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2023年06月 | ARCHIVE-SELECT | 2023年08月

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伊吹有喜  「BAR 追分」(ポプラ文庫)

 「本が好き」の書評を読んでいたら、伊吹さんの作品があった。面白そうな作家なので少しまとめて読んでみることにした。

 新宿三丁目交差点近くに、かって新宿追分と呼ばれた街にある、飲みどころや食べ物屋が集まる「ねこみち横丁」の一番奥にある店、それが「BAR追分」。

 昼は若い女主人がやっている定食やコーヒーを提供する「バール 追分」夜は本格的カクテルやお酒を提供する「BAR 追分」。
 この店に集まる人々を中心に、人生の交差点のような場所で紡がれた連作短編集。すでに作品は好評を得て、シリーズ4冊が出版されている。

 有名なカクテルでオールド ファッションドというカクテルがある。
このオールド ファッションドという意味は?

  バーのカウンターの美女が答える。

  「古風、昔かたぎ、流行おくれっていう意味」

  作家や翻訳家というのは、すごい。場面によって、言葉を使い分けるのだ。流行おくれという和訳言葉は浮かばない。

 だれでも、知っていることだろうとは思うが、無料のことをロハという。これは漢字の只からきていることをこの作品で知った。70歳を超えて初めて知った。でも、少し恥ずかしい。

 言葉が豊穣な伊吹が、こんなことを描く。
「何かを得たら、何かを失う。しかしそこからまた新しい何かを得られるかもしれない。」
「何か」という言葉が躍る作品をしばしばみかける。こんな作品は、どうももやもや感が残る。

  「何か」を具体的に書いてほしいなっていう想いは、私の贅沢な要望か。

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| 古本読書日記 | 06:05 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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垣谷美雨    「竜巻ガール」(双葉文庫)

 社会で誰にでも起こりうるトラブルを描いて、少しミステリー調でドタバタぶりをコメディタッチで描く、今や女性ベストセラー作家の一翼を担う、垣谷美雨のデビューの作品集である。この作品集は小説推理新人賞を獲得している。

 驚くことに、この処女作は、垣谷46歳の時の作品。垣谷の経歴はよく知らないが、遅咲き作家で苦労しているのだと思った。

 この作品集で、おっこれはと思わせたのが、2作目の「渦潮ウーマン」。

主人公の由布子は、岡信ハウスというハウスメーカーに勤める女性。主に展示場での営業を担当している。由布子は、部長である菅原と2年前から不倫関係にあった。

 そしてある日2人は湯河原の老舗旅館に行く。2人で露天風呂を楽しむ。露天風呂は柵で囲まれ、その先に川が流れていた。
 菅原は柵を超えて、川で泳ごうとする。しかし川底が深く、流れも速く、菅原はおぼれ死ぬ。
 驚いた由布子は、不倫が露見したら大変なことになると隠れるようにして旅館を抜け出し自分のアパートへ帰る。

 ある休日、菅原がどんな所に住んでいるのか知りたくて、由布子は菅原宅に行く。
家の周りを探索していると、菅原の妻だった麻美と出くわす。美人で上品な妻だった。で、部屋にあがり、仏壇に線香をあげ、麻美と会話する。

 そして麻美が菅原と結婚したのは一年前だと教えられる。
これは、面白い設定だ。ということは、由布子が菅原と付き合いだしたときは、菅原は前妻をなくし、不倫ではなかったのだ。

 それなのに、どうして菅原は由布子と結婚しようとしなかったのか。これは由布子には大ショックだった。

 この設定は非凡でさすがと思ったが、その後衝撃が続くことがなく、中身が平凡になってしまった。少し残念な作品。

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| 古本読書日記 | 05:48 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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垣谷美雨   「夫のカノジョ」(双葉文庫)

 かなり前に大林監督の映画「転校生」をみた。映画は、男子高校生と女子高校生が衝突、その瞬間に、男子と女子が入れ替わるという作品だった。

 紹介している作品は、食品メーカーに勤める小松原麦太朗が部下の派遣社員の星見と浮気をしていると疑った妻の菱子が、 公園で、対決して大声で言い合っているとき、突然出現した老婆が肩からかけていた赤いショールを2人の前で振り回すと、菱子と星見が完全に入れ替わる。

 菱子は大学を卒業して、一般企業に就職して結婚。標準的な人生を歩んできている。
それに対し、星見は元ヤンキー。こんな星見が、姿は菱子で標準家庭のお母さんとして登場するのだから読者はワクワク。

星見の述懐。

「あたしが中三のときなんて・・・お母さんは男を作って家に帰ってこなくなった。テーブルの上に置かれた15万円で、半年暮らすのが、どんだけ苦しかったか・・・・。同級生の遼太が万引きしてきてくれるカップ麺と菓子パンで飢えをしのいだ。」

 息子の小学5年生の遼太が、夏休みの宿題で読書感想文を提出しなければならないが、休みの最終日になっても何の本も読んでいない。

 そこで姿はお母さん、しかし実際はヤンキー姉ちゃんの星見にどうしようと泣きつく。
聞くと去年の4年時、「坊ちゃん」を読んで感想文を書いたという。

 するとヤンキー姉ちゃんのお母さんが言う。
「何だ、それなら去年の感想文の一枚目を5年生にして、書けばいいじゃないか。そして、2枚目、3枚目は去年の感想文をつけて提出すりゃあいいじゃん。」

  いいなあ、星見ヤンキー母さん。思わず座布団10枚をあげたくなる。

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垣谷美雨    「禁煙小説」(双葉文庫)

 喫煙者ほど、鮮やかにマジョリティからマイノリティに追いやられた人たちはいない。

3-40年前までは、喫煙者は大手を振ってどんな場所でも闊歩していた。それが今や片隅に追いやられ、この小説のように、事務所から外の駐車場あたりにしめだされ、空き缶を灰皿代わりにして、寂しそうにタバコを吸っている状態。雨降りだと傘をさして、喫煙しているのは何ともわびしい。

 主人公の早和子は喫煙者が少なくなってくる中、自分も禁煙に20年間にわたりチャレンジしてきたが、悉く失敗。ついに有名な女医がやっている禁煙外来の門をたたく。

 科学や薬を使用して、禁煙を達成するのだと思って読むと、意志、根性、気力により禁煙を実現させようという処方。これ本当?びっくりした。

 台所の冷蔵庫の扉にマグネットでとめた張り紙をして、ことあるごとにその張り紙をみて喫煙を我慢し、喫煙を克服してゆくのだ。
 その張り紙に書かれていること。

「・タバコを吸うと癌になる
 ・苦しんで死にたいか。
 ・老後の楽しみは全部消える(一例として旅行)
 ・その一本を我慢しよう」

これが禁煙外来の処方?正直これで禁煙者になれるとは思わない。

早和子が、禁煙者になる目的として、冷蔵庫に貼った紙のほうがよっぽど効果がある。

「・自分に自信をつけるため
 ・寝たきり老人にならないため
 ・タバコ顔、タバコ声にならないため
 ・必死になって喫煙所を探さなくても済む、便利な生活を送るため」

この作品の作者垣谷さんは、正直喫煙者ではないように思えた。取材を軸に想像を駆使して書いたのでは?

