹿にされているような気持ちになることがしばしば。

 しかし、この作品集は、あくまで読者にわかりやすく、しかも患者に寄り添う物語ばかりで感動をよびさます。

 作者で、同時に医者でもある知念の姿勢が発揮されている物語集だった。

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| 古本読書日記 | 06:04 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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藤原伊織    「ダナエ」(角川文庫)

 表題作品を含め3作品が収録されている。

地域でお祭りがあり、以前その役員をしていた時、市内のテキ屋の元締めの家に行き、屋台の店をだしてもらうお願いをした。

 その家が不思議な家だった。奥さんも、大将も和装。豪華な和室に案内される。床の間には長短の刀が飾られている。そして、天井近くの壁には、3つの写真が額に入れられ飾ってある。真ん中の写真は、全裸の女性の背中一面に緋牡丹の入れ墨が彫ってある。静謐な家だった。学生の頃見た博徒映画を思い出した。

 主人公の浩平は、CM制作会社の下っ端で働いている。20歳のアイドルの女の子に弁当を投げつけられたりしている悲惨な日々を送っている。

 姉の佐紀に呼び出され喫茶店で話をする。両親の関係が最悪になり、離婚が時間の問題になっているという。
 母親に恋人ができた。相手は元局アナの島崎。

実は、島崎は、妻の他に、母親だけでなく、もう一人の愛人篠田由梨恵がいた。由梨恵は元女優で、愛人になって女優をやめていた。

浩平は、ある夜中、この由梨恵の家がどんな家か調べにゆく。普通の日本家屋。豪華では無かった。そこで、男に声をかけられる。男は篠田俊宏といって、興行会社の営業部長。

篠田は家に寄っていったらと言う。家に入ると、静寂の中で、篠田の母親、元女優の篠田由梨恵がいる。そのたたずまいを見て、浩平はとても自分の母親は由梨恵にかなわないと思う。
往年の大女優原節子を彷彿とさせた。

 実は俊宏は、浩平、佐紀を追っかけていて、浩平一家の家庭について調べ上げていた。
何でそんなことをしたのか。

 俊宏は、親分の身代わりで明日、警察に出頭する。自分が身代わりになることで、丸く収まればそれでいいと思っている。その時、俊宏は執行猶予の身だった。今度身代わりになれば間違いなく実刑になって、6年はしゃばに出てこられない。

 その前に、家族ってどんなものか知りたかった。それで、浩平一家を追いかけていた。

私の頭に、的屋の対象の家と白黒映像が浮かび上がった。
 所収されている「まぼろしの虹」より。

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中山七里    「ラスプーチンの庭」(角川文庫)

 警視庁捜査一課犬養隼人シリーズ第6弾。

主人公の犬養刑事の娘紗耶香は、重い腎臓病を患い、帝都大学付属病院に入院している。同じ病院に、慢性糸球体腎炎という難治病で入院している庄野祐樹という少年がいて、祐樹が紗耶香に勉強を教えていて、2人は仲良しになった。

 この祐樹が突然退院し、一か月後亡くなる。不審死であったため、警察にて人体解剖がなされる。祐樹の死体には至る所に痣があった。

 同じ時に女性の自殺死体が発見され、やはり彼女の死体にも痣が多数みつかった。

 捜査をしてゆくと、祐樹も女性も現代医療では不治の病におかされていて、入院していた病院を退院し、織田豊水という男が主宰している「ナチュラリー」という民間療法の団体の治療を受けていたことがわかる。治療は無免許医師の織田が、根気棒という棒を体に強くあて、その棒により体の免疫力が高まり、難治病を克服するというカルト的インチキ療法だった。体の痣は、根気棒によって起きたものだった。

 これがインチキ療法だと、織田を検挙すべく犬養刑事は捜査をする。

しかし、ここで大きな出来事が起きる。
売れっ子アイドルと大物政治家が末期がんにかかり、病院で治療していたが、完治のめどがないため、織田の療法に頼ったところ、ガンが完治したと、記者会見で発表する。しかも、2人が大物だったため、「ナチュラリー」に入会したいという希望者が殺到し、捜査摘発が難しい状況になる。

 しかし、ここで「ナチュラリー」はとんでもない勇み足をする。祐樹の母親に手紙を送る。
「桜庭梨乃(アイドル)の記者会見を見ましたか?彼女は織田豊水の治療により子宮頸がんを克服しました。彼女にはこれからも光輝く未来が待っています。もう祐樹君には未来がないのに。
同じ治療を受けながら桜庭梨乃は奇跡の生還を果たし、庄野祐樹はみじめに死んでいった。この違いは何だと思いますか。
お金ですよ。」

