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2023年05月 | ARCHIVE-SELECT | 2023年07月

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東野圭吾    「恋のゴンドラ」(実業之日本社文庫)

 東野は膨大な数の著書を持つ作家。全部の作品に情熱を込め、奇抜なアイデアをひねり出し作品にすることはやはり不可能。
 少し手を抜いて軽めの本でもだそうかと思っても不思議は無い。この本はそんな軽めな連作短編集。

 そのなかの「プロポーズ大作戦」を紹介する。

日田はホテルに勤務している。根は真面目だが、風采もあがらず、女性と付き合うということは、とてもありそうもない。

 ところが、その日田に橋本さんという彼女ができる。付き合って二カ月半。もう日田は橋本さんにぞっこん。結婚の申し込みをしたいのだが、絶対橋本さんが断れないような申し込みをしたいと同僚の水城に相談する。

 水城は、橋本さんをスノボーに連れてゆき、スノボー禁止エリアに誘い込む。そこは新雪が積もっていて、スノボーが雪の中に埋まってしまい、スノボーができなくなる。
 しかたなく、橋本さんは、ポールを手にし、雪にズボズボ埋まりながら歩きだす。

弱り切ったところに、どこからともなく日田が現れる

そしてポールを持って、橋本さんを引っ張ってあげる。そして日田は言う。
「これからも、俺についてきてくれるかな。」
橋本さんは、驚く。さらに日田が決めゼリフを言う。
「俺が引っ張るから、ずっとついてきてほしい。」
もうこれで決まり!

 いよいよ本番開始。

立ち往生する、橋本さん。そして日田が登場する。
そこにスノーモービルに乗った男が突然わりこむ。

「浮気は悪かったごめん。」男は土下座をして謝る。
「なんだコウタじゃん」
「ずっと好きだったんだ。絶対幸せにするから結婚してくれ。今誰かと付き合ってるのか。」
「付き合っている人はいるけど、正直で優しい人だから大丈夫。きっと納得してくれる。」

2人は雪の上で抱き合う。橋本さんを乗せたスノーモービルが雪景色の中に消えてゆく。
可哀そうだけど、こういう役回りの人って、必ず周りにいる。

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東野圭吾    「夢幻花」(PHP文芸文庫)

 この作品、最近新装版で販売されまたベストセラーになっている。

私が親しんできた音楽には、間違いなく楽譜があった。

しかし、最近観るCSチャンネルやYOU TJBEのコンサートで演じられる曲にはとても楽譜があるように思えない曲が多い。演奏者も音符を超えた世界で、舞台では跳ね飛び、吠え、聴衆も同じように、声をあげ、陶酔している。全く年寄りの人知を完全に飛び越えた世界に達している。

 バンドを組んでいる雅哉が、音楽について表現する。

「まず、目の前の景色が揺らぎはじめた。最初は視力がおかしくなったのかと思った。だがそうではなかった。景色の揺れには方向性とリズムがあった。まもなくその正体に気付いた。スピーカーから流れる音楽だ。そのメロディとリズムに呼応して、周囲の景色が揺れて見えるのだ。
 変化が起きたのは視覚だけではなかった。聴覚も、とてつもなく鋭敏になっていることに雅哉は気づいた。耳だけでなく、全身で音楽を受け止めている感覚だ。すべての楽器の音を正確に捉えることができる。それらに自分の細胞が呼応するのがわかる。
不意に、すべてが理解できたような気がした。音楽とは、こうあるべきなのだ。作るようなものでも、組み立てるようなものでもない。音楽の本質だけでなく、様々な物事の真理が見えたように思えた。
この気持ちを何かの形に残したいと思った。気づくとギターを手にしていた。指が勝手に動いた。これまでに発想したことのない旋律が次々と浮かんできた。」

黄色いアサガオは江戸時代には存在していたが、現在は存在してはいない花ということになっている。そのアサガオの種にはリゼルグ酸アミドが大量に含まれている、その種を食べると幻覚作用を引き起こす。それが、雅哉の音楽の源となっている。

昭和62年にMM事件が起きた。ハリウッド女優のマリリン モンローの死に衝撃を受けた男が、銃で無差別殺人を起こした。犯人は、黄色いアサガオの種を食べたあと、事件を起こした。

物語は黄色いアサガオの引き起こす現象を圧巻のストーリーと表現でつづられ、500ページに近い大作が、片時も読者を引き付け決して離すことはない。

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| 古本読書日記 | 06:32 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾   「あの頃の誰か」(光文社文庫)

 ミステリー短編集。

これぞ東野作品というのが「再生魔術の女」。

根岸峰和、千鶴夫婦の赤ちゃんができた。可愛らしい赤ちゃんで、夫婦は懸命に育てあげようとしていた。
 ところがこの赤ちゃん、千鶴が不妊症のため、養子として迎えた子だった。
この赤ちゃんを紹介したのが、医者の中島章代。

 章代には妹ユミがいて、夜の世界で働いていた。そこで知り合った峯和と恋愛となり、2人は結婚の約束していた。ところが、峯和に勤めていた会社の社長令嬢千鶴との縁談が持ち上がり、峯和はユミと別れようとした。

 しかし、ユミはまったく承知しない。

弱った、峯和はユミの部屋に行き、ユミとセックスを楽しんだ後、ネクタイでユミを絞殺する。

 その後に、姉章代がユミの部屋を訪れ、殺害されたユミを発見する。
ここからが、東野しか考えられない物語が始まる。

 章代はユミの性器内に残っていた峯和の精液を取り出す。それを病院に持ち帰り、自分の卵子と体外受精を行い、自分の体に挿入し、そこで出来た子供を体内で育てる。そして生まれた子を峯和、千鶴夫妻に養子として差し出す。

 このあかちゃんのことを、章代は峯和に詰め寄り告白する。驚愕し恐怖でいっぱいになる峯和。

 赤ちゃんは、大きくなるにつれ、峯和に似てきた。

章代は嘯く。
 あの子供は、ある女子高生が、行きずりの男との間に作った子供だと。
この一文にぞくっとする。

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| 古本読書日記 | 05:57 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾   「虹を操る少年」(講談社文庫)

 コンサートに行く。そこでの中心は、当然歌い手である。そのコンサートを盛り上げるために、色とりどりの光の照明がかけめぐる。しかし、あくまで中心は歌い手である。

 この物語でのコンサートの中心は、音楽ではなく、照明、光である。
聴衆は、音楽を楽しむために、コンサートにやってくるのではなく、音楽はあくまで光を盛り上げるための存在、光の芸術を楽しむためにやってくる。

 こんなコンサートを音楽ならぬ光楽という。

その光楽を創造し、最初の光楽の演奏者が主人公の光留。
光楽、言っていることは、理解できるのだが、70歳を過ぎた私には、まったく想像ができない。

 電気が発明される以前は、夜は真っ暗の闇。そんな時代、宗教の開祖たちは、一般大衆にメッセージを届けるために、体から光を発した。たとえば、キリスト教芸術では、聖画中の人物全体を金色で包んだりする。

 仏教には後光という言葉がある。仏、菩薩の体から放射する光のことだ。仏像を作る時、それを表現するために、金色の輪をとりつける。

 人間は、常に、体から光を発している。言葉で表現しても、本当の心は発している光でわかる。

 本当のコミュニケーションは言葉ではなく、発する光によってなされる。
そんな光が見える人、光留のような人間が、世界には確かに存在するらしい。

 頭ではわかる。しかし想像ができない物語だった。

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| 古本読書日記 | 05:45 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾   「卒業」(講談社文庫)