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西條奈加   「善人長屋」(新潮文庫)

 テレビドラマにもなった「善人長屋」シリーズの第1作。昨日、このシリーズ2作目を読んだ。その作品も面白く読んだが、すっきりしない部分が残り、やっぱり素直に、1作目から読めば良かったと思った。

 善人長屋に住んでいるのは、表向きは真っ当な商売をしているが、全員が悪の裏稼業を持っている。その差配、リーダーが表向きは質屋だが、裏で盗品を集め売っている故買屋の儀右衛門。

 長屋の正式名は千七長屋なのだが善人長屋といわれているのには訳がある。
一般のトラブル、困ったことを聞き入れて、悪党どもが、そのトラブル、悩みを見事に解決してあげるからだ。悪党が正義な行為をせざるを得ないところが面白く痛快な作品になっている。

 長兵衛は10年前までスリを専業としていたが、今はスリから足を洗って、正業についている。その長兵衛の娘小夜は、とびっきりに可愛く、美女。それで、日本橋の乾物屋の大問屋玄海屋の若旦那に見初められ、婚約をする。

 ところが小夜は、愛し合っている仏壇職人がいて、まずいことにその職人の子供を身ごもっていた。仏壇職人は技能を習得するのに長い時間が必要で、結婚が簡単にできない。

 何とか、若旦那との結婚を穏便にやめさせねばならない。玄海屋は結婚をやいのやいのと毎日のようにせっついてくる。

 若旦那がいつも通る道沿いにある茶屋に、見目麗しい美女がいる。若旦那はこの美女に心を持っていかれる。しかし、なかなか美女とは会話ができない。

 ある日、善人長屋のスリが、若旦那の財布を掏る。それを、美女に手渡し、美女が拾得物として、若旦那に手渡す。ここで会話が始まる。美女に心を奪われた若旦那は完全に小夜を忘れる。

 ところが、この美女を狙っているヤクザの一派が同時にいた。
美女を狙っていたヤクザが美女がいた、善人長屋にやってくるが、いるはずの美女がいくら長屋を探し回ってもいない。今そこにいた人間が突然消えた。

 ここで驚く。長屋には美人局を裏商売にしている唐吉、文吉兄弟がいる。何とこの絶世美女は文吉が女装していた。
 もちろん、玄海屋は美女の裏にヤクザがいたことを知り、結婚は諦めた。

唐吉、文吉が美人局で荒稼ぎしていることは知っていたが、まさか文吉が女性にばけ、あまたの男たちをだましていたとは・・・・。実に面白く楽しい。

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西條奈加    「閻魔の世直し」(新潮文庫)

 善人長屋シリーズ第2作目。

  江戸深川の千七長屋、善人ばかりが住んでいるので、別名善人長屋と言われている。しかし実は、住んでいるのは、質屋を営み、長屋の差配をしながら、裏で盗品を買い取り、販売している、故買屋のリーダーの儀右衛門、善人か悪人を見分けることのできる、儀右衛門の娘のお縫。町の噂が入ってきやすい髪結い床を表看板にしている情報屋の半造、文書偽造が得意の浪人の梶新九朗。普段は季節物の振り売りだが実は美人局の唐吉、文吉の兄弟。騙りが得意な菊松、お竹夫婦。すべて、凄腕の悪党ばかり。こんな悪党長屋に、困っている人がいると手をさしのべずにはいられない本物の善人加助が引っ越してきて、加助が次々持ち込むトラブルを解決するために悪党住人が皮肉にも正義の活躍をする。

 こんな時、香具師を抑えていた大物親分が襲撃され3人の手下とともに惨殺される。それから大泥棒の月天の丁兵衛が配下といるとき襲われ10人が殺される。それにスリの元締めの石火の伝造が妾宅で襲われ、愛人と下男下女、護衛全員が殺される。

 善人長屋の悪党ども、自分たちもやられるのではないかと不安いっぱい、そんな時犯人の声明が読売(瓦版)に出る。
犯人は閻魔屋と名乗り声明は「江戸の悪党どもは、すべて閻魔組が始末する。首を洗って待っていろ。」

 悪がはびこっている江戸。一般庶民はこの閻魔組に拍手喝采をおくるが、この声明と殺しが胡散臭いと思った善人長屋の悪党どもは、閻魔組の正体を追う。

 この作品を読むと、善人長屋の悪党は現在の特殊詐欺グループに見えてくる。そして、閻魔組は殺し屋グループ。そしてこんな悪党を取り締まらなければいけない町方役人は、町民に圧力をかけ、賄賂を受け取り、まともな捜査はしない。そしてこの悪党どもがせしめたお金を幕府役人が収奪する。

 全く、世間にはろくでもないやつしか存在していないように見えてくる。そして、今現在の我々の社会も同じ構造ではないのかと想いうすら寒くなってくる。

 また、作品は上質なミステリーにもなっていて、最後閻魔組の正体は、驚く人間になっていて驚愕する。

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垣谷美雨   「うちの父が運転をやめません」(角川文庫)

 主人公は大手家電メーカーの研究室に勤める50代の猪狩雅史。妻歩美はデザイン会社で部長をしているキャリア ウーマン。

 テレビで高齢者の交通事故のニュースをみて、田舎で78歳で運転をしている父親のことが心配になり、久しぶりに歩美と息子の息吹を連れて里帰りをする。そこで父親に免許返納を説得するが、田舎は車なしの生活は不可能ということで父親は受け入れない。

 そこで、傷だらけの軽自動車をみて、両親とも少し認知気味もあることも知り、会社を退職し実家に帰ろうかと考える。

 2度目に実家に帰った時、実家で小学校の同級会を開催する。そこにやってきた千映里ちゃんが、移動販売車「ひまわり」号で仕事をしていることを知る。

 マンションのローンも早期退職金で殆ど返せるし、何よりも元気な千映里ちゃんに会って、自分も移動販売車商売をしてみようと決意する。移動販売、軽トラは買わねばならないが、他のお金は必要ない。

 これなら、何とか始められる。歩美は最初反対したが、最後は励ましてくれ、卒婚をたがいに納得して決める。

 垣谷さんは、田舎の実情をよく調べている。田舎は人間関係が濃く、つきあいも深く、知らない人はいないと言われるがそうでもないようだ。

 総じて田舎では、一戸、一戸の敷地が広く、空き家も多い。通りを歩いている人もなく、人の住んでいる一番近い家まで遠い。ということはどんどん交流がなくなり、つきあいも薄くなっている。

 移動販売車を初めて、雅志は知る。井戸端会議をするための井戸は今やなく、集まる公園もなく、病院の待合室が交流場というのもあり得ず、何と移動販売車が人たちの交流の場になっていることを。そこでいつも来ている人がいないと、心配になって家まで訪ねるようになる。

 年寄りはAMAZONのような通信販売もうまくできない。そこで、食材や家庭用品だけでなく、他の商品の御用聞きまでする。

 この雅志の移動販売車のテーマソングが秀逸。

「ヒマワリ、ヒマワリ、ヒマワリ号、私のお店がやってくる。バアバもジイジも母さん父さん、みんな笑顔でお買い物。子犬のラーラも、しっぽふり、猫のミーコがじっと見る。」

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西條奈加   「三途の川で落としもの」(幻冬舎文庫)

 主人公の叶人は小学6年生。叶人には親友の涼真がいる。叶人は3人の悪ガキに徹底して虐められている。その虐めに耐え切れなくなった叶人は策を弄して、虐め対象が親友涼真に向かうようにする。

 その悪ガキの虐めは、エスカレートして涼真だけでなく、涼真の妹にも向かい、その悲惨さに、叶人は耐えられなくなり、ある日、アーチ型の橋の欄干を歩いて渡るように強制されている涼真をみて、自分は欄干から落ちて死んでも仕方ない弱虫、裏切り者だと思い、涼真の代わりに欄干を渡り、欄干から足を踏み外し、川へ真っ逆さまに落ち、大けがをし、植物状態になり、病院のベッドで過ごす状態になる。

 叶人の魂が、覚醒すると、叶人は三途の川の岸にいた。そして、江戸時代や江戸から明治にかけ生きていた虎之助と十蔵と共に、三途の川を渡る舟の舟乗りになり、亡くなった人を黄泉の国にゆくため川渡しをする役目をすることになる。

 亡くなった人は、必ず、その人の過去の行状が書かれている地蔵玉を持ち、三途の川を渡河したところで待っている閻魔様に見せ、その地蔵玉の内容により、閻魔様が天国行きか地獄行きかを判断する。

 ところが、極まれに、三途の川を渡る途中で誤ってこの地獄玉を落としてしまう人がでる。
この場合は、叶人、虎之助、十蔵が地蔵玉を取戻しに現在の地上にやってくる。

 虎之助と十蔵は江戸時代の人。車や電車、携帯をみて理解不能に陥りてんやわんや。何しろ2回目の時は渋谷のスクランブル交差点に現れるのだから。物語は江戸時代と現代の想像できないほどのギャップの物語になるかと思っていたら違った。

 3人は、未だに虐めにあっている涼真、それもあの橋の欄干。でも、今度は逞しい江戸の武士が2人もいる。この武士により、虐め3人組は投げ飛ばされ、虐めは終了。叶人の魂は入院している叶人の体に戻り、叶人は今の世によみがえる。