 トップアイドルと大物政治家はとんでもないお金を「ナチュラリー」に支払う。
祐樹の両親も、自殺した女性の家も、500万円払ったが、それが限界だった。もちろん、それ以上払っても、死んでしまうことは間違いなかったのだが。

 このミステリー最後織田豊水が殺害される。そこを読むと、オウム真理教の麻原彰晃。まわりの意図を持った者たちが、麻原を教祖に仕立て上げたのではないかと思い、少しゾっとした。

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松井今朝子   「道絶えずば、また」(集英社文庫)

重層的複雑なミステリー作品である。

江戸中村座、立女形三代目荻野沢之氶が引退を決めて臨んだ最後の舞台で奈落の底に落ちて死ぬ。大道具方の甚兵衛が犯人として疑われたが、甚兵衛は扼殺される。

 実は沢之氶は、自分の後継者を、長男の市之介ではなく、次男の宇源次に決めていた。長男の市之介は沢之氶の血を引いているが、宇源次は養子で全く血は繋がっていない。

 それから、腕利きの大工2人が殺害される。この大工は法華経の信者で、上野の法華経の名刹神応寺の改築に、甚兵衛とともにあたっていた。

 時の将軍徳川家斉は、子供が多いことで有名な将軍。当時14番目の男の子をもうけ、女の子を含めると25人の子供がいた。

 この家斉には持病の頭痛があった。奥医師にも治すことはできず、先代の将軍の息子が毒殺され、その怨霊が家斉に移ったのだと言われていた。この祟りを恐れた上様や御台様のご代診ということで、大奥の女中たちが頻繁に社寺を訪れていた。その社寺こそ神応寺。改築は、大奥女中代診のためになされていた。

 この寺の僧正と大奥で家斉の子供を設けた側室とが肉体関係を持っていた。この寺では、夜な夜な賭博が開帳されているという噂もあった。甚兵衛と大工2人の殺人は、寺の改築に携わったからと思われた。

 市中の事件は奉行所が担当するが、寺については寺社奉行が担当、町奉行は手をだすことができない。この壁が捜査上に立ちはだかる。

 いくつもの事件、捜査の大きな壁を克服して、見事に作者松井さんは物語を作りあげている。

 江戸の社会は、長男が家を継ぐものと決まっているように思っていたのだが、それはあくまで武家社会であり、商人、役者の世界では長男に能力がなければ、商家が倒産したり、役者が没落する可能性がある。だから、武家のように単純に長男後継者というわけにはならない。逆に将軍を含め、武士は、愚か者でも長男であれば家を継げる。武家社会が消滅したことが納得できる。

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原田ひ香   「古本食堂」(ポプラ文庫)

 主人公の鷹島珊瑚、両親が亡くなり帯広でのんびり暮らしていたが、ある日、東京の神田で古書店「鷹島古書店」を営んでいた兄の滋郎が急逝。それで急遽神田にでて、店を引き継ぎ営むことになる。一方、東京には、珊瑚の親戚の大学院生で国文科の美希喜がすでに、この古書店に出入りをしていたことから、珊瑚を助けるためにアルバイトとして勤める。

 この本は、珊瑚と美希喜を中心に神田古書店に起こる出来事を物語にした連作短編集となっている。
 もちろん「鷹島古書店」は架空の店だが、その他、登場する食べ物屋は、今でもある店で、作品に上手く溶け込んで、読者を行ってみたいと思わせる描写になっている。

 この本の創作中にコロナが大流行したせいだろうが、物語に新しい「本病」が流行する場面がでてくる。本を開くと、そこから菌がぷわーっとでてきて感染をする。この本病は不治の病で、風邪のような症状。年寄りには生命の危機をもたらし、特効薬もワクチンも無い。

 そうなると、家にある本や本屋の本、図書館の本はすべて廃棄され、この世から本は無くなる。本は電子書籍だけになるが、これでは出版社も消えるし、作家は電子書籍では食っていけず、本の世界は消滅。文化の大変化が起こる。
 何とも恐ろしいことを原田さんは創造する。

数十年して、このウィルスを克服、消滅したとき、本文化は復活するだろうか。何となく心が寒くなる。

 それから、多くの人は知っていることだろうと思うが、面白いエピソードを書いておく。
ヴィクトル ユーゴーが「レ ミゼラブル」を出版。出版社に手紙を送る。その手紙にはたった一言「?」が書かれているだけ。これに対し出版社が返信する。そこには「!」と書かれているだけ。