東野の熱心の読者で無かったので、1989年、東野の初期のこの作品を読んでいなかった。
初々しい気持ちになって、この作品を今頃になって手にとってみた。

 この作品は、今大好きになった名物刑事加賀恭一郎が初めて登場した作品だった。まだ刑事にはなっていなくて、卒業真近の大学生で登場している。

 いかにも加賀らしい場面から物語は始まる。

高校時代から付き合っていた沙都子に対し気持ちを声を上げて宣言する。
「君が好きだ。結婚して欲しいと思っている。」
宣言された、沙都子は、驚いてうろたえる。
「そう。あなたはいつも人を驚かすの。・・・・それでどうすればいいの。イエスかノーを答えろっていうの。」
「何もしなくていい。これはプロポーズじゃない。これはプロポーズじゃない、俺の意思だ。君が誰かを好きになり、誰と結婚しようが、それは君の自由なのだけれど、俺はこういう気持ちでいる。それを知っておいてもらいたかった。」

 加賀らしいの魅力いっぱいの言葉。そして青春香りがほとばしる宣言。こんな青い言葉は青春まっさかりの時しか言えない。

 この作品を読むと、大学時代、友達というのは趣味や運動が同じということでできるものだが、何となく集まって、駄弁りあうだけのグループ、それで友達になった学生も多い。

 何となく出来上がった友達グループ。ばかばかりしたり、楽しくしゃべりあったりしているが、個々人はそれぞれに重い悩みをかかえているんだなということがわかる。

 物語では、そんなグループで、2件の殺人事件が起こる。一件のトリックはトランプのカードマジックのようなもので、わかりやすかったが、もうひとつの事件は形状記憶合金が使われるトリック。形状記憶合金というのは、この作品では、火をつかって暖めると、金属の形状が変わるが、放っておいて、熱が冷めると、形状が元に戻る合金。

 さすが理工系出身の東野。こんなトリックは東野だから創造できるトリック。これだから東野は面白い。

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西条奈加    「九十九藤」(集英社文庫)

 タイトルの九十九は、つくもではなくつづらと読む。つづらは蔓が中心の植物で、この蔓に絡めとられた、主人公の女性藤が、その蔓を破って道を切り開いてゆく姿をタイトルは表している。

 油問屋として繁盛している増子屋は、その隣に、蝋燭問屋、合羽問屋を開店させ、いずれも成功した勢いのある問屋だった。更に店主太左衛門は、口入屋を始め、その差配(支配人)に増子屋にいた藤をあてた。
 口入屋というのは、今でいう、ハローワーク兼派遣会社のような商売。

当時、江戸には、地方で次男、三男など、嫡子になれず、家をだされた人たちで溢れかえっていた。経済の発展に伴い、働き手の需要も旺盛で、人材紹介業は活況だった。

 しかし、口入屋として大きい店は、こうした一般の人材紹介ではなく、大名相手に人を送り込むことをメインの仕事としていた。

 当時大名にとって大きな問題なのは、参勤交代の大名行列の行列人工や、江戸詰めの際の屋敷用人出の確保だった。この人工は大名行列、江戸詰めの時にのみ必要な人工で、普段は不要な人工である。

 それで口入屋は大名のために、大量の人工を確保しておいて、大名の要求に応じて、人材を送り込んだり、戻したりしていた。

 江戸に流れてきた人たちを、問屋や小売屋などに送り込む口入屋もあったが、田舎からでてきた人たちは多くが躾などができていなくて、辛抱もきかず、送り込んでも居つかず、すぐ店を飛び出してしまうという人たちが多く、口入屋は安定した商売ができなかった。

 この作品は、贅沢に2つの物語が、もちろんつながってはいるのだが、展開。どちらも一つずつの物語にしても良いくらいのストーリーがつまっている。

 まずは口入屋の物語。藤は大名相手の商売には目をくれず、一般商売への人材派遣に業務を絞る。藤のとった手が、古手で以前から口入屋にいた女中のお峰に、派遣登録をした人に、作法、家事、料理を厳しく教え込んでもらい、その後にお客の店に送り込むようにした。結果、藤の店はいい人材を斡旋してくれると、評判になり、藤の店は栄えるようになる。

 これを気に入らない、口入屋の組合が、藤の店に商売がうまくいかないよう妨害や圧力をかける。この利権団体と藤の戦いが一つの読みどころ。

 もう一つの読みどころは藤の悲恋物語。

藤の実家は三河の田舎で旅館をやっていたのだが、うまくいかなくなって廃業する。そのため、12歳の時、女衒に売られる。女衒とその仲間に売られた子供たちと一緒に連れられて街に向かっていた時、藤は行列を離れて逃げようとする。女衒と仲間が追いかけてきて、藤を連れ戻そうとする。そこに旅の武士が現れ、女衒の前に立ちはだかり、女衒たちを追い払う。藤は懸命に走って逃げる。

 その武士に江戸で再会。藤は強い恋心を抱くのだが、結ばれることなく別れる。

 2つの物語、どちらも見事な描写で、印象深い物語になっている。贅沢な作品である。

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東野圭吾   「ゲームの名は誘拐」(光文社文庫)

 主人公の広告会社の敏腕広告プランナーである佐久間、最大顧客である、日星自動車の副社長葛城により、殆ど完成していた宣伝映像が、潰される。しかも、この件も含め、日星自動車の広告作品から佐久間は参画を拒否される。

 怒った佐久間は、文句を言おうと、葛城の城のような大邸宅を夜訪れる。しかし、その大邸宅に怖気づいて、入り口の門でうろたえていると、邸宅の塀を飛び越えて、女の子が家をでて、走ってゆく。

 あわてて佐久間は女の子を追いかけ、名前を聞くと「樹里」と答える。樹里は、母親と父親葛城の子ではなく、葛城の愛人の子だという。それで家族がぎくしゃくして、いやになり家を飛び出したと言う。

 それを聞いた、佐久間は、葛城に一泡ふかそうと、樹里に狂言誘拐を持ち掛け、樹里も同意して、誘拐騒動を始める。

 狂言はうまく行き、佐久間と樹里は葛城から3億円をせしめ、3000万円を佐久間、2億7千万円を樹里が獲る。

 ここからミステリーの本番が始まる。樹里が、横須賀の高原の土地から他殺死体で発見される。このニュースをテレビで見た佐久間は驚愕する。テレビに映った樹里が全く別人だったのだ。

 葛城家には娘が2人いて、長女の樹里、次女の千春。実は塀を超えて逃げたのは千春。千春は家で、樹里と諍いをして、樹里を刺し殺して、家から逃げ出し、佐久間には自分は樹里とうそをついたのだ。

 佐久間と千春の狂言誘拐は、逐一、千春から葛城に報告。葛城の手の内で誘拐はなされていたのである。

 佐久間は、千春誘拐、樹里殺害の容疑者として、このままでは捕まる。しかし、誘拐中、千春が佐久間に料理を作っている写真があった。これにより誘拐は狂言とわかる。しかも樹里殺害の真相は佐久間も葛城も口外しなければ、真相は誰にもわからない。こんな契約が佐久間と葛城の間で成立する。

 この物語は、捜査の側の視点でなく、全編犯人側の視点で描かれる珍しい作品になっている。一枚の何気なく撮った写真が佐久間を救ってくれた。なかなか洒落た最後だった。

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東野圭吾   「東野圭吾公式ガイド」(講談社文庫)

 東野自身の自作公式解説や一万人が選んだ人気東野作品ランキングなど、東野作品の公式ガイド本。

 2012年までの作品紹介、それ以降の作品についてはガイドはしていない。

ここ20年以上全く東野作品は読んでこなかった。加えて、それ以前に読んだ作品の内容もパカンとすべて忘れてしまった。それで、ランキング1位の作品が直木賞受賞の「容疑者Xの献身」。内容も忘れてしまっている。あまり面白くなかった印象だけが残った。