 虐めは、黙って我慢しては敵の思うつぼ。虐められていることを知らしめ、虐めをしている者たちを、周りから抑え込むことが大切だという話になっていた。

 これは言うことはやさし、行うことは難しいなあと思ってしまう。

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西條奈加   「永田町小町バトル」(実業之日本社文庫)

 長崎県の離島の幼馴染同士で結婚した、主人公の芹沢小町。島での家族意識や因習についていけなくて、娘菓音をつれて東京にでて、キャバクラ嬢となる。菓音を育てる過程で社会のひずみを体験、それを変えようと何と国会議員となり、そのひずみの改革に挑戦する物語。 

 秘書の柴野原と小町のやりとりを読んでドキッとした。
「小町ちゃん、自由の反対語は何だかわかるかい?」
「えーと不自由じゃないの。」
「間違ってはいないけど、政治的には違うよ。答えは平等だ。」
「自由の反対が平等・・・。」

一瞬何を言ってるんだと思う。我々は学校で習う。自由、平等、博愛加えて人権尊重、民主主義と。自由と平等が矛盾しあう概念だとは。

 大型ショッピングセンターが進出する。そうなれば地元商店街は吹き飛ばされる。ショッピングセンター進出は自由だ。そこで、我々は考えねばならない。商店がそれでも生き残れるにはどうするか。すべてが満足することはできないかもしれないが、その方法を考え実行する。これが民主主義であり、何とか少しでも平等に近付けるようにする。

 日本社会制度は、祖父母、親子、子供、孫4世代が家族を構成し、一つの家で住むことが前提になっている。もちろん核家族化は進行しているが、その場合は親子が家族を構成する。

 しかし、現在は3組に1組近くが離婚する時代になっている。更に、結婚はしないけど子供は生みたいという人もいて、離婚とは別にシングルマザーが多くなっている。更に最近はLGBTの人々も登場してきている。

 平等ということは、マイナーかもしれないが、こんな人たちも、人並みの生活を送ることができるような社会を作り上げていく、これが平等社会の実現ということなのだ。

 難しい。日本の伝統である家族制度を破壊することになる。日本国が崩壊するという意見も最近はやかましい。
 価値観というのはどんどん変化し、そのスピードも増している。

この作品では、価値の変化が起きているとき、どんな対応が必要かを示唆している。

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西條奈加   「まるまるの毬」(講談社文庫)

 和菓子屋「南星屋」シリーズ第一弾。吉川英治新人文学賞を受賞している。

西條奈加さんは、ちょっと前まで読んできた東野圭吾に似ている。とにかく両作家ともその発想力の斬新さ、豊かさが秀でている。そして、その発想が、SFやファンタジー作品のように、現実から遊離するのではなく、見事に社会に溶け込ませ、違和感を感じさせないような物語に仕立てあげている。

 この「南星屋」シリーズ、2日前に第2作目の「亥子ころころ」から読んでいて、たくさん疑問がありその疑問の背景はどうなっていたのか強い関心を持って一作目を手にとった。

一番の不思議は、主人公「南星屋」の主人が、旗本岡本家500石の次男、岡本家は、徳川将軍の側用人もするほどの名門家。主人公治兵衛は岡本家の次男、岡本家の嫡子は長男が継ぐ。それでも、治兵衛は名門岡本家の息子、通常は、他の武家に養子にゆくのが常道、それがなぜ武士階級ではなく、民間の菓子屋になっているのか。

  それから、これは第1弾で描かれるが、17歳の孫娘のお君が、お菓子にまつわる出来事により、長崎平戸藩賄方河路金吾と恋仲になる。この河路の父親が倒れ、河路は平戸への帰国の大名行列に加わり、平戸に戻らねばならない。2人は結婚の約束をする。それにしても長崎平戸は遠い。お君が平戸について行けば、もはや南星屋には戻ることはできない。

 で第2弾では、元の通り南星屋は治兵衛、治兵衛の娘お永、そして孫娘のお君3人で切り盛りしている。ということはお君の結婚は破談となったのだ。どうしてだろうと思う。

 ここで、作者西條さんのとんでも発想力に基づいた物語が展開する。

 実は、治兵衛は、そのころの将軍だった徳川家斉の子供だった。家斉は女性となれば見境なく手をつける。治兵衛は家斉が将軍家の行儀見習いにあがっていた女性に手をだし、結果できた子供だったのだ。

 この出自が露見し、徳川幕府から圧力がかかり、お君の結婚を破談させるなど、いろんな騒動が起こる。ここが読みどころ。文章も練れていて、興奮が続く。

 それにしても、家斉は本当に女性狂い。なにしろ、治兵衛は長男、次男と数えて第21男だそうだ。ここは、西條さんのちょっとしたご愛敬。

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西條奈加   「無花果の実のなるころに」(創元推理文庫)

 主人公の滝本望、望なのだがみんなからはノゾミと言われている男子中学3年生。父親と母親は父親の北海道転勤で北海道に暮らしていて、履物屋を営んでいる、肝っ玉おばあちゃんと2人で神楽坂に住んでいる。

 仕事を引退する。すると趣味仲間が集まる。私の住居の数軒隣りにカラオケ喫茶がある。びっくりするのだが、毎日盛況。開店時間の午後1時の30分前には老人たちが列をなす。将棋や囲碁もあるが、意外と老後の趣味で多いのが麻雀。雀荘は老人需要で完全に息をふきかえした。

 特殊詐欺では、狙えそうな人、家族のリストがあり、それを詐欺グループが買い取り詐欺を行っていると聞くが、単なるリストだけでは詐欺は難しい。実際の家族個々人の状況、個々人の人間関係、趣味など詳細に知らないと、詐欺は簡単には働けない。

 この物語では、いつも麻雀を楽しんでいる老人たちをターゲットにする。彼らと同じ時間に詐欺グループも麻雀をして、老人たちの会話から、それぞれの生活、家族関係情報をとりいれ詐欺計画を練る。

 さらに、子供が家族を離れて長い間音信不通だと知ると、音信不通者を装って、ターゲットの家まで、息子と名乗って訪れ、親しく会話をする。

 ここまで綿密にやられると、なぜあんなわかりやすい電話にまんまとだまされるだろうと我々は思いがちなのだが、なるほど詐欺にひっかかってしまうことが理解できる。

 この作品を読むと、今や詐欺手口は手がこんでいて、巧妙になり、自分は大丈夫なんて思っていても、これ作品のようにやられたらあぶないとつい思ってしまった。

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西條奈加   「亥子ころころ」(講談社文庫) 

 菓子職人になりたくて武士の身分を捨てて、江戸麹町で小さな和菓子屋を営む治兵衛。その和菓子屋を出戻り娘お永と孫のお君が支える。

 治兵衛が上がり框に登ろうとして、足を踏み外し転倒。その時、手で体を支えたため、その手をひねり、右手が自由に使えなくなる。これでは和菓子はうまく作れない。そんな弱っていた時、雪平という職人が現れ、給金ははずめないが。職人として雇いいれる。

 この雪平、腕が立ち、生真面目な職人で、治兵衛の右腕となり、店をもりあげる。

聞くと、雪平には同じ菓子職人の弟分亥之吉がいて、武家旗本の日野家に菓子職人として勤めていた。日野家の当主は風流人で大きな茶会を頻繁に催していた。亥之吉はそのときに振る舞う和菓子を作っていた。

 ところが、ある日突然亥之吉が日野家から失踪、雪平は弟分の亥之吉を探して、全国を渡り歩き、江戸、治兵衛の店にたどり着いた。

 物語は、亥之吉がなぜ突然日野家を飛び出て失踪し、どこで何をしているのかを追及してゆくことと、お永は、左官職人の夫と離縁するが、そこに前夫と同じ年恰好の素敵な菓子職人の雪平が現れ、雪平に恋心を抱く。その行く末はどうなるかの2つの視点で描かれる。

 江戸情緒や人情を強調する物語が今は氾濫しているが、どの作品も凡庸だ。

お菓子屋「関の戸」が火事にみまわれる。火が急速に回る様子を西條さんが描く。
「ひと息に盛って、周り中を焦がすほどの火だ。消しようもわからず、加減も覚束ない。いきなり駿馬に乗せられて疾駆するようなもので、御しようがない。」

 この表現が非凡だ。これがあるから西條さんの作品に病みつきになる。そして、治兵衛、雪平、お永、お君、それから治兵衛の弟、お寺の和尚石朗、すべての登場人物が魅力的だ。