 それをみて、ユーゴーがニヤっとほくそえむ。
「「?」はどうだ売れているかの意味。返信の「!」は「バカ売れ」の意味。

この作品、物語もしっかり仕上がっているが、古本に関する面白いエピソードも多く挿入され、それが読んでいて楽しい。

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| 古本読書日記 | 06:52 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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絲山秋子    「末裔」(河出文庫)

 主人公の富井は、定年を間近に控えた58歳で、東京の新宿区の区役所役員。この作品は2011年の作品ということは、富井は私と同じ1951年生まれ。

 富井は、3年目に妻を亡くし、息子は結婚して独立。娘も家を出ていった。母は認知症を患い、妻が亡くなる少し前に、施設に入所。ということで、富井は一軒家に一人ぐらし。
家と塀の間は、粗大ごみが捨ててあり、通り抜けができず、家の裏からは入ることが難しい。

 そんなある日、仕事を終えて、家に帰ると、入り口のドアのカギ穴が、無くなっていて、家にはいれなくなる。こんなことは、現実ありえないことで鍵屋に電話しても、「ばかにしているのか。」ととりあってくれない。

 そんな時、謎めいた自称占い師の梶木川乙治が登場して、彼の紹介でビジネスホテルに泊まる。彼が、「このままずっとホテルに留まると、よくないことが起きる。」と言われ、仕方なく、幼いころ遊びに行ったすでに亡くなり、空き家になっている鎌倉の叔父の家で過ごすことにする。

 その叔父の家で、幼いころの無邪気で楽しかったころの思い出にひたりながら過ごす。そして、更に、叔父や父親の時代のもうひと昔前はどうだったのか、富井は先祖が東京に出てくる前に暮らしていた佐久にまで足を延ばし、議論人だった、先祖を想像して過ごす。

 私の家の前に古いマンションがある。7割の住人はブラジル人だが、残りは一人暮らしの老人の男性が住んでいる。

 その一人と少し前、彼が行きつけのバーに連れていってくれた。中学をでて集団就職で山形から東京にでてきたが、仕事になじめず、そこを飛び出し、新幹線の建設の仕事をし、それから全国の飯場を転々、住んでいる町の水道工事屋に拾われ、10年前まで働いたとのこと。両親はすでに泣く、兄と妹とも音信不通。終日音楽を聴き、テレビを見て、夜はバーにでかける生活をしている。

 世の中の束縛やしがらみから解放され、けっこう自由に暮らしていて全く悲壮感がない。死ぬときは死ぬのだからと割り切っている。

 絲山さんのこの作品面白いのだが、オヤジに対する次のステレオ タイプ的思い込みが前提で書かれていて、私には鼻につく。

  「オヤジというのは気の利かないことこの上ない。よかれと思って余計なことを言い、余計なことをするのがオヤジの身上と言っていい。頑固で傍若無人で、怒りぽくって、脂ぎっていてニンニクやホルモンや酒やたばこが大好きなのに陰では加齢臭を死ぬほど気にしていて、ひがみっぽくて、卑屈で、威張っているくせに体力気力に自信が無くて、酒癖が悪くて酔っていなくてもしつこくて、だから皆に嫌われる。」

 ここまでしつこく言わなくても。この思いこみが物語の幅を狭くしている。
 孤老は見方によっては、そんなに悪くないように思えてしまう。

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| 古本読書日記 | 06:03 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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辻村深月    「琥珀の夏」(文春文庫)

 この前、韓国の野党党首が、福島原発の処理水を、汚染水と主張しているのに、日本の魚の刺身を美味しいと言って食している動画がネットであげられ拡散していた。

 主人公のノリコは小学4年生の夏休み、母親の勧めで、静岡の山の中にある「ミライの学校」にいやだったが、あこがれの同級生ユイちゃんも行くことを知り、1週間、行く。

 ユイちゃんを頼りにしていたのに、ユイちゃんは、別の人を見つけてその人と行動し、ノリコはひとりぼっちになり、弱っていると、ミカという子が近付いてきてくれて、彼女のおかげで独りぼっちを解消する。そこにはヒサノという子がいて、ノリコがみんなが憧れにしていたシゲルを好きであると思い込み、ノリコにいやがらせをする。

 それから40年後、今はもうない「ミライの学校」の敷地から子供の白骨死体が発見される。40年後のノリコは、ある弁護士事務所で弁護士をしていた。死体は小学4年から中学1年生と推測され、ノリコはあの夏に「ミライの学校」で合宿した子、もしかミカではないかと思ったが、実は死体はヒサノだった。