 改めて今30冊ほど東野作品を集中して読んだ。

まず、その印象は、東野が理科系学生だった影響で、科学、物理、工学知識が豊富で理系の作品が多いことだ、しかし説明が非常にわかりやすく丁寧で、内容も一般社会に溶け込んでいる。加えて、あらゆる言葉を駆使。この見事さは、関西人の特質を遺憾なく発揮して、わかりやすく、読んでいて楽しい。

  マスカレードシリーズ。ホテルを描いているのだが、顧客視点ではなく、ホテル従業員視点からの小説は斬新。ホテルにはいろんな顧客が来るのだが、パンフレットの部屋から見る景色と、実際の部屋からの景色が異なるとクレームをつける顧客。なるほどいそうと思わせる。

 スキー、スノボー、バレエ、など趣味が多彩。楽しいキャラクター。特に刑事加賀恭一郎と、ちょっとおちゃめな関西女性キャラクター、しのぶセンセは魅力十分。

 最近読んだ作品では「時生」が私には最高傑作だった。グレゴリオ症候群に罹り、20歳で亡くなった時生が、父がどうしようもないひどい生活をしていた父の独身時代にさかのぼって登場して、ぐうたら父親を励まし、懸命に母親と結婚させる。そして、20歳の時、自分は生まれてきてよかったと命を閉じる。発想もストーリーも素晴らしかった。

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東野圭吾    「天空の峰」(講談社文庫)

 この作品、読んできた東野作品の中で、東野が最も情熱を注ぎこんだ作品だと思った。
600ページを超える大長編。完成まで5年の歳月をかけたそうだ。
 ところが、ありったけの情熱をかけたのに、ベストセラー作家の東野作品のなかでは、殆ど売れず東野はガックリときたという。

 主人公は湯原、最新軍用ヘリコプター「ビッグB」の開発責任者。
その「ビッグB」のお披露目の日、この「ビッグB」がテロリストに盗まれ、福井県の高速増殖炉「新陽」の上空にホバリング停止する。
 しかも、盗まれた「ビックB」には、少年が取り残されていた。

 テロリストは次の要求をする。それができなければ、「新陽」に墜落させ、原発を爆発させると通告する。

 ①稼働中、点検中の全ての原発の稼働をやめること
 ②建設中の原発の建設中止
 ③以上の過程をすべてテレビ中継をすること。
 ④ヘリコプター内の少年救出は、救出員が、ヘリコプターに乗り移らないこと。

 更に加えて、2つのことが、クリアーせねばならない。
ホバリングは燃料がなくなるまでの9時間半の間に、事件を解決して、犯人を探し、逮捕せねばならない。
 機内に残された少年を1000M上空で救出せねばならない。

9時間半を描く小説なのに、600ページを超える作品。どうしてそうなるか。作者東野が、高速増殖炉や、自動制御ヘリコプターの構造、機能を細部にわたり解説。更に、国、福井県、警察、原子力発電所、ヘリコプター開発製造会社や自衛隊の対応を、もらすことなく徹底的に描写するからである。

 専門用語が多発して、真面目に読んでいたら読み終わるまでに1週間はかかる。
不思議なのは、そんな部分はさらりと読んでも、まったく内容がわからなくなることは無い。これも東野マジック。

 読みどころは2つ。ヘリコプターに取り残された少年の救出場面。手に汗握る状態になった。

 犯人は、原発作業者の元自衛隊員。

この作品によると、原発作業者は3次、4次の下請け業者の派遣労働者。彼らは作業が終わると、放射能汚染の有無のチェックを検査機によって行う。これが、作業者当人が行い検査結果記録簿に記載。作業者は仕事を失いたくないために、結果は問題ない数字で書き込む。その結果原発作業者には放射能汚染で死亡する人がたくさん発生する。

 このことは、原発のある地域では、誰でも知っていることらしい。それで、みんなが作業者には近寄らない。特に学校では、作業者の子供とは話もしないし、いつも遠巻きにしている。犯人の息子は、小学生なのに自殺していた。

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東野圭吾    「禁断の魔術」(文春文庫)

 ガリレオシリーズ第八弾。

姉が亡くなり、大学に入れなくなった、古芝伸吾は、金属部品を製造する町工場で働きだした。すでに両親が他界。新聞記者をしている姉しか学費を支援してくれる人がいなくなったからだ。

 姉が亡くなった場所は、デラックス シティ ホテルのスイートルーム。下半身から大量の出血をして亡くなっていた。卵管破裂による大量出血死だった。ビールを2本飲んでいてグラスも2つあり、誰かが、姉と部屋にいて、姉が倒れたのだが、救急車を呼ぶこともなく、放ったらかしにして逃げたのだ。

 伸吾は、その相手が大物政治家の大賀であることを知る。伸吾は、帝都大学物理学部准教授湯川と、高校の先輩後輩という間柄から、伸吾がレールガン作製することを湯川が指導する。

 伸吾はそのレールガンを使って、大賀代議士を使って射殺しようとする。
大賀代議士が少年野球の始球式をおこなう時に、ショッピングセンターの屋上より狙い撃ちをするのだ。

 その時の、伸吾の行動を止めようとする湯川の叫びが素晴らしい。

「君のお父さんは、地雷除去の機械を研究開発することだった。そのために何度もカンボジアに足を運んでいた。地雷は核兵器と並んで、科学者が作った最低最悪の代物である。
 お父さんは、かって地雷を製造していたのだが、その時は弾薬と同じで単なる武器の一つという程度の認識だった。
 ところがある時、地雷で両足を吹き飛ばされた子供の姿を目にした。その子は、その付近に地雷があるとわかっていながらも、家族のための水を汲むにはそこを通らねばならなかったんだ。」

 そして父親は、会社を変わって地雷除去装置の製造する会社に入りなおした。もちろん、

この作品は、いろんな殺人がおこり、自然破壊の企てが行われ、複雑なミステリーになっている。しかし、地雷があることがわかっていても、地雷を踏んで行かねばならない少女の運命が強烈な印象となって、残る。

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東野圭吾   「犯人のいない殺人の夜」(光文社文庫)

 ミステリー短編集。
東野らしい作品と思ったのが「闇の中の二人」。

中学生の萩原信二から、学校に電話がある。今日は休むと・・・。訳は弟が殺されたからと。
驚いた、担任の永井弘美が、心配して信二の家へゆく。殺された弟は生まれたての3か月。

実は、信二の母親は病気で亡くなっていて、父親が後妻をもらっていた。
父親は会社の重役で、出張が多かった。

信二はさすがに弟が亡くなり、ショックを受けたのか、学校をしばらく休んでいたが、最近は登校してきていた。

 しかし、また不登校になり、心配した弘美が、信二の家へ行く。そこで信二が、先生の弘美に、香水の「夜間飛行」を両親の部屋から持ち出し、先生に「この香水をつけてほしい」と懇願する。戸惑ったが、弘美は「夜間飛行」をつける。すると、信二が弘美に抱きつく。
驚いた弘美は信二を突き放し、家をでてゆく。

 実は、後妻の母は中西という若い男と不倫をしていた。2人が抱き合うのは、夫が出張して不在の夜。中西が施錠してない窓から侵入し夫婦の寝室に忍び込む。

 生まれて三か月の弟を殺したのは、信二。
信二は弟ができるまでは、一人息子として溺愛されていた。しかし、弟ができると、両親は信二に冷たくなる。こんな物語はここで終わるのが普通。

 しかし、東野はさすがに違う。

信二が逮捕され警察に連行される。その時、信二は思った。自分は弟と我が子を殺してしまったと。この最後の文章が香水「夜間飛行」と共鳴している。見事だ。

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東野圭吾    「回廊亭殺人事件」(光文社文庫)