 作品では、地方修行で会得した和菓子を創る治兵衛の職人芸が詳細に描かれる。
本当に、西條さんは和菓子が好きな人だと思っていたら、西條さんは和菓子を初め、お菓子は全く好きでなく、カステラをごくまれに食すのがやっとらしい。
 正直これには驚いた。

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西條奈加   「はむ・はたる」(光文社時代小説文庫)

はむ・はたるはこの小説にも書かれているが、フランス語のファム・ファタールからきている。運命の女という意味で、更に男を破滅に導く女のことを言う。

 浮浪児で、掏りや窃盗で食いつないできた15人の孤児たちが、長谷部家に救われ、真っ当な商売にありつく。主人公は15人のリーダーをしている勝平。ここに2年ぶりに帰ってきた長谷部家次男の柾が加わる。

  柾の剣術師匠矢内重之進が、柾の目の前で師範代の相良隼人に殺される。重之進は織絵を妻にしていたが、重病を患い亡くなってしまう。その後妻に収まったのがお蘭。

お蘭がたぶらかしたのは、矢内重之進だけでなく、幾人もの門弟や親類縁者だけでなく、道場に出入りしていた商人、男たちを意のままに動かして、貯えや家財まで召し上げ、殺害者相良と逃亡。逃亡中も、代官、庄屋、大商人。お蘭の歩いた後には、お蘭が食い散らかした残骸が積み上げられた。

 重之進は、師匠の仇討のために江戸に帰ってきていた。

この作品で初めて知ったのだが、仇討が認められるためには、仇討願いを御上に願い出て、帳面につけてもらわねばならない。
 この条件は、原則的に身内が殺された場合でなければならない。身内も自分より目上の者に限る。親が子供の仇討、兄が弟の仇討は原則認められない。重之進の師範代に対する仇討は原則的には認められず、もし、仇討をすれば重之進は罰せられる。
 主人公の勝平はお蘭の居場所を知っていて、重之進をその家に連れてゆく。そこに仇討相手の相良がかえってくる。そしていよいよ対決が始まる。

相手の相良は師範代で、当然重之進より腕がたつ。だから、重之進は相良に切りつけられる寸前までゆく。しかし、直後相良は血しぶきをあげて、倒れる。お蘭が短刀で胸を刺していたのである。そして、お蘭は懸命に重之進に抱きつく。

 どうして、お蘭が重之進を救ったのか、それに主人公勝平のたどってきたそれまでの人生が強く胸を打つ。

 重之進、相良の対決とそれにからむお蘭の相良刺殺場面表現が秀逸。まさにフランス映画をみているようだった。

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東野圭吾   「クスノキの番人」(実業之日本社文庫)

 いよいよこの作品で、東野作品の旅は終了する。東野が今まで何冊の本を出版しているか知らないが、ブックオフで手にいれることができた83冊を完読した。

 この作品は、今年上半期最も売れた文庫本である。東野はとにかく出版すれば、必ずベストセラーになる。こんな作家は他に村上春樹、伊坂幸太郎だけ。しかしこの2人を圧倒的に凌駕する作品数を出版。創作意欲が東野は半端でなく、全販売本の数が一億冊を突破している。

 この作品で老人が語るクスノキについて。
「言葉の力には限界があります。心にある思いのすべてを言葉だけで伝えることは不可能です。だからクスノキに預かってもらうのです。具体的には、新月の夜、クスノキの中にはいって伝えたいことを念じます。そのことを私たちは預念と言います。預念をする人のことを預念者といいます。クスノキは預念者の思いのすべてを記憶します。そして満月が近づけば、それを発生します。クスノキに入れば、その念を受けとることができます。」

 不良だった主人公の玲斗、自分が全くあずかり知らない罪で逮捕されるが、弁護士がやってきて、ある条件を受け入れれば、釈放してあげると言われる。その条件を受け入れて玲斗は拘置所をでる。

 その条件が、大木クスノキを祀る社務所にいて、クスノキを管理して、祈るひとをクスノキに導くこと。

 このクスノキに祈る人たち。さらにクスノキの番人をすることを玲斗に依頼した、玲斗の前の番人だった千舟と玲斗との関わりが重なり合って物語が進む。

 どの物語も心にズシンと迫ってくるのだが、優実の父親預念者であり受念者の佐治寿明とその兄喜久夫および2人の母親の物語が良かった。

 兄喜久夫は幼少のころピアノの天才だった。それで音楽大学に進んだが、そこは喜久夫より優れた音楽人材ばかり。喜久夫はショックを受け、大学を退学。親父は喜久夫を勘当。
母親だけが、父親に内緒で喜久夫に会いにゆく。

 喜久夫は代々木公園に彫像のように全く動かず立っている。そこで母親が喜久夫の足元にある帽子にお金をいれる。すると彫像がゼンマイ仕掛けの人形のようになって、動きだす。時間がくると、また彫像に戻る。喜久夫は大道芸人になっていた。

 喜久夫は、アルコール中毒で肝臓を壊し、施設に入れられそこで死ぬ。その直後母親も認知症になり施設暮らしとなる。

 寿明は、クスノキに入り念を預け、そして喜久夫から念を受け取る。その念は喜久夫が母親に心を込めて作った曲。それを、母親の入居している施設でピアニスト岡崎が演奏する。

母親の強い愛情と、喜久夫の母親への熱い想いが迫ってくる。
 この場面は素晴らしく、強く印象に残る。

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東野圭吾   「殺人の門」(角川文庫)

不思議な友達同士というのがある。例えば、小学校でクラスの悪の仲間のトップで、いじめや万引きなどを指示し取り巻きにやらせる生徒と、それに対し虐められたり、窃盗、万引きをやらされたり、お金の貢を強要されたりした生徒が友達となることである。
しかし、こんな場合、虐げられた人は、いつか虐げた人に復讐しようと、虐げた人と交わり続ける。

この物語では、虐げられた人が主人公の田島和幸。虐げた人が倉持修。

和幸と倉持のいびつな関係は、賭け五目ならべから始まる。この遊びに連れていかれ、自信のあった和幸が対戦させられた相手に5連敗して、祖母の財布から盗んだお金を全部まきあげられる。

 それから和幸が夏のプールの監視人のアルバイトをしていた時、和幸が恋していた同学年の陽子を、倉持にとられ、しかも倉持は陽子を妊娠させていた。倉持を殺したい想いはここから始まった。

 和幸が働いていた工場をネズミ講の組織にはいっていたとの偽情報により解雇されたとき、このねずみ講に誘ったのが倉持。倉持によりまた和幸は人生を追い詰められる。

 次に倉持は和幸を東西商事という金の詐欺商法に誘い、ここで詐欺にあった人たちから殺されんばかりに追いかけまわされる。

 次がインチキ投資コンサルタント会社に倉持から誘われる。

それから、倉持の妻から紹介された美晴という女性と結婚するが、これがとんでもない浪費家。和幸のカードを限度いっぱい使うし、それができなくなると、悪徳金融業者から金を借り、買い物三昧、高級店での食事をする。

 それで、和幸は、悪の根源である倉持を殺そうと、刃物などの武器を持って倉持の前に現れるのだが、どうしても殺害の実行に逡巡してしまう。

 倉持、困窮している、和幸に数百万円のお金をお詫びとして差し出す。

和幸に刑事が言う。
「和幸さん、動機さえあれば殺人が起きるというわけではないんですよ。それに加えて何らかの引き金が必要なんですよ。それがない限り、殺人者となる門をくぐることはできないというわけです。」

 美晴を紹介した倉持の妻から和幸は言われる。倉持は自分の一番の友達は和幸だと言ってたよと。

 和幸もそうかもしれないと思う。
殺したいほど好きなやつ。いるんだこんな奴が。

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東野圭吾   「悪意」(講談社ノベルズ)  

 最近は、本格推理小説が復活全盛期。本格推理小説では、トリックの醍醐味が作品の評価を決める。

 しかし、事件というのは、必ず背景に事件を引き起こす動機があり、優れた推理小説はトリックと動機、どちらも納得感があることが肝要で、ミステリーはどちらかに偏ってはいけない。動機を深く描く推理小説をホワイダニット小説といい、この作品はホワイダニットを見事に極めたミステリーになっている。