 そのノリコに、ヒサノの両親が、ヒサノを殺したのはミカではないかと言って、「ミライの学校」とミカに対して訴訟を起こしたいので、弁護士をしてほしいという依頼がある。

 「ミライの学校」の先生は全員品行方正、弁舌もさわやか、特に幼等部の水野校長は穏やかで、みんなから尊敬されていた。学校では、問答という授業が中心で「愛」とか「平等」とか「平和」などをテーマにして、先生の指導のもと生徒たちが討論、先生の思いにそって結論をだす授業がなされていた。

 ノリコは40年前の合宿に参加していた子を探し出して、真実を突き止めようとする。
その結果、ヒサノが本来入ってはいけない、先生たちのロッカーに忍び込んで、お金をひったくていたことを知る。それをミカにみつかる。ミカは怒る。しかしヒサノはこれを見ろというように、水野校長や他の先生のロッカーから見つけだした、エロビデオ、エロ雑誌を見せる。ミカは衝撃を受ける。尊敬、崇拝までしていた校長、先生の隠れた実態を知って。

 しかし、ヒサノのかっぱらいは許せないとして、ミカは処罰の部屋と言われる自習室にヒサノを閉じ込める。ヒサノは天窓から脱出しようとして、机と椅子をつみあげたが、その椅子から足をすべらせ、落っこち、その時頭を打って死んでしまったことをノリコは突き止める。それを隠すために、先生たちが敷地に埋めたのである。

 きれいごとを声高に唱える人や団体の指導者ほど、その裏側で腐敗、教義と正反対の行動をしていることをこの作品は教える。汚染魚と叫ぶ人が、おいしそうに魚を食べるように。

 辻村さんは、子供たちの行動、言動を丹念にリアルに描けることができる稀有な作家だ。しかし、「ミライの学校」はカルト教団なのだろうが、何が教義となっているか、作品では示されない。そこが、最後までモヤモヤして名作だろうけど、私には今ひとつ納得できない作品だった。

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| 古本読書日記 | 05:51 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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津村記久子   「サキの忘れ物」(新潮文庫)

 短編集。

本を読むきっかけになった本は何だったかと思う。

我が家は、父親と姉が読書好きだった。それで家にはあふれるほどたくさんの本があった。しかし頭のできがよくない私は本にはなじめなかった。中学生のとき、膨大な本を眺めていた時、本を読んでみようかという気がして、でも長編はいやだなと思い、できるだけ短い物語を読もうと思って本を探した。

 その時、川端康成の「掌の小説」をめくると、どの小説も数ページ。これはいいと思い読んでゆくと「有難う」という小説に出会った。この小説が強く印象に残った。そこから読書が始まった。

 主人公の千春はやるきが全くない高校生だった。美結という不良学生のリーダーに金魚のふんのようにいつも付き従っていた。そしていつも駅の近くにあるマックに連れていかれ、そこでのお金を全部払わされた。

 それがいやになり、執着心も無かったので、あっさり高校をやめる。そして、今は病院の中にある喫茶店でバイトをしている。両親は離婚直前で、仲が最悪で「あ、そう」と言うだけで、何の関心も千春によせず、高校中退を認めた。

 喫茶店に毎日やってくる女性の客がいた。彼女はいつも飲み物とともに長い時間本を読んでいた。

 ある日、女性は、読んでいた文庫本を席に忘れてしまう。「サキの短編集」だった。

千春は駅前にある書店にゆき、サキの本があるか尋ねる。店員がまさに女性客が読んでいた「サキの短編集」を持ってきた。
これこれと思って家に買って帰る。そして読みだす。だけどわからない言葉だらけ。スマホで検索しながら懸命に読む。社会主義、資本主義という言葉がでてくる。スマホで検索しても、そこに書いてある内容がわからない。

 ある日、熱があがって病院に診察に行く。待合室で待っていると、喫茶店にやってきていた女性客にであう。

 普段、人に声をかけることなど無かった千春が女性に向かって「あのサキの本全部読みました。」と声をかける。

 そして、喫茶店に封書が届けられる。そこには、本をとっておいてくれたお礼と作家名が並んで、本のタイトルが書かれていた。モーム、アガサ・クリスティ、織田作之助、アシモフ。

 そこに書かれていた本を千春は読む。全部読むのに一年かかった。

あの女性が駅前の書店にやってきて、この本ありますかと尋ねる。店員はお探しの本を即座に女性客にさしだす。
 そう、千春は喫茶店をやめて、本屋の店員になっていたのだ。

女性客が、人生が変わるきっかけ、新しい友達を作ってくれた。

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| 古本読書日記 | 06:37 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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