半年前亡くなった、大資産家の一ヶ原高顕の遺言状の公開が、同じ半年前、火事や心中事件が起きた、高顕が経営する旅館回廊亭で行われる。

 その公開場に、主人公本間菊代も招かれる。
半年前起きた心中事件で亡くなったのは里中次郎。そして心中事件を起こした女性は二郎の恋人だった桐生枝梨子。
枝梨子は変装して本間菊代になりすまし、回路亭に行く。菊代の夫の本間は、一ヶ原の大親友で、一ヶ原の事業を心身ともに支えていた。

枝梨子は、心中事件は起こしておらず、誰かが恋人二郎を殺害、旅館に火を放ったと思い、回廊亭に集められた一ヶ原一族の中に殺害、放火犯がいる、それを見つけだし、二郎の復讐をするために、遺書公開に本間菊代になって出席していたのだ。

 その遺書公開には、立会人として弁護士の古木と助手の鮎沢も参加していた。

 そして、その旅館で孫の由香が就寝中に殺害される。
その犯人はだれか。そして、本間菊代に変装した枝梨子と一ヶ原一族に対する緊迫した捜査が、作品の殆どを使い展開される。

 あいつも怪しい、こいつも怪しいと考えながら読み進む。
それで二郎殺害や由香殺害の犯人が、旅館の女将の小林真穂と古木弁護士の助手の鮎沢ということになる。

 これは、大ドンデン返しで東野のどうだ誰も想像できないだろうという高笑いが響き渡る結末。
 正直、これはあまりにもやりすぎだし無理すじ。どんな屁理屈をつけても、こんな結末では完全に白けてしまう。

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東野圭吾   「名探偵の呪縛」(講談社文庫)

 東野が推理小説を書きだしたころは、推理小説は社会派推理小説が全盛だった。社会的矛盾により引き起こされる犯罪。その社会的問題を抉り出し告発するのが主目的で、犯罪を解明するトリックはあまり重視されないのが社会派推理小説だ。

 これに対し、トリックを重視する本格推理小説復活させる気運が盛り上がってきていた。
この本は、本格推理という言葉や概念がない世界に入り込んだ名探偵天下一が、推理、トリックの解明にのぞんだ、本格推理短編集。

 やっぱし、ここでも登場する、密室事件トリック作品が興味をひく。

大企業、水島産業の会長、水島雄一郎が自室で死ぬ。当初は警察の捜査により、自殺と判断されていたが、部屋の入口には本が収納されていた本棚が並べられ、他の壁にも、家具や調度品が設置され、窓は閉められ完全に密室。自殺と思われたのだが、天下一は自殺する人が、わざわざ本棚を部屋の入口に立てかけたり、家具を壁にくっつけるなんてことをするはずがないと捜査を他殺として行う。

 そして密室トリックを解明する。
犯人は雄一郎を殺害。家の者や、天下一はドアを開けると、本棚が入り口を塞いでいる。だから、本棚を倒して部屋に入る。

 犯人はあらかじめ、本棚の底板を取り外せるように細工しておく。

本棚を倒して、死んでる雄一郎に全員が突進する。その間に本棚に潜んでいた犯人が細工してあった底板をあけ、部屋から脱出する。

 何だかどこかで同じようなトリックを読んだ気がしてしまうが、でも面白い。

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東野圭吾   「パラドックス13」(講談社文庫)

 ミステリーというより一種のSF小説。

日米共同研究をしているJAXAより、日本時間13時13分13秒から13秒間、P-13という現象が起きる。それによって、何が起きるかは不明。しかし、日本全国厳戒態勢にはいる。

 その時間が過ぎる。そして主人公警部の誠哉と警察官の弟冬樹は気が付くと、誰もいない廃墟のようになった東京にいることに気が付く。

 誰かいるなら東京駅に集まってほしいとの掲示板により、東京駅に行くと、そこに11人がいて、計13人が存在していることがわかった。

 最初、1000万人以上の人がいるのに、どうして13人しか集まらなかったのか不思議と思ったら、実はP-13は、13時13分13秒から地球も含めて宇宙で13秒が消えてしまう現象であることがわかる。それで、消えた13秒間に、死んでしまった人が、死ぬはずがないので、別世界の東京に13人が生き残ったことがわかり納得した。
この13人をリーダーとして率いるのが警部の誠哉。何とか生き抜いて、新しい世界を創りあげようと皆を鼓舞する。

 しかし、東京は大地震を繰り返し、これに加え大豪雨。ビルや建物は崩壊するし、津波は繰り返し押し寄せるし、川は氾濫して、多くが水面下に消えてしまう。そして、これがずっと続き収まることがない。飲み物、食べ物はどんどんなくなる。

 やっとのことで、日本で災害に最も強いとされる、首相公邸、官邸にたどりつく。その時には13人が5人に減っていた。

 13秒が消えるというのもあり得ないことだが、まだ理解はできる。しかし、これから生きようとする世界が、怒涛のように押し寄せる災害しかないというのが、誠哉の感想になるが、宇宙が怒っているからというのは安直だと思った。

 官邸にやってきた5人はP-13の報告書を手にいれる。そこには4月18日の午後1時13分13秒から13秒、消えた13秒が宇宙が調整のために揺り戻しが行われると書かれている。そこに戻れば、また以前の世界に戻れるということで、誠哉を除く人たちが、その世界に戻ろうとする。

 しかし、その消えた13秒間で5人は死んでいるのだから、復活した13秒間に戻っても死んでいることにならないのだろうか。

 その結果は本書を手にとってください。
最近頻発する、大災害の原因は、何だか宇宙のゆがみによって起こっているのではと思わせる作品だった。

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東野圭吾    「怪しい人々」(光文社文庫)

 登場人物全員が怪しいやつだらけ、そんな七編の短編集。
どうしても、似たような作品を選んでしまうのだが、ここでも作品「死んだら働けない」を取り上げたい。

 若いころ会社で新しい会計システムを構築していた。システムがうまく作り上げられないとき、何にも役にたたないのだけれども、システム作成者と常に一緒にいることが、システム作成者から求められた。

 私を付き合わしたシステム開発者は、私からみれば常人では無かった。もうこのシステムでは無理という判断をして、新たにゼロから組みなおした。2年もかかって構築したシステムだったのに。

 驚くことに、彼は疲れということを知らなかった。年末30日から翌年新年4日まで、眠ることなく、システムを作り上げた。

 その姿が異常だった。発狂したように、笑いながら、こんな楽しいことはないという雰囲気で毎晩徹夜眠ることなくシステムを作った。

 それに私は付き合わされた。年末年始毎日一睡もしないのだ。さすがに私は普通人だったので2日間は眠らず付き合ったが、そのほかの日は2時間くらい惰眠をむさぼった。

 東野は、大学卒業後、日本電装に入社。生産システム開発部門に配属された。日本電装は言わずと知れた生産かんばん方式のトヨタグループに属している。

 紹介の作品では生産ロボットの開発導入担当者が主人公として登場する。ロボットといっても開発導入会社が、機能、部品を作るわけではない。殆ど大部分が取引、下請け会社が作る。

 それで、あの機能、この機能がうまくいかないとなると、取引業者は生産ロボット開発担当とともに、現場に泊まり込み、ロボット改造に取り組むことになる。

 この生産開発担当が疲れを知らず、付き合っている業者に、ああしろ、こうしろと指示をする。当然、開発担当も業者も工場へ泊まり込み、家に帰ることなく、ロボットの手直し
を日夜兼業で行う。開発担当は疲弊しきっている業者をああでも、こうでもないと𠮟りつける。