 この作品の主人公野々口は中学校教師をやめ、小説家になることを志す。

ある日、小学校時代から親友だったベストセラー作家日高邦彦の家を訪問する。
日高は、野々口に作品を自分に見せてくれ、それで良い作品だったら自分が出版社に紹介して本にするようお願いするからと言う。

 それで自分の作品を渡すと、そのうちにそれが日高作品となって出版される。

怒った野々口に日高は、今手元に持っている作品を返してくれと要求する。しかし日高は日高の作品として本にすれば必ずベストセラーになる。そこで得た印税の4分の1を、野々口にあげる。野々口が独自で本を出版しても、とても日高の印税の4分の1を手に入れることはできないと言い作品の返却を拒否する。

 ここで、日高が小中学校時代野々口をいじめていたらしいことや、野々口が隠れて日高の妻と不倫しているらしいことが描かれる。
 それで、怒り心頭した野々口は夜日高の家と日高の部屋に忍び込み、日高を文鎮で殴り、ロープで扼殺する。

 野々口は逮捕されるし、動機も明白であったので、これで小説は終了かと思ったがまだ本の半分少ししか至ってないし、ここから何が書かれるのと思って読み進むととんでもない、東野しか書けない作品になっていた。

 野々口は、この時、重篤ガンを患っていた。

加賀刑事が、小中学校の野々口の同級生の聞き取りをすると、日高が野々口をいじめていたことはなく、日高はいじめにあっていた野々口を助け、かばっていたとの証言を得る。

 実は、野々口は、日高の出版した作品をすべてノートに書き写していた。そして、日高殺害で逮捕されたとき、このノートを警察に提出して、日高の作品はすべて私の作品を盗作して作った作品。これに怒って、日高を殺したと語った。

 このことは、テレビを初め、マスコミの恰好の話題となり、日高の作家生命は終了し、日高の評判は地に堕ちた。

 野々口は重いガンにかかっていて余命はわずか。自分が殺人犯で逮捕されても思い残すことは無い。それより、自分より能力のない売れっ子作家を殺害、自分の世間の評価が高めるために犯罪を起こす。

 これは東野しか書けない。ホワイダニット小説の大傑作である。

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東野圭吾   「希望の糸」(講談社文庫)

東野令和に入って最初の作品。令和になって、東野文学の到達点はここかと思わせる重厚な作品になっている。
人間の行うことに絶対はありえない。ありえないと思っていたことが起こる。そのことによって、関わってくる人たちの人生は大きく変わる。

この作品は3つの別々の物語により創られている。

一つめは、喫茶店店主の花塚弥生がケーキナイフで刺され殺害されるが、弥生は優しく人柄も丸く、とても殺害されるような女性ではなかった。

二つめ、汐見夫婦は、妻の新潟の実家に2人の幼い子供だけで、旅行をさせる。その時中越地震が発生し、2人の幼子は震災の犠牲となり亡くなる。

 大ショックを受けた汐見夫婦は、離婚も考えたが、まだ頑張れば子供はできると思い、子供を頑張って作る。その時生まれた娘が萌奈。しかし母親は萌奈が中学生になる前に白血病で他界する。

 そして父親の汐見と萌奈の関係は最悪の状態で、食事も一緒にとることは無い。

三つめは名刑事加賀恭一郎と常連のコンビ、いとこ同士でもある松宮刑事の家族の物語。実は松宮は母親から、夫とは離婚して、その後夫がどうなったか知らないと説明を受けてきたが、ところが父親が金沢にいて、重いガンにかかり、死目前の状況であることが知らされる。

 三つ目と、一つ、二つ目は関係ないが、一つ目、二つ目はあり得ないことが起きたため、悲劇が起きた物語。

 実は、喫茶店の店主と汐見夫妻は、同じ医院で高齢にため不妊治療を受け、体外受精で子供を授かる。この時、医院で、誤って、店主の受精卵を汐見の妻の体内に挿入。もう一つの受精卵は状態がよくなく、母親の胎内では育たないとして、破棄する。つまり、汐見夫妻の子供萌奈は、喫茶店の店主の子供ということになる。

 このことが、店主殺害を引き起こすなどとんでもない事態をあれこれ発生させる。
そして、松宮の父子物語も加えて、家族とは何かを深く考えさせる物語になっている。

 家族とは何かということを書かせたら第一人者の作家は宮本輝。宮本作品を彷彿とさせ、しかも宮本作品を凌駕している。見事な作品である。

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日本推理作家協会 「スペシャル・ブレンド・ミステリー謎001」(講談社文庫)

 東野圭吾が選んだ短編ミステリーを収録。どれも素晴らしい作品揃いなのだが、やはり私の大好きな作家小杉健司が書いた「手話法廷」がよかった。東野が小杉作品を選んだことがうれしい。

 主人公の高島初男は生まれつき耳が聞こえない、言葉が喋れない、完全聾啞者。二年前まで勤めていた会社が倒産。次の職場を探していた時、湯川とであい彼の紹介で山手工業に就職。湯川は当時労働組合委員長をしていて、職場でも高島が困らないよう、協力、支援していた。

 ところが、ある日、大型クレーンで金属部品を運んでいるとき、部品が崩れ、クレーンから金属部品が崩れおちる。そこにいた高島が危ないと思った湯川は高島を突き飛ばし、高島を救ったが、湯川は金属部品の下敷きになり下半身つぶれ車椅子生活になる。

 会社は、高島が聾唖者で無ければ、この事故は起きなかったとして、高島に解雇をせまる。高島は懸命に抵抗するが、湯川なき労働組合も会社側につき、四面楚歌状態に陥って、会社を退職する。

 これを不当解雇として高島は水木弁護士とともに裁判に訴える。しかし、高島は聾唖者。通訳者の選任が難しい。労働現場のことを高島が手話で表現しても、通話者が内容がわからないことが多い。そこで、半身不随になった湯川の妻に通訳を委託する。

 裁判での、高島の発言が考えさせる。
「あなたは、会社をやめるように言われたとき、どう思ったのですか?」
「なぜ、やめなければいけないのかさっぱりわかりませんでした。」
「総務部長は何と答えましたか?」
「耳が聞こえないと危険だからと言いました。」
「私は2年近く働いてきたが、安全管理をきちんと守り、事故は起こしませんでした。事故は聾唖だから起きるのではなくて、誰にも起こることです。危険は耳が聞こえても聞こえなくても同じです。」

 私たちは、無意識的に障碍者を差別、区別をしている。この作品を読むと、障碍者がどういう場面でも、障壁なく、社会に参画できるような社会にせねばならないと思う。

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東野圭吾   「白銀ジャック」(実業之日本社文庫)

 会社に入ってから15年間ほど、テニスとスキーをやらない人間は人間として認められない雰囲気があった。

 スキーシーズンになると、毎週末金曜日の夜、車を連ねてスキー場に向かい日曜日までスキーを楽しみ、また夜中車で帰り、そのまま会社の仕事をするなんてことがなされた。時々、スキーのために貸し切りバスが何台も夜会社の駐車場に並ぶこともあった。

 その後テニス、スキーがゴルフに変わり、熱狂的なスキーブームも下火になり、経営に苦しむスキー場がたくさんでた。今はどうなのだろうか、スノボーが人気になりスキー場は元気を取り戻したのだろうか。

 この作品の舞台、新月高原スキー場に爆弾を仕掛けた。3000万円を用意しなければ、スキー場を爆破するという脅迫状が届く。

 新月高原スキー場では、昨年北月エリアで衝突事故が起き、家族できていたスキー客の母親が亡くなるという大きな事故を起こしていた。そこで、今年は北月エリアは閉鎖していた。

 物語は、脅迫が3回続き、その都度犯人の要求通りお金を払い爆破を避けてきたが、その犯人をめぐり、索道技術管理者チームの活躍を描く。

 御多分に漏れず、新月高原スキー場は、スキー客が減り、経営は困難を極めていた。そこで、社長はスキー場の売却を目論む。

 売り先は決まったのだが、売り先はスキー場の新月エリアは購入するが、採算見通しがたたない北月エリアの購入はできないと売り先は拒否。

 スキー場は、林野庁の規制で、契約を破棄して、土地所有者に返還する際には、植林をして原状復帰せねばならないという条件が入っている。植林をして原状復帰するには、膨大な費用がかかる。

 それで、計画されたのが、山頂近くに爆弾をしかけ、雪崩を引き起こすこと。自然災害ということなら原状復帰費用は不要になる。とんでもない計画。

 これからスキー場雪崩が発生した場合、この物語を思いだしそう。いかにもありそうな話だ。

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東野圭吾   「しのぶセンセにサヨナラ」(講談社文庫)

 短編集。
東野が造った人物の中で、私が最も大好きな女性、しのぶ先生とちょっぴり悪ガキ田中鉄平と原田郁夫がおりなす、関西ミステリ編。

 しのぶ先生について東野が書く。
「大阪の下町で育ったせいで言葉は汚く、身のふるまいは万事がさつで繊細のかけらもない。おまけに口も早いが手もはやい。」

 会社に入って、最初の赴任地が私は大阪だった。勤務場所は難波大国町。これぞ大阪という所だった。
 なくしものをして、引き出しを懸命に探してしたとき、事務をしている女性社員から声をかけられる。「なにしてけつかんねん。」何それ?とびっくりした。

 この作品集。そこだけとりだしたら、どうってことないかもしれないが、その表現、場面が見事に作品の中に溶け込んでいて、新入社員の大阪勤務をなつかしく思いだしてしまう。

 「こないだ、田舎からきた友達と喫茶店にはいってん。それで、レスカを注文したん。」
 「何レスカって?」
 「レモンスカッシュのことやないけ。大阪ではなんでも縮めて言うんや。」
 「そうか。お姉ちゃん、僕にはクソ頂戴。」
 「クソ?」
 「クリームソーダやんけ。」
そしたらウェイトレスはカレーライスを持ってきた。

しのぶ先生が急性虫垂炎で入院する。お婆さんと相部屋。

 しのぶ先生がお婆さんに聞く。
「おばあちゃんはなんで入院してるの。」
「カルピスや」
「カルピス?」
「たいじょうカルピスや。」
看護士がやってきて「帯状ヘルペスですよ。」

いいなあ。場面が目に浮かんでくる。大好きなしのぶ先生シリーズこの作品が最後、たった2作で終了だそうだ。悲しくなってしまうよ。

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東野圭吾  「危険なビーナス」(講談社文庫)

 昨日紹介した「片想い」はLGBTを扱った作品だったが、この作品では殆ど発症例のない「サヴァン症候群」をテーマにしている。

 主人公は獣医をしている手島伯朗。彼の父一清は売れない画家だったが、脳腫瘍を発症。その時から作風が全く変わり、抽象画を描くようになる。

 母親禎子はその後、大富豪矢神康治を紹介され、再婚する。
しかし、禎子も、小野という町の祖母の実家の湯舟で溺れて死んでしまう。

しかも、康治もしばらくして腎臓がんを発症。死期が近い状態で彼が経営する矢神総合病院に入院する。
 実は、脳腫瘍で倒れた、伯朗の父一清は、全く意識が無く絶望な状態で矢神総合病院に担ぎ込まれたが、矢神の治療により、意識は回復、体の状態も良くなり、退院。そこから抽象画を描くようになる。

 矢神康治は、「サヴァン症候群」の研究治療を行っていて、一清に彼の開発中の治療を施し、一時的に脳の働きを回復させていた。

 「サヴァン症候群」は統合失調や重い精神障害を発症するが、同時に知識分野や芸術分野で天才的才能を発揮する。

 物語は、一清の幻の抽象画の行方と、矢神康治の研究治療実験の中味を捜査し、
更に、康治の遺産相続、禎子の死の真相を、主人公の伯朗と伯朗の弟明人、自称明人の妻の楓が追及してゆく。

 そして、加えて、主人公康治と楓の恋の行方も、ミステリーに色を添えている。

しかし、やはり「サヴァン症候群」の具体的症状と人間や動物への実験研究の実態が興味を引いた。タイトルからの想像より、中身の濃い作品だった。

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東野圭吾   「片想い」(文春文庫)

 主人公の西脇哲郎は毎年開かれる大学アメフト部の同窓会に参加した帰り、アメフト時代女子マネージャーだった日浦美月に出くわす。同窓会にも出席しないし、おかしな服装をしていたため、事情を聞こうと自宅に連れて帰る。
 哲郎の妻は、もう一人の女性マネージャーだった理沙子。


そこで美月はとんでもないことを告白する。実は自分は男。それに一人 人を殺していると。
哲郎夫妻は、美月を自宅に匿うことにする。

 作品のタイトル「片思い」の由来。実は大学時代美月は哲郎の妻理沙子に恋していた。しかも二人はキスまで体験している。しかし、美月の思いは永延に理沙子に届くことはないことからきている。

 この物語は、作品が発表された2001年には、殆ど話題になっていなかったLGBT問題を主題にした作品になっている。

 先ごろ、国会でLGBT理解増進法が可決された。しかしLGBT法案には反対も多く、特にその運用として、女性自認で物理的特徴の男性が、女性トイレや公衆浴場の女湯に入ってきたらどうなるのかが、疑問不安として問題視されている。
LGBT問題は、このため、女性自認の男の人の問題が取りざたされているが、この作品は物理的には女性の人が、男性自認をしている場合を取り扱っている。

 今まであまりLGBT問題については、関心が無かったが、この作品を読むと、LGBTは大変深く重たい問題であることがわかる。
 男性、女性の物理的区別は染色体で理論上区別される。XX染色体の場合女性、XY染色体の場合男性となる。しかし、子供が育つ過程で脳に女性行為や男性行為を注入され続けられると、染色体の区別に関係なく、女性、男性の特質が埋め込まれてしまう。

 美月が言っている。
「小便でトイレに入る。シャシャと入って、シャシャっと済ませたいのに、おちんちんが無いから、わざわざ大便用のトイレにはいらなければいけない。本当に面倒」

 美月がバーテンダーをしていたバー「猫の目」の店主相川が男、女について言う。
「ふつうの一枚の紙ならば、裏はどこまでいっても裏だし、表は永久に表です。両者が出会うことはない。でもメビウスの帯ならば、表だと思って進んでいったら、いつの間にか裏に回っているということになる。つまり両者は繋がっているんです。この世のすべての人は、このメビウスの帯の上にいる。完全な男はいないし、完全な女もいない。ある部分は男性的だけど、別の部分は女性的というのが、ふつうの人間なんです。あなたの中にだって、女性的な部分がいくつもあるはずです。トランスジェンダー、トランスセクシャルといっても、いろいろいます。美月さんにしても、肉体は女で心は男などという単純な言い方はできないはずです」

 男性、女性は身体的特徴では区別してはならない。人間は男性でもあり女性でもある。

 LGBT法では、小学生のうちからLGBTについての理解を教えるようにとの指針が示されているが、何も小学生にそんなことを教える必要はないのではと非難の声が結構ある。

 しかし、小学生であっても、性自認と身体的特徴が合致しないために、差別されたり、いじめられたりするケースが多くある。この作品を読むと、LGBTについて小学校から教える必要があるように思えてくる。

 それでも、LGBT差別を現実社会からなくすというのは具体的にはどんなことなのか、描くのははなはだ難しい。

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東野圭吾   「夢はトリノをかけめぐる」(光文社文庫)

 2006年2月10日よりイタリア トリノで開催された冬季オリンピック観戦記。
小説以外の作品は苦手という東野の珍しい作品。光文社記者が同行している。

 苦手というのがわかる。観戦記は、もちろん東野が書いているのだが、作品には架空の猫夢吉が登場して、観戦記は夢吉が書いた体となっている。

 トリノでは色んな競技を観戦しているが、冬季スポーツに馴染みがない読者を気にして、カーリング、バイアスロン、スキージャンプなどについて、当時の日本における、競技事情やルールについての解説から始まっている。

 バイアスロンという競技は、日本で行える場所は札幌の陸上自衛隊基地だけで、選手も全部で13人のみ。この中から日本代表が選ばれオリンピックに参加する。

 東野が観戦したトリノオリンピックは、最近のオリンピックでは、最も日本選手の戦績が振るわない大会だった。それで、どうにも盛り上がらない。オリンピック賛歌ではなく理屈屋東野のシニカルさが目立つ。それもそのはず、他の冬季オリンピックでは獲得メダル数は少なくても、5個程度、多ければ10個以上のメダルを獲得しているがトリノオリンピックの日本獲得メダル数は一個のみ。それは、イナバウワーで有名になったフィギュア スケートの荒川静香の金メダル。