 業者は思う。そんなちょっとしたところは、人間が補助すればいいんじゃないかと。すべてをロボットで行わなくても。それが開発担当には受け入れられない。すべてがロボットで行えないとダメ。それで、業者に殺意がめばえる。

 これは恐ろしいと思う一方、こんな人間ばかりが集まっている会社は強い会社なのだろうとも思う。

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東野圭吾   「雪煙チェイス」(実業之日本社文庫)

 80歳の老人が自宅で殺害される。

  主人公の大学生の脇坂は、この家の愛犬の散歩をバイトでしていたのだが、後ろからやってきた主婦の自転車がぶつかり、その衝撃で倒れ、リードを離し、逃げた愛犬が車に轢かれ死んでしまう。怒った老人は脇坂を解雇する。

 ある日脇坂は犬をしのんで、老人の家に裏口にしまっている合鍵を使い、家に侵入、仏壇に置かれている愛犬のリードを記念にアパートに持ち帰る。

 そのあと、脇坂は新潟の新月高原スキー場にひとりでスノーボードをやりに、車で日帰りで行く。そのスキー場で美人のスノボーダーに会い、彼女に頼まれ写真を何枚かとってあげる。その時、女性から、自分は信州の里山高原スキー場でいつもスノーボードをしていると聞かされる。

 脇坂が、夜アパートに帰ると、かの80歳のおじいさんが殺害され、その容疑者に脇坂がなっていることを友人の波川から聞かされる。しかし、殺害があった時は、脇坂は新月高原スキー場でスノーボードをしていた。しかしそれを証言してくれるのはスキー場で出会った美人のスノーボーダーしかいない。

 それで脇坂と波川は、美人スノーボーダーを探しに信州里山高原スキー場に行く。そして、所轄の小杉と白井両刑事が脇坂、波川を追って、脇坂逮捕のために同じく里山高原スキー場に行く。

 そこから膠着状態が、長く続く。東野作品には珍しく、読んでいて飽きがきてしまった。
この調子で最後まで行くのか、東野にしては凡作だと思っていたら、物語も終わりに近くなってから、急に緊張と興奮が襲ってきた。

 脇坂を逮捕するために、大量の長野県警の捜査陣が脇坂に迫ってきた。で、なかなか美人スノーボーダーが見つからない。
 さらに美人スノーボーダーが見つかっても、老人を殺害した犯人を見つけねばならない。
この2つのことが重なりあって物語の緊迫感がただごとではなくなる。

 この緊迫感東野マジックのおかげで、その前のダラダラ感が完全にどこかに飛んでしまっていた。

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東野圭吾   「疾風ロンド」(実業之日本社文庫)

 400ページ近くある作品。通常400ページとなると、一日半読み終わるまでかかるのだが、この作品は本当に読みやすく、半日で読み終えた。
作品はコメディ ミステリー作品。読みやすさからなのか、ミリオンセラーを獲得、映画化もされている。

 泰鵬大学医学部研究所で、炭素菌K-55を開発する。この炭素菌を開発したのは葛原。これにより、葛原は研究所を解雇される。解雇に怒りを感じた葛原はK-55を研究所から持ち出し失踪し、研究所の東郷所長あてに、脅迫状を送る。

 ここから、葛原追跡の物語が始まると思ったら、葛原が事故死してしまう。
葛原は脅迫状に写真を何枚か同封。この写真に写っている木にかけてあるテディベアの下に炭素菌を埋めたと脅迫状に書く。

 所長の東郷は部下の栗林に炭素菌を取り戻すことを命令。同封されていた写真から、その木のある場所が長野県の里沢温泉スキー場だとわかり、栗林と息子の秀人は、里沢温泉スキー場に向かう。

 ここでびっくりする。何と栗林はほとんどスキーができないのである。しかも、テディ ベアがひっかけてある木のあるところは、コース外、危険がおおいところである。

 案の定、栗林は森林の中で、木と衝突して、けがをして倒れる。そしてパトロール隊員の根津と千晶に救助される。栗林は殆ど捜索の足を引っ張ってばかり。ズッコケ場面ばかりが続く。

 そして、いろいろあって、K-55が収納されている瓶をみつけだす。ところが、栗林が誤って、この瓶を手がすべって、落としてしまう。炭素菌が散布されると、たくさんの人々が死んでしまう。読んでいる私も思わず目をつむる。
 で、その瓶の中身が実はコショウだったと描かれる。何それって?

このK55を手にいれようとしている人間が別にいた。
 葛原のK55持ち出しに手引きした研究所員の折口真由美とその弟。かの姉弟は、K55の入っている瓶入手に成功。

 しかし偽造パスポートで成田から出国しようとしていたところ、所持品検査で瓶が開けられる。で、中身はソーセージ。
 一体炭素菌はいずこへ。それはこの本を読んで確かめてください。

面白いとは思ったが、この作品が100万部以上売れたとは、少しため息。

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東野圭吾   「浪花少年探偵団」(角川文庫)

 しのぶセンセシリーズ第一弾。5作品が収録されている。

主人公のしのぶ先生は短大を卒業して小学校の先生をしている。情にもあついが、足も速く、口も手も早い。この先生が、新藤、漆崎の刑事をむこうにまわして、生徒の悪がきの原田やテッペイとともに、事件を解決してゆく作品集になっている。
 関西で生まれ、関西にどっぷりはまり、その関西丸出しで生まれてくる作品は本当に面白い。そんな作家の双璧が、東野圭吾と黒川博行だと思う。

 一つ、一つの作品も面白いのだが、骨の髄までしみ込んだ関西が、湧き上がってくる表現。いつもそれにわくわくして興奮、期待もする。

 そんな面を、この作品から拾いたい。

まず、セの使い方。せんせいではなく、センセであり、そうだからでなくセヤカラ。このセをみつけるたび、待ってました関西と叫んでしまう。

 安アパートの深夜。
ある一室から、大声が響く。「あんた、お金、持って行かんといて。」
すると、深夜だというのに、次々別の部屋の明かりが灯る。
「お金」という言葉についつい反応してしまうのがアパート住まいの大阪人の特徴。
のっけからこんな文章で物語が始まる。これではワクワクするしかない。

「鉄平と原田が焼きそばを食べながら少年雑誌を読んでいる。それも何か月も前の雑誌で、表紙はボロボロに破れているし、ページの端に乾燥したキャベツがへばりついていたりしているのだ。破れた表紙には、黒マジックで店の名前を大きく書いてある。」
「この黒マジックで名前が大きく書いてある」部分には感動を覚える。

「クリスマスケーキはイヴを過ぎたら終わりです。独身女性とおんなじです。」
「独身女性?」
「二十四で売り頃。二十五過ぎたらたたき売りって言うんです。面白いでしょ。」

関西人以外の作家は、ここで終わり。つまらなく平凡。でも関西は違う。
「で、しのぶセンセはいくつ。」
「二十五です・・・・」

この突っ込みこそ関西。いいねえ、まさに上方バンザイ!