 しかも、東野はフィギア予選は観戦しているが、金メダルを決めた決勝は観戦しておらず、テレビ ニュースで知る始末。これでは盛り上がらない。

 それに、トリノオリンピックとは銘打っているが、競技場はトリノからとんでもなく遠い。200KMも離れた別の町や村。

 当初は競技会場にバスで向かう。これが大変。途中でよく止まる。乗客がトイレに行く。しかし、このトイレが水洗でなく、糞や小便がそのまま残されていて、とても使えない。

 それでイタリア人は、小便は道路わきで、大便はお尻をさらけ出して、雪の中や、草原でする。

 東野は二度と冬季オリンピックには行かないと書いている。全くテンションの上がらない観戦記だった。

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東野圭吾   「沈黙のパレード」(文春文庫)

 人気物理学教授ガリレオ シリーズ9作目。
500ページにもならんとする大長編。
 ガリレオシリーズは名作揃いなのだが、この作品は疑問が多く、読んでいてのりきれなかった。

 腑に落ちない点。

23年前、小学6年生の本橋優奈ちゃんが山中で遺体となって発見される。捜査の過程で、容疑者として蓮沼という男が浮かび上がる。警察は蓮沼のアパートの部屋の冷蔵庫から優奈ちゃんのDNAをみつけ、蓮沼を優奈ちゃん殺害で逮捕する。

 この作品で知ったのだが、日本の裁判では、何よりも警察の取調調書が証拠として優先されるようだ。調書は容疑者が、調書の通りと同意サインされたものでなければ、証拠書類として認められないそうだ。

 だから何よりも、重要な証拠書類は、容疑者のサインつき自白調書。これが無罪、有罪を決する証拠書類となる。

 この物語では、容疑者となった蓮沼は徹底的に警察、検察取り調べから裁判まで黙秘を貫く。肝心な自白調書に蓮沼はサインを拒否したため、蓮沼は無罪釈放となる。

 物語を読んでいて、決定的証拠があるのに、容疑者が、沈黙をすれば、無罪になってしまうのかが疑問となった。

 それから不必要と思ったのがが、湯川の推理間違い。
この作品も、密室殺人が行われる。

 以前ある作品でトリックとして、排気口からバキュームで部屋の空気を吸い取り、真空にして殺害するというトリックがあった。
 この作品でも、部屋の空気をなくすトリックが登場する。密室にいた蓮沼殺人トリックだ。

湯川が提示したトリックは、蓮沼を睡眠薬で眠らせ、就寝中に隙間からヘリウムガスを注入する。ヘリウムガスは空気より大幅に軽量のため、注入すると部屋の空気を圧縮し、部屋の上部から、下部にむかって溜まる。苦しくなった部屋で就寝中の蓮沼が、苦しくなり上半身を起こすとそこにはヘリウムしかなく、即死してしまう。

 面白いトリック。さすが名探偵の湯川と感心して読んでいくと、部屋をヘリウムで満タンにするためには、膨大な量のヘリウムが必要となり、ヘリウムでの殺害は困難と物語では描かれる。このヘリウムトリックの説明に数十ページが費やされる。不可能ならば、こんなトリック説明不必要だと思う。なんでこんなに不可能トリックを東野が長々と描いたのか理解できない。

 結局部屋の隙間から投入するのは、液体窒素。液体窒素は冷凍食品保存加工で使う薬品。
沸点がマイナス196度と異常に低い。そして少しの量で大量の窒素の気体が発生する。このため、時々液体窒素漏れで、呼吸困難事故がおき、死人が発生する。

 それであるなら、最初から液体窒素トリックを使えばいい。ヘリウムガス トリックはいらない。

 間延びした物語になってしまっている。これでも、東野ファンは素晴らしい作品と賞賛するのだろうか。

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東野圭吾   「十字屋敷のピエロ」(講談社文庫)

 十字屋敷に住む、竹宮産業の女社長頼子が、ベランダから飛び降り自殺をする。その一部始終を、自殺直前に購入したピエロの人形が見ていた。

 頼子の49日の法要に、主人公で頼子の妹の娘、水穂他竹宮産業一族が十字屋敷に集っていた。

 その時、悟浄という人形師が屋敷にやってきた。実は、十字屋敷にあるピエロの人形は、悟浄の父親が作ったもので、このピエロ人形がある家では、不幸が起こるから、悟浄が引き取りたいという。
 しかし、その時、頼子の後の社長、宗彦が不在のため、渡すことはできないと、引き渡しを拒否する。

 そしてその夜、オーディオルームで社長の宗彦が殺害され、さらに秘書の三田村理恵子もナイフで胸を刺され殺された。
 更に、この十字屋敷に下宿をしていて、主人公の水穂とともに、犯人捜査をしていた青江も殺害される。

 このミステリーは変わっている。
殺人事件が、起こるたびに、それを必ず目撃している、不幸を呼ぶピエロの人形の視点の殺人描写が差しはさまれている。

 そして、その後に刑事他法要参加者の視点で捜査過程が描かれる。人間は思い込みや、勘違い、不明な部分にたいする間違った推理をする。しかし人形は、感情や思い込み勘違いはなく、あくまで見たそのままを客観的に描写する。

 この登場人物の捜査と人形視点の対比が、面白い。

人形は客観的描写はするが、人間は犯人の動機を推理する。人形には、動機の推理はできない。

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東野圭吾   「素敵な日本人」(光文社文庫)

 短編ミステリー集。

  最近は晩婚化ではなく、結婚に価値を感じない人たちが増え、恋人はいるが結婚しない非婚化が普通の現象になってきている。しかし、結婚はしないけど、子供を育ててみたいという人が一方で存在する。

 エリーはアキラというスマートでかっこいい恋人がいる。それに満足しているが、子供を育ててみたいという欲求が強い。アキラは仕事が忙しく、あまり協力はできないが、それでも構わないということで、エリーは赤ちゃんをレンタルしているお店にきている。

 そこで、エリーが選んだ赤ちゃんが、ヒューマノイド・ベビー700-1F。通称赤ちゃんロボット。

 体重は8500グラム。生後10か月、エリーの遺伝子情報から割り出した数字だそうだ。
可愛い。家に連れて帰って、名前をアキラとともにつける。
 女の子だから名前はパール。白い美しい真珠のような肌をしているからだ。

 パールを赤ちゃんベッドで寝かせていると、プーンと臭い匂いがする。何とロボットのくせにウンチをする。おしめをとりかえてやる。そしてしばらくするとまたプーン。まったくまたウンチだ。

 午前2時には、決まって夜泣きするし、家事をしていても、すぐ泣きわめいてエリーをよびつける。

 ある日、40度以上の高熱を発する。驚いて店に連絡すると、すぐ連れてくるようにと言われる。すると店の中にクリニックセンターという部屋がある。そこに入ると、待合室があり30分待つと診察室に呼ばれる。

 お医者さんに、「発熱で脱水症状をおこしただけ。心配しなくていいです。治療用のドリンクをだしておきましょう。」
 よくできた赤ちゃんロボット。

 毎日パールに振り回されて大変な日が過ぎてゆく。でも、それが楽しく、充実した日に思える。
 やがて赤ちゃんレンタル期限がきて店に返す日がくる。

 エリーは若いうちに卵子を凍結保存をしている。精子さえみつかればいつでも体外受精で子供がつくれるようになっている。
 そんなエリーは、今年齢は60歳。まだ人生半分だ。と思っている。
こんな時代がそこまできている。

 収録されている「レンタル ベイビー」より。

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東野圭吾    「虚ろな十字架」(光文社文庫)

 中原道正、小夜子夫妻の愛娘、愛美が家で一人でいたところ、殺害される。蛭川という男が警察に自首してきて逮捕される。蛭川は以前にも殺害事件を起こしていて、その後仮釈放され、出所直後の殺害だった。道正と小夜子は、仮釈放中での愛娘の殺害、だから自首したとはいえ死刑を強く望む。仮釈放とは、犯人の更生が確実に行われたと判断したうえで実施されたにもかかわらず、出所後殺人再犯とはどういうことなのか強い疑問を持つ。

しかし、裁判では死刑判決にはならない。その虚しさを感じ、2人は離婚する。
 その後道正はペットの葬儀場に仕事をみつけ、小夜子はノンフィクション記者として歩む。

 東野は前半、死刑制度、犯罪人の更生について、多くのページを割いて、何人もの登場人物に語らす。それで、死刑についての物語と思ったが、そのことは底流にあるのだが、後半はがらりと内容が変わり、緊迫感もましてくる。

 後半、仁科文也、花恵夫婦が登場する。文也は慶明大学医学部を卒業して大学附属病院の小児科医をしている。妻の花恵は、部品メーカーの労働者、こんな大きな身分差でよく結婚できたものだと読んでいて思う。しかも、花恵の母は早く亡くなり、父親は定職にもつかず、ふらふらしていて、父親の生活費はすべて文也がみている。

 だから文也の母や妹は文也に離婚をしきりに勧める。しかし文也は頑強に拒む。

更に驚くことに、文也、花恵夫婦には翔という息子がいるが、この子は夫妻の子供ではなく、結婚前に花恵が付き合っていた男との子供だということが明らかになる。文也は息子が自分の子ではないことを承知の上、花恵と結婚し、自分の子として育てることを決意していたのである。

 花恵はおなかの子とともに、自殺しようとしていたところを、文也にみつかり、救われる。そしてその場でおなかの子は俺の子として育てると花恵に向かって宣言する。ここは感動的場面。

 そして、中原道正、小夜子元夫婦の地道な調査により、どうして花恵と文也が結婚。2人の子供ではない翔を育てるのか、その背景が明らかにされる。

 ここで、物語最初に戻り、更生、償いとは何かが明らかにされる。

仮釈放とは、保護司や保護観察官が、対象者が更生されたと判断のうえになされるのではなく、世の中にでて更生の機会を与えるために行われる制度だと、この作品で知り、少し愕然とした。

重い、しかし胸にズシンと響く物語だった。

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東野圭吾   「秘密」(文春文庫)

 鳴かず飛ばずだった東野圭吾を一躍文壇の大スターに引き上げた作品。今頃こんな有名作品を読んでいるのはいかんなあ。

 主人公は車部品メーカーの社員の杉田平介。ある日、妻直子と小学5年生の娘藻奈美が直子の信州の実家に帰省途中、乗っていたバスが崖から転落。

 妻直子は事故死するが、藻奈美は大けがをしたが、妻の葬儀の最中意識をとりもどす。ところが驚くことに、体は小学5年生の藻奈美なのに、その体に宿っていたのは妻の直子だった。

 この物語、家族、特に主人公の平介を巡っていろいろのことが起き、それも面白いが、平介と娘の姿になってしまった妻直子との行く末がどうなってゆくのかが、メインでそれがわくわくするほど面白い。

 まず、どうみたって容姿は娘の藻奈美。その娘に向かって「おい」「なあにあなた」なんて会話をしてしまう。

 近所の人たちは当然「藻奈美ちゃん。無事でよかったね。」と声かけるが、「はい、いろいろご心配おかけし申し訳ありませんでした。」なんて小学5年生の子供が答える。

 長い休暇の後、学校に登校。途中で隣の吉本さんが声かける。
「あら、藻奈美ちゃん。今日から学校?」「おはようございます。ええ、おかげさまで新学期に間にあいました。」
 クラスの生徒や先生も、「藻奈美ちゃん。なんかお母さんになったような感じ。」なんて言われてしまう。

 それから、直子が突然「私、生理になってしまった。」なんてことも起きる。
当たり前だけど、互いに性の欲求はあるのだが、まさか小学5年生の娘を抱くわけにはいかない。

 そのうち、小学生の妻直子が、中学は私立の有名中学に行くと言い出す。
そして中学受験は合格し、今度は有名高校を受け、大学は医学部に行き、医師をめざすなんて言い出す。

 さらに、思春期から青春時代、ボーイフレンドや恋人もどきが現れだす。だけど、姿は藻奈美だが実際は妻の直子。
 こんな状態で、平介は将来直子を恋人にして、結婚までゆくだろうかと読んでいて心配になってくる。しかも、直子が結婚するころには、相手の平介は50歳近い。20年以上の年齢差がある。

 これを東野はどう始末をつけるのか。物語では途中から、昼間は娘藻奈美だが、夜は直子に変わるようになる。
 そしてだんだん、直子が消滅してゆく。当然藻奈美は、父親でなく、恋人をみつけて結婚をする。

 なんとなく、どこかで読んだような物語だが、最後東野はうまくまとめあげている。

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東野圭吾   「赤い指」(講談社文庫)

 直木賞受賞後第一作。

主人公の前原昭夫は妻八重子、中学生の息子直巳と昭夫の母政恵と4人で、一戸建て住宅で暮らしている。
政恵と妻八重子の折り合いは最悪、しかも政恵は認知症で、八重子が世話をしないため、昭夫の妹の春美が通いで政恵の世話、介護をしている。

ある日、昭夫が会社から帰宅すると、庭にビニール袋をかけられた少女の遺体がある。

私は東野の直木賞受賞作品以降、全く東野作品を読んでいなかったのだが、どうもこの作品は読んでいたのでは思った。しかし、今まで読んだ作品リストがあるので確認したところこの作品は無かった。

 どんどん読み進むと、この先がどうなるのか頭に浮かんでくる、最近東野作品を集中して読んでいるため、東野の考えが自分に移っているような錯覚に陥った。

 この作品の殺人犯は、中学生の息子の直巳。
しかし、直巳が犯人となると、直巳の将来は無くなるし、前原家も奈落の底に落ちる。
前原家や、直巳に被害が殆どおよばず、うまく収める方法はないか、昭夫は懸命に考える。
そして、殺人犯を彼の母で認知症の政恵にすることで殺人過程や遺体処理方法を練りあげる。

 この嘘を名刑事加賀恭一郎が暴いてゆく。

そして、これも東野だったら多分そうするだろうなと思いながら読む。それは、実は母政恵は認知症ではなく、認知症を装っていたこと。
 そら思った通り。それにしても、鈍感な私がこれだけストーリーを当てたということは、やはり既読作品だったのかもしれない。

 この作品、これからも捜査のコンビを組む加賀と従弟の松宮が登場。それから「時生」だったと思うが、加賀の母は加賀が幼い時、失踪して仙台のバーに勤め亡くなる。そしてこの作品で加賀の父隆正が末期がんで病院で亡くなるが、臨終に加賀は来ているのだが、病室には入らず、」父の最後を看取らなかったことが描かれる。

 でも加賀と父の絆は繋がっていたことが、看護師金森登紀子によって明らかにされる。
その方法が実に見事で、ちょっとした感動を引き起こす。

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東野圭吾  「どちらかが彼女を殺した」(講談社文庫)


この作品以前読んだ「私が彼を殺した」と同じ、犯人がわからないまま物語が終了。読者が犯人を推理する作品になっている。

 「私が彼を殺した」では、最後加賀刑事が、犯人はお前だで終了。お前が誰だかわからず終わる。この作品では加賀刑事が「犯人のほうを見た」で終了して、犯人が読者にはわからない。

 名古屋の交通課の刑事、和泉康正の最愛の妹園子がアパートの部屋で遺体となって発見される。所轄署は、自殺と判断するが、自殺でなく他殺だと思っている、兄康正と主人公加賀刑事が犯人捜査に挑む。

 その結果犯人は、園子の前の恋人だった佃と、園子の親友で、佃を園子から奪った佳世子に絞られる。
 決めては、園子、佃、佳世子の利き腕が右手か左手どちらか。
それで、折に触れて、手や腕を使った場面が描かれる。

園子は、左利きなのだが、食事のときは両親から徹底的に右利きの動作を仕込まれる。

そのほか、睡眠薬の入っている袋が、右側から破っているか、左側から破っているかが表現されたり、洋食コースの時の作法、包丁の切り方、持ち方、それから、自動販売機から購入したコーヒーを隣に手渡ししたとき、もらった人が右手でとるか、左手でとるかなどが描かれる。

 それで、作品では、園子は左利き、佃と佳世子は右利きと書かれるが、佳世子は睡眠薬の袋を開封するとき、左利きの破り方をして、実際は左利きだということがわかる。

ということで、犯人は右利きの佃ではないだろうかと推理できるようになっている。しかし、これでよいのかは、読者の私はもう一つ確信は持てない。

 正直、犯人が示されてないミステリーはどうも後味がすっきりしない。

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