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東野圭吾   「鳥人計画」(角川文庫)

 よく野球選手などスポーツ選手がスランプに陥ると、好調だった時の映像をみて、その時のプレイをチェックして、スランプを脱出しようとする。でも、それがなかなかうまくいかない。

 この物語、日本のスキージャンプ界に無敵のスーパーヒーローが誕生する。通常は、彼のジャンプの映像をみて、自らに取り入れ、スーパーヒーローと同じパフォーマンスを目指すのだが、東野のこの作品は、その先を行く。

 超大手自動車メーカーのスキー部。その技術、大金をかけ、このスーパーヒーローと契約し、スーパーヒーローと全く同じ力を持つ、所属のスキージャンパーを創造することを計画実行する。これは、スーパーヒーローの真似をするのではなく、まったく同じ動きをする人間を作るということをするのである。

 同じパフォーマンスは、単に神経、反応を鍛えるだけでは、達成できない。
それを実現するための、筋力を全く同じにせねばならない。
これは難しい。この作品によると、ドーピング剤が使用される。もちろん、この薬剤はドーピング検査にはひっかからない。

 サイボーグのような人間を作る段階で、サイボーグの元となった、スーパーヒーローが毒薬で殺される。

 サイボーグ作成のため、試作品が作られる。この試作サイボーグに生まれかわった人間の末路が悲しかった。
 その試作を経て、スーパーヒーローサイボーグを作る工程は本当にリアリティがあり、大企業が乗り出せば、実現可能のように思った。

 ロシアなどで、超人的な機械仕掛けのような選手がよく登場してくる。
プロ野球やJリーグのヒーローも金の力にまかせて、近い将来サイボーグ人間が活躍する時代がくるのではと思わせる作品だった。

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東野圭吾   「ダイイング・アイ」(光文社文庫)

 主人公の雨村慎介はバー「茗荷」のバーテンダー。ある夜、見知らぬ男がやってきて、帰りに待ち伏せしていたその男に襲われ重傷を負い、病院にかつぎこまれる。

 慎介を襲った男は、岸中玲二という男で、マネキンの会社に勤めていて、人間と見間違えるほどのマネキン人形を作る職人。
 何故岸中玲二が慎介を襲ったのかというと、岸中の妻美菜絵が自転車で真夜中走行中、慎介の車に跳ねられ、事故死した復讐のため。
 この物語は、3つのことが重なりあった、ホラーミステリーになっている。

 一つ目。
慎介の記憶復活の過程描写。

実は、慎介は交通事故により、事故の記憶を一切失っている。これが、周囲の証言や、特に、玲二の作る人形のじっと見つめる眼により、徐々に記憶が戻ってくる過程の恐ろしい描写。

2つめ交通事故の真相。
  慎介が起こした事故は、美菜絵を跳ね飛ばしたが、その時、美菜絵は建物の壁にはぶつかったが、死ぬことはなく、慎介の車の後続車が、まともに美菜絵にぶつかり、美菜絵は壁と後続車に押しつぶされ、亡くなってしまっていた。
そして驚くことに、車は慎介が運転していたのではなく、由佳という女性が運転していた。

 さらに、ここが東野らしいところだが、実は後続車も、酔った女性が運転。2台の車とも、
慎介、後続車の男が身代わりとなっていたこと。

 そして3つ目は、この物語の第二の主人公でもある眼。この眼が折に触れ、前記2つの物語に被さり、さらに物語が恐怖を増す。
 この眼の威力が、まさに作品のタイトルにふさわしい「ダイイング・アイ」となっている。

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東野圭吾   「ブルータスの心臓」(光文社文庫)

 最初の物語の設定が面白い。

主人公の大手産業機器メーカーMM重工の人口知能ロボットの開発を手がける末永拓也が将来を嘱望され、会社のオーナーの末娘星子の婿養子候補になる。その矢先に恋人康子から妊娠を知らされ、驚き、堕ろすように説得するが、頑としてきかない。更に驚くことに、同じ時に、専務で星子の兄、仁科直樹と同僚の橋本が康子と関係を持っていた。康子に子どもを産ますことはまずいということで、拓也、直樹、橋本3人で共謀して、康子を殺害することにした。

 計画では、直樹が康子を出張目的で大阪に同行させ、そこで直樹が康子を殺害。遺体を車のトランクに積んで、名古屋出張している拓也のもとまで運搬、その遺体を拓也が厚木、東京まで運搬し、さらに橋本に引き渡し、遺体の処理を橋本が行うことになっていた。この計画に従い、遺体の運搬リレーは行われた。ところが遺体を拓也から橋本に引き渡すとき、毛布にくるまれた遺体は、女性ではなく男性、それも直樹だと知り、遺体をどうすることもできず、橋本は自分のマンションまで運搬し、駐車場に車とともに放置する。

 この不可解な事件に警視庁捜査一課の佐山刑事がのぞむ。
この完全犯罪計画、直樹、拓也、橋本の3人だけでは、実行はできないし、康子のかわりに  直樹を殺すためには、もう一人人間が必要となる。

 そのもう一人、佐山の捜査により、産業機器を製造する工場に勤めている酒井悟郎が浮上する。

悟郎は田舎の高校を卒業して、MM重工にはいりずっと工場勤務をしていた。

近い将来の工場の姿だと思うが、製造はすべてロボットが行っている。

 工場には数百のロボットがいる。ロボットだから24時間稼働が可能となる。そんな工場に勤務している人間は、ロボットの点検をするための一人だけ。24時間稼働だから一人というわけにいかず、昼勤務と夜勤務の2人となる。

 悟郎は入社以来この夜勤務をしていた。工場には会話できる人はいないし、疲れ切ってアパートでは眠るだけ。

 MM重工に入社以来、話相手は一人もいなくなり、超絶な孤独の生活をしていた。このことが、直樹殺し、遺体運搬を行う役を請け負うことになった。

 人間のいない未来工場。ぞっと身震いした。

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東野圭吾   「ウィンクで乾杯」(祥伝社文庫)

 主人公の小野香子は、パーティ・コンパニオンをしている。その目的は、玉の輿にのり、贅沢、セレブの生活を満喫するため。
 銀座に本店のある豪華宝石店「華屋」の感謝パーティに出席。その控室で同僚の絵里が毒物を飲み死ぬ。自殺と思われたが、香子は自殺に疑いを持つ。

 同じように疑いを持っていた、香子の同僚の由香里が、香子に絵里の死について相談したいことがあると電話をくれた直後に、自部屋で扼殺される。

 香子のアパートの隣部屋に男が引っ越してくる。それが、この事件を担当している刑事の芝田。2人が情報を交換し合いながら、事件の真相を明らかにしてゆく。

 絵里の殺害は密室で行われる。

このトリックが芝田により解明される。
部屋は、内側のドアチェーンにより、閉じられていた。その方法が芝田により実演される。

「芝田はドアの間に足を挟んで閉まらないようにすると、金切り鋏をチェーンにあて、思い切りよく切断した。ドアはチェーンの切れ端をぶら下げたまま、内側に開いた。
 芝田は問題の部分に手を伸ばした。そこには先ほど切断されたばかりのチェーンの切れ端が、セロテープで止められている。つまり最初ドアを開けた時点で、チェーンはきちんと溝にかけられていたのではなく、その先端をドアの内側にセロテープに固定してあったにすぎないのだ。」

 そうか。切られた先端はセロテープで固定されていただけなのか。面白いのだけど、ドアチェーンに仕掛けをするとき、被害者の絵里は室内にいたのだが、どんな反応をしたのか、書いてほしかった。納得感が薄い。

 それから、もう一つの物語、捜査を通じて、心が通じ合うようになった、香子と芝田の行く末。やっぱし、貧乏所帯は辛い。ゴージャスな暮らしを送りたいと香子は芝田にバイバイ。しょうがないよね、しがない刑事には女性の夢はかなえられない。

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東野圭吾   「あの頃ぼくらはアホでした」(集英社文庫)

 膨大な本を読んできた。でも、本から、人生を教わったり、芸術の香りをするような本はあまり読んで来なかった。机に向かって本を読むことは無く、いつも寝転がって読む。気楽に読めれば何でもよく、ここ2-30年は、街の古本屋の店頭にある投げ売り本か、ブックオフでの安価な中古本しか読んだことは無い。

 この本は東野の小学生から大学卒業までの出くわしたことを東野のユーモアセンスを駆使し描いた作品集である。

 東野は、学生のころは、読書が本当に嫌いだった。母親がこのままではダメな子になると買い与えた本は「フランダースの犬」。
 可哀そうな少年が、可哀そうな愛犬とともに、何もいいことがなく死んでしまう。ワクワク、ハラハラ、ドキドキすることが何もなく。少しも面白いと思わなかった。

 母親は物語ではだめだと考え、偉人伝がいいだろうということで「ガリレオ」を与えた。
これは面白かった。天才ガリレオが日々起こる自然現象から、次々物理、科学の法則を発見してゆくことに感動した。

 小学校3年の時、担任の女性教師に読まされたのが下村湖人の「次郎物語」最悪の本だった。
 いいなあ、東野圭吾。だから、東野作品は、気楽に読めて面白いのだ。

  東野のクラスで、高校の時、映画を作る。当時テレビでヒットしていた「必殺仕置人」シリーズのパロディ作品だった。脚本は東野が書いた。

 夜の街での姉妹の客引きシーン。
「にいちゃん、遊んで行けへん?ええ気持ちにさせたるでぇ。一万円や一万円。たった一万ですっきりしていったらんかいな。」

 この姉妹の一人が高利貸しの爺を罵倒する。
「このエロじじいのインキンタムシ」
この姉妹役の高校生が、こんなことをしゃべったら、お嫁にいけなくなると嘆くのを何とか説得して喋ってもらう。

 しかし、こんな映画文化祭に上映したら教師にしかられるだろうとか、こんな映画見に来る客はほとんどいないだろうと思い、静かに細々破格の上映料金10円つつましく始めた。

 ところがこの作品が面白いと評判を呼び、お客はひっきりなしでやってきて連日満員立見。

 こんな面白い経験が東野作品を作り出している。

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東野圭吾   「超・殺人事件」(新潮文庫)

 推理作家のさまざまな苦悩を描いた短編集。

最初の「超税金対策殺人事件」が最高に面白かった。

推理小説家の芳賀、下積み期間が長かったが、ここ最近ヒット作を連発して、原稿料、印税がたくさん入り少し贅沢ができるようになった。

 そして、今小説雑誌に連載小説を掲載している。

主人公が殺人犯を追って、雪のなか、釧路に来ている。

ここまで書いていると、税理士事務所より、今年度の納税予想金額の報告がある。これをみて、芳賀は驚愕する。納税額が膨大なのである。これまで贅沢してきたために、お金が足りなくなり、税金が払えなくなる。

 芳賀は税理士に怒る。女房に苦労をかけたから、ハワイ旅行へ行った。それから、草津温泉に行き、贅沢をした。自宅の風呂場と風呂釜をリフォームした。

 これを経費で落とすようにしてくれと。
しかし、税理士はこれらは小説には登場しないので、経費にはなりません。小説に書いてあれば、取材費として、経費で落とせますが。

 すると主人公は、犯人を探して、突然釧路からハワイにゆく。宿泊、観光内容、土産もすべて小説に入れ込む。

 さらに、犯人はハワイから草津温泉に逃げる。主人公も犯人を追って、草津に行く。
そこで贅沢三昧をする。

 それから、犯人は、ある家に閉じこもる。その家に主人公がトラックで突っ込む。そして風呂場の壁と風呂と風呂釜を破壊する。

 結果、雑誌連載は打ち切りとなり、出版社からの作品依頼も大幅に減る。
すごい作品になっただろう。ちょっと芳賀作品を読んでみたい気がする。

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| 古本読書日記 | 05:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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東野圭吾   「白馬山荘殺人事件」(光文社文庫)

 このミステリーには2つ解明すべき事件がある。殺人と、盗品の隠し場所を突き止めることである。

 盗品は、箱に入れられ、ある場所に埋めて隠される。

この場所がどこか、英国の古い童謡をあつめたマザーグースのうちの幾つかの童謡が事件関係者が宿泊したそれぞれの部屋の壁掛けに書かれていて、それが暗号になっていて、暗号を解読し、隠し場所を特定してゆくこと。

 それから殺人。これは古典的な密室殺人。このカラクリを解き明かすこと。

この密室が、一般的な密室ではなく、変形密室になっている。

 殺人は寝室で実行されるのだが、寝室に入る前にリビングルームがあり、そこを通らないと寝室にはゆけない。
 それから、殺人の共犯者がいるということ。このことを組み合わせることによって、密室風殺人事件が実行される。

 犯人は殺害を実行し、窓を開けて、そこから逃走する。この窓は、内側に降ろし鍵がついていて、この降ろし鍵を上げて、窓をあけ外へでるのだが、死体が発見されたとき、降ろし鍵締まっていた。当然、これは、リビングに隠れていた共犯者が、犯人が窓から外へ出た後、降ろし鍵を降ろし閉めたということになる。

 少しトリックが複雑。

それより、きっと誰かがすでに使っただろうトリックが物語で紹介されている。降ろし鍵の部分に雪をすりつけておいた状態で窓をあけて外にでる。窓はもとに戻す。すると雪が溶けて、降ろし鍵が下りて、窓に鍵がかかった状態になる。

 二番煎じになるかもしれないが、このトリックのほうが一段と優れている。

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東野圭吾   「殺人現場は雲の上」(光文社文庫)

 エー子とビー子、同期入社のキャビン アテンダントコンビが活躍する、航空会社ミステリ7編の作品集。エー子は東大出の頭脳明晰な超優秀アテンダント。対してビー子はスレスレで入社試験を通った、劣等アテンダント。つまり漫才ではツッコミ役がエー子、ボケ役がビー子。

 しばしば起こりそうな錯覚。

 行きつけの喫茶店。その店を出ようとしたところ、出入り口の傘立てに自分が持っている傘が差しかけられている。いつか、傘をさして店に来た時、忘れて帰ったのにちがいないと思って持ってかえる。しかし、家に帰ると、持ち帰った傘と同じ傘が家にある。

 エー子とビー子が乗務した飛行機。ある旅行会社が企画した、親と赤ちゃんの旅ツアーの客が乗っていた。全員乗客を降ろした後、点検していたら、熊の着ぐるみに包まれていた赤ちゃんが残っていることがわかる。あわてて、赤ちゃんを持って乗客を追いかける。しかし、当たり前だが、赤ちゃんを機内に置き忘れたという客はいない。

 ツアー参加者はその日、京都の円山公園を散策していた。母親は赤ちゃんの世話から解放されたくて、一緒に参加していた夫に赤ちゃんを預ける。

 トイレに入ってでてくると、入り口のところに熊の着ぐるみを着た赤ちゃんが置かれていた。母親は、夫が置いたものだと思って、その赤ちゃんを抱いて、ツアーバスに戻る。
 と、驚くことに、夫が赤ちゃんを抱いている。母親は自分たちの赤ちゃんではない赤ちゃんを持ち帰ってきたのだ。

 バスは、後部に赤ちゃんを寝かしておく場所がある。そこに、寝かしておくと、ツアー客赤ちゃんも含めて、全員乗ったかとガイドが、乗客が乗ったと答えれば、数えることはしない。

 母親と父親は飛行場の店で、赤ちゃんの人形と熊の着ぐるみを購入して、その人形を抱き、間違った赤ちゃんを放置して飛行機を降りる。

 人が陥る、思い込みと錯覚をうまく東野は物語に仕立てている。

この作品集、東野初期の作品のためか、登場する刑事が、簡単に事件の捜査内容について、エー子、ビー子に話す。これはあり得ない。東野にはめずらしく失敗作品集だった。

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東野圭吾   「探偵倶楽部」(祥伝社文庫)

 探偵倶楽部というのは、会員制の倶楽部。会員が事件にあったりトラブルに巻き込まれたとき、その真相を調査してもらうために作られた倶楽部。

 大原泰三は和英大学の理工学部、学部長。遺伝子工学の泰斗で、次期学長の最有力候補となっている。

 泰三は、助教授になった時、結婚をし、長女直子を設けている。直子が三歳のとき、妻が書置きと離婚届を残して、直子を連れて失踪する。

 その後失踪していた妻が亡くなり、泰三は娘直子を引き取る。

 泰三が助教授になった時。風采の上がらない万年助教と言われていた男が、遺伝子工学研究室にいた。妻失踪1年後、泰三は万年助教授の娘と再婚。この再婚の妻との間に生まれたのが次女由里子。

 実は再婚した時、相手には恋人がいた。菊井という男だった。その菊井から泰三は恋人を奪っての再婚だった。

 そして事件は起きる、長女直子が刃物で刺され、深夜に殺害される。万年助教授の助手をしていて、現在は泰三の手伝いをしている神崎が自殺。これは警察の捜査で他殺だったことがわかる。

 ここで主役の探偵倶楽部が登場する。その報告で、泰三と後妻の血液型はA型。由里子はB型。A型夫婦からB型の子は生まれない。そして菊井の血液型はB型。つまり、泰三が結婚した後も、後妻と菊井の関係は続いていたのだ。そのことを神崎は知っていて、由里子とその恋人を脅していた。直子には泰三の遺産はゆくが、由里子にはいかないと。

 これが直子、神崎殺しに結び付く。

東野の作品は、登場人物が個性豊かで、人間らしい人物が殆ど。ところが探偵倶楽部はいつもロボットのように型にはまった報告を行い、名前もわからない。

 東野の人物造形が真逆。でも存在感は十分で、それなりに面白かった。
収録されている「薔薇とナイフ」より。

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東野圭吾   「祈りの幕が下りる時」(講談社文庫)

加賀刑事シリーズ完結作品。

以前の作品でも書かれていたかもしれないが、この作品でしばしば加賀とコンビを組み事件を捜査する松宮刑事、2人はいとこ同士ということを初めてこの作品で認識した。

 この作品では、主人公加賀の母親が突然失踪していたことが、この作品の以前のシリーズで書かれているが、その原因と加賀の生い立ち描かれる。さらに、荒川沿いのアパートで若い女性の腐乱死体が発見された事件が母親失踪とつながるという、加賀には辛い捜査が展開する物語になっていて、少し驚く。

 この物語では、2つのことが重なりあって悲しい事件が起きる。

以前から不思議に思っていたことなのだが、ホームレスの人はなぜ生活保護を受けて、最低でも普通の生活を送るようにしないのかという疑問。

 最底辺の人が追い詰められて、最後にお金を得る手段としてとる方法。それは、戸籍を売ることである。それにより、自らの存在をこの世から消す。

 そして、もう一つ、戸籍を買う人はどういう人か。本来の名前でなく、別の名前が必要としている人。何か事件を起こしていて、本名を消して、別人になりすませばならない人。仕事のために戸籍をバックにした住民票が必要な人。

 仕事のためということで、よく登場するのが原発労働者。原発労働者になるためには、住民票がいる。原発労働者は、電力会社が採用するのではなく、下請け、孫請け会社が雇う。

 常に被ばくの危険がある、恐ろしい条件下で労働者になるのだが、その分給料は一般労働者よりよい。そして、住民票は、雇用会社が本人にかわって取得してくれる。

 物語の主人公は、こんな父親を持つ、明治座で行われている演出家の女性。この父と娘の失踪、逃亡、そして再会と悲しい結末が、情感豊かに描かれる、悲しいがダイナミックな物語になっている。

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東野圭吾   「マスカレード・ナイト」(集英社文庫)

 マスカレードシリーズの三作目。この作品も木村拓哉、長澤まさみ主演で映画化されている。舞台はいつものホテル・コルテシア。主人公新田刑事はこれまでの作品同様刑事だが、山岸はフロント・クラークからコンシェルジュに代わっている。

 練馬区のマンションで若い女性他殺死体が発見される。この事件が未解決の間に、警察にホテル・コルテシアの大晦日のマスカレード・カウンドダウンパーティに犯人が現れると密告状が届けられる。そんため、大晦日の3日前から、警察がホテル社員に変装して、ホテルにはりつく。

 物語は主に2つのストーリーにより展開される。

実は、女性殺害の犯人は、曽根家族の長男により、望遠鏡で見られていて、カメラにも撮られていた。そして、その犯人は車に残されていた封筒の宛先から長男は知っていた。

 犯人は医療クリニック医院長の森沢。

長男がそのことを母万智子に話す。それをどうすべきか親友の由里に相談する。由里は警察に通報するのはやめて、森沢を脅迫して金を強請ろうという。そして、写真画像ファイルと交換に一億円を森沢に要求。森沢も承知する。受け渡しはホテルのカウントダウン・パーティの時。方法はその時指示する。

 通常のミステリーは、お金がどのように万智子にわたるか、あるいは失敗するかを緊迫感を持って描く。

 しかし、東野はここでひとひねりをする。
 万智子は、夫、長男とともに、家族でホテル・コルテシアに宿泊。そこででくわした由里が夫の愛人だったことがわかる。怒った万智子は、パーティに参加している森沢に指示する。
友達の由里を殺せと。

 これが一つのストーリー。

もう一つは、新田と山岸の淡い恋の行方。山岸は新田をおいて、ロスのホテル・コルテシアに転勤することになる。ちょっと哀しい結末。

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東野圭吾  「さいえんす?」(角川文庫)

 雑誌に書いたエッセイを収録した本。

私が会社に入社して最初の赴任地が大阪だった。私は生まれ育ったのは信州の田舎町、大学も地方の大学。初めての都会大阪。

 大阪には驚いた。とにかく、老若男女、すべてが漫才師だった。どこもかしこも会話の渦。ちゃかしたり、笑わせたり、そして最後には落ちがついた。全員が、本能的にしゃべりの天才だと思った。

 東野はその関西生まれ、そして理科系人間。
文系には難しく、理解不能な科学について、縦横無尽に語る。それを、喋りこそ本能の大阪人ののりで。
 東野作品が面白いのは、作品がこの大阪人のしゃべりと科学大好きが重なりあっているからだと思う。

 東野が作家になりたてのころ、出版社の担当者と飲みに行った。担当者が聞く。
「作家になる前はどんな仕事をしていたのですか。」
「生産技術の仕事です。」
「それは危険な仕事ですね。青酸カリとか青酸ソーダを扱われていたのですか。」
出版社の社員に理科系の人はほとんどいない。
もちろん作家にも。

ミステリー文学賞の選考委員を東野がしていた時、ある応募作品に車に轢かれた人間が衝撃で空中に跳ね上がるという場面があった。東野は、車に轢かれて体が跳ね上がるということはあり得ない。これがトリックに使われるのはおかしいと主張したが、他の選考委員は

 「ゴルフボールだって当り角度により、跳ね上がる。人間だって当たり所により跳ね上がったっておかしくない。」と言われる。

 ゴルフボールには弾性があるから跳ね上がるが、人間の体には弾性が無いからグチャっとつぶれるだけだ。このことが、文系作家には全くわからないと東野は嘆いている。

 東野は嘆く。出版不況の原因は、図書館が話題本をおいたり、ブックオフのような中古本書店ができ、そこで本が読まれたり購入されたりするからだと。図書館で借りる本や中古流通の本は、まったく出版社、作家には利益をもたらさない。だから、本は書店で新刊本を購入してくれと。

 冷や汗が噴出した。私が読んでいる本のほとんどはブックオフからの購入本だ。
ごめん!東野先生!

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| 古本読書日記 | 06:49 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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